詩《うた》をきかせて

生永祥

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☆第7話 日の出や書店

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「なっちゃん!今週はもう新しい詩集、入荷しているかなぁ?」

 学校の帰り道に立ち寄った日の出や書店で、小夜子はこの店の看板娘である宮野夏季みやのなつきに声をかけた。

 今日は寄り道をせずに、まっすぐに家へと帰ろうと、当初小夜子は思っていた。

 しかし先程の若菜との恥ずかしくて忘れてしまいたい一件を、帰宅前に払拭したくなって、小夜子は常連となっているこの本屋へと足を運んだ。

 この日の出や書店に来れば、好きな詩集に囲まれれば、大好きな夏季に会えば、心が落ち着くと小夜子はそう思ったのだ。

 頬を赤く染め、肩で大きく息をする小夜子に苦笑しながら、夏季は両手いっぱいに抱えていた本の山を、レジの横の台の上にそっと置いた。

 肩まである長いポニーテールの赤い髪を左右に揺らしながら、夏季は小夜子に近付く。

 そしてえんじ色のエプロンの右ポケットから、アイロンのかけられた白いハンカチを取り出すと、夏季はそれをそっと小夜子のおでこにあてがえた。
 すると夏季の白いハンカチに、うっすらと丸い染みが出来た。

「また走って来たの?車や人にぶつかったら危ないから、歩いて来るようにと、いつも言っているでしょう?」
「な、なっちゃん。だって……」
「子供は口答えしないの。……返事は?」
「は、はい!」
「返事が元気でよろしい」

 そう言うと夏季はハンカチを小夜子のおでこから離して、自分のエプロンの右ポケットにしまった。
 そして小夜子に背を向けると、夏季はレジの奥にある棚の方へと向かって歩いて行った。

 焦げ茶色の木で出来た古い年代物の本棚の奥から、一冊の水色の本を取り出す。

倉松紅くらまつべに詩集・青い恋』と書かれた本の表紙を小夜子に向けると、夏季は本の横からひょっこりと顔を出して、小夜子に話しかけた。

「小夜子がこの間『気になる』って言っていた本って、これのことでしょう?」

 店先に立っていた小夜子が、夏季のその声に反応して、急いでレジのある店の奥へと向かう。夏季の右手に掲げられた本を見て、小夜子は感嘆の声を上げた。

「わぁ!倉松紅さんの新刊だ!なっちゃん、もしかして注文しておいてくれたの?」
「小夜子の『気になる』は、イコール『読みたい』ってことだからね」

 本を眺めながら「わぁ、すごい。ありがとう!」を連呼する小夜子に、「あなた、本当に、大げさよ」と半ば呆れながら、夏季は薄くて青い正方形の本を小夜子に手渡した。

 その本をギュッと胸に抱きしめると、小夜子は益々頬を赤く染めた。
 本を握りしめ、段々と高揚していく小夜子の様子を、夏季は黙って笑って見ていた。
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