詩《うた》をきかせて

生永祥

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☆第36話 幼馴染

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 日の出や書店から外に出た途端、大賀は明博に「お前、あの姉ちゃんに、ちょっと言い過ぎじゃねぇのか?」と慌てて声をかけた。

「あれくらい強く言わないと、夏季さんと若菜先生は次の行動を起こさないよ」と言う明博の言葉に、大賀は黙り込む。

 これからどうしようかと思って、店の外れで二人して並んで立っていると、遠くから自分たちを呼ぶ甲高い声が聞こえた。

「あら。笹野と藤永じゃない。何をしているの?こんなところで」
「なんだ、川村か」
「なんだとは失礼ね」

 白いコートに水色のロングスカートをあわせた美香が、肩まである黒い髪をなびかせながら、急いで大賀と明博の元へと駆け寄って来た。

 その左手にはピンク色の花柄のエコバックが握られており、中には野菜や肉や魚などが隙間のないほどに沢山入っていた。

「川村さんは、お買い物帰りなのかな?」
「そうよ、お姉ちゃんと一緒にね。もうすぐ来ると思うわ」

 美香の重たそうなエコバックを見て、明博が「持つよ」と親切に美香に声をかける。
 すると美香は「あら、ありがとう」と言って、自身の荷物を明博に差し出した。

「藤永と違って、笹野は親切ね」
「……川村。それはどういう意味だよ?嫌みか何かか?」
「私は正直な事を言っただけよ」

 顔を真っ赤にして、異論を唱えようとする大賀を美香は一方的に無視する。

 すると遠くの方で美香の名前を呼ぶ女性の声がした。

「あの方がお姉さん?」
「えぇ、そうよ。お姉ちゃん、こっち、こっち!」

 そう言って美香が手を振ると、一人の若い女性が三人の側に近付いて来た。

「こんにちは。あら美香、こちらのお二人は、お友達?」
「こいつ以外はね」

 そう言って美香は大賀の顔を指差す。

 憤慨する大賀を見て「そんな事を言わないの」と女性が優しく美香を諭す。そして美香に注意をし終えると、女性は大賀と明博の方を向いてこう言った。

「美香の姉の由里です」

 そう言うと由里は、大賀と明博に向かって丁寧にお辞儀をする。
 モスグリーンのロングコートにスキニーのデニムを合わせた由里の格好は、妹の美香と比べて、大人の女性を連想させた。

 その姿に一瞬、大賀と明博が見惚れた事を、美香は決して見逃さなかった。

「男って、本当に単純ね」
「それは一体、どういう意味だ?」
「別に」

 美香は口を尖らせて、ふいっと大賀と明博から目をそらす。

 そんな憮然とした美香の様子を、にこやかに見つめていた由里は、大賀と明博の後方に建っている日の出や書店に少し目をやると、一言こう言った。

「あなた達、日の出や書店に用があったのかしら?そうだとしたら、今日は止めておいたほうが良いと思うわ」

 そう言ってセミロングの茶色い髪を耳にかける由里に、明博が質問をする。

「それってどういう意味でしょうか?」
「……夏季ちゃん、頑張ってお店を開けているけれど、今日は全然お仕事に身が入っていないみたいだから」

 すると由里は左手に持っていた青い縞模様のエコバックを右手に持ち替えた。

 いつもなら気を配って女性の荷物を持つ明博だったが、思いがけない突然の言葉に、由里のエコバックを持つ事を忘れる。

「由里さん、夏季さんとお知り合いなのですか?」
「えぇ、そうよ。幼馴染ですからね」

 そう言うと「美香の荷物を持ってくれてありがとう」と言いながら、由里は明博が美香の代わりに持っていたエコバックを、自身の左手に持った。

 由里の言葉に一瞬、明博が呆然とする。

 その様子を心配したのか、隣に居た大賀がとんとんと明博の左肩を優しく叩く。

 大賀の行動にハッとした明博は顔を左右に振ると、急いで大賀に目配せをしてこう言った。

「由里さん!あの、すみませんが、少しお時間頂いてもよろしいでしょうか?」

 不思議そうな顔をする由里と美香をその場に留まらせると、大賀と明博は由里に話を切り出した。
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