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キャベツの塩漬け入りマスのほかほかシチュー
キャベツの塩漬け入りマスのほかほかシチュー6
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ストルカ国を滅ぼそうとしているのか、それとも大国にしたいのか、イライザのやることは国民からしたらとにかく理解不能だった。
「エドはイライザに会ったことは?」
長い前髪を掻き分けたエドがボリスを見た。
「んなこと知ってどうすんだよ」
それはボリスにもわからない。簡単に言えば単なる好奇心が口からついて出てきただけなのだから。
「なんとなく聞いただけさ」
「まぁ、特に話すこともないくらいしか会ってないが──あれはペテン師だな」
言い切ったエドに、ボリスが思わずクシャッと表情を崩してみせる。
「ペテン師って会ったことがあっても互いに子供だったろ?」
ボリスとエドが出会った時ですらボリスから見たらエドはユーリと大差のない子供だった。今のユーリよりずっと大人びていたが、それでも子供には違いない。
「子供でもわかるペテン師だ。生まれ持った才能かもな」
話すこともな位くらいしか会ってないと前置きした割には、断定的に言う。それくらい胡散臭かったということなのだろうか。
「魔力は本物なのか?」
「ああ、そこはな。遠目だが……」
そこでエドは言い淀んで口を閉ざした。開きかけた口をへの字に結んだが、結局は口を開く。
「ウサギを嬲り殺す手前で止めて回復の力で治し、またやる。繰り返していた。悪魔の化身みたいな奴だ。それなのに今は聖なるイライザと崇められて人助けをしてるんだと」
「恐ろしい女だな。しかし崇めてるって……そりゃ違うだろ。国民はほとんど恐れて嫌っているんだから」
エドは膝に肘を乗せて頬杖をついた。
「金持ちは崇めてるんだろ。金があれば病を軽減してくれるんだから。今は知らねぇけど。俺が王宮にいた頃はそうだった」
また新たな好奇心がわいて頬杖をつくエドの横顔を見つめた。
「そかぁ、お前……王になるはずだったんだな。エドが王ならもっと違う国になっていたかもしれないのか」
エドの視線が一瞬だけボリスの方に向いたようだったが、エドは顔を前に向けたまま「さぁ?」と答えた。
「俺は自己中心的な人間だからな。自分にとって大事かどうかで動くし、そんな人間が国を治めて良い方向に行くわけないと思うけど」
どう考えてもイライザよりマシな王になる確信がボリスにはあった。生意気で時に腹が立つこともあるが、自己中心的かと言われたらそんな風には思わない。
アリシャが魔力を使うことに関してだけは頑なに自分の意見を変えないが、そこは魔力に近い人間であったから思うところがあるのだろう。
「無意味だ。もし俺が王だったならなどと考えても、過去は変わらないし、未来も変わるわけねぇし」
強くしっかりとした口調で話すエドからは悲壮感はなかった。ただ、現実を受け止め受け入れたのだ。だから何でもない平民として実直に生きているのだろう。
夜は夕方の家畜の世話をしにいった男たちを待って、皆揃ってから夕飯をとった。
アリシャが夕飯に用意したのはマスと塩キャベツを入れたホワイトシチューとライ麦パンだった。
これに最近は甘さを抑えたフロランタンを常に欠かさず出している。塩を多めに振るとしょっぱさの中にうっすら甘みを感じると男性陣に好評なのだ。このフロランタンの材料が、人気のないえん麦で大量にある。いつまで寒さが続くのかわからないのもあり、えん麦で腹を満たして貰うと他の材料が減らないという利点があって、アリシャにも好都合だった。
男たちは塩の効いたフロランタンで酒を飲み交わす。女たちはお喋りを楽しみながらシチューを味わっていた。
「今日のシチューも美味しいわね。体の中からポカポカしちゃう」
レゼナがうっとり白濁したスープをスープで混ぜた。
「こんな快適な冬って初めて!」
パンをちぎりながら喜ぶリアナに私もよとアヴリルが微笑みかける。
「あ、動いたわ。赤ちゃんもそうだって」
アヴリルが言うとリアナが「えー、赤ちゃんはこれが初めての冬じゃない」と、突っ込みを入れてアリシャとリアナも笑ってしまった。
「女の子がいいなぁ」
リアナは呟きながらパンを口に運んで、もぐもぐと噛んでいく。
アヴリルも悪阻は終わっているのでシチューを美味しそうに口に運んでいく。食べられなかった時期の分を取り返すように最近のアヴリルはよく食べる。お陰で悪阻でコケてしまった頬も今では元通りらしい。
「女の子? 男の子よりも?」
アリシャがリアナに問うと、リアナは咀嚼中なのでとにかくコクコク頷いた。そしてゴクリと飲み込んで口を開く。
「色々教えてあげるの。洗濯の仕方でしょ、針仕事の仕方でしょ……種の上手な撒き方も!」
それはこの村で全て教わったことだろう。レゼナが「それは頼もしいお姉さんね」と言うとリアナは嬉しそうに頷いた。
「ああ、アリシャ」
レゼナが手のパン粉を払いながら、笑顔で話に耳を傾けていたアリシャに声をかけた。
「はい」
「昨晩は寒かったみたいだからエドに炉の火を見ててあげてと言っておいたわ」
「え、寝ずの番をエドが?」
「他の男の人には頼めないじゃない?」
確かにそれはアリシャの部屋と料理部屋を隔てている戸を開け放って置かなければ意味のないことなので、エド以外の男性は困る。いや、アリシャ的にはエドでもドキドキして眠れなくなること間違いなしなので困るのだが。
