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02
開いた扉のあちらとこちらに
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01
20XX年。
東京湾に突如として、異世界への扉が開いた。
最初は皆、大いに困惑した。
調査と検証が繰り返され、扉の向こうには地球と酷似した環境があり、地球人類に比較的似た者たちが生きていることがわかった。
さりとて、異世界への対応は、なかなか内外のコンセンサスが得られなかった。
うかつにあちらに踏み込めば、19世紀の植民地支配のようになりはしないか。
文化や風習、言語の違いを乗り越えられるのか。
地球の中でさえ争いや差別が起きている状況で、さらなるトラブルの種になることはないのか。
議論は百出した。
不可侵協定を結び、交流はごく限定的なものに留めるべきではないか。そんな意見もあった。
だが、好奇心と探究心を、危惧や懸念で抑えることはできない。
「交流しないなんてもったいないじゃないか!」
扉が開いた場所が日本であったことが、大きく影響したことだろう。
なにせ、宗教的に、文化的に寛容なお国柄だ。
なんにでも萌え属性を見いだしてしまう国民性もあった。
扉の向こうに行けば、かわいいエルフや魔族や獣人とお友達になることができる。
異世界とこちらを往来しないなどあり得ない。
そう結論づけられる。
異世界側とコンタクトを取るのは、当然簡単ではなかった。
まず、言葉を通じさせることから始めなければならない。
誤解や疑心暗鬼もあった。
だが、綿密な交渉とすり合わせが功を奏した。異世界側の行政機関との協定が成立し、人や物資の正式な交流が開始されたのである。
大垣克正は、どこにでもある会社員の家庭の次男坊として生まれた。
特段裕福でもないが、困窮しているわけでもない環境で育った。
若者によくある、なにがやりたいのか、どこに進みたいのか、なかなか見いだせない心境のまま、大学まで進んだ。
だが、扉が開いたことが、彼の人生を一変させる。
「異世界か…面白そうだな…」
理由は特にないが、扉の向こうに猛烈に心を奪われた。
直接のきっかけは、異世界側からの留学生と友達になったことだった。
なかなか通じない言葉でも、あちらには日本にはないものがたくさんある、逆もしかりなことはわかった。
いても立ってもいられず、両親を説得して異世界側の学術機関に留学を決意する。
異世界での暮らしは、毎日が発見と驚きの連続だった。
電気もガスもなく、移動は馬車か船という暮らしも、慣れればどうと言うことはない。
特に心奪われたのは、異世界の芸術性だった。
みな、不思議なくらい文化的で、驚くほど歌や踊りなどの芸能活動がうまかった。
「日本でプロデュースすれば、素晴らしいことになるぞ!」
留学期間を終えた克正は、芸能事務所の門を叩いた。
そして、卒業と同時にアシスタントプロデューサーとして就職した。
異世界出身者を芸能人として売り出す活動は、すでにあちこちで始まっていた。
だが、本格的なものではなかった。
克正は、異世界出身者を大々的にプロデュースして売り出すことを、事務所に具申した。
20代前半の新入りの意見だったが、思いがけず社長の決裁が降りた。
当たり障りのないことをやっていては、注目を集めることは不可能だ。
社長もまた、異世界側の人材に事務所の活路を見いだしていたのだ。
「任せる。自由にやってみろ」
社長のお墨付きを得た克正は、扉のこちらと向こうを忙しく飛び回る。
幸いにして、彼にはその方面の才能があったらしい。
異世界側に、日本で芸能活動をしてみたいと望む者は、意外なほど多かった。
むろん、道は平坦ではなかった。
言葉を覚え、レッスンを重ね、足を棒にして営業活動をする。それは考える以上に大変なことだった。
だが、努力は人を裏切らない。
克正がプロデュースした、異世界出身アイドルの一期生は、華々しい成功を収める。
