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05 愛だの恋だの仕事だの

水族館と黄色い悲鳴

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04

 「瞳さん、次はあれなんかどうかな?」
 「ええ…面白そうですね」
 3連休の初日。
 瞳は克己と水族館を訪れていた。
 (なんでこうなってるのかしら…?)
 今日は休日。
 デート日和。
 この水族館は一度来てみたいと思っていた。
 それはいい。
 だが、自分の置かれている状況が今ひとつよくわからなかった。
 
 3日前。
 「瞳さん、今度の連休俺たちとデートしてくれ」
 「え…?」
 終業後、克己、龍太郎、勇人に食事に誘われ、イタリア料理店でそう切り出されたのだ。
 「1日目は係長。2日目は夏目課長。3日目は俺というスケジュールで」
 勇人がさも当然というふうに補足する。
 「あの…嬉しいけどどうして3人全員と…?」
 そこが瞳にはわからなかった。
 3人から付き合ってくれと言われていまだに誰を選ぶか決められず、なんとなく距離を置いてしまっている。
 その状況で、3人全員と1日ずつデートしてくれと言われるとは思ってもみなかったのだ。
 「申し訳ないけど、秋島君が煮え切らないのでね。
 3人で相談した結果、お試しをしてもらうのはどうかということになったんだ。
 その上で誰が好みか決めてもらえばいいと」
 龍太郎がさわやかな笑顔で言う
 (んな無茶な…)
 瞳は返す言葉を一瞬失う。
 連休、1日ずつ3人の男とデート。
 なにやらいい感じもしなくはない。
 だが、端から見れば単に男にだらしない女にしか見えないだろう。
 「それじゃあ…なんだかみつまたかけてるみたいなんですけど…」
 瞳はワインに口をつけながら言う。 
 モテるのは悪い気分ではないが、それはさすがに抵抗がある。
 ついでに恥ずかしい。
 「まあ、瞳さんが望むなら3人と付き合うのもありか。
 と、俺は思うんだが」
 「うーん。このままいつまでも保留よりはそれもいいかもですね」
 「最終的に決めるのは秋島君だが、もしそれが望みならいいとも思うよ」
 克己の言葉に、驚くほど簡単に勇人と龍太郎が同意する。
 (イケメンさん、もう少し自分を大切に!)
 心の中で全力で突っ込む。
 「まさか…みつまたなんてかけたら会社で笑いものですよ」
 同僚たちが自分を後ろ指さすところを想像してしまう。
 「そうか?複数の男とどうどうと付き合ってる女、会社でもわりといるぞ?」
 「男たちも納得してるみたいですしね」
 「ま、考えてみれば男の価値は女の数で決まる、なんて言うのに、女に何人も男がいたらふしだらだとかだらしないとか言われるのは不公平だもんな」
 3人のその言い分に、瞳はあっけにとられる。
 誰にするか決めずにずるずる引き延ばしていた結果がこうなるとは。
 「瞳さん、どうかな?まずはデートからで」
 「ぜひ先輩とデートしたいっす」
 「実はデートプランもう決めてあるんだ」
 どうやら、断れる雰囲気ではなさそうだった。
 それに、ずっと保留してきたのは自分の優柔不断でもある。
 「わ…わかりました…」
 瞳は克己、勇人、龍太郎とのデートを承諾したのである。
 
 「うわあ…でかい…」
 「近くで見ると本当にでかいですね」
 克己と瞳が足を運んだのは、この水族館名物の大水槽だった。
 中でも目を引くのはジンベエザメだ。
 巨大な体がゆっくりと泳ぐ様は、優雅ささえ感じさせる。
 「しかし…なんというか…メガロドンじゃなくて良かったと思う自分がいやです」
 「はは…あんなものが水族館で飼われてたらトラウマだろうね」
 瞳は、太古に絶滅した巨大な頂点捕食者のサメが水槽で飼育されているところを想像してみる。 
 ネットの動画などではよく見かける。
 が、リアルであんなのが目の前を通り過ぎて、もし目が合ったりしたら失禁するだろう。
 「ま、フカヒレにしたら食いでがありそうかな?」
 「こっちが先に食われなければの話ですね」
 そんな軽口をたたき合う。
 瞳は、克己とのデートを素直に楽しめている自分を感じていた。
 (デートに応じて良かったかも。楽しいな)
 
 「おお、本当に触れるんだ」
 「あら、かわいい」
 次ぎに克己と瞳が足を運んだのは、イルカとの触れ合いだった。
 イルカに触ることができるのだ。
 「ほら、おいでおいで」
 瞳はイルカに手を差し伸べる。
 よく人になれているのか、イルカは逃げようとしない。
 クエックエッと鳴くのがかわいい。
 が…。
 突然、イルカが瞳のスカートの端を加えて引っ張り始めた。
 「ちょっ…なにするの…!?」
 「やめなさい。どうしちゃったの?」
 飼育員がやめさせようとするが、イルカはなにが楽しいのかスカートを離そうとしない。
 なにより、泳ぐ速度が最も速い動物のひとつだ。
 その力は強かった。
 ついにスカートは白旗を揚げる。
 引っ張られてお尻が抜けて、そのまま下ろされてしまう。
 「おお…ピンク…」「かわいいパンツ」
 そんな声が聞こえた気がした。
 「きゃああああああああーーーーーーーーーーーっ!」
 瞳の悲鳴が響き渡るのだった。
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