11 / 36
01 金髪ギャルのアイデンティティ
残ってるよ
しおりを挟む
10
「長いトイレだったね」
「あれ…椿姫ちゃん。帰ってなかったの?」
トイレの外では、なぜか椿姫が待っていた。
椿姫は治明に顔を近づけ、眼を覗き込む。
「抜いてたでしょ?」
とうとつな椿姫の質問に、治明は心臓が口から飛び出そうになる。
(うそだろ…。なんでわかるんだ…?)
「な…なんだって…?」
とっさにそうはぐらかすのが精一杯だった。
抜いていたのは事実なのだから。
「だからその…。
マスターベーションしてたでしょって聞いてるの!」
椿姫はテンパると、ヤケ気味に露骨で下品なことを言う癖がある。
わざわざ“マスターベーション”を強調して詰め寄る。
「し…してない、してないって…」
眼が泳がないように注意しながら、治明は否定する。
「うそつけ!におい、残ってるよ。気づいてないの?」
「え…まじ?」
「やっぱり抜いてたんじゃん!」
「げ…ずるい…」
治明は誘導尋問に引っかかったことに気づく。
(考えてみたら、椿姫ちゃんが男が抜いたあとのにおいを知ってるわけないじゃないか!)
しょうもないミスに気づいた時には手遅れだった。
においが残っていると断定されて混乱してしまっていた。処女ビッチである椿姫が男が出すもののにおいを知っているかどうかまで頭が回らなかったのだ。
「人を勝手にオカズにすんなっての!」
椿姫が真っ赤になりながら、両手で治明のほっぺたを“むにぃっ”と左右に拡げる。
「痛い痛い!
“オカズにさせてください”って頼めばいいのか…?」
椿姫が、“ぼんっ”と擬音が入りそうな勢いでさらに真っ赤になる。
「よけい悪いわ!セクハラでしょ!」
(どうしろってんだよ…)
女の子にとって勝手にオカズにされることが恥ずかしい事であることは、まあわからなくもない。
だが、マスターベーションくらい好きなようにしたいのが人情だ。
(でも…そんなこと口に出したら殺されそうだしなあ…)
恥ずかしさでテンパっている椿姫に、治明はかける言葉がみつからなかった。
が、そこに思わぬ助け船が現れる。
「よ、便所の前でなにやってんの?」
かけられた声に振り向くと、クラスメイトの片岡渉だった。
プロレスラーと見まがう体型は、薄暗い廊下でも一目でわかる。
「よう、片岡…」
「ああ…片岡…」
“なにをやっている”と聞かれても、返答に窮して治明と椿姫は固まってしまう。
勝手にオカズにしたかどでもめていたなど、言えるわけがない。
「なんか意味深な痴話げんかしてる?」
あまりに的を射た片岡の言葉に、2人は思わず顔を見合わせてしまう。
「そんなんじゃない…よねえ…?」
「と…当然じゃない…!」
歯切れ悪く否定する2人に、片岡は2828する。
痴話げんかであることを確信している表情だった。
「まあ、いいんだけどさ。
それよか、俺も帰ろうと思うけど、残るなら教室の戸締まり頼みたいんだが」
片岡は親切にも話を変えてくれる。
(片岡、お前いいやつだな)
よけいな詮索は控えてくれる優しさに、治明は心底感謝した。
「い…いや、俺らも帰るところだから」
「そうそう。だから片岡、悪いけどお願い」
「へいへい、お気をつけて」
片岡は気さくに応じると、男子トイレに入っていく。
「かえろっか?」
「そだね」
すっかり揉める気もなくなった治明と椿姫は、帰宅することに決めたのだった。
椿姫がわざわざ待っていてくれたのだから、あえて別々に帰る理由もない。
肩を並べ、手を繋いで家路につく。
2人の“付き合っているふり”はまだ続いているのだ。
「そう言えば、冷え性は良くなった?」
「う…うん。お陰さまで…。脚、もう冷たくないよ。
でも…変なところまであったかくして欲しいとは頼んでないけど-?」
「そんなつもりはなかったって…」
「そりゃそうだろうけどさー」
先ほどまでと違って、椿姫は冷えに苦しんでいる様子はない。
だが、マッサージで発情させられて、自慰がしたくてたまらなくなってしまったことは、まだわだかまりがあるらしい。
(本当に、ギャップがかわいいよな)
治明はそう思う。
金髪サイドテール、隙のないコスメやアクセサリー。いかにも遊んでいそうな外見のギャル。
なのに、実はセックスどころか恋愛の経験すらない、恥ずかしがりの純情乙女。
それが椿姫だ。
心の底からかわいいと思えた。
「あ、治明、チャック開いてるよ」
「え…?ほんと?」
椿姫の指摘に、治明は慌てる。
マスターベーションを終えてズボンを上げたとき、閉め忘れたかと股間に手をやる。
だが、チャックはきちんと締まっている。
「う・そ!」
「あ、騙したな!」
「あははは。騙されてんのー。
女の子に恥ずかしい事した罰だよー」
そんなふうに戯れながら、椿姫と治明はゆっくりと家路を行くのだった。
外は寒いが、二人の間には温かい空気が満ちているように感じられるのだった。
「長いトイレだったね」
「あれ…椿姫ちゃん。帰ってなかったの?」
トイレの外では、なぜか椿姫が待っていた。
椿姫は治明に顔を近づけ、眼を覗き込む。
「抜いてたでしょ?」
とうとつな椿姫の質問に、治明は心臓が口から飛び出そうになる。
(うそだろ…。なんでわかるんだ…?)
