4 / 59
00 プロローグ
ありふれた日常の終わり
しおりを挟む
04
なんとか身支度を調えて外に出たのは、13時を廻った後だった。
「さて、どこで食べようか…」
牛丼屋、ハンバーガー、ファミレス、うどんチェーン…。
(いやいや…)
自分の発想の貧困さに瞳は首を振る。
サイフの中が寂しいわけでもないが、さりとて特に舌が肥えているわけでもない。
食べられればどこでもいいと言えばそれまでなのだが、何となく今日はそれではいけない気がしたのだ。
さりとても、休日の昼に営業している店は限られている。
「よし、買い物して自炊するか」
こうなったら多少遅れても自分で作った方が良い。
そう決意した瞳は、最寄りのスーパーに足を運ぶのだった。
食材を購入して帰宅した瞳は早速料理にかかる。
まずは油を引いた鍋をコンロで熱し、鍋物用に刻まれた鶏のもも肉を炒める。
カップの日本酒で香りをつけ、塩コショウとニンニクで味を整え、表面をまんべんなく焼く。
そうしたら鍋に水を入れて、弱火でゆっくりと煮込む。
「うん、いいにおいしてるね」
もも肉が煮えていく美味しそうなにおいがするまで、ことこと煮込む。
時々アクをすくいながら充分にダシを取って、コンソメと塩コショウで味をつけてスープにする。
そしてラーメンをゆでる。
大きめの丼にスープを開けて、ラーメンを盛りつける。
仕上げに刻みネギをたっぷりと乗せる。
ズボラではあるが、鶏そばのできあがりだ。
「いただきまーす」
座卓をふきんできれいにして、付け合わせに白菜の浅漬けを少々用意して、瞳は手を合わせて食事にする。
「けっこうお腹に溜まったなあ…」
食欲が満足した瞳は、脚を投げ出して食休みをしていた。
人には、特に男には見せられない姿だ。
「うん?」
ふとスマホに目をやると、新しいメールが来ている事に気づく。
「乙姫からか…」
メールは、オタ仲間の一人からだった。
いわゆる腐った女の子で、BLの小説や同人誌を書いている。
瞳も同人誌を書いたりイラストを寄稿したりしているし、即売会となれば売り子をしたりもする。
今回のメールも、即売会のサークル参加のお誘いだった。
「しまった。もうそんな時期か」
瞳はカレンダーを確認して、次の即売会の日時をすっかり忘れていた事に気づく。
少なくとも、次の即売会では新刊を出す予定でいるし、乙姫もそのつもりでいる。
「こうしちゃいられない」
瞳はパソコンを起動し、真っ白だった原稿に急ピッチで下書きをしていく。
真っ白なデジタル原稿に、たちまち濃厚なBLの絵が出来上がっていく。
その気になれば、瞳の筆は速く正確なのだ。
瞳自身、特に熱心な腐った女の子というわけではない。
だが、乙姫とのつき合いは長いし、自分のBL同人誌を待ってくれている人がいるとなれば、描くのにも張り合いが出るのだ。
結局、その日の午後は執筆活動に費やされることになる。
瞳にとってはそれなりに有意義に時間を使えたと言えた。
恋愛や結婚、そして自分の将来のことで悩んでいたことなど、すっかり忘れて没頭していた。
とまあ、秋島瞳の日常はこのようなものだった。
昨日が今日でも今日が明日でも明日が昨日でも。
大きな栄達や感動はない。その代わりに大きな不幸や困難もない。
ひたすら単調で、無聊を慰める日常だった。
その時までは。
なんとか身支度を調えて外に出たのは、13時を廻った後だった。
「さて、どこで食べようか…」
牛丼屋、ハンバーガー、ファミレス、うどんチェーン…。
(いやいや…)
自分の発想の貧困さに瞳は首を振る。
サイフの中が寂しいわけでもないが、さりとて特に舌が肥えているわけでもない。
食べられればどこでもいいと言えばそれまでなのだが、何となく今日はそれではいけない気がしたのだ。
さりとても、休日の昼に営業している店は限られている。
「よし、買い物して自炊するか」
こうなったら多少遅れても自分で作った方が良い。
そう決意した瞳は、最寄りのスーパーに足を運ぶのだった。
食材を購入して帰宅した瞳は早速料理にかかる。
まずは油を引いた鍋をコンロで熱し、鍋物用に刻まれた鶏のもも肉を炒める。
カップの日本酒で香りをつけ、塩コショウとニンニクで味を整え、表面をまんべんなく焼く。
そうしたら鍋に水を入れて、弱火でゆっくりと煮込む。
「うん、いいにおいしてるね」
もも肉が煮えていく美味しそうなにおいがするまで、ことこと煮込む。
時々アクをすくいながら充分にダシを取って、コンソメと塩コショウで味をつけてスープにする。
そしてラーメンをゆでる。
大きめの丼にスープを開けて、ラーメンを盛りつける。
仕上げに刻みネギをたっぷりと乗せる。
ズボラではあるが、鶏そばのできあがりだ。
「いただきまーす」
座卓をふきんできれいにして、付け合わせに白菜の浅漬けを少々用意して、瞳は手を合わせて食事にする。
「けっこうお腹に溜まったなあ…」
食欲が満足した瞳は、脚を投げ出して食休みをしていた。
人には、特に男には見せられない姿だ。
「うん?」
ふとスマホに目をやると、新しいメールが来ている事に気づく。
「乙姫からか…」
メールは、オタ仲間の一人からだった。
いわゆる腐った女の子で、BLの小説や同人誌を書いている。
瞳も同人誌を書いたりイラストを寄稿したりしているし、即売会となれば売り子をしたりもする。
今回のメールも、即売会のサークル参加のお誘いだった。
「しまった。もうそんな時期か」
瞳はカレンダーを確認して、次の即売会の日時をすっかり忘れていた事に気づく。
少なくとも、次の即売会では新刊を出す予定でいるし、乙姫もそのつもりでいる。
「こうしちゃいられない」
瞳はパソコンを起動し、真っ白だった原稿に急ピッチで下書きをしていく。
真っ白なデジタル原稿に、たちまち濃厚なBLの絵が出来上がっていく。
その気になれば、瞳の筆は速く正確なのだ。
瞳自身、特に熱心な腐った女の子というわけではない。
だが、乙姫とのつき合いは長いし、自分のBL同人誌を待ってくれている人がいるとなれば、描くのにも張り合いが出るのだ。
結局、その日の午後は執筆活動に費やされることになる。
瞳にとってはそれなりに有意義に時間を使えたと言えた。
恋愛や結婚、そして自分の将来のことで悩んでいたことなど、すっかり忘れて没頭していた。
とまあ、秋島瞳の日常はこのようなものだった。
昨日が今日でも今日が明日でも明日が昨日でも。
大きな栄達や感動はない。その代わりに大きな不幸や困難もない。
ひたすら単調で、無聊を慰める日常だった。
その時までは。
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
蛇神様の花わずらい~逆ハー溺愛新婚生活~
ここのえ
恋愛
※ベッドシーン多めで複数プレイなどありますのでご注意ください。
蛇神様の巫女になった美鎖(ミサ)は、同時に三人の蛇神様と結婚することに。
優しくて頼りになる雪影(ユキカゲ)。
ぶっきらぼうで照れ屋な暗夜(アンヤ)。
神様になりたてで好奇心旺盛な穂波(ホナミ)。
三人の花嫁として、美鎖の新しい暮らしが始まる。
※大人のケータイ官能小説さんに過去置いてあったものの修正版です
※ムーンライトノベルスさんでも公開しています
【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】
階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、
屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話
_________________________________
【登場人物】
・アオイ
昨日初彼氏ができた。
初デートの後、そのまま監禁される。
面食い。
・ヒナタ
アオイの彼氏。
お金持ちでイケメン。
アオイを自身の屋敷に監禁する。
・カイト
泥棒。
ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。
アオイに協力する。
_________________________________
【あらすじ】
彼氏との初デートを楽しんだアオイ。
彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。
目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。
色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。
だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。
ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。
果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!?
_________________________________
7話くらいで終わらせます。
短いです。
途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる