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予想に反して

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01

 その日、祥二は初美と一緒に、箱根の温泉宿に宿泊していた。
「初美さん、本当にええんかい?」
「はい、わたくしは祥二さんが好きですから」
「わしは、ひどい男じゃぞ…?」
「そうは思いませんわ。旅行に誘ってくださいましたし、こんなに素敵な旅館に一緒に一緒に泊まれるんですもの。幸せですわ」
 暗い部屋の中、ぼんやりとしたランプの光に映える初美は、素直に美しいと思えた。
 旅館の浴衣はよく似合っているし、湯上がりの姿はとても色っぽい。
 その表情は、本当に嬉しそうだった。
 二股をかけられていることにも、婚前交渉にも、まるでわだかまりがない様子だ。

(これでは予定と違うんじゃが…)
 祥二は思う。
 今日初美を旅行に誘ったのは、彼女に自分から離れてもらうためだ。
 活発で好奇心旺盛でも、深窓のお嬢様だ。あまり強引でスケベな行いを迫られれば、さすがに拒むだろう。
 そんな打算を抱いていた。
 だが、予想に反して初美は喜んでくれていた。
 一緒の部屋に泊まろうという提案も、笑顔で受け入れた。
 そして、いよいよ事に及ぼうとしている。
(ま、一夫一婦制や婚前交渉の禁止なんぞ、キリスト教的な教えじゃが…)
 開き直った祥二は、自分にそう言い訳する。
 日本の古典文学には、爛れた男女の様子が生々しく描かれていたりする。
 それに祥二自身、性病やら望まない妊娠やらという弊害さえなければ、性に奔放であるのは悪いことではない、とさえ思っていた。
 貞操観念だの倫理観だのモテないやつらの遠吠え、とも考えている。
 第一、他の男女の手垢がついている相手は嫌だという考えこそ偏狭。
 そう考えて、自分を説き伏せる。
「じゃあ、目を閉じて」
「はい…」
 祥二はそれ以上考えるのをやめた。
 目を閉じた初美を抱き寄せ、布団に優しく押し倒した。

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