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アイスグラスのリンゴ酒
アイスグラスのリンゴ酒4
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先程よりアリシャを慌てさせる。エドに少しでも誤解されたくない。
「それはたぶんお互いに魔力を持っていて……それで存在をヒシヒシと感じるからよ。私はそんな気ないし、エクトルもいずれこれは力のせいで本意ではないことに気づくはずだわ」
「うーん、よくわからないけど。私はエドとアリシャがいいと思うわ。お似合いだもの」
表情を和らげてエドがアリシャと目を合わせてから、リアナに言う。
「エクトルは本物の王子だ。リアナがエクトルと結婚したらどうだ? そしたら洗濯をしなくていい暮らしが送れる」
リアナは頬を少しだけ紅潮させ、ぷるぷると顔を振った。
「とても綺麗な人だしお金も沢山ありそうだけど、ちょっと恐ろしいわ。……あの、言わないでね」
「俺は怖くないのか?」
リアナはそれまでのモジモジした態度からピッと背筋を伸ばして「もちろん、怖くないわ」と力説する。
「ココと遊んであげているし、おじいちゃんにも優しいもの。私にも優しくしてくれてるわ。あと、アリシャには特別優しいの」
最後のところで「そうか?」と聞き返したが、リアナは「ええ。私もエドみたいな人が良いなぁ」と言ってから慌てふためいて言葉を打ち消そうとした。
「あ、違うの! 別にエドが好きとかじゃないし、優しい人がいいってだけなの」
アリシャはエドがリアナと話している姿を微笑ましく感じていた。時々笑顔になるし、アリシャの方にも視線を投げるがそこにも言葉を発しなくても伝わるものがあった。
(ドクさんの話していたのはこういうことね。幸せってほんと簡単なのかも)
「あ、私ってば手伝ってきなさいと言われていたのにお喋りに夢中になっちゃった! そうだ、ドクさんが家畜小屋に藁を積むからエドにも来るようにって」
リアナの伝言を聞いて、エドは樽を一つ肩に乗せて「じゃあ、これをあっちに運んでから行く。お先」と、出ようとした。すかさず扉を開けたリアナに笑顔を向けた。
「ありがとな」
それからアリシャにまたなとアイコンタクトをし、出て行った。完全にエドが姿を消すとリアナは手を叩いてはしゃぎだす。
「やっぱりエドがいいわね。偉ぶらないし、最高! あ、でもアリシャの良い人だから好きになったりしないからね。私はジャンヌじゃないからちゃんとしてるの」
早口で一気に言うと、今度は手を口に持って行きたじろいでみせた。
「あ……私、なんかはしゃぎすぎた? 言っちゃマズイこと言ったかな?」
アリシャは首を横に振って「なにも問題ないわ。でも洗濯の話はもうしないでね」と、笑った。
「そうね、アリシャ。でもエドが王子様を辞めなければ洗濯しないで済んだけど、王子様だったら偉そうな感じだったかもね」
そんな話をしていた後に料理部屋に戻ったら、広間にエクトルが居て二人ともギクっとしてから挨拶をした。
「戻っていたんですね」
エクトルは兵を数人連れてリリーの店に行っていたのだ。長期滞在になるので手に入れたい物があったらしい。
兵に命じ二人のカゴを運ぶように指示をした。それからリリーについて話が長くて困ったとボヤいていた。
「一つ品物を聞くごとに噂や身の上話が二個三個とついてくるのだぞ。お陰でリリーとやらの家族構成を知る羽目になった」
リリーならさもありなん。きっと自分の話をしてから、相手にも「そちらさんはどうなんだい?」などと聞いたに違いない。油断すると心の内までなにもかも知られてしまいそうになるのだ。
「そうやって情報を集めているみたいですよ。それで何を買われたのですか?」
テーブルの上に見慣れないものが乗っていたので気になって覗き見た。二色の真四角の板が交互に等間隔で並んでいる。
「チェスだ。作りは荒いが十分だ。知っておるか?」
「いいえ」
「そうか。じゃあリリーとやらが珍しい物だと値を釣り上げるのも無理ないな」
アリシャはその変わった板も気になったが部屋の隅に並んでいる樽も気になった。樽は二十近くに及ぶ。
「あちらの中身は?」
「あれはリンゴ酒だ。この村は食い物には困らんが酒はほとんどないらしいから手に入れてきたのだ。村の者も飲むがいい。他にも色々な物を手に入れて来たぞ」
そう言うと宿屋のカウンターに居たアヴリルの方へと向いた。確かにカウンターに並ぶだけカゴがあり、カゴはどれも山盛りに物が詰め込まれていた。
「何が必要か分からぬから、店の物を全て買い取ってきた。ああ、レオナルドとアリシャが卸しているものは買う必要がないとリリーに止められたが」
アヴリルが大きなお腹を庇いながら屈んだり立ち上がったりして荷物を片付けている。その様子に話しながら気がついたエクトルが、兵の一人に手伝うように命じた。
ここでコホンと咳払いをしたイザクがエクトルに「そろそろ我々も薪を運んだりするのに手を貸しましょう。体がなまっていけません」と声をかけた。アリシャ達の荷物を運んでくれた兵も丁度料理部屋から戻ってきた。
「じゃ、そこの一人を置いて行く。ここに残り村の者に手を貸してやれ」
アヴリルの隣にいる兵士が返事をしたのを聞くと、エクトルたちは揃って外へと出て行った。
大量の買い物に暫く呆然としていたアリシャに「ねぇ、アリシャ」とリアナが囁く。
「さっきのは取り消すわ。エクトルって実は良い人ね」
