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02 女傑なんて柄じゃありません
なんで籠城戦の指揮なんか…
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01
王国の地方都市、パザフの町。
「ひるんではなりません!
攻撃を続けるのです!」
ヴェルメール候爵家令嬢、イレーヌの怒号が城壁に響く。
「こっちにくるんじゃないよ!」
「落ちろ!落ちろ!」
はしごで城壁に登ってこようとするヴォルタン軍の兵たちに向けて、民兵たちの容赦ない攻撃が浴びせられる。
あるものを大きな石を頭にぶつけられ、あるものは油を頭からぶっかけられて火をかけられた。
「ぎゃああああーーっ!」
「だめだ!押すな!危ない!」
頭の上から容赦なく降り注ぐいろいろと剣呑なものに、ヴォルタン兵たちは悲鳴を上げる。
「この地方の麦を狙って来たのでしょう?
たっぷりとどうぞ!」
そう言ってイレーヌは手鍋で大釜の中のものをすくい取る。
中身はぐらぐらに煮立った粥だった。
「た…頼む!やめてくれ…!」
「だめ」
イレーヌが湯気の上がる手鍋を持っていることに気づいたヴォルタン兵が命乞いをする。自分の運命を悟ったのだ。
「ぎゃああああああーーー!」
沸騰した粥を頭からかぶった兵卒が、味方を巻き込みながらはしごを転げ落ちていく。
この手は実に効果的だった。
はしごを登るときは上を向かなければならないから、やられるがわはたまったものではない。
火傷と滑落で兵が無力化される直接的な効果はもちろん、敵を怯えさせる心理的な効果も大きかった。
上田城の戦いで真田幸村が用いた策だ。
沸騰した麦が肌にまとわりついて、ただの熱湯よりよほどひどい火傷を引き起こす。
簡単で素人にも可能なわりに制圧効果が大きく、戦闘力の低い民兵がプロである侍に充分有効打を与えられる。
前世、歴女であったイレーヌの考えで実行されたのだ。
「くそ、だめだ。
退け-!退け-!」
これ以上攻めても犠牲が増えるだけだと判断したヴォルタン軍指揮官が部隊に撤退を命じる。
「イレーヌ様、敵が撤退して行きますぞ!」
「油断してはなりません!負傷者の搬送と手当を急ぎなさい!
見張りを厳に。彼らはまた来ます!」
イレーヌの指示に民兵であるおじさんおばさんが迅速に反応し、負傷した仲間を運んでいく。
「イレーヌ様、どうぞ」
「ありがとう。
みんなも水分は補給しておきなさい」
イレーヌはそう言って手渡された水筒から水を飲んでいく。
(なんでわたくしが民兵を率いて籠城なんかしてるんですの…?)
先ほどまで民兵たち相手に怒鳴り散らしておいてなんだが、イレーヌはふと疑問に思った。
話は十日ほど遡る。
ヴォルタンとの国境紛争の再燃から九日。
思いの外精強なヴォルタン軍に、王立軍が苦戦しているという情報が帝都にもたらされていた。
貴族たちはこぞって家族を疎開させ始めていた。
ヴェルメール家も例外ではなく、万一のことを考えて、イレーヌたちを国境に近い帝都から地方都市であるパザフへと疎開させることとしたのだ。
ミラン公爵家子息であり、王立軍の若き将軍、そして王族でもあるリュック・ミランが訪ねて来たのは、イレーヌが疎開する前日のことだった。
王国の地方都市、パザフの町。
「ひるんではなりません!
攻撃を続けるのです!」
ヴェルメール候爵家令嬢、イレーヌの怒号が城壁に響く。
「こっちにくるんじゃないよ!」
「落ちろ!落ちろ!」
はしごで城壁に登ってこようとするヴォルタン軍の兵たちに向けて、民兵たちの容赦ない攻撃が浴びせられる。
あるものを大きな石を頭にぶつけられ、あるものは油を頭からぶっかけられて火をかけられた。
「ぎゃああああーーっ!」
「だめだ!押すな!危ない!」
頭の上から容赦なく降り注ぐいろいろと剣呑なものに、ヴォルタン兵たちは悲鳴を上げる。
「この地方の麦を狙って来たのでしょう?
たっぷりとどうぞ!」
そう言ってイレーヌは手鍋で大釜の中のものをすくい取る。
中身はぐらぐらに煮立った粥だった。
「た…頼む!やめてくれ…!」
「だめ」
イレーヌが湯気の上がる手鍋を持っていることに気づいたヴォルタン兵が命乞いをする。自分の運命を悟ったのだ。
「ぎゃああああああーーー!」
沸騰した粥を頭からかぶった兵卒が、味方を巻き込みながらはしごを転げ落ちていく。
この手は実に効果的だった。
はしごを登るときは上を向かなければならないから、やられるがわはたまったものではない。
火傷と滑落で兵が無力化される直接的な効果はもちろん、敵を怯えさせる心理的な効果も大きかった。
上田城の戦いで真田幸村が用いた策だ。
沸騰した麦が肌にまとわりついて、ただの熱湯よりよほどひどい火傷を引き起こす。
簡単で素人にも可能なわりに制圧効果が大きく、戦闘力の低い民兵がプロである侍に充分有効打を与えられる。
前世、歴女であったイレーヌの考えで実行されたのだ。
「くそ、だめだ。
退け-!退け-!」
これ以上攻めても犠牲が増えるだけだと判断したヴォルタン軍指揮官が部隊に撤退を命じる。
「イレーヌ様、敵が撤退して行きますぞ!」
「油断してはなりません!負傷者の搬送と手当を急ぎなさい!
見張りを厳に。彼らはまた来ます!」
イレーヌの指示に民兵であるおじさんおばさんが迅速に反応し、負傷した仲間を運んでいく。
「イレーヌ様、どうぞ」
「ありがとう。
みんなも水分は補給しておきなさい」
イレーヌはそう言って手渡された水筒から水を飲んでいく。
(なんでわたくしが民兵を率いて籠城なんかしてるんですの…?)
先ほどまで民兵たち相手に怒鳴り散らしておいてなんだが、イレーヌはふと疑問に思った。
話は十日ほど遡る。
ヴォルタンとの国境紛争の再燃から九日。
思いの外精強なヴォルタン軍に、王立軍が苦戦しているという情報が帝都にもたらされていた。
貴族たちはこぞって家族を疎開させ始めていた。
ヴェルメール家も例外ではなく、万一のことを考えて、イレーヌたちを国境に近い帝都から地方都市であるパザフへと疎開させることとしたのだ。
ミラン公爵家子息であり、王立軍の若き将軍、そして王族でもあるリュック・ミランが訪ねて来たのは、イレーヌが疎開する前日のことだった。
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