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アイスグラスのリンゴ酒
アイスグラスのリンゴ酒3
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「俺はエドがアリシャと一緒になりたいと言ったとき、死ぬほど嬉しかったよ。そうだな……やっと本当の家族ってやつを手に入れるんだと思ったし」
これまでの言動の数々。今になってその一つ一つにエドの気持ちが込められていたことを知った。
泣いているのは見たくないと言っていた。防御の力を持つ子に対して根回しの大事さをアリシャに解いてくれた。
アリシャが力をコントロール出来ない時期は練習にも付き合ってくれた。自分は力を出せずに苦しみぬいたはずなのに。
背景が見えた後、エドの行為の数々に切なさと感謝が溢れていく。
「……エドはいつもそんな苦悩をまるで見せませんでした」
アリシャが言うとドクはニコッと微笑んでアリシャの肩を叩いた。
「強い子なんだ。精神面は誰よりも強く、多くのことに耐えて前を見据えて進む立派な男だよ。アリシャ、頼むよ。エドを幸せにしてやってくれ」
「私に出来るのでしょうか……」
「出来るさ。幸せにするなんて実は簡単なことなんだよ、アリシャ」
アリシャが驚くと、あははと声を上げて笑った。
「俺はレゼナが笑ってるとそれだけでなんか幸せだと思う。ほら、簡単だろ? よし、ちょっとレゼナの笑顔でも拝んでくるかー」
ドクはそう言うとウィンクをして、口笛を吹きながら出て行った。
アリシャは冬の間の食料を確認するために、食料庫に入っていった。
少しずつ料理部屋やアリシャの部屋に運び入れて貰っているが、暇を見つけては自分でも運ぶようにしていた。
今日はカゴを二つ持ってきているのでそこに入るだけ持っていくつもりだった。
壁に寄せてある樽から生姜を取り出して、カゴに移していく。樽は大きくアリシャの腰の高さを超えていた。そこに半分程入っている生姜を取ろうとすると、アリシャは上半身を樽に入れなくては届かない。
「んー……遠い!」
唸りながら樽に顔を突っ込んでいるとトントンと樽を外から叩く音がした。アリシャが樽から顔を出すとエドが立っていた。
「お前さ、頭を使えよ」
呆れ顔のエドはアリシャに退くように合図すると、樽を横に倒した。こぼれ落ちないまでも、生姜が樽の口当たりまで出てきた。
「ほら、取れんだろ?」
エドはこれまで通りなにも変わらずアリシャに接してきた。アリシャの方は何か……気の利いた言葉をかけたいのに、なにも出て来なくてオロオロとしていた。
「エド……私、何も知らなくて」
エドはチラリとアリシャを見たが、アリシャに代わって生姜をカゴに押し込んでいく。
「知らなくて当たり前。で、知ってどうなる? 同情して優しくしてくれんの?」
売り言葉に買い言葉でつい言い返してしまいたくなるが、それすら言葉が出てこなくて窮地に陥ったアリシャは咄嗟に宣言してしまった。
「私はもう泣かないから!」
「そりゃ無理だろ」
涙もろい自覚のあるアリシャはグッと詰まるが「頑張ればなんだってできるわよ!」と、なんとか反論してみた。
「玉ねぎを切ってても?」
「それは泣くの意味が違うでしょ」
生姜をどれ位入れたらいいのか問われたのでそれでいいと答えた。エドは樽を起こし、蓋をはめた。
「俺の話を聞いたのか? 俺というより母親の話」
口止めはされなかったが、話すのはマズかったのかとドキリとした。かと言って今更聞いてないと言っても白々しく感じるのではないかと思い、ここは正直に聞いたことを認めた。
「聞いたわ……その、勝手に聞いてごめんなさい」
「いや、別にいいさ。それより、あと何を持っていくんだ?」
話を流したというよりエドは遮った。でも話したくないなら仕方がないし、アリシャだって両親が亡くなった時のことは思い出したくないのだから、エドもそうなのだと考えて運びたいものを手に取った。
布巾に包まれたチーズをカゴに二つと、バターの壺もあるだけカゴにいれる。ここまでで既にカゴは物凄い重量だった。
「俺は小麦を樽ごと運んでやる。行けるか?」
そこに「アリシャ!」とリアナが飛び込んできた。そこにエドも居ることに気がつくと急に足を止めてカチンと固まった。
「エド……様」
エドは眉根を寄せて苦笑いを浮かべた。
「様ってなんだよ」
「王子様なんでしょう?」
おずおずと聞くリアナにエドは肩を上げた。
「王子は辞めたんだ」
ナイーブな質問だとハラハラしたが、エドは気分を害したような態度はみせなかった。
次にリアナがチラチラとアリシャを見ているので「なに?」と聞いてみた。
「アリシャはもう洗濯しなくて済むんだと思っていたのよ。だって……エドと良い仲でしょ? 王子様と結婚したら洗濯なんかしないで暮らせるんだなぁって」
なんというか、バツが悪いとアリシャはチラリとエドの様子を窺ってしまった。良い仲と言われたことも恥ずかしい。エドは問うように眉を上げ腕を組んでアリシャの答えを待った。
「えっとね、私はエドがどんな人であろうと洗濯はするわ」
エドがアリシャの答えに堪えきれずに吹き出して、肩を揺らして笑い出した。
「そりゃいい」
リアナの好奇心はもう抑えられないようで、それならとまた困ったことを言い出した。
「エクトル様と結婚しても?」
「え! やだ、なんでエクトルが出て来るの?」
「だって、アリシャアリシャってなんだかアリシャのことが大好きなんだもの」
これまでの言動の数々。今になってその一つ一つにエドの気持ちが込められていたことを知った。
泣いているのは見たくないと言っていた。防御の力を持つ子に対して根回しの大事さをアリシャに解いてくれた。
アリシャが力をコントロール出来ない時期は練習にも付き合ってくれた。自分は力を出せずに苦しみぬいたはずなのに。
背景が見えた後、エドの行為の数々に切なさと感謝が溢れていく。
「……エドはいつもそんな苦悩をまるで見せませんでした」
アリシャが言うとドクはニコッと微笑んでアリシャの肩を叩いた。
「強い子なんだ。精神面は誰よりも強く、多くのことに耐えて前を見据えて進む立派な男だよ。アリシャ、頼むよ。エドを幸せにしてやってくれ」
「私に出来るのでしょうか……」
「出来るさ。幸せにするなんて実は簡単なことなんだよ、アリシャ」
アリシャが驚くと、あははと声を上げて笑った。
「俺はレゼナが笑ってるとそれだけでなんか幸せだと思う。ほら、簡単だろ? よし、ちょっとレゼナの笑顔でも拝んでくるかー」
ドクはそう言うとウィンクをして、口笛を吹きながら出て行った。
アリシャは冬の間の食料を確認するために、食料庫に入っていった。
少しずつ料理部屋やアリシャの部屋に運び入れて貰っているが、暇を見つけては自分でも運ぶようにしていた。
今日はカゴを二つ持ってきているのでそこに入るだけ持っていくつもりだった。
壁に寄せてある樽から生姜を取り出して、カゴに移していく。樽は大きくアリシャの腰の高さを超えていた。そこに半分程入っている生姜を取ろうとすると、アリシャは上半身を樽に入れなくては届かない。
「んー……遠い!」
唸りながら樽に顔を突っ込んでいるとトントンと樽を外から叩く音がした。アリシャが樽から顔を出すとエドが立っていた。
「お前さ、頭を使えよ」
呆れ顔のエドはアリシャに退くように合図すると、樽を横に倒した。こぼれ落ちないまでも、生姜が樽の口当たりまで出てきた。
「ほら、取れんだろ?」
エドはこれまで通りなにも変わらずアリシャに接してきた。アリシャの方は何か……気の利いた言葉をかけたいのに、なにも出て来なくてオロオロとしていた。
「エド……私、何も知らなくて」
エドはチラリとアリシャを見たが、アリシャに代わって生姜をカゴに押し込んでいく。
「知らなくて当たり前。で、知ってどうなる? 同情して優しくしてくれんの?」
売り言葉に買い言葉でつい言い返してしまいたくなるが、それすら言葉が出てこなくて窮地に陥ったアリシャは咄嗟に宣言してしまった。
「私はもう泣かないから!」
「そりゃ無理だろ」
涙もろい自覚のあるアリシャはグッと詰まるが「頑張ればなんだってできるわよ!」と、なんとか反論してみた。
「玉ねぎを切ってても?」
「それは泣くの意味が違うでしょ」
生姜をどれ位入れたらいいのか問われたのでそれでいいと答えた。エドは樽を起こし、蓋をはめた。
「俺の話を聞いたのか? 俺というより母親の話」
口止めはされなかったが、話すのはマズかったのかとドキリとした。かと言って今更聞いてないと言っても白々しく感じるのではないかと思い、ここは正直に聞いたことを認めた。
「聞いたわ……その、勝手に聞いてごめんなさい」
「いや、別にいいさ。それより、あと何を持っていくんだ?」
話を流したというよりエドは遮った。でも話したくないなら仕方がないし、アリシャだって両親が亡くなった時のことは思い出したくないのだから、エドもそうなのだと考えて運びたいものを手に取った。
布巾に包まれたチーズをカゴに二つと、バターの壺もあるだけカゴにいれる。ここまでで既にカゴは物凄い重量だった。
「俺は小麦を樽ごと運んでやる。行けるか?」
そこに「アリシャ!」とリアナが飛び込んできた。そこにエドも居ることに気がつくと急に足を止めてカチンと固まった。
「エド……様」
エドは眉根を寄せて苦笑いを浮かべた。
「様ってなんだよ」
「王子様なんでしょう?」
おずおずと聞くリアナにエドは肩を上げた。
「王子は辞めたんだ」
ナイーブな質問だとハラハラしたが、エドは気分を害したような態度はみせなかった。
次にリアナがチラチラとアリシャを見ているので「なに?」と聞いてみた。
「アリシャはもう洗濯しなくて済むんだと思っていたのよ。だって……エドと良い仲でしょ? 王子様と結婚したら洗濯なんかしないで暮らせるんだなぁって」
なんというか、バツが悪いとアリシャはチラリとエドの様子を窺ってしまった。良い仲と言われたことも恥ずかしい。エドは問うように眉を上げ腕を組んでアリシャの答えを待った。
「えっとね、私はエドがどんな人であろうと洗濯はするわ」
エドがアリシャの答えに堪えきれずに吹き出して、肩を揺らして笑い出した。
「そりゃいい」
リアナの好奇心はもう抑えられないようで、それならとまた困ったことを言い出した。
「エクトル様と結婚しても?」
「え! やだ、なんでエクトルが出て来るの?」
「だって、アリシャアリシャってなんだかアリシャのことが大好きなんだもの」
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