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05 裸婦という名の花
本当にきれい?
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04
佐奈に連れられてアトリエに移動した瞳は、ソファーに腰掛けて言われたとおりのポーズを取る。
「これは…恥ずかしいんだけど…。ちょっと下品じゃない…?」
「いえいえ、その辺の不良少女がやったらギャグでしょうけど、先輩ほどの美人がやると芸術的ですとも」
佐奈が太鼓判を押す。
瞳が佐奈の指示で取ったポースは、いわゆるM字開脚だった。
背筋を丸めないように注意しつつ脚を開き、両手を後ろにつく。
薄く細いレースの布をたすき掛けにし、股間を隠す。
(なんでいやだと言えないんだろう…)
瞳は内心で嘆息する。
“美人”“きれい”と言われると、どうしてもいやと言えないのだ。
自分はこんなにチョロい女だったかと少しいやになる。
「じゃあ、みんなを呼びますね。
先輩、心の準備はいいですか?」
「うん…。始めましょう。時間が経つとよけい恥ずかしくなりそう…」
瞳の言葉に応じて、佐奈が部屋のドアを開ける。
別室で待機していた絵画教室の生徒たちと、克己が入って来る。
生徒たちは、瞳の姿をみるなり目を輝かせる。
「すげえ、美人だー!」
「きれい、こんなモデルさん描けるなんて嬉しいぜ」
画材道具を手にはしゃぐ子供たちの中には、水琴の姿もあった。
「瞳おねーさん。今日はよろしくお願いします」
元気な声で丁寧に、そしてとびっきりの笑顔で水琴があいさつをする。
「ええ。よろしくね、水琴ちゃん」
水琴のキラキラな笑顔に、瞳は後戻りする自由を奪われてしまう。
このかわいい笑顔がなかったら、逃げ出していたかも知れない。
「なあ、本当に俺も描くのか?」
子供たちと同じように画材を持っている克己が、佐奈に困惑した顔で言う。
瞳に強引にヌードモデルを務めさせている負い目があるらしい。
再三、自分はデッサンが終わるまで他に行っているべきではないかと言っていた。
が、佐奈がそれを認めなかったのだ。
「もちろんじゃないですか。
係長、折角素敵な絵が描ける腕があるんですもの。
それに、ご覧なさい。先輩の美しさを。
この素晴らしい裸を描かないなんて、先輩の美しさに対する冒涜です!」
佐奈がふんす、と鼻を鳴らしながら言い切る。
描いて当然、描かないなんて間違っている、とばかりに。
良くわからない理屈だったが、妙に説得力を感じる。
「その…確かに美しい事は認めるけどさ…。瞳さんはどうなの?
俺がここにいても平気かな?」
不安そうに瞳に話を向ける。
「えと…係長…。私、本当にきれいですか…?」
瞳は即答を避け、質問に質問を返してしまう。
聞いたところによると、克己は小さいころから人物画を描いていて、コンクールで入選したこともあるほどの腕前だという。
裸を見られ描かれるのは恥ずかしいが、それだけの腕があるなら描いて欲しい気持ちもあるのだ。
「それは…もちろんじゃないか。今まで描いたどんなモデルよりも美しいとも」
気まずいが、それが克己の本心らしい。
その言葉を聞いて、瞳も腹を括る。
「そう思ってもらえるなら…嬉しいです。
きれいに描いて下さいね」
瞳は精一杯の笑顔を作って言う。
「わかった。腕によりをかけて描かせてもらうよ」
「じゃあ、決まりですね。じゃあ、みんな椅子に座って」
佐奈の号令で、生徒たちが椅子に腰掛け、キャンバスの準備をしていく。
ヌードデッサンは、こうして始まるのだった。
佐奈に連れられてアトリエに移動した瞳は、ソファーに腰掛けて言われたとおりのポーズを取る。
「これは…恥ずかしいんだけど…。ちょっと下品じゃない…?」
「いえいえ、その辺の不良少女がやったらギャグでしょうけど、先輩ほどの美人がやると芸術的ですとも」
佐奈が太鼓判を押す。
瞳が佐奈の指示で取ったポースは、いわゆるM字開脚だった。
背筋を丸めないように注意しつつ脚を開き、両手を後ろにつく。
薄く細いレースの布をたすき掛けにし、股間を隠す。
(なんでいやだと言えないんだろう…)
瞳は内心で嘆息する。
“美人”“きれい”と言われると、どうしてもいやと言えないのだ。
自分はこんなにチョロい女だったかと少しいやになる。
「じゃあ、みんなを呼びますね。
先輩、心の準備はいいですか?」
「うん…。始めましょう。時間が経つとよけい恥ずかしくなりそう…」
瞳の言葉に応じて、佐奈が部屋のドアを開ける。
別室で待機していた絵画教室の生徒たちと、克己が入って来る。
生徒たちは、瞳の姿をみるなり目を輝かせる。
「すげえ、美人だー!」
「きれい、こんなモデルさん描けるなんて嬉しいぜ」
画材道具を手にはしゃぐ子供たちの中には、水琴の姿もあった。
「瞳おねーさん。今日はよろしくお願いします」
元気な声で丁寧に、そしてとびっきりの笑顔で水琴があいさつをする。
「ええ。よろしくね、水琴ちゃん」
水琴のキラキラな笑顔に、瞳は後戻りする自由を奪われてしまう。
このかわいい笑顔がなかったら、逃げ出していたかも知れない。
「なあ、本当に俺も描くのか?」
子供たちと同じように画材を持っている克己が、佐奈に困惑した顔で言う。
瞳に強引にヌードモデルを務めさせている負い目があるらしい。
再三、自分はデッサンが終わるまで他に行っているべきではないかと言っていた。
が、佐奈がそれを認めなかったのだ。
「もちろんじゃないですか。
係長、折角素敵な絵が描ける腕があるんですもの。
それに、ご覧なさい。先輩の美しさを。
この素晴らしい裸を描かないなんて、先輩の美しさに対する冒涜です!」
佐奈がふんす、と鼻を鳴らしながら言い切る。
描いて当然、描かないなんて間違っている、とばかりに。
良くわからない理屈だったが、妙に説得力を感じる。
「その…確かに美しい事は認めるけどさ…。瞳さんはどうなの?
俺がここにいても平気かな?」
不安そうに瞳に話を向ける。
「えと…係長…。私、本当にきれいですか…?」
瞳は即答を避け、質問に質問を返してしまう。
聞いたところによると、克己は小さいころから人物画を描いていて、コンクールで入選したこともあるほどの腕前だという。
裸を見られ描かれるのは恥ずかしいが、それだけの腕があるなら描いて欲しい気持ちもあるのだ。
「それは…もちろんじゃないか。今まで描いたどんなモデルよりも美しいとも」
気まずいが、それが克己の本心らしい。
その言葉を聞いて、瞳も腹を括る。
「そう思ってもらえるなら…嬉しいです。
きれいに描いて下さいね」
瞳は精一杯の笑顔を作って言う。
「わかった。腕によりをかけて描かせてもらうよ」
「じゃあ、決まりですね。じゃあ、みんな椅子に座って」
佐奈の号令で、生徒たちが椅子に腰掛け、キャンバスの準備をしていく。
ヌードデッサンは、こうして始まるのだった。
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