詩《うた》をきかせて

生永祥

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☆第3話 憧憬《しょうけい》

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 キーンコーンという大きなチャイムの音が、学校の教室中に鳴り響く。その音を合図に、教室内の生徒達が一斉に席を立ち、前後左右のクラスメートに声をかける。
 中には急いで鞄を抱えて、廊下を走り出て行く生徒もいる。

 そんな賑やかな放課後の様子を横目で見ながら、小夜子は学校鞄に忍ばせていた詩集にすっと手を伸ばした。

 そして文庫サイズの詩集を手に取ると、昼休みに挟んでいた、緑色の和紙で出来た栞を右手で抜き取って、お目当てのページを左手でパラッと開いた。

 急いで本に書かれている文字を目で追う。
 昼休みに読みかけていてまだ途中だった詩の続きが、午後の授業中、小夜子はずっと気になっていたのだ。

 息も付かずに、一気に一編の詩を読む。

 自分の中にある全神経を集中させて、小夜子は作者の紡いだ言葉に耳を傾けた。

 そして無我夢中で最後まで詩を読み終えると、小夜子は開いていた本を一旦パタンと閉じて、ふーっと一気に息を吐き出した。

 その瞬間、自分の全身の力が抜けていくのが分かった。

――あぁ、今回も素敵だったなぁ。

 本を読み終えた時に生まれる、独特な満足感と読後感に酔いしれながら、小夜子はふと教室の窓に目をやった。
 すると曇天の空からチラチラと雪が舞いはじめている事に気が付いた。

――あの詩のシーンも、こんな感じだったのかなぁ。

 小夜子はこの間、市立図書館の詩集コーナーで偶然見つけた、『カラタチバナ』という詩の一節を思い出していた。
 あの詩を読んだ瞬間、小夜子は自分の身体に鳥肌が立っている事に気が付いた。

 雪の『白』とカラタチバナの『赤』のコントラストが鮮明に浮かんで、なんて綺麗な詩なのだろうと思った。
 そして『僕』と『貴女』の関係性に、強い憧れを抱いた。

――私もあの詩のようなシーンに出会ってみたいなぁ。

 ふと浮かんだ自分の思いに、強い驚きと恥ずかしさを感じる。小夜子は段々と自分の身体が熱くなり、耳が火照っている事に気が付いた。

 そんな恥ずかしさを振り払うと、小夜子は机の上に置いていた詩集を鞄に詰めて、急いで教室から出て行った。

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