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02 恋も仕事も?

恋の話は単純化して

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 (会話がない…。
 一杯付き合えと言っておいてこれはまずい…。まずいのはわかってるんだけど…)
 瞳は自分でもどうしていいかわからず、無言のまま時だけが過ぎていった。
 お気に入りのはずのこの店のミモザが、今日はやたら酸っぱく思えた。
 佐奈が元気がないのは男がらみ。
 そして、彼女が思っているのは、自分に近づきつつある克己。
 それはなんとなくわかった。
 とにかくなにか話だけでもしてみようと思って酒に誘ったが、一向に会話が進まないのだ。
 瞳が克己のことをなんとも思っていなければ、すっぱりと克己を拒絶して佐奈を応援してやればすむ話だ。
 だが、瞳は克己を突き放すことができなかった。
 イケメンであり仕事もできる。少しいいかなと思っていた。
 かつては克己はそれ以上でも以下でもなかっただろう。
 だが、酔っ払って克己の家に泊まり、悪のりして互いに裸になって、酔った勢いでセックスに及びかけた。
 それ以来、瞳の中で克己の立ち位置が変わった気がした。
 (でも…受け入れることも拒絶することもできない…。
 私ってなんて優柔不断…)
 裸を見られ、最後まではいかないにせよ触れあったことで、恋愛感情かどうかはともかく、克己に執着する気持ちが生まれてしまったように思える。
 それに、総務部長室で、克己がいずれ瞳を自分のものにすると臆面もなく言い放ったとき、戸惑いながらも嬉しいと思えた。
 さりとても、積極的に克己と付き合おうとするでもない。
 それどころか、勇人や龍太郎ともつかず離れずの間合いを保ち続けている。
 (こういう場合どうしたらいいかわからないんだよ…)
 瞳は今までの人生で、モテた経験がなかった。
 恋人と呼べる男はいたが、瞳の方から必死でアプローチしてやっと付き合う形になったのだ。
 複数の男があちらから近づいてくる状況など、どう対処していいのかさっぱりわからないのだった。
 それだけに、誰か一人を選ぶとなると困ってしまうのだ。
 そんな負い目もあって、自分から誘っておきながら佐奈となにを話していいかわからないという情けない状況に陥っているのだった。

 「その…ごめん佐奈ちゃん…。
 私から誘っておきながら…なんだか会話がなくて…」
 「いえ、先輩から誘われたのは嬉しいですから…。
 そんなこと気にしないで下さい…」
 なんとか2人はそんな会話を交わすが、また無言になってしまう。
 (気まずい)
 瞳は針のむしろの気分だった。
 正直なところ、佐奈が自分に悪感情を抱いていないか心配していたのだ。
 佐奈の思い人である克己を受け入れるでも拒絶するでもなく、中途半端な距離を保っている。
 それだけならまだしも、勇人や龍太郎にも同じような対応をしている。
 だらしない女と思われているかも知れない。
 (佐奈ちゃんにはそう思われたくないけど…)
 瞳は佐奈を後輩として可愛いと思ってきた。
 自業自得とはいえ、佐奈に悪感情を抱かれるのは怖かったのだ。
 それに助け船を出すように、佐奈が切り出す。
 「ねえ先輩。
 話しにくいことは、単純化して言葉に出してみるといいそうです。
 どう話したらいいかあれこれ考えているから、よけいに言葉にできなくなる。
 わかりやすく、なにが問題点なのか口に出してみるっていうのはどうです?」
 「そうか…そうね…」
 瞳はにわかに我が意を得た気分になる。
 今まで、どう話を構成してどこから話していくか、そればかり考えてぐるぐるとした迷路にはまっていた気がする。
 とにかく、話してみるのも悪くない。
 後々、酒の勢いでとごまかすこともできるはずだ。
 意を決した瞳はミモザをあおると、思い切って切り出す。
 「じゃあ…まあその…私の問題から。
 ひと言でいうと…男の問題…かしら?」
 その言葉に、今まで消沈した様子だった佐奈がにっこりと微笑む。
 (やっぱり…笑った方が断然きれいで可愛い…)
 百合の気はないはずだが、不覚にもそんなことを思ってしまう。
 「やっぱりそうですよね-。
 先輩きれいだしモテるから。
 じゃあ、あたしの番ですね。
 あたしの場合は…まあ恋の悩みですか…。
 はっきり言えば先輩と同じ、男の問題です」
 そう言った佐奈の顔が赤かったのは、酒のせいではないだろう。
 一瞬、瞳と佐奈の間に気まずい空気が流れる。
 だが、すぐに2人ともにっこりと笑い合う。
 やっと、腹を割って話が始められそうに思えたのだ。

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