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05 裸婦という名の花
これは芸術
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01
女にとって一番美しい姿は全裸である。
という考え方がある。
ヌードデッサンやヌード写真、裸婦の彫刻などは、性的なこととは関係なく美しさを追求するものであるのだと。
女の生まれたままの姿は、どれほど高級でおしゃれな服をまとった姿より美しいのだと。
(これは芸術…これは芸術…)
秋島瞳は、アトリエの椅子の上で必死で自分に言い聞かせていた。
そうしていなければ、恥ずかしさでおかしくなってしまいそうだった。
今瞳は、生まれたままの姿で細長く薄いレースの布を肩からかけ、股間を辛うじて隠した姿でヌードモデルをしている。
(やっぱりヌードモデルなんて引き受けるんじゃなかった…)
あてにされて頼まれると断れない、自分の性格が嫌になる。
絵画教室の少年少女に加え、後輩の水無月佐奈、同期で営業の係長である林原克己も、自分の裸をデッサンしている。
少年少女の中には、広報課長の夏目龍太郎の命である夏目水琴もいる。
(うううー…恥ずかしいよお…)
デッサンが始まって、最初は割と平気だった瞳だが、複数の視線を感じているうちにどうしようもなく恥ずかしくなってきてしまったのだった。
始まりは、休日の午後に佐奈に電話で呼び出されたことだった。
『デッサンのモデルさんが急に来られなくなって…。先輩、かわりお願いできませんか?』
突然のことに、瞳はとまどった。
最近干物女子をやめて女を磨いている。
その成果もあり、みんなが美しいと褒めてくれている。
それはいい。自分でも少し自惚れてもいる。
だが、モデルとなると話は別だ。
緊張しそうだし、絵画に描かれるとなるとけっこう恥ずかしい。
『お願いしますよ。子供たちがかわいそうで…』
佐奈が講師を務めている絵画教室の子供たちが、デッサンを楽しみにしている。
そう言われては断れなかった。
あまり時間はなかった。最低限みっともなく見えない化粧と服装をして、瞳は指定されたアトリエに向かった。
が…。
「ヌードデッサンなんて聞いてないよ!」
「すみませーん…。そう言ったら先輩来てくれないと思って…」
いかにもすまなそうな顔で、佐奈が弁解する。
アトリエに来てみたら、デッサンの対象は裸婦なのだという。
瞳にはとんでもない話だった。
「お願いしますよ先輩。ギャラ払うし、夕食奢りますから」
「そんなこと言われたって、ヌードなんていやよ…」
卑猥な意図はない。あくまで芸術。
理屈はわかる。
だが、要するに人前で裸になり、絵に描かれるということに変わりはない。
瞳には恥ずかしくて耐えられそうになかった。
「そう言わずに、そこをなんとか…。
水琴ちゃんも先輩を絵に描けるって喜んでるんですよ」
「水琴ちゃんが…?うーん…」
瞳は考え込む。
たしかに、先ほどアトリエの廊下で水琴をみかけた。
“瞳おねーさん、よろしくお願いします”
キラキラした笑顔で、礼儀正しくあいさつしてきた表情が思い出される。
以外だが、9歳にして本格的な絵を描いているのだそうだ。
(もし断れば、がっかりするだろうな…)
水琴ががっかりして泣きそうになっている顔を、嫌でも想像してしまう。
それだけは避けたい。
そう思えてならないのだった。
「わ…わかったよ…」
「本当ですか?ありがとうございます、先輩!」
佐奈が満面の笑みで瞳の手を握りながら言う。
(沙菜ちゃんてけっこう悪女なんじゃあ…?)
そんなことを瞳は思ってしまう。
水琴が楽しみにしていると言えば、自分がいやと言えないことを見越していた。
恐るべき交渉力。
かくして、瞳はしぶしぶヌードモデルを引き受けることになってしまうのだった。
女にとって一番美しい姿は全裸である。
という考え方がある。
ヌードデッサンやヌード写真、裸婦の彫刻などは、性的なこととは関係なく美しさを追求するものであるのだと。
女の生まれたままの姿は、どれほど高級でおしゃれな服をまとった姿より美しいのだと。
(これは芸術…これは芸術…)
秋島瞳は、アトリエの椅子の上で必死で自分に言い聞かせていた。
そうしていなければ、恥ずかしさでおかしくなってしまいそうだった。
今瞳は、生まれたままの姿で細長く薄いレースの布を肩からかけ、股間を辛うじて隠した姿でヌードモデルをしている。
(やっぱりヌードモデルなんて引き受けるんじゃなかった…)
あてにされて頼まれると断れない、自分の性格が嫌になる。
絵画教室の少年少女に加え、後輩の水無月佐奈、同期で営業の係長である林原克己も、自分の裸をデッサンしている。
少年少女の中には、広報課長の夏目龍太郎の命である夏目水琴もいる。
(うううー…恥ずかしいよお…)
デッサンが始まって、最初は割と平気だった瞳だが、複数の視線を感じているうちにどうしようもなく恥ずかしくなってきてしまったのだった。
始まりは、休日の午後に佐奈に電話で呼び出されたことだった。
『デッサンのモデルさんが急に来られなくなって…。先輩、かわりお願いできませんか?』
突然のことに、瞳はとまどった。
最近干物女子をやめて女を磨いている。
その成果もあり、みんなが美しいと褒めてくれている。
それはいい。自分でも少し自惚れてもいる。
だが、モデルとなると話は別だ。
緊張しそうだし、絵画に描かれるとなるとけっこう恥ずかしい。
『お願いしますよ。子供たちがかわいそうで…』
佐奈が講師を務めている絵画教室の子供たちが、デッサンを楽しみにしている。
そう言われては断れなかった。
あまり時間はなかった。最低限みっともなく見えない化粧と服装をして、瞳は指定されたアトリエに向かった。
が…。
「ヌードデッサンなんて聞いてないよ!」
「すみませーん…。そう言ったら先輩来てくれないと思って…」
いかにもすまなそうな顔で、佐奈が弁解する。
アトリエに来てみたら、デッサンの対象は裸婦なのだという。
瞳にはとんでもない話だった。
「お願いしますよ先輩。ギャラ払うし、夕食奢りますから」
「そんなこと言われたって、ヌードなんていやよ…」
卑猥な意図はない。あくまで芸術。
理屈はわかる。
だが、要するに人前で裸になり、絵に描かれるということに変わりはない。
瞳には恥ずかしくて耐えられそうになかった。
「そう言わずに、そこをなんとか…。
水琴ちゃんも先輩を絵に描けるって喜んでるんですよ」
「水琴ちゃんが…?うーん…」
瞳は考え込む。
たしかに、先ほどアトリエの廊下で水琴をみかけた。
“瞳おねーさん、よろしくお願いします”
キラキラした笑顔で、礼儀正しくあいさつしてきた表情が思い出される。
以外だが、9歳にして本格的な絵を描いているのだそうだ。
(もし断れば、がっかりするだろうな…)
水琴ががっかりして泣きそうになっている顔を、嫌でも想像してしまう。
それだけは避けたい。
そう思えてならないのだった。
「わ…わかったよ…」
「本当ですか?ありがとうございます、先輩!」
佐奈が満面の笑みで瞳の手を握りながら言う。
(沙菜ちゃんてけっこう悪女なんじゃあ…?)
そんなことを瞳は思ってしまう。
水琴が楽しみにしていると言えば、自分がいやと言えないことを見越していた。
恐るべき交渉力。
かくして、瞳はしぶしぶヌードモデルを引き受けることになってしまうのだった。
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