「アリシャもこっちで寝たらいいのに」
リアナが残念そうに言うとアヴリルも「そうね。楽しいから一緒に寝たいわ。でも四人は無理だもの」とガッカリしていた。
「エドはイライザに会ったことは?」
長い前髪を掻き分けたエドがボリスを見た。
「んなこと知ってどうすんだよ」
それはボリスにもわからない。簡単に言えば単なる好奇心が口からついて出てきただけなのだから。
「なんとなく聞いただけさ」
「まぁ、特に話すこともないくらいしか会ってないが──あれはペテン師だな」
言い切ったエドに、ボリスが思わずクシャッと表情を崩してみせる。
「ペテン師って会ったことがあっても互いに子供だったろ?」
ボリスとエドが出会った時ですらボリスから見たらエドはユーリと大差のない子供だった。今のユーリよりずっと大人びていたが、それでも子供には違いない。
「子供でもわかるペテン師だ。生まれ持った才能かもな」
話すこともな位くらいしか会ってないと前置きした割には、断定的に言う。それくらい胡散臭かったということなのだろうか。
「魔力は本物なのか?」
「ああ、そこはな。遠目だが……」
そこでエドは言い淀んで口を閉ざした。開きかけた口をへの字に結んだが、結局は口を開く。
「ウサギを嬲り殺す手前で止めて回復の力で治し、またやる。繰り返していた。悪魔の化身みたいな奴だ。それなのに今は聖なるイライザと崇められて人助けをしてるんだと」
「恐ろしい女だな。しかし崇めてるって……そりゃ違うだろ。国民はほとんど恐れて嫌っているんだから」
エドは膝に肘を乗せて頬杖をついた。
「金持ちは崇めてるんだろ。金があれば病を軽減してくれるんだから。今は知らねぇけど。俺が王宮にいた頃はそうだった」
また新たな好奇心がわいて頬杖をつくエドの横顔を見つめた。
「そかぁ、お前……王になるはずだったんだな。エドが王ならもっと違う国になっていたかもしれないのか」
エドの視線が一瞬だけボリスの方に向いたようだったが、エドは顔を前に向けたまま「さぁ?」と答えた。
「俺は自己中心的な人間だからな。自分にとって大事かどうかで動くし、そんな人間が国を治めて良い方向に行くわけないと思うけど」
どう考えてもイライザよりマシな王になる確信がボリスにはあった。生意気で時に腹が立つこともあるが、自己中心的かと言われたらそんな風には思わない。
アリシャが魔力を使うことに関してだけは頑なに自分の意見を変えないが、そこは魔力に近い人間であったから思うところがあるのだろう。
「無意味だ。もし俺が王だったならなどと考えても、過去は変わらないし、未来も変わるわけねぇし」
強くしっかりとした口調で話すエドからは悲壮感はなかった。ただ、現実を受け止め受け入れたのだ。だから何でもない平民として実直に生きているのだろう。
夜は夕方の家畜の世話をしにいった男たちを待って、皆揃ってから夕飯をとった。
アリシャが夕飯に用意したのはマスと塩キャベツを入れたホワイトシチューとライ麦パンだった。
これに最近は甘さを抑えたフロランタンを常に欠かさず出している。塩を多めに振るとしょっぱさの中にうっすら甘みを感じると男性陣に好評なのだ。このフロランタンの材料が、人気のないえん麦で大量にある。いつまで寒さが続くのかわからないのもあり、えん麦で腹を満たして貰うと他の材料が減らないという利点があって、アリシャにも好都合だった。
男たちは塩の効いたフロランタンで酒を飲み交わす。女たちはお喋りを楽しみながらシチューを味わっていた。
「今日のシチューも美味しいわね。体の中からポカポカしちゃう」
レゼナがうっとり白濁したスープをスープで混ぜた。
「こんな快適な冬って初めて!」
パンをちぎりながら喜ぶリアナに私もよとアヴリルが微笑みかける。
「あ、動いたわ。赤ちゃんもそうだって」
アヴリルが言うとリアナが「えー、赤ちゃんはこれが初めての冬じゃない」と、突っ込みを入れてアリシャとリアナも笑ってしまった。
「女の子がいいなぁ」
リアナは呟きながらパンを口に運んで、もぐもぐと噛んでいく。
アヴリルも悪阻は終わっているのでシチューを美味しそうに口に運んでいく。食べられなかった時期の分を取り返すように最近のアヴリルはよく食べる。お陰で悪阻でコケてしまった頬も今では元通りらしい。
「女の子? 男の子よりも?」
アリシャがリアナに問うと、リアナは咀嚼中なのでとにかくコクコク頷いた。そしてゴクリと飲み込んで口を開く。
「色々教えてあげるの。洗濯の仕方でしょ、針仕事の仕方でしょ……種の上手な撒き方も!」
それはこの村で全て教わったことだろう。レゼナが「それは頼もしいお姉さんね」と言うとリアナは嬉しそうに頷いた。
「ああ、アリシャ」
レゼナが手のパン粉を払いながら、笑顔で話に耳を傾けていたアリシャに声をかけた。
「はい」
「昨晩は寒かったみたいだからエドに炉の火を見ててあげてと言っておいたわ」
「え、寝ずの番をエドが?」
「他の男の人には頼めないじゃない?」
確かにそれはアリシャの部屋と料理部屋を隔てている戸を開け放って置かなければ意味のないことなので、エド以外の男性は困る。いや、アリシャ的にはエドでもドキドキして眠れなくなること間違いなしなので困るのだが。
「アリシャもこっちで寝たらいいのに」
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