「な…なんだって…?」
とっさにそうはぐらかすのが精一杯だった。
抜いていたのは事実なのだから。
「だからその…。
マスターベーションしてたでしょって聞いてるの!」
椿姫はテンパると、ヤケ気味に露骨で下品なことを言う癖がある。
わざわざ“マスターベーション”を強調して詰め寄る。
「し…してない、してないって…」
眼が泳がないように注意しながら、治明は否定する。
「うそつけ!におい、残ってるよ。気づいてないの?」
「え…まじ?」
「やっぱり抜いてたんじゃん!」
「げ…ずるい…」
治明は誘導尋問に引っかかったことに気づく。
(考えてみたら、椿姫ちゃんが男が抜いたあとのにおいを知ってるわけないじゃないか!)
しょうもないミスに気づいた時には手遅れだった。
においが残っていると断定されて混乱してしまっていた。処女ビッチである椿姫が男が出すもののにおいを知っているかどうかまで頭が回らなかったのだ。
「人を勝手にオカズにすんなっての!」
椿姫が真っ赤になりながら、両手で治明のほっぺたを“むにぃっ”と左右に拡げる。
「痛い痛い!
“オカズにさせてください”って頼めばいいのか…?」
椿姫が、“ぼんっ”と擬音が入りそうな勢いでさらに真っ赤になる。
「よけい悪いわ!セクハラでしょ!」
(どうしろってんだよ…)
女の子にとって勝手にオカズにされることが恥ずかしい事であることは、まあわからなくもない。
だが、マスターベーションくらい好きなようにしたいのが人情だ。
(でも…そんなこと口に出したら殺されそうだしなあ…)
恥ずかしさでテンパっている椿姫に、治明はかける言葉がみつからなかった。
が、そこに思わぬ助け船が現れる。
「よ、便所の前でなにやってんの?」
かけられた声に振り向くと、クラスメイトの片岡渉だった。
プロレスラーと見まがう体型は、薄暗い廊下でも一目でわかる。
「よう、片岡…」
「ああ…片岡…」
“なにをやっている”と聞かれても、返答に窮して治明と椿姫は固まってしまう。
勝手にオカズにしたかどでもめていたなど、言えるわけがない。
「なんか意味深な痴話げんかしてる?」
あまりに的を射た片岡の言葉に、2人は思わず顔を見合わせてしまう。
「そんなんじゃない…よねえ…?」
「と…当然じゃない…!」
歯切れ悪く否定する2人に、片岡は2828する。
痴話げんかであることを確信している表情だった。
「まあ、いいんだけどさ。
それよか、俺も帰ろうと思うけど、残るなら教室の戸締まり頼みたいんだが」
片岡は親切にも話を変えてくれる。
(片岡、お前いいやつだな)
よけいな詮索は控えてくれる優しさに、治明は心底感謝した。
「い…いや、俺らも帰るところだから」
「そうそう。だから片岡、悪いけどお願い」
「へいへい、お気をつけて」
片岡は気さくに応じると、男子トイレに入っていく。
「かえろっか?」
「そだね」
すっかり揉める気もなくなった治明と椿姫は、帰宅することに決めたのだった。
椿姫がわざわざ待っていてくれたのだから、あえて別々に帰る理由もない。
肩を並べ、手を繋いで家路につく。
2人の“付き合っているふり”はまだ続いているのだ。
「そう言えば、冷え性は良くなった?」
「う…うん。お陰さまで…。脚、もう冷たくないよ。
でも…変なところまであったかくして欲しいとは頼んでないけど-?」
「そんなつもりはなかったって…」
「そりゃそうだろうけどさー」
先ほどまでと違って、椿姫は冷えに苦しんでいる様子はない。
だが、マッサージで発情させられて、自慰がしたくてたまらなくなってしまったことは、まだわだかまりがあるらしい。
(本当に、ギャップがかわいいよな)
治明はそう思う。
金髪サイドテール、隙のないコスメやアクセサリー。いかにも遊んでいそうな外見のギャル。
なのに、実はセックスどころか恋愛の経験すらない、恥ずかしがりの純情乙女。
それが椿姫だ。
心の底からかわいいと思えた。
「あ、治明、チャック開いてるよ」
「え…?ほんと?」
椿姫の指摘に、治明は慌てる。
マスターベーションを終えてズボンを上げたとき、閉め忘れたかと股間に手をやる。
だが、チャックはきちんと締まっている。
「う・そ!」
「あ、騙したな!」
「あははは。騙されてんのー。
女の子に恥ずかしい事した罰だよー」
そんなふうに戯れながら、椿姫と治明はゆっくりと家路を行くのだった。
外は寒いが、二人の間には温かい空気が満ちているように感じられるのだった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
兄貴がイケメンすぎる件
みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。
しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。
しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。
「僕と付き合って!」
そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。
「俺とアイツ、どっちが好きなの?」
兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。
それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。
世奈が恋人として選ぶのは……どっち?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる