詩《うた》をきかせて

生永祥

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☆第17話 もしかして

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 放課後、大賀と明博のおかげで少し持ち直した情緒だったが、帰り道で一人になると、急にまた不安定になっていくのが小夜子には分かった。

 冬の夕方は日が落ちるのが早い。暮れなずんでいく道をとぼとぼと歩いていると、小夜子は前に伸びる自分の影がやけに小さくなっているような気がした。

――このままじゃ、ダメだよ。

 せっかく大賀と明博に励ましてもらったのだ。

「早く気持ちを切り替えなきゃ」と独り言を呟くと、小夜子はゆっくりと進めていた足を止めて、頬を軽くパンパンと二回叩いた。

 外気で冷えた頬はひんやりとしていて、手袋をしていない手にじんわりと冷気が伝わってきた。

――何だか、ピリピリして痛いなぁ。

 そう思いながら、止めていた足を再び前に出す。
 普段ならすぐに通り過ぎていく河川敷の風景が、今日はやけに過ぎ去っていくのが遅いことに小夜子は気が付いた。

――若菜先生も、ピリピリして痛かったのかなぁ。いやもしかしたらズキズキしたのかもしれないなぁ。

 そう思いながら、小夜子は川に架けられた古くて細くて長い桟橋さんばしを渡る。冬の桟橋の上は驚くほど冷たくて、強い横風がびゅーびゅーと身体に吹き付ける。
 身体を刺すような冷たさに、思わず小夜子の目が細くなる。

 すると狭くなった視界の向こうに、どこかで見覚えのある姿が在るような気がした。

――あれって、もしかして……。

 急いで目を見開いて、残り半分となった桟橋を駆けて行く。そして小夜子は、自分の目の前を歩いて行く人影を必死で追いかけた。

 肉眼で確認出来る位置まで、その人影に近づくと、小夜子は自分が出せる精一杯の声でこう叫んだ。

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