詩《うた》をきかせて

生永祥

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☆第49話 笑う、笑わない、笑えない

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 笑っている自分の顔を、黙って見つめている若菜の存在に気が付くと、小夜子はハッとして慌てて笑うのを止めた。
 そして急に硬い表情に切り替えると、小夜子は若菜の前でどう振る舞えば良いのか分からず、その場で黙り込んでしまった。

 少しの間、沈黙が二人の間を支配する。

 するとそんな小夜子に疑問が湧いたのか、若菜が急に小夜子に向かって、こう切り出した。

「……どうして笑うのを止めるんだ?」

 不思議そうに呟く若菜に面食らった小夜子は、びっくりして思わず若菜に質問をする。

「わ、若菜先生は、人が笑ったりするのが嫌いなんじゃ……」
「私は自分では笑わないが、人が笑うのを嫌いだと言った事は、立花の前では無い」

 そう断言すると若菜は再び両手を膝の上で組んだ。二人はぼんやりとその若菜の両手を眺める。

 少しの間黙っていた若菜は、不意に小夜子の方を見やると淡々と話を続けた。

「……私が余り人と接しないのは、人の輪の中で笑顔が作れないのと、人と関わることを極力避けたいからだ。このことをいちいち説明することは面倒だし、後でごちゃごちゃと言われるのも厄介だからな。……だから学校ではなおさら、人と距離を取るようにしている」

 そう静かに告げると若菜は何かを思いだしたのか、ふと切れ長の目を細くした。

「……夏季によく言われる。『一樹はその無愛想を直した方が良い』と。そして『もっと人と関わって生活をした方が良い』と。……確かにその通りなのかもしれないな」

 その言葉に小夜子の胸が、急にズキンと痛んだ。

 若菜と夏季はこれほどまでに、親密な話をする仲なのだ。
 そして若菜は、夏季の言葉を今でも大切に思っている。

 その事実に、小夜子は胸がギュッと強く締め付けられるのを感じた。
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