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01 金髪ギャルのアイデンティティ
なんで知ってる?
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03
「千川、ちょっとこの後いいかい?」
放課後、治明は椿姫のお誘いを受けて、一緒に町に繰り出していた。
「まあ、助かったし一応お礼言いたくてね」
近くの公園のベンチに腰を落ち着けた椿姫が切り出す。
「そりゃ良かった。
もしお邪魔だったらとんだ勘違いだったからね」
椿姫が差し出した缶コーヒーを口に含みながら、治明は応じる。
椿姫は渋面になる。美少女が台無しだ。
「いやあ、実はしつこく粉かけられて困っててねえ。
たしかにあたしはギャルだけど、ヤリマンじゃないって。
男を選ぶ権利ぐらいある。
そう言ったんだけど、やつには伝わらなかったみたいでさ」
「そりゃ、大変だったね…」
ビッチぶる椿姫に、治明は当たり障りのない返事を返す。
(まあ、間違ったことは言ってないな。
処女なんだから、ヤリマンではないことに変わりはない…)
そう言って自分を納得させる。
“トリカブトとフグの毒は食い合わせが悪い”と言っているのと同レベルの屁理屈だが、かまわない。
ギャルは椿姫のアイデンティティなのだろう。
ならば、下手に突っ込んで波風を立てることもない。
「ギャルだから、誰にでも股開くだろうなんて偏見じゃん。
選ぶ権利くらいあるっての」
処女ビッチであっても、いや、処女ビッチであるからこそ、ヤリマン扱いは心外であるらしい。
椿姫が愚痴っぽくなる。
(じゃあ、派手なかっこうやめる手もあるんじゃ…とは言えんなあ…)
治明は内心で嘆息する。
個人の趣味趣向は、迷惑にならない限り他人がどうこう言うことではない。
それに実際問題として、悪いのはギャルに偏見を持つがわだ。
「まあ…なんだ…。
しつこい男には“あんたなんか好きじゃない”ってはっきり言った方がいいんじゃ?
遠回しな拒絶じゃ…脈あるかもと思われるかも知れんからな」
「そだねえ…。
理屈はわかるんだけどねー…」
椿姫は歯切れが悪い。
治明にはわかった。椿姫は見た目に比して優しい。
あまりきついことを言うのは得意ではないらしい。
「まあとにかくあれだ。
ありがと。
いくらあたしでも、無理やりキスされたらトラウマになってたかもだからさ」
にっこりとほほえんで、椿姫が素直に礼を述べる。
(なんだ、笑うとかわいいじゃん)
治明はそんなことを思う。
椿姫のことは、元から美少女だと思っていた。
だが、笑った顔は思わずどきりとしてしまうほどだったのだ。
だが、それがまずかった。
「礼には及ばないよ。
女の子にとっては大事なことだろうし。
初めてなら特に…」
言ってしまってから、ひと言余計だったと気づく。
椿姫の笑顔に見ほれて油断した。うっかり言葉を選ぶのを忘れてしまっていたのだ。
「い…今なんて言った…?」
ほほえんでいた椿姫が、一転して目を見開いて驚愕の表情になる。
(やば…)
吐いた唾は飲めないことを感じて、治明は困惑する。
額に嫌な汗が滲んでくる。
「ええと…。変なこと言ったかな…?」
「とぼけんなし…!
あたしがキスしたことないって…なんで知ってるんだい!?」
椿姫は治明の胸ぐらをつかみ、顔を思いきり近づける。
椿姫の透き通った眼が、きれいな顔がとても近い。
(てか…自分でキスしたことないって認めてるじゃん。スルーしろよ…)
治明は内心で突っ込んでいた。
椿姫は必死で秘密にしてきたことを言い当てられて、完全にパニックになっているようだった。
“そんなわけないじゃん”と流せばすむ話なのに、追及せずにはいられないようだ。
「いや…言葉のあやだよ…。
キスしたことあるかどうかなんて…わかるわけないでしょ…?」
「千川、眼が泳いでるし…」
治明はなんとかしらを切ろうとするが、椿姫のあまりの迫力にやましいところを隠しきれずにいた。
「いやしかし…。
そんなエスパーみたいなことってあると思う?
高宮さんがキスしたことないって知ってる理由説明したとして、信じるの?」
治明はアプローチを変えてみることにする。
他人がキスの経験があるかどうかなど、エスパーでもなければ知りようがない。
まあ、現に治明は特殊な能力を持っているわけではあるが。
ともあれ、常識で考えれば与太話でしかない。
が…。
「まだとぼけるか?
なんとしても説明してもらうよ」
椿姫は、治明がなんらかの方法で自分にキスの経験がないと知っていたと確信している。
(説明しない限り解放してはもらえないか…)
椿姫が胸ぐらをつかむ力は強くなり一方だ。
女にしては力が強い。
「わかった。説明する。説明するから」
このままでは絞め殺され兼ねないと判断した治明は、観念するしかなかったのである。
「千川、ちょっとこの後いいかい?」
放課後、治明は椿姫のお誘いを受けて、一緒に町に繰り出していた。
「まあ、助かったし一応お礼言いたくてね」
近くの公園のベンチに腰を落ち着けた椿姫が切り出す。
「そりゃ良かった。
もしお邪魔だったらとんだ勘違いだったからね」
椿姫が差し出した缶コーヒーを口に含みながら、治明は応じる。
椿姫は渋面になる。美少女が台無しだ。
「いやあ、実はしつこく粉かけられて困っててねえ。
たしかにあたしはギャルだけど、ヤリマンじゃないって。
男を選ぶ権利ぐらいある。
そう言ったんだけど、やつには伝わらなかったみたいでさ」
「そりゃ、大変だったね…」
ビッチぶる椿姫に、治明は当たり障りのない返事を返す。
(まあ、間違ったことは言ってないな。
処女なんだから、ヤリマンではないことに変わりはない…)
そう言って自分を納得させる。
“トリカブトとフグの毒は食い合わせが悪い”と言っているのと同レベルの屁理屈だが、かまわない。
ギャルは椿姫のアイデンティティなのだろう。
ならば、下手に突っ込んで波風を立てることもない。
「ギャルだから、誰にでも股開くだろうなんて偏見じゃん。
選ぶ権利くらいあるっての」
処女ビッチであっても、いや、処女ビッチであるからこそ、ヤリマン扱いは心外であるらしい。
椿姫が愚痴っぽくなる。
(じゃあ、派手なかっこうやめる手もあるんじゃ…とは言えんなあ…)
治明は内心で嘆息する。
個人の趣味趣向は、迷惑にならない限り他人がどうこう言うことではない。
それに実際問題として、悪いのはギャルに偏見を持つがわだ。
「まあ…なんだ…。
しつこい男には“あんたなんか好きじゃない”ってはっきり言った方がいいんじゃ?
遠回しな拒絶じゃ…脈あるかもと思われるかも知れんからな」
「そだねえ…。
理屈はわかるんだけどねー…」
椿姫は歯切れが悪い。
治明にはわかった。椿姫は見た目に比して優しい。
あまりきついことを言うのは得意ではないらしい。
「まあとにかくあれだ。
ありがと。
いくらあたしでも、無理やりキスされたらトラウマになってたかもだからさ」
にっこりとほほえんで、椿姫が素直に礼を述べる。
(なんだ、笑うとかわいいじゃん)
治明はそんなことを思う。
椿姫のことは、元から美少女だと思っていた。
だが、笑った顔は思わずどきりとしてしまうほどだったのだ。
だが、それがまずかった。
「礼には及ばないよ。
女の子にとっては大事なことだろうし。
初めてなら特に…」
言ってしまってから、ひと言余計だったと気づく。
椿姫の笑顔に見ほれて油断した。うっかり言葉を選ぶのを忘れてしまっていたのだ。
「い…今なんて言った…?」
ほほえんでいた椿姫が、一転して目を見開いて驚愕の表情になる。
(やば…)
吐いた唾は飲めないことを感じて、治明は困惑する。
額に嫌な汗が滲んでくる。
「ええと…。変なこと言ったかな…?」
「とぼけんなし…!
あたしがキスしたことないって…なんで知ってるんだい!?」
椿姫は治明の胸ぐらをつかみ、顔を思いきり近づける。
椿姫の透き通った眼が、きれいな顔がとても近い。
(てか…自分でキスしたことないって認めてるじゃん。スルーしろよ…)
治明は内心で突っ込んでいた。
椿姫は必死で秘密にしてきたことを言い当てられて、完全にパニックになっているようだった。
“そんなわけないじゃん”と流せばすむ話なのに、追及せずにはいられないようだ。
「いや…言葉のあやだよ…。
キスしたことあるかどうかなんて…わかるわけないでしょ…?」
「千川、眼が泳いでるし…」
治明はなんとかしらを切ろうとするが、椿姫のあまりの迫力にやましいところを隠しきれずにいた。
「いやしかし…。
そんなエスパーみたいなことってあると思う?
高宮さんがキスしたことないって知ってる理由説明したとして、信じるの?」
治明はアプローチを変えてみることにする。
他人がキスの経験があるかどうかなど、エスパーでもなければ知りようがない。
まあ、現に治明は特殊な能力を持っているわけではあるが。
ともあれ、常識で考えれば与太話でしかない。
が…。
「まだとぼけるか?
なんとしても説明してもらうよ」
椿姫は、治明がなんらかの方法で自分にキスの経験がないと知っていたと確信している。
(説明しない限り解放してはもらえないか…)
椿姫が胸ぐらをつかむ力は強くなり一方だ。
女にしては力が強い。
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