5 / 59
01 非日常の予感
朝日に目覚めたら...
しおりを挟む
01
秋島瞳、28歳。
独身、彼氏なし、オタク。
いわゆる残念な美人、干物女子だ。
今時珍しい大きな眼鏡に、焦げ茶の長い髪を低い位置でおさげにした髪型。
申し訳程度にした化粧。最低限みっともなく見えない以上でも以下でもない服装。
「素顔は充分美人て言えるのにね…」
「飾らなすぎるのも考え物だね…」
周囲からは惜しみと諦めを込めてそんな言葉を頂戴している。
東京の私立大学の経済学科を卒業した後、品川にある商社である株式会社青海商事に入社。
主な仕事は経理と総務だが、全員で80人程度の会社である。とくに縦割りの組織というわけではなく、必要に応じて営業の手伝いから商品の管理まで行う。
勤務態度は可も無く不可も無く。
前任者である経理、総務担当たちが寿退社や介護離職などで退職してしまったため、実質的に経理の責任者という立場にある。
まだまだ若いと思っていたが、気がつけばお局様と呼ばれる歳だ。
入社してくる新人たちの研修や指導も行わなければならないし、なにかあれば責任を問われる立場でもある。
だが、瞳自身にとってはどうということもない。
出世やお金に強い執着があるでもなく、さりとて仕事にはそれなりにプライドを持っているし、失業はしたくないから与えられた役割をこなす。
それだけだ。
かつての同僚の中には玉の輿に乗ったり、女だてらに起業して成功している者もちらほらいたりするが、瞳にはすごいと思いこそすれ、あくまで他人事だった。
それなりに有意義だが単調な日常が続いているし、これからも続くのだろう。そう思っていた。
が…。
「瞳さん、瞳さん、起きてくれよ」
誰かの声で目が覚める。
(体が重いしだるい…。飲みすぎたな…)
体と心が鉛のように重いことから、深酒した翌日だと気づく。
カーテンの隙間から白い朝日が差し込んでいる。
スズメが鳴いているのがいかにも朝と言う感じだ。
「瞳さん、大丈夫か?起きられる?水飲む?」
(あれ…?係長がなんでここに?っていうか、ここどこ?
私の家にはこたつなんてないし…)
自分を起こしている声が克己のものだとようやく気づく。
なんとなくわかる。
泥酔して、寝床に入るのも面倒だからといわゆる“こたつむり”のまま眠ってしまったのだと。
(なんだか肩から上だけやけに寒いな…)
そこまで考えて、瞳は自分がとんでもない姿で寝ていた事に気づく。
「え…えええ…!?」
瞳は生まれたままの姿だった。
生まれたままの姿だった。
大事なことなので二回言いました。
良く見れば、こたつの脇に服が乱雑に脱ぎ散らかされている。
「あ…あの…係長…。これは一体…?
夕べのこと…よく覚えてないんですけど…」
「そ…その…。
落ち着いて聞いてくれ。順を追って話す。
ていうか、俺もところどころ記憶無いんだけど」
自身も上半身裸の克己が気まずそうに言う。
瞳は、自分の顔がみるみる赤く上気して行くのを感じる。
漫画であれば“ボンッ”と擬音が入るところだろう。
元々イケメンである克己は上半身裸もセクシーだったが、それを喜ぶ余裕は今の瞳にはなかった。
(ど…どうしよう…?まさか係長と酔った勢いで…?
コンドームなんか用意してなかったし…。
コンドームつけてないの初めてだから覚えてないのはもったいないって言うか…。
いやいや違う、そういう問題じゃない!
心配すべきなのは性病とか妊娠のことであって…)
顔から日が出そうなほど恥ずかしかった。
ついでに頭の中もグルグル。
(昨日何があったんだっけ?)
取りあえず瞳は、酒で記憶が飛ぶ前のことを思い出してみることにした。
秋島瞳、28歳。
独身、彼氏なし、オタク。
いわゆる残念な美人、干物女子だ。
今時珍しい大きな眼鏡に、焦げ茶の長い髪を低い位置でおさげにした髪型。
申し訳程度にした化粧。最低限みっともなく見えない以上でも以下でもない服装。
「素顔は充分美人て言えるのにね…」
「飾らなすぎるのも考え物だね…」
周囲からは惜しみと諦めを込めてそんな言葉を頂戴している。
東京の私立大学の経済学科を卒業した後、品川にある商社である株式会社青海商事に入社。
主な仕事は経理と総務だが、全員で80人程度の会社である。とくに縦割りの組織というわけではなく、必要に応じて営業の手伝いから商品の管理まで行う。
勤務態度は可も無く不可も無く。
前任者である経理、総務担当たちが寿退社や介護離職などで退職してしまったため、実質的に経理の責任者という立場にある。
まだまだ若いと思っていたが、気がつけばお局様と呼ばれる歳だ。
入社してくる新人たちの研修や指導も行わなければならないし、なにかあれば責任を問われる立場でもある。
だが、瞳自身にとってはどうということもない。
出世やお金に強い執着があるでもなく、さりとて仕事にはそれなりにプライドを持っているし、失業はしたくないから与えられた役割をこなす。
それだけだ。
かつての同僚の中には玉の輿に乗ったり、女だてらに起業して成功している者もちらほらいたりするが、瞳にはすごいと思いこそすれ、あくまで他人事だった。
それなりに有意義だが単調な日常が続いているし、これからも続くのだろう。そう思っていた。
が…。
「瞳さん、瞳さん、起きてくれよ」
誰かの声で目が覚める。
(体が重いしだるい…。飲みすぎたな…)
体と心が鉛のように重いことから、深酒した翌日だと気づく。
カーテンの隙間から白い朝日が差し込んでいる。
スズメが鳴いているのがいかにも朝と言う感じだ。
「瞳さん、大丈夫か?起きられる?水飲む?」
(あれ…?係長がなんでここに?っていうか、ここどこ?
私の家にはこたつなんてないし…)
自分を起こしている声が克己のものだとようやく気づく。
なんとなくわかる。
泥酔して、寝床に入るのも面倒だからといわゆる“こたつむり”のまま眠ってしまったのだと。
(なんだか肩から上だけやけに寒いな…)
そこまで考えて、瞳は自分がとんでもない姿で寝ていた事に気づく。
「え…えええ…!?」
瞳は生まれたままの姿だった。
生まれたままの姿だった。
大事なことなので二回言いました。
良く見れば、こたつの脇に服が乱雑に脱ぎ散らかされている。
「あ…あの…係長…。これは一体…?
夕べのこと…よく覚えてないんですけど…」
「そ…その…。
落ち着いて聞いてくれ。順を追って話す。
ていうか、俺もところどころ記憶無いんだけど」
自身も上半身裸の克己が気まずそうに言う。
瞳は、自分の顔がみるみる赤く上気して行くのを感じる。
漫画であれば“ボンッ”と擬音が入るところだろう。
元々イケメンである克己は上半身裸もセクシーだったが、それを喜ぶ余裕は今の瞳にはなかった。
(ど…どうしよう…?まさか係長と酔った勢いで…?
コンドームなんか用意してなかったし…。
コンドームつけてないの初めてだから覚えてないのはもったいないって言うか…。
いやいや違う、そういう問題じゃない!
心配すべきなのは性病とか妊娠のことであって…)
顔から日が出そうなほど恥ずかしかった。
ついでに頭の中もグルグル。
(昨日何があったんだっけ?)
取りあえず瞳は、酒で記憶が飛ぶ前のことを思い出してみることにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
189
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる