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焦土となった場所から

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 山名祥二は、昭和3年、広島県の地主の家の次男坊として生を受けた。
 と言っても、兄が幼くして亡くなっていたので、実質的な長男だった。

 彼の幼少期は、日本が戦争に向けて暴走していく時代だった。
 金融恐慌に端を発する政治不安、農村の貧困、格差の拡大。
 それらの不安要素は、政党政治の腐敗や、右翼や軍部の過激分子の増長を促した。
 5.15事件、2.26事件を経て、誰も軍部の暴走を止められなくなった。
 日中戦争は泥沼化し、アメリカがいつ攻めてくるかという恐怖に耐えきれず、ついに米英と戦端を開いてしまう。
 結果は300万人の人命を失っての敗戦だった。
 だが、祥二にとっての悪夢はむしろ戦後に始まった。

「土地を手放せ!?」
 当時日本の懸案とされた農地改革が、問答無用で実行されたのだ。
 山名家は土地のほとんどを取り上げられ、没落してしまうことになる。
 もともと農地改革の趣旨は、寄生地主による搾取が農村を貧困化させ、戦争の原因になったことの反省のはずだった。
 だが、農地の没収の波は、明治以降寄生地主となったものだけではない。先祖伝来の土地を守ってきた者たちにも及んだ。
 田畑を失った者たちがどうやって暮らしていくのか。それは一顧だにされなかった。
 アメリカという国の、いつものやり方だった。“オムレツを作るには卵を割らなければならない”と涼しい顔で言い放ち、犠牲になる者を顧みることがない。
 
 祥二の父親は、残った土地を寝る暇もなく耕作し続けた心労で他界した。
 山を売った金でなんとか祥二を京大に通わせたものの、このままでは下の兄弟たちが大学に行けない可能性が高かった。
 だが、昭和25年に転機が訪れる。
 北朝鮮軍が38度線を越えて南下を始めた。
 世に言う朝鮮戦争の勃発である。
 日本国内はたちまち特需に沸き、あらゆるものが不足し始めた。
(これこそ天の助けじゃ)
 祥二は一念発起して大学を休学。
 山をさらにひとつ売って、わずかな資金を元手にくず鉄屋を開業した。
 時流が味方してくれた。近所の子供たちに小遣いを渡して、戦災の焼け跡からスクラップを持ってこさせ、高く売る。
 幸い、山名家の土地の中には、空襲で破壊された工場の焼け跡もあった。スクラップとして売れば大金になった。
 粗末な金庫には、たちまち金がうなりはじめた。
 朝鮮戦争開戦から2年で、破壊し尽くされ機能不全になりきっていた日本の経済は、すさまじい勢いで回り始めていた。
 下の兄妹たちを大学にやるためのノルマを達成した祥二は、取りあえず店をたたんで復学することにする。
 
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