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せっかくだし
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06
「お待たせして申し訳ありません」
レストランの入口の方から、透き通った声がした。
「ああ、これは初美さん。今日は良く来てくれたね」
佐藤栄作が、いつになくにこやかに応じる。
「祥二、細川初美さんだ。帝日銀行頭取の次女だ」
「山名祥二と申します。お会いできて光栄です。その…べっぴんさんですね」
祥二は立ち上がり、あいさつをする。
最後のひと言は、社交辞令でもなんでもなく、自然に出てきた。
目の前の、いかにもいいところのお嬢さんという雰囲気の女性は、素直に美しいと思えた。
焦げ茶色の髪はよく手入れをされていて、とてもみずみずしかった。
やや童顔で、最初は学生かと思ったが、これでも24歳。
(けっこうやんちゃな娘と聞いとったが…)
祥二は意外な気分だった。
初美は大学を卒業した後、コネに頼らずにとある商社の経理の仕事にありついたのだという。
家事手伝いをしつつ花嫁修業をすべし、という両親の反対を押し切って。
だが見たところ、とてもそんな気が強い女には見えなかった。
「ありがとうございます。祥二さんも、聞いていたよりずっと素敵な方ですわ」
そう言って、初美がにっこりとほほえむ。
祥二は不覚にもどきりとしてしまう。
本当に、気がついたら魅せられているほど美しい笑みだったのだ。
「恐れ入ります。初美さん、まあその…今日はこの田舎者に東京のいろいろな話を聞かせてつかあさい」
「わたくしこそ、祥二さんからお話しをうかがいたいですわ」
取り敢えずとっかかりにそんな会話を交わす。
かたや広島生まれの成り上がり者。かたやエリート一家のお嬢さん。
正直なところ、共通する話題があるとも思えなかった。
だが、初美は東京生まれの東京育ちで、短期ながらフランスへの留学経験もあるという。
「僕は、東京には仕事で来るばかりで、実はほとんど知らないと言っていい。初美さんに、是非東京の面白いところをうかがいたいと思っとります」
「はい。わたくしでよろしければ」
(せっかくじゃし、楽しく話そうかい)
祥二は、いろいろ教えを請うつもりで会話を始める。
恵子の言葉を思い出す。
あからさまに、政略結婚もどきの見合いという雰囲気は頂けない。
こうして会っているのだ。
せっかくなので楽しむことに決めていた。
「お待たせして申し訳ありません」
レストランの入口の方から、透き通った声がした。
「ああ、これは初美さん。今日は良く来てくれたね」
佐藤栄作が、いつになくにこやかに応じる。
「祥二、細川初美さんだ。帝日銀行頭取の次女だ」
「山名祥二と申します。お会いできて光栄です。その…べっぴんさんですね」
祥二は立ち上がり、あいさつをする。
最後のひと言は、社交辞令でもなんでもなく、自然に出てきた。
目の前の、いかにもいいところのお嬢さんという雰囲気の女性は、素直に美しいと思えた。
焦げ茶色の髪はよく手入れをされていて、とてもみずみずしかった。
やや童顔で、最初は学生かと思ったが、これでも24歳。
(けっこうやんちゃな娘と聞いとったが…)
祥二は意外な気分だった。
初美は大学を卒業した後、コネに頼らずにとある商社の経理の仕事にありついたのだという。
家事手伝いをしつつ花嫁修業をすべし、という両親の反対を押し切って。
だが見たところ、とてもそんな気が強い女には見えなかった。
「ありがとうございます。祥二さんも、聞いていたよりずっと素敵な方ですわ」
そう言って、初美がにっこりとほほえむ。
祥二は不覚にもどきりとしてしまう。
本当に、気がついたら魅せられているほど美しい笑みだったのだ。
「恐れ入ります。初美さん、まあその…今日はこの田舎者に東京のいろいろな話を聞かせてつかあさい」
「わたくしこそ、祥二さんからお話しをうかがいたいですわ」
取り敢えずとっかかりにそんな会話を交わす。
かたや広島生まれの成り上がり者。かたやエリート一家のお嬢さん。
正直なところ、共通する話題があるとも思えなかった。
だが、初美は東京生まれの東京育ちで、短期ながらフランスへの留学経験もあるという。
「僕は、東京には仕事で来るばかりで、実はほとんど知らないと言っていい。初美さんに、是非東京の面白いところをうかがいたいと思っとります」
「はい。わたくしでよろしければ」
(せっかくじゃし、楽しく話そうかい)
祥二は、いろいろ教えを請うつもりで会話を始める。
恵子の言葉を思い出す。
あからさまに、政略結婚もどきの見合いという雰囲気は頂けない。
こうして会っているのだ。
せっかくなので楽しむことに決めていた。
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