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02 恋も仕事も?

休日の遭遇

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04

 その日は休日。
 瞳は、ひとりでぶらりと町に繰り出していた。
 別にいわゆるぼっちというわけではない。
 声をかければ一緒に遊びに繰り出せる友人はいる。
 だが、なんとなくひとりでいたい気分だったのだ。
 (なんだかいろいろあり過ぎて疲れちゃったよ…)
 改めてここ最近のことを思い出してみる。
 同期であり、係長の林原克己。
 期待のルーキーである澄野勇人。
 イケメンたちに突然モテ始めてしまった。
 それはいい。
 だが、まだ準備ができていない。
 (女としていろいろ怠ってきたツケだなあ…)
 ショーウインドウに映る自分の姿に、ため息が漏れる。
 3年干物女子をやってきて、女としてのブランクは予想以上に大きい。
 化粧の仕方、服装、立ち振る舞い、表情の作り方まで。
 大きな眼鏡と吊しのセール品のスーツ、そしてユニ○ロの私服で色々ごまかしてきたものは、簡単には輝きを取り戻しそうにない。
 まあさりとて、せっかくみなが美人でおしゃれだと言ってくれるのだ。
 再び元の眼鏡姿に戻ることはなく、こうしてオフでもそれなりに化粧とおしゃれに気を使うようにしている。
 (いい機会かも知れないしね)
 いつまでも干物ではいられないのはわかっていた。
 女としての自分を磨くきっかけとしては悪くない。
 そう思えば、鏡とにらめっこをしながらマスカラや口紅を手に悪戦苦闘するのも悪くはないと思える。
 ともあれ、この休日くらいは他人の視線を気にせずひとりでいたい気分だった。
 が…。

 「あれ、課長。
 こんにちは」
 「ああ、秋島君。珍しいところで会うね」
 ウィンドウをぼんやりと眺めながら歩いていると、意外な人物に遭遇する。
 広報課長である、夏目龍太郎だった。
 今日は彼も休みなのだろう。
 黒主体でまとめられた私服が、肩幅の広い逞しい体型によく似合っている。
 が、瞳の興味を一番惹いたのはそこではなかった。
 龍太郎が連れている、8歳か9歳くらいの女の子だった。
 なかなかかわいいと思える。
 黒く長いストレートの髪が日本人形のようだ。
 白を基調としたフリルの多いワンピースがよく似合っている。
 (課長は確か独身だったし…彼の子にしては大きいわね…)
 顔つきはどことなく龍太郎に似ている。親戚の子ではあるのだろう。
 「こんにちは」
 瞳は取りあえずにっこり微笑んで、女の子にあいさつしてみる。
 「こ…こんにちは…」
 女の子は最初こそ緊張していたようだったが、瞳が微笑むとぎごちなくだが笑顔であいさつを返す。
 「課長、この子は?」
 「ああ、姪っ子だ。
 兄貴夫婦の子で、名前は水琴。
 兄貴も義姉さんも仕事でね。一人にしておくわけにもいかないし、俺がお相手ってわけ」
 龍太郎が気まずそうに答える。
 彼の兄も兄嫁の麻佳も、立場のある人間だ。
 休みも仕事というのもやむを得ない面はある。
 だが、どう言い訳しようと子供を弟に押しつけて仕事に出ている。それは事実。
 そこには、姉弟としておじとして、やましいものを感じているようだ。

 「その…秋島君、どこかに行く途中だったりするかな…?」
 「え?いえ、特にこれといって重要な予定もないですが…」
 会社ではいつも飄々としてタフな龍太郎が、珍しく困り顔をしている。
 折角の休日、ひとりでのんびりする予定だったが、ここまで困った様子だと放ってもおけない。
 「実は、このくらいの女の子には何をしてあげたら喜ぶかわからなくて…。
 なんかいい知恵はないものだろうか?」
 龍太郎は顔を寄せて小声で尋ねてくる。
 (なるほど、そういうことか…)
 瞳は得心する。
 龍太郎は能力や人格にこそ不安はないものの、やや真面目すぎるきらいがある。
 学生時代は勉強とレスリングに余念がなく、社会人になってからも若いくせにワーカーホリックだと聞いている。
 彼の考えや今までの経験では、良くも悪くも小さい女の子をどう扱えばいいのかわからないのだろう。
 「そうですねえ…」
 瞳は少し考える。
 そうは言っても、瞳も龍太郎と一つしか違わない。
 小さい女の子が喜びそうなものと言われても難しいのだ。
 が、周囲を見回していると、不意に眼に入るものがあった。
 (おお…あるじゃないの。よさげなのが)
 それは映画館だった。
 「課長、ちょうどいいのがありましたよ。
 行っときます?」
 「おお、あれか。確かにいいね。
 水琴、行ってみようか」
 瞳が指さした映画館を見て、龍太郎もそれがちょうどいいことに同意したらしい。
 水琴も素直に「うん」と首を縦に振る。
 その表情が嬉しそうだったのは気のせいではないだろう。
 3人は急いで映画館へと向かうのだった。

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