自衛隊戦国繚乱 プリンセスオブジパングトルーパーズ 

ブラックウォーター

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04 関東の甘計編

男嫌いで意固地な姫様をいかに説くか

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05
 
 越前、北ノ庄城。
 「では、こちらをお納めください」
 「おお、素晴らしい。誠にありがとうございます」
 柴田勝家が木箱から出したティーセットを、越前の主、朝倉義景は手に取ってしげしげと眺める。
 緑のショートボブが特徴の、大名と言うよりはお公家さんのお嬢さんか、商家の娘さんと言ったほうがしっくりくる雰囲気だ。
 まあ、戦はからっきしだし、政務も人任せだったが、茶道や絵画、連歌など風流の道には明るい。室町幕府のニート将軍と悪名高い足利義政のようなものか。
 「再確認ですが、本当に当家に下る条件が茶器だけでいいとおっしゃる?」
 「失礼ながら、くどいですよ。朝倉は敗れたのです。この越前も、もはや一向一揆に荒らされて国の体をなしていません。
 我らの尻拭いを織田家にしていただこうというのです。
 越前は献上いたします。
 わたくしとこの宗滴、そして家臣たちの命を救っていただけるだけでも誠にありがたく。
 おまけに、こんなにいい茶器”てぃーせっと”でしたか?それとお茶をいただけるなんて、感謝の極みです」
 義景は本当に嬉しそうな顔をする。宗滴ら、列席する家臣たちも納得しているようだ。
 勝家はまだ信じられない気分だった。仮にも越前守護の立場にある朝倉家が家を上げて降伏し、越前を織田に献上し、自分たちは織田の家臣として組み込んでもらうことを申し入れて来たのだから。
 まあ、義景の言う通り、今の越前は一向一揆が激化して治安も経済状態も最悪の有様だ。参りましたと万歳して、後は織田に丸投げしてしまうという考えも理解できなくはない。
 しかし、その代償が自分たちの命とティーセット一式と言うのは話がうますぎる気がしたのだ。
 まあ、自衛隊が図面を引き、東海の職人たちが試行錯誤して作り上げた洋風のティーセットは人気が高い。国内の大名や公家、商家のみならず、南蛮商人たちにも高く売れている。
 だが、国一つと引き換えにするほどか?
 「柴田殿、ご心配なく。我らはこれより織田家のために一命を賭して働く所存。
 それが証拠に、もう一つの約束もお守りする用意が出来ています」
 銀髪で日焼けした肌がまぶしい美人の武将である朝倉宗滴が、家臣の一人に「あのお方をここへ」と命じる。

 目当ての人物はすぐに通されて来る。
 「義昭様、光秀殿、ご無沙汰しています。ああ、またお会いできるなんて…」」
 勝家の脇に控えていた、長い黒髪と緋色の目が美しい少女、細川藤孝が、歓喜の表情で迎える。
 「藤孝久しぶりです。
 柴田勝家どの、お初にお目にかかります。足利義昭です」
 「明智光秀です」
 長い銀髪の儚げで小柄な少女と、蒼い髪をショートボブとした気の強そうな美女が、そろってお辞儀をする。
 「織田信長が家臣、柴田勝家と申します。
 お目通りが叶い、恐悦至極。
 我らは、義昭様が京へ上られるのを支援するために参上いたしました」
 勝家はそこで言葉を区切る。そして、義昭の姉である義輝が賊に襲われ遭難したこと。三好家が足利義栄をとりあえず据えたものの、力がないために堺にとどまったままで、京の御所に入ることさえままならないこと。なにより、義栄本人にやる気がなく、このままでは京は混乱するばかりであることなどを説明していく。
 「お話はわかりました。
 それで、あなた方織田もわたくしを神輿に担ごうと?姉のかわりに」
 義昭は冷ややかな目線を勝家に向けながら、皮肉交じりに問う。うまい話には裏があることぐらい、世間知らずな自分にもわかる。そう言外ににじませていた。
 「めっそうもない。義昭様なれば、京の町に治安を取り戻し、がたがたの畿内を安定させることができる。
 わが主、織田信長はそう考えているのです」
 本音を話していないな。と勝家はしゃべっていて思う。
 「承知いたしました。
 織田家のお考え、よくわかりました。これよりこの足利義昭は、織田家の支援のもと京に上ります」
 そう言った義昭の返答も、本心からのものではないのを勝家は感じる。
 だが、今は何としても義昭を京に奉じなければならない。
 だが、考えの違いや温度差、大事の前の小事と片づけていいものか?
 室町幕府の再興に協力するのもやぶさかでないが、全てのことに関していちいち義昭にお伺いを立てるわけには行かない。少なくとも、軍事に関しては信長に一任する形にしてもらう必要がある。が、義昭がそれを納得するかが問題だった。
 「は、ではお支度を。すぐにでも京へご案内いたしましょう」
 勝家は不安を感じながらも、義昭を京へ迎える準備をしていくのだった。