「そうね。私もいまちょっとそう思ったわ。きっとお金があって仕方がないのでしょうけど、それを自分の為だけに使う訳ではないって凄いわね」
「うん、レオさんみたい」
「それはたぶんお互いに魔力を持っていて……それで存在をヒシヒシと感じるからよ。私はそんな気ないし、エクトルもいずれこれは力のせいで本意ではないことに気づくはずだわ」
「うーん、よくわからないけど。私はエドとアリシャがいいと思うわ。お似合いだもの」
表情を和らげてエドがアリシャと目を合わせてから、リアナに言う。
「エクトルは本物の王子だ。リアナがエクトルと結婚したらどうだ? そしたら洗濯をしなくていい暮らしが送れる」
リアナは頬を少しだけ紅潮させ、ぷるぷると顔を振った。
「とても綺麗な人だしお金も沢山ありそうだけど、ちょっと恐ろしいわ。……あの、言わないでね」
「俺は怖くないのか?」
リアナはそれまでのモジモジした態度からピッと背筋を伸ばして「もちろん、怖くないわ」と力説する。
「ココと遊んであげているし、おじいちゃんにも優しいもの。私にも優しくしてくれてるわ。あと、アリシャには特別優しいの」
最後のところで「そうか?」と聞き返したが、リアナは「ええ。私もエドみたいな人が良いなぁ」と言ってから慌てふためいて言葉を打ち消そうとした。
「あ、違うの! 別にエドが好きとかじゃないし、優しい人がいいってだけなの」
アリシャはエドがリアナと話している姿を微笑ましく感じていた。時々笑顔になるし、アリシャの方にも視線を投げるがそこにも言葉を発しなくても伝わるものがあった。
(ドクさんの話していたのはこういうことね。幸せってほんと簡単なのかも)
「あ、私ってば手伝ってきなさいと言われていたのにお喋りに夢中になっちゃった! そうだ、ドクさんが家畜小屋に藁を積むからエドにも来るようにって」
リアナの伝言を聞いて、エドは樽を一つ肩に乗せて「じゃあ、これをあっちに運んでから行く。お先」と、出ようとした。すかさず扉を開けたリアナに笑顔を向けた。
「ありがとな」
それからアリシャにまたなとアイコンタクトをし、出て行った。完全にエドが姿を消すとリアナは手を叩いてはしゃぎだす。
「やっぱりエドがいいわね。偉ぶらないし、最高! あ、でもアリシャの良い人だから好きになったりしないからね。私はジャンヌじゃないからちゃんとしてるの」
早口で一気に言うと、今度は手を口に持って行きたじろいでみせた。
「あ……私、なんかはしゃぎすぎた? 言っちゃマズイこと言ったかな?」
アリシャは首を横に振って「なにも問題ないわ。でも洗濯の話はもうしないでね」と、笑った。
「そうね、アリシャ。でもエドが王子様を辞めなければ洗濯しないで済んだけど、王子様だったら偉そうな感じだったかもね」
そんな話をしていた後に料理部屋に戻ったら、広間にエクトルが居て二人ともギクっとしてから挨拶をした。
「戻っていたんですね」
エクトルは兵を数人連れてリリーの店に行っていたのだ。長期滞在になるので手に入れたい物があったらしい。
兵に命じ二人のカゴを運ぶように指示をした。それからリリーについて話が長くて困ったとボヤいていた。
「一つ品物を聞くごとに噂や身の上話が二個三個とついてくるのだぞ。お陰でリリーとやらの家族構成を知る羽目になった」
リリーならさもありなん。きっと自分の話をしてから、相手にも「そちらさんはどうなんだい?」などと聞いたに違いない。油断すると心の内までなにもかも知られてしまいそうになるのだ。
「そうやって情報を集めているみたいですよ。それで何を買われたのですか?」
テーブルの上に見慣れないものが乗っていたので気になって覗き見た。二色の真四角の板が交互に等間隔で並んでいる。
「チェスだ。作りは荒いが十分だ。知っておるか?」
「いいえ」
「そうか。じゃあリリーとやらが珍しい物だと値を釣り上げるのも無理ないな」
アリシャはその変わった板も気になったが部屋の隅に並んでいる樽も気になった。樽は二十近くに及ぶ。
「あちらの中身は?」
「あれはリンゴ酒だ。この村は食い物には困らんが酒はほとんどないらしいから手に入れてきたのだ。村の者も飲むがいい。他にも色々な物を手に入れて来たぞ」
そう言うと宿屋のカウンターに居たアヴリルの方へと向いた。確かにカウンターに並ぶだけカゴがあり、カゴはどれも山盛りに物が詰め込まれていた。
「何が必要か分からぬから、店の物を全て買い取ってきた。ああ、レオナルドとアリシャが卸しているものは買う必要がないとリリーに止められたが」
アヴリルが大きなお腹を庇いながら屈んだり立ち上がったりして荷物を片付けている。その様子に話しながら気がついたエクトルが、兵の一人に手伝うように命じた。
ここでコホンと咳払いをしたイザクがエクトルに「そろそろ我々も薪を運んだりするのに手を貸しましょう。体がなまっていけません」と声をかけた。アリシャ達の荷物を運んでくれた兵も丁度料理部屋から戻ってきた。
「じゃ、そこの一人を置いて行く。ここに残り村の者に手を貸してやれ」
アヴリルの隣にいる兵士が返事をしたのを聞くと、エクトルたちは揃って外へと出て行った。
大量の買い物に暫く呆然としていたアリシャに「ねぇ、アリシャ」とリアナが囁く。
「さっきのは取り消すわ。エクトルって実は良い人ね」
「そうね。私もいまちょっとそう思ったわ。きっとお金があって仕方がないのでしょうけど、それを自分の為だけに使う訳ではないって凄いわね」
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