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孕ませ百合ハーレム

理不尽な罠

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 パトリシアが百合ハーレムを形成し、わが世の春を謳歌している一方、自業自得とはいえ窮地に陥っている者がいた。

 「くそ!忌々しい!この僕がこんな惨めったらしいことになってるなんて!
 こんなことがあっていいもんか!」
 公国の有力貴族、シモンズ家の子息であるマックス・シモンズは荒れていた。
 順風満帆だったはずの彼の人生は、今や全く先のあてがつかないものとなっていた。
 そもそも、シモンズ家は貴族の体裁は保っていて、地位こそあるが、台所は火の車だった。
 このままでは早晩手形の決済にも行き詰まり、破産するしかなくなる。
 そのためにパトリシア・レイランドとの婚約を破棄して、エグゼニア・デュカスと婚約をした。
 実力と資力はあるが成り上がり者であるデュカス家と、財政破綻寸前だが伝統があって有力貴族であるシモンズ家。
 利害は一致していたのだ。
 「パトリシアめ!僕への嫌がらせのつもりか!」
 被害妄想でしかない考えに、マックスは理不尽な爆発を繰り返す。
 デュカス家が、娘であるエグゼニアのスキャンダルによって関係各所からの信用をなくし、没落してしまったのだ。
 エグゼニアがいじめを警察沙汰にされたのは、表向きパトリシアがたまたま居合わせて通報したことになっていた。
 だが、状況を見る限り、パトリシアがいじめの被害者の後ろで手助けをしていたことは見え見えだ。
 「あの女、自分がなにをしたかわかっているのか!?
 いじめを大騒ぎにして、警察沙汰にまでして、家一つ没落させるなど!」
 自分の都合と利益しか見えていないマックスには、いじめの被害者の痛みを想像する神経はない。
 「それに女ども!何様だ!
 有力貴族の子で、エリートである僕がプライドを抑えて交際を申し込んでいるのに!
 “いや”“ごめんなさい”だと!?
 女どもは僕の言うことを聞いていればいいんだ!」
 周りに人がいないと、自信過剰でゲス、そしてナルシストな本性が出る。
 マックスは早々にデュカス家と縁を切り、婚約を破棄すると、他の女に粉をかけはじめたのだ。
 議員であり資産家の娘であるメリーアン・ハインリヒ。
 地方の地主で有力者の娘、リディア・ノースロップ。
 有力な軍人の家系で、大農場を外戚に持つターニャ・ワレンスカヤ。
 ダークエルフの有力者で、いくつもの鉱山を経営する家の出であるアリサ・セレッティ。
 その他もいろいろな女に。
 だが、答えは口を揃えて拒絶だった。
 なぜなら、マックスはすでに学院で町で、女たちから悪印象を荒稼ぎしている。
 「お金のためにパトリシアさんとの婚約を破棄しておいて、新しい婚約者が没落したらあっさり縁切りなんてね」
 「くだらない。女の子をなんだと思ってるわけ」
 「やだやだ。近づいて欲しくないわ」
 都合二ヶ月の間に二度も婚約破棄をしたような男を、女が信頼するはずもない。
 いくらイケメンで名門貴族の息子だとは言っても。
 だが、プライドと自己愛の塊のような男であるマックスは、そんなことさえわからない。
 なぜ女たちが口を揃えて自分を振るのか、本当に理解できないのだ。
 マックスには、誰かが自分の栄光ある前途を阻もうとしているようにしか思えなかった。
 「待てよ…。いい方法があるじゃないか!」
 マックスはそこであることに思い至る。
 怒りと被害妄想で頭が煮えている彼には、それが天啓に思えた。
 「パトリシアだ。
 最近彼女の家は羽振りがいいようだし、害獣駆除で手柄も立てている。
 なにより、ドラゴンを自由に操る術を持っている」
 彼女であれば、シモンズ家がかつてに栄光を取り戻すのに貢献できるはずだった。
 「一度捨てた女を拾うのはしゃくだが仕方ない。
 それと、一応保険はかけておくか」
 頭の悪いマックスだが、何人もの女にそっけなく振られたことには学習していた。
 彼にとって、自分が望むなら女はそれを受け入れるのが当然。
 根拠もなく、本気でそう信じていたのだ。

 数日後の学院。中庭。
 「パトリシアさん」
 「いや」
 パトリシアはマックスの顔を見るなり、露骨に嫌な顔をして立ち去ろうとする。
 「まだなにも言ってないじゃないか」
 「あなたと話すことはない」
 そう言って背を向けるパトリシアの手を、マックスはつかむ。
 (邪魔くさい。何様だ)
 パトリシアは渋面で振り返る。
 「喜びたまえ。君に僕の妻となる栄誉を与えよう」
 「だからいや」
 パトリシアは即答する。
 (本当にどういう神経してるんだ、こいつ。
 前に勝手に婚約破棄しておいて、妻になる栄誉だと?)
 マックスの傲慢と自信過剰には、ただ呆れるしかなかった。
 「おいおい、君は自分の幸せを理解すべきだ。
 エリートである僕の、そしてシモンズ家の嫁になる栄誉に浴せるのだよ?」
 マックスの目にやましいところはない。本気で言っているのだ。
 自分が声をかければ女はなびくのが当然で、そうならないのを理不尽と本気で思っている。
 「そんな栄誉いらない。
 私は忙しいの。この手を離して」
 マックスが作り笑いをやめ、あからさまに怒気を浮かべる。
 断られて当然だというのが、本当にわからないのだ。
 「なにか勘違いしていないか?
 君には“お受けします”以外の返答は許されないのだよ」
 「笑わせないで!私ははっきり言ってあなたが嫌い!」
 パトリシアがマックスをにらみつける。
 だが、いなおったマックスはポケットから注射器を取り出す。
 「君の気持ちなど関係ないよ。
 この愛のひとしずくを受ければ、君は僕の言いなりなのだからね」
 パトリシアは、注射器の中身が麻薬の類いだと確信した。
 マックスの目はもはや正気ではない。
 (薄っぺらなプライドを傷つけられて、心が腐ったか)
 本気で薬漬けにしても自分を手に入れるつもりらしい。
 「そんなことしたら、あなたお縄だよ?」
 「ご心配なく。周りを見るといい」
 パトリシアは周りを見回して、マックスのいう意味に気づく。
 中庭にいる教師や生徒たちが、凍り付いたように動きを止めている。
 まるで映像の一時停止のように。
 「これって遮断魔法…?
 使用は重罪だって知っているよね?」
 遮断魔法は犯罪に利用されると危険なため、法律で使用が厳しく制限されているのだ。
 「君が心配することじゃない。
 遮断魔法の使用を告発する人間はいないのだからね」
 そう言って、マックスは注射器の張りをパトリシアの腕に近づける。
 (こりゃまずいかな?)
 パトリシアは、マックスの狂気に今さら危機感を抱く。
 が…。
 「マックス、そこまでよ」
 後ろからかけられた声に振り向いて、マックスが仰天する。
 遮断魔法は正常に機能しているのに、四人の女が後ろに立ってマックスをにらみつけていたからだ。
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