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冬キャベツとベーコンのスープ

冬キャベツとベーコンのスープ7

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 嫌そうな割には一気に飲み干し、顔中にシワをつくって暫く動きを止めていた。

「エド、ジャムを持ってきたんだけど口直し──」

「する。早く」

 急かされてアリシャはダッシュでカゴの中で出番待ちしていた壺を取ってきた。エドはアリシャの手からは奪うように壺を取って、自分のスプーンで中身を掬い口に入れた。ジャムを飲み込んだ拍子に咳き込んだが、それでも二杯三杯とスプーンで掬ってリンゴジャムを食べていった。

「リンゴジャムを食べさせる為の罠なんじゃねぇのか、この薬」

 エドがスープしか飲まなかったので、それならそれで効果はあったはずだ。むせているのは気の毒だが、これでエドの体内に入った栄養は追加された。

「ああ、アリシャ食ってなかったよな。悪い、俺のスプーンを突っ込んだから食えなくなった」

 粗方食べると壺を返しながらエドは詫びた。

「エドが食べてくれた方がいいから。思ったより元気そうで良かったわ」

 アリシャには聞きたいことも言いたいことも山ほどあるけれど、それにはエドに生きていて貰わなきゃ困る。

(私ばっかり好きだなんて不公平だわ)

 そこで不意にボリスの顔を思い出し、ボリスもこんな気持ちでいるならば嫌だろうと思った。早く諦めてくれたらと願うばかりだ。

 食事の片付けを終えると戸を締めて寝る支度を仕出す。それまでうつらうつらしていたエドが目を覚まし「何?」と問う。

 アリシャは残り二つのベッドのどちらかを借りたいと思っていた。出来ればレゼナのがいいが、見た目では到底わからない。布団を捲って見たところでもわからず、そんなアリシャの動きに気が付いて目を覚ましたということだった。

「ベッドをお借りしたいの。出来ればレゼナのを」

「自分の家に戻れよ」

「嫌です。戻らない」

 毅然とした態度で挑むとエドはため息の代わりに咳を少し。

「うつるぞ」

防御カライズ使ったままだから平気よ。それにそれでも駄目ならもう手遅れ」

 ゲホっと咳をし「女って看病って名がつくと急に張り切るのなんなんだ」とボヤいた。

 エドは誰か他の女性に看病されたことがあるのだろうか。ちょっとヒリヒリする気持ちを見透かされて「レゼナだろ。直ぐにしょげるなよ」と面倒そうに言い放った。

「服脱げ」

「え? ああ、布団に入るときにね……で、どちらがレゼナのベッド?」

「ここ」

 エドは自分に掛かっている布団の端を持ち上げる。

「ん、エドは布団から出なくていいわ。じゃあ……」

「いや、こっちに入れ。寒いしちょうどいい。お前抱いて寝るから」

 アリシャが赤面したかどうか、暗くても見えなくても、歴然としていた。

 早くと急かされ挙げ句に咳き込まれ、アリシャ自身どうかしていると感じながらも服を脱ぎ、人生の中で一番素早く布団に滑り込んだ。エドはアリシャを背後から抱きしめて、引き寄せた。

「あったけぇ」

 頭の中までは心臓の音がしていたが、それでもエドの身体が異常に熱いのを感じていた。

「エ、エド。あなた、焼けた石みたい!」

「頭は熱い。体は寒くて痛い」

 エドが話すと熱い息が首筋をくすぐった。エドの熱が伝播してアリシャは余すところなく熱くなっていく。顔なんてこれ以上熱せられたら溶け出しそうだ。

「お前あったかいな……あー、寝れそう」

 とにかく一刻も早くエドに寝付いて欲しい。熱い息、身体に回された手、エドを苦しめる熱すらアリシャの骨の中までは溶かしてしまいそうだった。

「アリシャ……、なんか話してて」

 脳まで溶けて流れそうなのにエドは無理難題を出す。何かと言われて何を話せばいいのだろうかと、話題を探した。聞きたいことはあるけれど聞いていいのか判断できない。

「何かって……レオさんがエドには治って欲しいって。レオさんって何でも知っているわよね。元々は何をしていた人なの?」

「会話じゃなくて独り言にしてくれ……寝るから」

 確かにそうかもしれないが、アリシャ一人でそんなにいつまでも話していられない。仕方がないのでその後はひたすら料理の話をしていた。いつしかエドの腕から力が抜け、規則正しい寝息が聞こえだした。

 アリシャは色々なものから開放され、そっと振り返り間近でエドを眺めてみた。

(早く良くなってエド)

 祈りながらアリシャも目を閉じた。
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