 勝家の不安はこの後的中することになる。
 表面上協力関係にありながら、裏では互いに警戒し合いけん制し合う。
 信長と義昭のドロドロの陰険漫才の幕が上がるのだった。


 相模、小田原城。
 「やっほー。氏康お姉ちゃんおひさー!」
 「おお、氏真久しいな」
 簡素だが風流な雰囲気の一室。
 金髪ロリ美少女の今川氏真が、黒髪姫カットの美少女、北条氏康ににぱっと笑いかける。
 その笑顔に思わず癒されそうになるのを、氏康は”危ない危ない”と踏みとどまる。この笑顔で甘えて、なにかおねだりするのが氏真の常とう手段であるのは知っているからだ。
 「で、今日はどんな用向きかな?
 織田との交渉なら間に合っているぞ」
 氏康は先回りして氏真の思惑を一刀両断する。
 たとえ籠城していても、中立勢力にはどちらの軍も手を出してはならないのが慣習だ。ゆえに、氏真がこうして戦闘中の小田原城を訪ねてくることもあるわけだ。が、今の今川は織田に臣従している立場だ。建前では中立でも、実際には織田の意向であれこれ動いている。
 今川義元や氏真が、再々織田と和睦することを勧めて来るのがその証左。
 いくら今でも今川とは友好関係にあるとは言っても、それは聞けない話だった。
 「相変わらずつれないねー。
 まあ、難しい話は後にして、今日はあって欲しい方がいるんだよー。
 どうぞ」
 そう言った氏真の言葉に応じて、部屋の衝立の陰から現れた人物に、氏康は息を呑む。
 黒く長い髪が美しい、背の高いすらっとしたすごい美人だったからだ。薄く施した化粧が華やかだが、嫌味な感じは全くない。
 身に着けている衣服も豪奢ではないが、よくまとまっていて美しさを引き立てていると言える。
 女の自分でも来るものがあるほどの美しさだった。
 美女は、氏真に袖で口元を隠しながら顔を寄せると何かをささやく。
 「彼女こう言ってるよ。
 ”お初にお目にかかります。里田谷留美と申します。直接お話しできないお無礼を、どうかお許しください”と」
 「い…いや、北条氏康だ。お会いできて光栄だ。
 もしかしてお公家さんの娘さんなのか?」
 高貴な人間は直接話さないものだと知識として知っている。が、それを無礼とは氏康は思わなかった。公家には公家のしきたりがあるだろうし、なにより袖で顔を隠しながら氏真に囁く仕草も美しく見える。
 「”京にいたことはありますが、特に身分のあるものではありません。
 直接お話しできないのは、緊張しているのと言葉があやしいためです”と」
 「そ…そうか。
 それで、留美殿は今日はどのようなご用向きだろうか?」
 氏康は別に女趣味があるわけではないが、こんな美人が訪ねてきてくれるだけでも嬉しい。が、今の小田原は戦場だ。こんな高貴な感じさえする美女がいるのは非常に場違いに思えた。
 「”今日は商談をしに参りました。と言っても、まずは一緒にお茶を頂くのはいかがかと思います”と」
 氏真は通訳した言葉に、留美は商人であり、西洋風の茶道をたしなんでいると付け加えた。
 「ほう…」
 武人気質だが、畿内の生まれの母の影響でそれなりに風流の道もかじっている氏康は興味を引かれた。

 「うん。美味しい…。西洋のお茶も菓子も。南蛮人はいつもこんなに美味しいものをいただいているのか…」
 いつも凛として近寄りがたい雰囲気をまとう氏康が、紅茶とシュークリームのおいしさにすっかり幸福感に満たされ、ふにゃりと表情を緩ませている。
 「”気に入っていただけて嬉しい限りです”と」
 通訳する氏実も、ほっぺたにカスタードクリームをつけて幸せそうにしている。
 一方の氏康は、留美と名乗る美女にさらに興味をそそられていた。
 彼女が持参した”てぃーせっと”なる茶器は見慣れないが、どれも美しく機能的で素晴らしいものばかりだ。
 彼女がいれた紅茶という茶も、持参した”しゅーくりーむ”も素晴らしい。
 これだけすごいものを扱っている商人とはどんな人物なのだろう。
 「氏真様。申し訳ございません。火急の連絡が入っております」
 「えー。しょうがないなー。
 ごめんなさい、ちょっと抜けるね」
 従者からの言葉で、氏真は立ち上がり部屋を後にする。

 留美と二人きりになった氏康はなんとなく緊張していた。
 (どうしてだろう。留美殿は女子だ。
 なのに…なんだかドキドキしてしまう…)
 美しく妖艶に微笑みながら茶のお代わりを入れてくれる留美に、なぜか心臓が高鳴ってしまうのだ。
 「留美殿…?」
 氏康は困惑する。留美が突然、優雅な仕草で音もなく自分のすぐ近くに寄って来たからだ。
 留美は息がかかりそうなほど顔を近づけて、氏康の目をのぞき込む。
 (きれいな目…)
 透き通った瞳は、見つめられると吸い込まれてしまいそうだった。
 留美は氏康の髪を撫でながら柔らかく微笑む。ついで、氏康の手を取り、手のひらを自分の頬に当てる。
 (もしかして留美殿はそっちの趣味があるのか…?)
 いよいよ雰囲気が妖しくなる。自分にその趣味はない。ないはず。逃げなければ。氏康はそう思うが、留美の目に見つめられると、どうしても動くことが出来ない。
 「ああ…留美殿…?」
 氏康は逡巡している間に、留美に抱きしめられていた。服越しにだが、留美の体温と心臓の鼓動が伝わって来る。
 「あなたは…とてもすてき…」
 耳元で小さく囁かれた言葉に、体の奥が、女の芯が蕩かされていくように感じた。
 留美は一度体を離すと、氏康を再びのぞき込み、ほおをさわりと撫で、顎に指を添える。
 「目を閉じて…」
 「留美殿…」
 氏康には留美のささやく意味がわかった。このまま目を閉じたら、自分は留美に唇を奪われてしまう。 
 だが、氏康はすでに留美の美しさと色香に心を奪われてしまっていた。
 (もう女色でもかまわない…。こんな美しい人…とても拒めない…)
 氏康は静かに目を閉じた。
 唇に柔らかいものが触れる。留美の唇の感触は驚くほど柔らかかった。
 「んん…ちゅ…」
 最初は軽く触れ合うだけ。しだいに唇同士が深く触れ合い始める。
 (口づけって…こんなに気持ちいいんだ…)
 「口を少し開けて…」
 そう囁かれた言葉に抗えず、氏康は口を開く。留美の舌が唇を舐め、歯列をなぞり、やがて自分の舌を貪り始める。
 氏康はぽーっとしてしまい、とろんと目を潤ませてされるがままだった。
 留美が一度唇を離し、妖艶に微笑むと、氏康を抱きしめてのしかかって来る。
 「きゃっ…」
 氏康は抵抗もできず、畳の上に押し倒されていた。
 留美は氏康をきつく抱きしめて、再び唇を重ね、氏康の唇と舌を貪る。
 「ちゅ…ああ…留美どのお…ん…」
 留美と氏康の舌の間に、唾液がねっとりと糸を引く。
 氏康はもう抵抗することが出来なかった。留美と抱き合い口づけを交わし、舌を貪り合う。その幸福感と心地よさに、氏康は身も心も支配されていた。
 (ああ…どうしよう…なにか…何かが来る…!来てしまう!)
 氏康は今まで感じたことのない感覚が体の奥からこみあげて来るのを感じた。
 今になって、すでに全身が痺れて敏感になり、女の部分が熱くなり、とろりと潤っていることに気づく。
 下腹部に感じる甘いしびれが徐々に強くなり、ついに一番奥が硬直したような感覚に襲われ、目の前が白く弾ける。
 「んんん…!」
 氏康は留美ときつく抱き合い、唇を重ねたままびくんびくんと体を震わせる…。
 (私…どうなったんだ…まさか…達してしまったのか…?)
 氏康は未知の感覚に困惑する。
 氏康は、母の爛れた生活が原因で、所謂性嫌悪の状態にあった。性的なこと全てを嫌悪する彼女にとっては性交と同じように、自慰も忌むべきものだった。
 二次性徴を迎えて、人並みに性欲を感じるようになっても、自分で慰めようという気にはなれなかったし、とくにそれで不都合もなかった。
 それだけに衝撃は大きかった。
 自分は女と口づけを交わして淫らな気分になり、あろうことか絶頂に達してしまったらしい。
 それは、とても恥ずかしいことだった。
 しばらく氏康の唇を貪り続けていた留美は、一度唇を離し、また氏康の目をのぞき込む。
 (だめだ…もう抵抗できない…。
 これからどんなことをされてしまうのだろう…。口づけだけであんなに心地よかったのだから…。敏感な部分に触れられたら…)
 氏康は、不安と期待の入り混じった気持ちでいた。女同士の交わりなど初めてだが、なにをされるのか不安になる一方、さらに心地いい感覚を味わわせてもらえる期待も確かにあった。
 が…。
 「留美殿。ご苦労様でした。お見事でしたね」
 「母上…!?」
 いつの間にか、部屋の襖の前に氏康の母である北条早雲が座り、微笑んでいたのだった。 
 氏康は驚愕する。これは一体どういうことなのか。

