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06 鮮血の京都編
湯屋での喧噪と胸囲の格差社会
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02
湯屋“さみだれ”
京の町の中で、織田家と自衛隊の資本で営業を開始した銭湯の中でも、もっとも西に位置する。
もともと入浴の習慣がないのが公家文化だが、新たに京に入って来た武家や自衛隊員たちはそうはいかない。みなで効率よく湯を使えるように、京のいくつかの土地を買い上げて銭湯として営業を始めたのだ。
最初は利用者は織田家の者たちと自衛隊員たちだけだったが、次第に現地の人間たちも利用するようになっていく。
なんと言っても京は夏は暑く冬は寒い。いずれにしても、風呂は命の洗濯なのだ。
なお、銭湯だけに基本は大浴場だが、他人と一緒に入浴することを忌避する若い女性や身分のある方々向けに、貸し切り可能な景色のいい風呂が2階に設けられている。
もちろんお値段も相応のものになるが。
「やっぱり、貸し切り風呂って高い」
「大浴場は混んでいるから仕方ないけど…。
これを考えたお方はよほど銭もうけが得意で、しかもがめついわね」
「へっくしっ!」
「でっかいくしゃみですねえ、隊長」
西院にある自衛隊駐屯地の事務所。パソコンで書類を作成していた田宮知二等陸尉は、事務所全体に響くような大きなくしゃみをしていた。
「うーん、なんだか知らんが、銭湯の貸し切り風呂の料金を値上げしたくなってきた」
「おやめなさいって。いまでも充分に利益出てるじゃないですか。
銭湯やろうって隊長の発想自体は素晴らしかった。手足を伸ばせる湯船に浸かれるって京の人たちにも好評です」
田宮の言葉に、主計担当の津島三曹が相手をする。銭湯の経理を務める関係上、簡単に値上げという話は聞けないのだ
「そうです。
それになんと言っても、身分のある方は多少割り増しを頂いて貸し切り風呂に入れるというのが素晴らしい。
ここで欲出して味噌付けることはありませんよ」
安西曹長が補足する。彼は土地の借り上げから、銭湯の設計に建設、そして操業の開始までに関わっている。自分が関わった事業がずっと愛され続けて欲しい。そう言う思いはあるのだ。
「わかってる。言ってみただけです」
織田勢が京に駐留するに際して、問題はいろいろあったが、最大の問題として風呂の数や容積が圧倒的に少ないことがあった。
陸自の野外入浴キットもあるが、それとて自衛隊と織田勢全員が湯を使うのは無理がある。
冬は極寒、夏は高温多湿なのに、風呂なしで良く暮らせるなとは思うが、それを言っても始まらない。
田宮の発案で、公衆浴場、要するに銭湯を創業することが決まったのだ。
売上は上々で、自衛隊の資金源にもなっている。
田宮の株がまた一つ上がった形だが、どうも田宮は最近自分が色々言われているように思えてならないのだった。
なにか根拠があるわけではないが。
さて、所変わってこちらは銭湯”さみだれ”の貸し切り風呂”芍薬の湯”。
「ふう、やはり落ち着くな。手足を伸ばせる湯船に2人くらいというのが...」
「まあ、大浴場もいいけど、満員御礼でいつも芋洗いだしね」
明智光秀と細川藤孝は、たまの贅沢と貸切風呂を借りて2人で入浴していたのだ。
別に他の人間と一緒に入浴するのに忌避感があるというわけでもない。が、昼間の信長と先久のやり合いに、2人ともすっかり神経が疲弊してしまったのだ。
できれば静かにゆったりと湯を使いたかった。
「藤孝はどう思う?信長様の関白様に対する物言いを…」
「どう思うと言われましても?
あんな要求、誰だって請けられるわけがない。関白様こそ感謝すべきよ。
本来なら、”土地下さい、なんでもしますから”と伏して頼まなけりゃならない立場よ。
なのに、信長様はご自分の土地を寄進することを申し出られたわ」
光秀の問いに、藤孝は正論で返す。陰険な問題に自分を巻き込まないでとばかりに。
承久の乱や南北朝の動乱、そして室町幕府の治世でも、武力の裏付けがなくとも古くからの権威や伝統は力を持つと勘違いした者たちが悲惨な末路を遂げた。
素直に無力を認めて、同じ轍は踏むべきでないと藤孝は言っているのだ。
「それでも!
