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プロローグ
ぽっちゃりエルフアイドルとプロデューサー
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プロローグ
東京は六本木にあるレコード会社。
「おはようございまーす」
「あら…サミー…?おはよう…」
「お…おはようございます…」
サミーこと、サマンサ・ノースはエルフだ。
日本ではなく異世界の出身で、金髪碧眼と独特の笹穂耳が目を引く。
異世界と日本の扉が開いてから、こちらの文化に憧れた。
多くの聴衆の前で歌いたい一念で、芸能事務所の門を叩いた。その美貌と才能にあぐらをかかず、必死に下積みをして駆け上がってきた、努力の人だ。
なのだが…。
会う人間会う人間が、サミーを見るたびに苦笑いを浮かべる
「サミー。また暴食してたな?」
聞きなれた男の声に、サミーがぎょっとして振り向く。
多くの人間が言いたくても言えないことを、ずばりと言う。
それが彼の役目だから。
そこにいたのは、プロデューサーである大垣克正だった。
イケメンといえる容姿で、厳しいが優しい人物でもある。
一方で肩幅が広く、低い声は迫力があるので、威圧的に見えがちだ。(本人も気にしているが)
日本生まれの日本育ちだが、異世界の事情に詳しい。異世界に文化交流で滞在していたことがあり、あちらの研究機関に留学していた経験もあるからだ。
それ故に、異世界出身者のプロデュースを任されている。
それも、一癖も二癖もある女の子たちを。
「プロデューサー…。そのお疲れ様…暴食なんかしてないですよー。これでもちゃんと節制してますし…」
そういうサミーの姿は、まったく説得力に欠けていた。
なぜなら、1週間前の彼女が見る影もないぽっちゃり体型になっていたからだ。
ジーンズはみごとにパツンパツンで、余った肉がウエストからはみ出ている。
「ほう、どう節制してたって?」
「その…ハンバーガーは3つまでにしてたし…。ラーメンの替え玉だって2つまでに…。あと、牛丼も大盛りにとどめてたし…」
サミーの言葉は尻すぼみになっていく。
結局、食欲に負けてアイドルの本文を放棄していた。その自覚はあるのだ。
「バッグの中身見せてみろ」
静かだが、有無を言わさぬ口調で克正が言う。
「はい…」
おしゃれなバッグの中には、化粧品や鏡、タオルなどに交じって、チョコレートやキャンディー、キャラメルなどがしこたま入っていた。
下手をすれば糖尿病の持病があるのかと疑いたくなる量だ。
「それを暴食って言うんだ。異議はあるか?」
「ありません…」
サミーがしょんぼりとうなだれる。
容姿、才能、努力。いずれも素晴らしく、完ぺきといえる彼女の最大の欠点だった。
食欲が非常に旺盛で、しかも太りやすい体質なのに、食べることを我慢できないのだ。
克正が注意していないと、とても短い間にたちまち太ましくなってしまう。
レコード会社のスタッフたちの苦笑いの原因もこれだ。
実際、プロデューサーとして自分の目を疑いたいくらいだった。
つい六日前顔を合わせたときは、トレーニングの甲斐あって引き締まった体をしていたのだから。
「まあ、こうなっちまったものは仕方ない。今日はレコーディングだからいいが、このあとは、わかってるな?」
「わかってますう…」
申し訳ないのが半分、きついがプロデューサーの言うことならやむなしという気持ちが半分で、サミーが応じる。
「まあ、今は歌うのが先だ。コンディション整えて、しっかり歌ってきなよ」
克正がふっと優しい表情になる。
「はい!がんばります!」
サミーも元気な声で返事をする。
太ってしまったことは、今問題にすることではない。
今は、アイドルとしてレコーディングに全力を注がなければならない。
自分の歌を待っている人たちがいる。
そう了解したのだった。
東京は六本木にあるレコード会社。
「おはようございまーす」
「あら…サミー…?おはよう…」
「お…おはようございます…」
サミーこと、サマンサ・ノースはエルフだ。
日本ではなく異世界の出身で、金髪碧眼と独特の笹穂耳が目を引く。
異世界と日本の扉が開いてから、こちらの文化に憧れた。
多くの聴衆の前で歌いたい一念で、芸能事務所の門を叩いた。その美貌と才能にあぐらをかかず、必死に下積みをして駆け上がってきた、努力の人だ。
なのだが…。
会う人間会う人間が、サミーを見るたびに苦笑いを浮かべる
「サミー。また暴食してたな?」
聞きなれた男の声に、サミーがぎょっとして振り向く。
多くの人間が言いたくても言えないことを、ずばりと言う。
それが彼の役目だから。
そこにいたのは、プロデューサーである大垣克正だった。
イケメンといえる容姿で、厳しいが優しい人物でもある。
一方で肩幅が広く、低い声は迫力があるので、威圧的に見えがちだ。(本人も気にしているが)
日本生まれの日本育ちだが、異世界の事情に詳しい。異世界に文化交流で滞在していたことがあり、あちらの研究機関に留学していた経験もあるからだ。
それ故に、異世界出身者のプロデュースを任されている。
それも、一癖も二癖もある女の子たちを。
「プロデューサー…。そのお疲れ様…暴食なんかしてないですよー。これでもちゃんと節制してますし…」
そういうサミーの姿は、まったく説得力に欠けていた。
なぜなら、1週間前の彼女が見る影もないぽっちゃり体型になっていたからだ。
ジーンズはみごとにパツンパツンで、余った肉がウエストからはみ出ている。
「ほう、どう節制してたって?」
「その…ハンバーガーは3つまでにしてたし…。ラーメンの替え玉だって2つまでに…。あと、牛丼も大盛りにとどめてたし…」
サミーの言葉は尻すぼみになっていく。
結局、食欲に負けてアイドルの本文を放棄していた。その自覚はあるのだ。
「バッグの中身見せてみろ」
静かだが、有無を言わさぬ口調で克正が言う。
「はい…」
おしゃれなバッグの中には、化粧品や鏡、タオルなどに交じって、チョコレートやキャンディー、キャラメルなどがしこたま入っていた。
下手をすれば糖尿病の持病があるのかと疑いたくなる量だ。
「それを暴食って言うんだ。異議はあるか?」
「ありません…」
サミーがしょんぼりとうなだれる。
容姿、才能、努力。いずれも素晴らしく、完ぺきといえる彼女の最大の欠点だった。
食欲が非常に旺盛で、しかも太りやすい体質なのに、食べることを我慢できないのだ。
克正が注意していないと、とても短い間にたちまち太ましくなってしまう。
レコード会社のスタッフたちの苦笑いの原因もこれだ。
実際、プロデューサーとして自分の目を疑いたいくらいだった。
つい六日前顔を合わせたときは、トレーニングの甲斐あって引き締まった体をしていたのだから。
「まあ、こうなっちまったものは仕方ない。今日はレコーディングだからいいが、このあとは、わかってるな?」
「わかってますう…」
申し訳ないのが半分、きついがプロデューサーの言うことならやむなしという気持ちが半分で、サミーが応じる。
「まあ、今は歌うのが先だ。コンディション整えて、しっかり歌ってきなよ」
克正がふっと優しい表情になる。
「はい!がんばります!」
サミーも元気な声で返事をする。
太ってしまったことは、今問題にすることではない。
今は、アイドルとしてレコーディングに全力を注がなければならない。
自分の歌を待っている人たちがいる。
そう了解したのだった。
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