それがきっかけとなって、異世界出身者、特に亜人種たちをプロデュースすることは、この国における新たなビジネスモデルとなっていくのである。
20XX年。
東京湾に突如として、異世界への扉が開いた。
最初は皆、大いに困惑した。
調査と検証が繰り返され、扉の向こうには地球と酷似した環境があり、地球人類に比較的似た者たちが生きていることがわかった。
さりとて、異世界への対応は、なかなか内外のコンセンサスが得られなかった。
うかつにあちらに踏み込めば、19世紀の植民地支配のようになりはしないか。
文化や風習、言語の違いを乗り越えられるのか。
地球の中でさえ争いや差別が起きている状況で、さらなるトラブルの種になることはないのか。
議論は百出した。
不可侵協定を結び、交流はごく限定的なものに留めるべきではないか。そんな意見もあった。
だが、好奇心と探究心を、危惧や懸念で抑えることはできない。
「交流しないなんてもったいないじゃないか!」
扉が開いた場所が日本であったことが、大きく影響したことだろう。
なにせ、宗教的に、文化的に寛容なお国柄だ。
なんにでも萌え属性を見いだしてしまう国民性もあった。
扉の向こうに行けば、かわいいエルフや魔族や獣人とお友達になることができる。
異世界とこちらを往来しないなどあり得ない。
そう結論づけられる。
異世界側とコンタクトを取るのは、当然簡単ではなかった。
まず、言葉を通じさせることから始めなければならない。
誤解や疑心暗鬼もあった。
だが、綿密な交渉とすり合わせが功を奏した。異世界側の行政機関との協定が成立し、人や物資の正式な交流が開始されたのである。
大垣克正は、どこにでもある会社員の家庭の次男坊として生まれた。
特段裕福でもないが、困窮しているわけでもない環境で育った。
若者によくある、なにがやりたいのか、どこに進みたいのか、なかなか見いだせない心境のまま、大学まで進んだ。
だが、扉が開いたことが、彼の人生を一変させる。
「異世界か…面白そうだな…」
理由は特にないが、扉の向こうに猛烈に心を奪われた。
直接のきっかけは、異世界側からの留学生と友達になったことだった。
なかなか通じない言葉でも、あちらには日本にはないものがたくさんある、逆もしかりなことはわかった。
いても立ってもいられず、両親を説得して異世界側の学術機関に留学を決意する。
異世界での暮らしは、毎日が発見と驚きの連続だった。
電気もガスもなく、移動は馬車か船という暮らしも、慣れればどうと言うことはない。
特に心奪われたのは、異世界の芸術性だった。
みな、不思議なくらい文化的で、驚くほど歌や踊りなどの芸能活動がうまかった。
「日本でプロデュースすれば、素晴らしいことになるぞ!」
留学期間を終えた克正は、芸能事務所の門を叩いた。
そして、卒業と同時にアシスタントプロデューサーとして就職した。
異世界出身者を芸能人として売り出す活動は、すでにあちこちで始まっていた。
だが、本格的なものではなかった。
克正は、異世界出身者を大々的にプロデュースして売り出すことを、事務所に具申した。
20代前半の新入りの意見だったが、思いがけず社長の決裁が降りた。
当たり障りのないことをやっていては、注目を集めることは不可能だ。
社長もまた、異世界側の人材に事務所の活路を見いだしていたのだ。
「任せる。自由にやってみろ」
社長のお墨付きを得た克正は、扉のこちらと向こうを忙しく飛び回る。
幸いにして、彼にはその方面の才能があったらしい。
異世界側に、日本で芸能活動をしてみたいと望む者は、意外なほど多かった。
むろん、道は平坦ではなかった。
言葉を覚え、レッスンを重ね、足を棒にして営業活動をする。それは考える以上に大変なことだった。
だが、努力は人を裏切らない。
克正がプロデュースした、異世界出身アイドルの一期生は、華々しい成功を収める。
それがきっかけとなって、異世界出身者、特に亜人種たちをプロデュースすることは、この国における新たなビジネスモデルとなっていくのである。
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