 「留美殿、お約束通り、この時より北条は織田に臣従するものとさせていただきます」
 たたずまいをなおした留美に対し、早雲は三つ指をついて頭を下げる。
 留美と、用事から戻って来た氏真は、笑顔で顔を見合わせる。
 「お待ちください母上!どういうことです!?
 私は織田に下るなど認めません!」
 状況が理解できない上に、納得もしていない氏康は抗議の声を上げる。
 「そういう約束なのですよ。
 誰でもいい、殿方が氏康を籠絡することができたら、北条は織田に下ると」
 早雲の言葉に、氏康はぎょっとする。
 「殿方…まさか…?」 
 恐る恐る留美を見る。あんなに美しいのに…まさか…?
 「氏康、あなたの男嫌いの責めは私にあります。ふしだらでおぞましいと憎むならこの母を憎むべきです。
 男と言うだけで悪意や嫌悪感を向けるのはお門違いです。
 それに、どうでしたか?殿方もなかなか素敵なものだったでしょう?」
 早雲の言葉がいよいよ氏康に追い打ちをかける。
 「し…しかし…こんな美しい人が本当に…?」
 氏康の疑問に答えるように、留美が胸元に手を入れると、丸く半円形のものを二つ取り出す。聡明な氏康にはわかった。あれは女の胸を疑似的に再現するものだと。
 そして、留美は着物の前を大胆に開いてしまう。そこにあるはずの膨らみは存在せず、意外に鍛えられて引き締まった胸板があった。
 早雲と氏真は、氏康のあまりの驚きっぷりに苦笑する。
 留美は田宮が女装した姿だった。氏真を通して会話していたのは、声をごまかすため。里田谷留美という名も、田宮知のアナグラムだ。
 「あ…ああ…」
 (男…!あんなにきれいな人なのに男だった!
 というか私はさきほど留美殿に抱きしめられて唇を重ねられた…。あまつさえ口づけで達してしまった…。
 あんなに美しい人だけど男に…!)
 氏康はあまりのショックにそのまま気を失ってしまったのだった。


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