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05 裸婦という名の花

モデルがいいと

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06

 「先輩、お疲れ様でした」
 「本当に、なんだかすごく疲れたよ…」
 アトリエの奥の風呂場でシャワーを浴び服を整えた瞳に、佐奈がコーヒーを煎れる。
 (まさか…男の子たちに見られて何度もイっちゃうなんて…)
 瞳は顔から火が出そうだった。
 良く洗ったが、まだ発情したにおいが残っている気がする。
 ついでに、まだお腹の奥にオーガズムの連続の余韻がくすぶっている。
 「もうヌードモデルは勘弁して」
 「まあまあ、そうおっしゃらずまたお願いしますよ。子供たちも喜んでましたから」
 「そう言われても…」
 実際、デッサンが終わった後生徒たちの作品を見せてもらうと、素人目にもいいできの絵と言えた。
 まだ9歳の水琴が真剣で集中力に満ちた表情で筆を走らせていたのは、はったりではなかった。
 水琴も含めて、小学生から中学生の子供たちが描いたとはとても思えないできのものばかりだったのだ。
 モデルを引き受けて、なかなかに有意義だったと思えてしまう。
 もうモデルは勘弁して欲しいと思うのに、またお願いしますと言われると心が揺れてしまうのだ。
 「だって…やっぱり恥ずかしいよ…。特に男の子たちに見られるのは…」
 自分でもなぜかわからないが、性の目覚めの前後にあるであろう男の子たちの視線は、成熟した男のそれよりはるかに恥ずかしいのだ。
 「まあ、それはわかります。あたしもヌードモデルやったことあるんですけどね。
 若い男の子に見られるのって、なんでかすごく恥ずかしいんですよね」
 佐奈は自分のカップにもコーヒーを注ぎながら相づちを打つ。
 「ただ、あんまり恥ずかしがらないで下さい。
 モデルさんがあんまり恥ずかしがってると、描いてる方も気まずいんですよね。
 なにより、見られてえっちな気分になっちゃうのは自然なことですから」
 「え…?」
 瞳は心臓が口から飛び出そうな錯覚に襲われる。
 (もしかして…男の子たちに見られて濡らしてたこと…ばれてる…?)
 瞳はただでさえ赤い顔を、さらに上気させてしまう。
 「ヌードモデルさんの多くは、見られて濡らしちゃうことを経験してるそうです。
 女は誰でも、どこかで自分の恥ずかしい姿を見られたいって願望を持ってるそうです」
 「そ…そうなの…」
 瞳は少しほっとした気分になる。
 自分は露出狂なのではないかと、内心で不安になっていたのだ。
 「ただ、ヌードデッサンでイっちゃう人はさすがに初めて見ましたけどね」
 ぐさっ。
 マンガ的に、佐奈の台詞が自分に刺さったように瞳は感じた。
 「佐奈ちゃん…気づいてたの…?」
 「まあ、これでもあたしも女ですから。
 女が本当に興奮したときの兆候はわかります。
 おっぱいがぷくって膨らんで、発情した本気汁のにおいが…」
 「忘れて!お願い!」
 瞳は大きな声で佐奈に被せる。
 恥ずかしさで死んでしまいそうだった。
 自分が男の子たちに見られて興奮し、あまつさえオーガズムに達してしまうまでの様子が佐奈につぶさに観察されていた。
 このまま消えてしまいたい気分だった。
 そう言えば、同じように自分をデッサンしていた克己は気づいていただろうか?
 「安心して下さい。誰にも言いません。
 きれいでしたよ。エッチな気分になっちゃってる先輩。
 発情すると女がよけいに美しく見えることってあるんですね」
 佐奈が天使のような悪魔の笑みを浮かべる。
 瞳は困惑した。
 佐奈に、またモデルよろしく、と言外に言われているのがわかったからだ。
 また佐奈におだてられたら、自分は拒めないだろう。
 そして、また男の子たちに見られて興奮し、視線だけでオーガズムを迎えてしまうかも知れない。
 (どうしたものか…)
 恥ずかしさで頭の中がぐるぐる。
 瞳はただ混乱するばかりだった。
 
 なお。
 その後日談。
 「あ、これだー」
 「おおお、きれいじゃないですか」
 「さすが克己先生」
 絵画コンクールの結果発表の日。
 瞳は佐奈に連れられて、展覧会場に来ていた。
 克己と絵画教室の生徒たちも一緒だ。
 「いやあ、まさか入選するとはなあ…」
 「だから言ったでしょう。応募してみるべきだって」
 まだ実感がない様子の克己に、佐奈がどや顔をする。
 なんと、瞳のヌードをデッサンした克己の絵が、コンクールで入選してしまったのだ。
 「しかし、うまいとは思ってたけどさすがですね、係長」
 「いやあ、モデルが良かったからだよ。
 美しいモデルだと筆も進むからさ。
 瞳さんがモデルを引き受けてくれて本当に良かった。
 ありがと、瞳さん」
 克己が照れ隠しか、瞳に話を向ける。
 「いえ…どういたしまして…」
 瞳は真っ赤になりながらそれだけ答える。
 自分のヌード絵を多くの人に見られている。
 それは、ある意味で裸を直接見られるより恥ずかしかったのだ。
 克己の腕が本物で、美しく描かれているからとくに。

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