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01 非日常の予感

夕べなにが?

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04

 その日の朝、林原克己はまぶしい朝日にもろくに目が覚めない状態だった。
 (体も頭も重い…調子に乗って飲みすぎた…。吐いてないよな…)
 酩酊してこたつで寝オチしてしまったことに気づいて慌てる。
 取りあえず、こたつはフェイルセーフが働いて、温度が低く抑えられている。
 低温火傷にはなっていないらしい。
 が、こたつに入っていない肩から上が冷えたのか、ひどく寒い。
 子供の頃実家で、「こたつで寝るな」と口を酸っぱくして言い聞かされていた理由が良くわかった。
 (あれ、この寒いのに何で俺裸なんだ?)
 酒が頭に回った状態の克己は、自分が生まれたままの姿で寝ていたことに気づくのにずいぶんかかってしまう。
 酔って裸に。自分の部屋の中だったから問題ないものの、もしこれが屋外であったなら…。
 それこそ破滅か、最悪命を落としていたかも知れない。
 (やばいやばい…)
 社会人になってからこそ自重しているが、元々の自分の酒癖の悪さを思い出して背筋が寒くなる。

 (うん?こたつの中になにかある…?なんだ…柔らかくてすべすべして…)
 訝しんでこたつの中を覗き込んだ克己は絶句する。
 そこには白く美しい脚があったからだ。
 「ど…どういうことだ…?」
 慌ててこたつの反対側に回り込んで、克己は再び絶句することになる。
 (ええ…!?誰この色っぽい美人…)
 そこにあったのは、気持ちよさそうに眠っている美女の姿だった。
 長い髪は多少乱れていても、いや、乱れているのが返って艶やかで美しく見える。
 顔立ちは整っていてまつげが長く、寝顔は何とも言えない色気を漂わせている。
 (夕べなにがあったんだ?
 その…2人とも裸ってことはやっぱり…しちゃったわけ?
 酒の勢いで…?
 てか、コンドームの買い置きなんかしてなかったし、ちゃんと避妊したのか?
 ま…まさか人妻なんてことないよな…)
 パニックになって思考回路がショートしてしまった克己は、ふとこたつの上に見覚えのあるものを見つける。
 それは大きな眼鏡と髪留めだった。
 (これってもしかして…)
 克己は眼鏡を眠れる美女の顔に重ねてみる。
 間違いない。
 会社の同期であり、今は部下であると同時に仕事仲間でもある秋島瞳だ。
 冷静に考えれば、瞳が美人であることはわかっていたことを思い出す。
 20代前半の彼女は、おしゃれやファッションに熱心なキラキラした女子だった。
 それが次第に落ち着いていき、やがて落ち着きすぎてすっかり今の眼鏡オタ女子がデフォルトになっていた。
 (なんか、20代前半のころよりきれいで色っぽくなってるよな…)
 閉じられたまぶたと、少しだけ開いた唇を見てそう感じる。
 まだ新入社員だったころの瞳は、無理に輝いて美しくあろうとしていたように見えた。
 それが今はすごく落ち着いて、変な言い方だが自然な感じで美しいのだ。
 「んん…」
 瞳が寝返りを打ち、小さく声を上げたことで、克己は白昼夢から我に返る。
 とにかく瞳を起こさなければならない。
 このままでは風邪をひいてしまうし、何よりこんな美しい女が一糸まとわぬ姿というのはいろいろ問題だ。
 「参ったな」
 自分も裸ではまずいと思うが、生憎タンスの前にちょうど瞳が寝ている形になっている。
 脱ぎ散らかした服のうち、散乱する酒の瓶やつまみの袋の下からなんとかスーツのズボンを探し当てて身につける。

 「瞳さん、瞳さん、起きてくれよ」
 声をかけ、体を揺り起こす。
 夕べの酒が残っている様子の瞳はなかなか起きようとしない。
 だが、やがてけだるそうにまぶたが開く。
 「瞳さん、大丈夫か?起きられる?水飲む?」
 懸命に声をかけ続けるうち、瞳はやっと目が覚めたようだった。
 「え…えええ…!?」
 そして、自分が裸であることに気づいて真っ赤になる。
 反射的に手で胸の膨らみと股間を隠す。
 (うわあ…すごく色っぽくて…なんだか恥ずかしそうで可愛い…)
 そして、夕べの記憶がないらしい瞳は顔から火が出そうな勢いで恥ずかしがり、パニックになる。
 「瞳さん、落ち着いて。
 その…なんというか…。最後までは行ってないから」
 「え…?」
 克己の言葉に少しだけ冷静になったらしい瞳は、目をぱちくりとさせる。
 「ちょっと背中ごめん…。
 取りあえずこれ着ててよ」
 克己はタンスからYシャツとショートパンツを取り出し、裸の瞳に差し出すのだった。


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