ファンタジア・プロデュース ポンコツ異世界アイドルたちが輝くまで

ブラックウォーター

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古都でグルメ発掘対決を

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「では、皆さん準備はよろしいですか?3、2、1、スタートです!」
 ディレクターの合図で、二組に分かれた芸能人たちがスタートする。
 そのすぐ後ろを、随行する撮影チームがついて行く。
 企画名は、「食べ歩き対決紀行」。
 舞台は鎌倉。
 企画の概要は概ね以下の通り。
 
1 集められた芸能人が二組に分かれる。
2 二組の中でそれぞれくじを引き、水先案内人を決める。
3 予算は一人につき2,000円。
4 予算の範囲で制限時間内に食べ歩きをする。どこで食べるかは自由。
5 制限時間が来たら、各自食べたものの感想をできるだけ詳しくコメント。
6 メニューの内容、意外性、説明の面白さ、バラエティ性などを総合評価して、審査員がどちらのチームの勝ちかを決定する。
7 最低でも三軒の店を廻ることができなければ失格。

「急ごう。美味しいものが私たちを待っているー!」
 Aチームの水先案内人は、サミーだった。
 金髪笹穂耳のエルフの少女は張り切っていた。
 なにせ、食べ物が絡んでいる。
 食べることが好きな彼女にとって、今回の企画はモチベーション最高潮だった。
「ちょっと…待ってってば…!」
「サミーちゃん、早すぎだよ」
 案内されるのは、一人はこちらの出身の小柄でお人形さんのような美少女、大塚美奈。所属事務所は別だが、サミーとは友人だ。
 もう一人は、異世界出身。ウェアウルフと呼ばれる種族の犬耳少女、アンジェラ・レン。サミーと同じ、ミルキーウェイライト所属。
 美味しいものに向かって猛然と突き進むサミーに、ついて行くのに四苦八苦している。
 平日の昼間とはいえ、日本有数の観光地である鎌倉はごった返していた。
 サミーは持ち前の身のこなしの軽さで、器用に人混みの間をすり抜けて進む。

 到着した場所は意外な店だった。
「ここですか…?」
「確かに良さそうだけど…」
 美奈とアンジェラが顔を見合わせる。
 古い町なのだし、てっきりしらす料理か天ぷら、あるいは豆腐料理あたりと思っていたのだ。
「まあ、いいからいいから」
 サミーは二人の手をひいて、店のドアをくぐる。
 それぞれ予算の範囲内で、料理と飲み物を注文する。
「お、これは…」
 ツナサンドを一口かじったアンジェラが、目を見開いた。
「いけるでしょ?」
 サミーがどや顔になる。
「このチキンサンドも…」
 美奈が笑顔になる。
 食事の内容は、いささか古都鎌倉らしくはない。
 だが、驚くほど美味しかったのだ。
 ツナサンドは、レタスがツナに巻かれ、パンが湿らないようにしてある。練り込まれているブラックペッパーが、また味を引き立てる。
 チキンサンドは、フライパンで焼いた上で煮込んであるのだろう。だしの味が染みて、柔らかいのに絶妙な食感だった。
「サミーさん、すごいです。こんな美味しいお店知ってるなんて」
「コーヒーも美味しいし、また鎌倉に来たくなっちゃうよ」
 二人のアイドルは、本当に美味しそうにサンドイッチを平らげていく。
「いやあ、それほどでも。お口に合ったみたいで何よりだよ」
 サミーもまた、心底幸せそうにサンドイッチとコーヒーのランチを堪能していたのだった。

 その後もサミーは、食い道楽の面目躍如とばかりに水先案内をこなしていく。
 もともと金髪碧眼の美少女で、愛想もカメラ写りもいいのだ。
 豆大福や抹茶アイスクリームに舌鼓を打つ姿は、非常に絵になる。

 やがて制限時間が来る。
 審査員のベテラン芸能人たちが、チーム名が書かれたプラカードを手に取る。
「では、審査員の皆さん。判定をどうぞ」
 ディレクターの号令で、三人の審査員がプラカードを掲げる。
 結果は、Aが2、Bが1だった。
「鎌倉でサンドイッチっていう意外性が良かったですね。VTR見てたら、本当に美味しそうに食べてましたし」
「サミーさんの、美味しいものに向かっていくぞー、って本気度、すごかったねえ」
「うーん。私はしらす丼が大好きだからBチーム支持だったけど…。たしかにことごとくいいチョイスでしたね」
 審査員たちが思い思いに感想を述べる。
 Bチームの、しらす丼、鎌倉焼き、ドーナッツという食べ歩きは、たしかに鎌倉では王道だった。
 だが、横道すぎて意外性が足りなかったのだ。
「でもすごいなあ…。場所が鎌倉だってあたしたち直前まで知らなかったわけだし…」
 Bチームの水先案内役のアイドルが、驚きと関心の入り交じった顔になる。
 実際、参加する芸能人たちは、目的地がどこかを知らされず、窓に覆いが掛けられたマイクロバスで運ばれた。
 食べ歩きをする場所が鎌倉だと知らされたのは、撮影が始まる直前だ。
 にもかかわらず、サミーは美味しく、しかも意外性があるところを的確に選んだ。持ち前の食に対するこだわりを発揮し、事前情報なしで。
 ただ脱帽するだけだった。
「では、サミーさん。最後の勝利チームの水先案内人として、一言お願いします」
 ディレクターがサミーにマイクを向ける。
「はい、鎌倉は文化財が有名ですが、実は美味しいものがびっくりするほどあるんです。視聴者の皆さんにも、今回お世話になった審査員やスタッフの方々にも、ぜひ食べていただきたいです!」
 金髪碧眼、そして笹穂耳の美貌に思い切りの笑顔を浮かべ、締めくくる。
 スタッフたちの間から、盛大な拍手が巻き起こった。
 
 企画は結果として、放送されると高い視聴率を取ることに成功する。
 サミーはバラエティへの出演も多く、カメラ写りの良さで人気があったこともある。
「次は京都がいいかな。あるいは札幌…大阪で粉ものというのも…」
 すっかり、次の食べ歩きに乗り気なのだった。

 その後日談…。というか今回のオチ。
「サミー、ちょっと体重計に乗ってみろ」
 克正が、有無を言わさず指示する。
「はい…」
 体重計の針は正直かつ冷酷だ。
 先月また大食いしたのを調整してから、まだ三週間だ。にもかかわらず、サミーの体重はまたしても危険域に達していたのだった。
 鎌倉のお土産(しこたま買い込んだ)が美味しすぎて、暴食したのが原因だったという。
「来週また水着グラビアの撮影だが、わかってるな?」
「はい。申し訳ない限りです…」
 もはや恒例と化している、地獄の減量トレーニングがまたも始まるのだった。
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