関白様は信長様よりはるかに年長で、朝廷のために必死で働いてきたお方なのだ!
それを…あの物言いは…」
光秀の言葉に、藤孝は沈黙で答える。
なにが彼女をそこまで頑なに、愚直なまでにさせるのか。
光秀はもともと古いものをありがたがり過ぎるきらいがある。政治体制、宗教、年功序列、血脈。
戦国に生きる武将としては珍しく、そして危ういくらいだ。
だが、それを勘定に入れても、なにが光秀にそこまで思いつめさせるのか。友人であることを自負する藤孝をしてわからなかった。
”芍薬の湯”にしばらく気まずい沈黙が流れる。が…。
「権六さまー!また大きくなってませんー?美味しそー!」
「こ…こら藤吉郎…!触るなってば!」
隣の貸し切り風呂から、急に大きな黄色い声が聞こえて来たのだ。
「まあまあ、よいではないか~よいではないか~!」
「あ~れ~!じゃなくて…!本当にやめろよ!」
なにやら、隣の湯から女同士でキャッキャウフフしてる状況が伝わってくるのである。
「その趣味の女子同士かな?」
「多分ね...」
先ほどまでとは別の意味で気まずい空気が流れる。
”藤孝って、こうしてみるときれいなんだよな。髪、長くてさらさらでうらやましい…”
”うう…急になんか意識して来ちゃった…。光秀ってきれいでかっこいいし…。じえいたいの言葉じゃなんていったっけ?
はんさむうーまん?もしくは…おっぱいのついたいけ…ってわたし何を考えてるんだ…?”
光秀と藤孝は、急に互いに意識してしまい、恥ずかしくなる。
女色の趣味はないはずだが、きれいな女もいいかもと思えちゃうのである。
「うお!すごいこの谷間!これなら男のアレを縦に入れることだって!」
「ば…ばか、大声で言うな!お前こそ、これなら自分の乳首を…その…舐めることもできるんじゃないのか?ええと、”せるふぱいなめ”だったか…?」
キャッキャウフフぶりが激し過ぎる隣からの声に、さすがに光秀も藤孝も耳まで真っ赤になってしまう。
同時に、なにやら2人ともどす黒い感情がこみあげて来るのを抑えられなかった。
形がいいし、弾力もいいのは自負している。でも…。
「谷間…無理しても辛うじて…。ううう…」
「自分の乳首を舐める...?くっ…なんて理不尽…!」
光秀も藤孝も、女としての自分には自信を持っている。常日頃研鑽は怠っていないから。
だが、胸の膨らみにはコンプレックスを感じずにはいられないのだった。
胸の大きさで女の価値が決まるわけではない。
が、それははっきり言って、早い話が、ぶっちゃけて、理屈だった。
女としては、どうしても胸の膨らみの大きい女の方が魅力的ではないか?という疑念を抱かずにはいられないのである。
自分たちの慎ましやかな膨らみを見て、触れるにつけ。
”巨乳なんて…この世から滅びるべきだ!巨乳好きの男も死に絶えればいい”
”胸の大きい女だけが患って、死に至る病気とかあればいいんだわ!”
光秀と藤孝はいつの間にか怒りと嫉妬と怨嗟に心が満たされていた。
「上がろうか…」
「そうね...」
何はともあれ、いたたまれなくなった光秀と藤孝は風呂から上がることにした。割り増しの入浴料がもったいなかったが、とてもこのまま浸かっていられる心境ではなかったのだった。
「あ、明智殿に細川殿。奇遇ですねー」
「これは、ご無沙汰している。お2人も湯あみでしたか」
光秀と藤孝にとって悪いことは続く。”さみだれ”の1階の休憩所で、隣で騒いでいた女2人に間違いない人物とばったり会ってしまったのだ。
茶髪ベリーショート美少女の羽柴秀吉と、黒髪長身の美少女、柴田勝家だった。
「これは、羽柴殿に柴田殿。ここでお会いできるとは」
「本当に、変わったところで会いますわね」
人と話すときは顔を見なければならない。それはわかっている。
だが、光秀と藤孝の目は、秀吉と勝家の胸元に釘付けになっていた。
まだ湯から上がったばかりで暑いのだろう。着物の胸元を大きく開けて、備え付けの内輪でぱたぱたと風を送っている。
外は寒い。体温を調節し、湯冷めを防ぐには必要な措置だ。
だが、光秀と藤孝には、秀吉と勝家が素晴らしい胸の膨らみをひけらかしているように見えてしまうのである。
またしても光秀と藤孝の胸に黒い感情が湧き上がって来る。
”この世から巨乳を排除せよ”
”小さいこそ正義”
よもや、光秀と藤孝のそのような感情が、織田に対する決定的な悪感情になったとは思えない。思いたくない。そうであって欲しくない。
何はともあれ、光秀と藤孝は、秀吉が”甘味でもいっしょにいかが?”と誘うのを丁重にお断りして帰路に着くのだった。
再び雪が舞い始めた帰路。
「ねえ、光秀はどうしてそこまで幕府や朝廷の権威にこだわるのよ?」
あまり深く追求すべき問題ではないだろうと思いながらも、藤孝は問わずにはいられなかった。
「今の私があるのは義昭様のおかげだ。
幕府や朝廷のために尽力するのは当然のことだろう?」
「そういう建前の話じゃなくて…」
藤孝は光秀が本音を話す気がないことを察して頭を抱える。
光秀がなぜ愚直なまでに幕府や朝廷を重んじるのか。なにか理由があるはずだが、それがわからない。
それでは自分は光秀の力になることが出来ない。
それは、今後も起こり続けるであろう幕府、朝廷と織田家の対立に、光秀がもろに巻き込まれてしまうことを意味していた。
幕府、朝廷の威信や権益が危ういとなれば、光秀は信長と争うことも辞さないだろう。
そして、そうなれば恐らく光秀は死ぬ。
そうはなって欲しくないが、ではどうすればいいのか?
藤孝の答えが見つかることはないのだった。
湯屋“さみだれ”
京の町の中で、織田家と自衛隊の資本で営業を開始した銭湯の中でも、もっとも西に位置する。
もともと入浴の習慣がないのが公家文化だが、新たに京に入って来た武家や自衛隊員たちはそうはいかない。みなで効率よく湯を使えるように、京のいくつかの土地を買い上げて銭湯として営業を始めたのだ。
最初は利用者は織田家の者たちと自衛隊員たちだけだったが、次第に現地の人間たちも利用するようになっていく。
なんと言っても京は夏は暑く冬は寒い。いずれにしても、風呂は命の洗濯なのだ。
なお、銭湯だけに基本は大浴場だが、他人と一緒に入浴することを忌避する若い女性や身分のある方々向けに、貸し切り可能な景色のいい風呂が2階に設けられている。
もちろんお値段も相応のものになるが。
「やっぱり、貸し切り風呂って高い」
「大浴場は混んでいるから仕方ないけど…。
これを考えたお方はよほど銭もうけが得意で、しかもがめついわね」
「へっくしっ!」
「でっかいくしゃみですねえ、隊長」
西院にある自衛隊駐屯地の事務所。パソコンで書類を作成していた田宮知二等陸尉は、事務所全体に響くような大きなくしゃみをしていた。
「うーん、なんだか知らんが、銭湯の貸し切り風呂の料金を値上げしたくなってきた」
「おやめなさいって。いまでも充分に利益出てるじゃないですか。
銭湯やろうって隊長の発想自体は素晴らしかった。手足を伸ばせる湯船に浸かれるって京の人たちにも好評です」
田宮の言葉に、主計担当の津島三曹が相手をする。銭湯の経理を務める関係上、簡単に値上げという話は聞けないのだ
「そうです。
それになんと言っても、身分のある方は多少割り増しを頂いて貸し切り風呂に入れるというのが素晴らしい。
ここで欲出して味噌付けることはありませんよ」
安西曹長が補足する。彼は土地の借り上げから、銭湯の設計に建設、そして操業の開始までに関わっている。自分が関わった事業がずっと愛され続けて欲しい。そう言う思いはあるのだ。
「わかってる。言ってみただけです」
織田勢が京に駐留するに際して、問題はいろいろあったが、最大の問題として風呂の数や容積が圧倒的に少ないことがあった。
陸自の野外入浴キットもあるが、それとて自衛隊と織田勢全員が湯を使うのは無理がある。
冬は極寒、夏は高温多湿なのに、風呂なしで良く暮らせるなとは思うが、それを言っても始まらない。
田宮の発案で、公衆浴場、要するに銭湯を創業することが決まったのだ。
売上は上々で、自衛隊の資金源にもなっている。
田宮の株がまた一つ上がった形だが、どうも田宮は最近自分が色々言われているように思えてならないのだった。
なにか根拠があるわけではないが。
さて、所変わってこちらは銭湯”さみだれ”の貸し切り風呂”芍薬の湯”。
「ふう、やはり落ち着くな。手足を伸ばせる湯船に2人くらいというのが...」
「まあ、大浴場もいいけど、満員御礼でいつも芋洗いだしね」
明智光秀と細川藤孝は、たまの贅沢と貸切風呂を借りて2人で入浴していたのだ。
別に他の人間と一緒に入浴するのに忌避感があるというわけでもない。が、昼間の信長と先久のやり合いに、2人ともすっかり神経が疲弊してしまったのだ。
できれば静かにゆったりと湯を使いたかった。
「藤孝はどう思う?信長様の関白様に対する物言いを…」
「どう思うと言われましても?
あんな要求、誰だって請けられるわけがない。関白様こそ感謝すべきよ。
本来なら、”土地下さい、なんでもしますから”と伏して頼まなけりゃならない立場よ。
なのに、信長様はご自分の土地を寄進することを申し出られたわ」
光秀の問いに、藤孝は正論で返す。陰険な問題に自分を巻き込まないでとばかりに。
承久の乱や南北朝の動乱、そして室町幕府の治世でも、武力の裏付けがなくとも古くからの権威や伝統は力を持つと勘違いした者たちが悲惨な末路を遂げた。
素直に無力を認めて、同じ轍は踏むべきでないと藤孝は言っているのだ。
「それでも!
関白様は信長様よりはるかに年長で、朝廷のために必死で働いてきたお方なのだ!
それを…あの物言いは…」
光秀の言葉に、藤孝は沈黙で答える。
なにが彼女をそこまで頑なに、愚直なまでにさせるのか。
光秀はもともと古いものをありがたがり過ぎるきらいがある。政治体制、宗教、年功序列、血脈。
戦国に生きる武将としては珍しく、そして危ういくらいだ。
だが、それを勘定に入れても、なにが光秀にそこまで思いつめさせるのか。友人であることを自負する藤孝をしてわからなかった。
”芍薬の湯”にしばらく気まずい沈黙が流れる。が…。
「権六さまー!また大きくなってませんー?美味しそー!」
「こ…こら藤吉郎…!触るなってば!」
隣の貸し切り風呂から、急に大きな黄色い声が聞こえて来たのだ。
「まあまあ、よいではないか~よいではないか~!」
「あ~れ~!じゃなくて…!本当にやめろよ!」
なにやら、隣の湯から女同士でキャッキャウフフしてる状況が伝わってくるのである。
「その趣味の女子同士かな?」
「多分ね...」
先ほどまでとは別の意味で気まずい空気が流れる。
”藤孝って、こうしてみるときれいなんだよな。髪、長くてさらさらでうらやましい…”
”うう…急になんか意識して来ちゃった…。光秀ってきれいでかっこいいし…。じえいたいの言葉じゃなんていったっけ?
はんさむうーまん?もしくは…おっぱいのついたいけ…ってわたし何を考えてるんだ…?”
光秀と藤孝は、急に互いに意識してしまい、恥ずかしくなる。
女色の趣味はないはずだが、きれいな女もいいかもと思えちゃうのである。
「うお!すごいこの谷間!これなら男のアレを縦に入れることだって!」
「ば…ばか、大声で言うな!お前こそ、これなら自分の乳首を…その…舐めることもできるんじゃないのか?ええと、”せるふぱいなめ”だったか…?」
キャッキャウフフぶりが激し過ぎる隣からの声に、さすがに光秀も藤孝も耳まで真っ赤になってしまう。
同時に、なにやら2人ともどす黒い感情がこみあげて来るのを抑えられなかった。
形がいいし、弾力もいいのは自負している。でも…。
「谷間…無理しても辛うじて…。ううう…」
「自分の乳首を舐める...?くっ…なんて理不尽…!」
光秀も藤孝も、女としての自分には自信を持っている。常日頃研鑽は怠っていないから。
だが、胸の膨らみにはコンプレックスを感じずにはいられないのだった。
胸の大きさで女の価値が決まるわけではない。
が、それははっきり言って、早い話が、ぶっちゃけて、理屈だった。
女としては、どうしても胸の膨らみの大きい女の方が魅力的ではないか?という疑念を抱かずにはいられないのである。
自分たちの慎ましやかな膨らみを見て、触れるにつけ。
”巨乳なんて…この世から滅びるべきだ!巨乳好きの男も死に絶えればいい”
”胸の大きい女だけが患って、死に至る病気とかあればいいんだわ!”
光秀と藤孝はいつの間にか怒りと嫉妬と怨嗟に心が満たされていた。
「上がろうか…」
「そうね...」
何はともあれ、いたたまれなくなった光秀と藤孝は風呂から上がることにした。割り増しの入浴料がもったいなかったが、とてもこのまま浸かっていられる心境ではなかったのだった。
「あ、明智殿に細川殿。奇遇ですねー」
「これは、ご無沙汰している。お2人も湯あみでしたか」
光秀と藤孝にとって悪いことは続く。”さみだれ”の1階の休憩所で、隣で騒いでいた女2人に間違いない人物とばったり会ってしまったのだ。
茶髪ベリーショート美少女の羽柴秀吉と、黒髪長身の美少女、柴田勝家だった。
「これは、羽柴殿に柴田殿。ここでお会いできるとは」
「本当に、変わったところで会いますわね」
人と話すときは顔を見なければならない。それはわかっている。
だが、光秀と藤孝の目は、秀吉と勝家の胸元に釘付けになっていた。
まだ湯から上がったばかりで暑いのだろう。着物の胸元を大きく開けて、備え付けの内輪でぱたぱたと風を送っている。
外は寒い。体温を調節し、湯冷めを防ぐには必要な措置だ。
だが、光秀と藤孝には、秀吉と勝家が素晴らしい胸の膨らみをひけらかしているように見えてしまうのである。
またしても光秀と藤孝の胸に黒い感情が湧き上がって来る。
”この世から巨乳を排除せよ”
”小さいこそ正義”
よもや、光秀と藤孝のそのような感情が、織田に対する決定的な悪感情になったとは思えない。思いたくない。そうであって欲しくない。
何はともあれ、光秀と藤孝は、秀吉が”甘味でもいっしょにいかが?”と誘うのを丁重にお断りして帰路に着くのだった。
再び雪が舞い始めた帰路。
「ねえ、光秀はどうしてそこまで幕府や朝廷の権威にこだわるのよ?」
あまり深く追求すべき問題ではないだろうと思いながらも、藤孝は問わずにはいられなかった。
「今の私があるのは義昭様のおかげだ。
幕府や朝廷のために尽力するのは当然のことだろう?」
「そういう建前の話じゃなくて…」
藤孝は光秀が本音を話す気がないことを察して頭を抱える。
光秀がなぜ愚直なまでに幕府や朝廷を重んじるのか。なにか理由があるはずだが、それがわからない。
それでは自分は光秀の力になることが出来ない。
それは、今後も起こり続けるであろう幕府、朝廷と織田家の対立に、光秀がもろに巻き込まれてしまうことを意味していた。
幕府、朝廷の威信や権益が危ういとなれば、光秀は信長と争うことも辞さないだろう。
そして、そうなれば恐らく光秀は死ぬ。
そうはなって欲しくないが、ではどうすればいいのか?
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