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冬キャベツとベーコンのスープ
冬キャベツとベーコンのスープ
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果物の収穫が終わり、人参やキャベツの収穫が始まっていた。馬のスリは毎日新鮮な人参を貰って、ご機嫌で収穫作業の手伝いをしている。アリシャも手が空けば出来るだけ畑に赴いていた。
合間をぬって、キティとココのカゴを完成させたが二匹ともアリシャの気持ちを汲むつもりはないようだ。キティは相変わらず寄り付かないし、ココもどんなに言い聞かせても夜中にアリシャのベッドに登ってきて、しれっと朝を迎えている。
仕方がないので朝の仕事が一段落したあと、ココの身体を洗ってやった。ココは喜ばないが、アリシャとしてはシーツ類を汚されるのは勘弁してほしいので決行した。
そんな訳で、アリシャが畑に行く時は大抵ついてくるココが今日は不貞腐れて来なかった。
「あら、一人なの?」
リンゴの選別からアヴリルは毎日畑仕事を手伝っているらしい。今日も人参の葉を落とす仕事を担っていた。一度掘り起こした人参は葉を落として宿屋の炉の近くに穴を掘って埋め直すのだ。屋外でも炉の近くなら地面が凍りつかず、こうすると冬の間も腐らずいつでも人参が食べられる。
「ココは日向で身体を乾かしているの。洗ったら不機嫌になっちゃって」
アリシャは葉を落とした人参をどうしたらいいのか聞いて、言われた通り荷台に載せていく。
「ココったら、まるで人間みたいね」
「ワガママになって困ってるの。あ、そのカゴに葉を入れて貰える? 葉も美味しいから」
廃棄用の穴が掘ってあり、そこに投げ入れようとしていた人参の葉をアヴリルはアリシャのカゴに入れた。
「ねぇアヴリル。今年は暖かいと言っても秋なんだし、外で作業していて冷えない?」
「大丈夫よ。それにね、見てちょうだい。ウィンが今日は畑に来ているのよ! 一緒に居たいじゃない?」
少しずつ 鍛冶屋の仕事を覚えているウィンだが、ここのところは農業の手伝いに駆り出されていた。鍛冶屋の師匠のジャンも、脚が悪いにも関わらず畑の手伝いをしている。
それにしてもアヴリルとウィンはうまくいっているらしい。仲睦まじいのは見ているアリシャも微笑ましく感じる。それと共に羨ましくもあるのだが、そこはなるべく考えないように努めていた。
「冷やさないようにね」
次々に葉のない人参をカゴに拾い入れて、満タンになるとアリシャは荷車にヨロヨロしながら運んでいく。キャベツよりマシだが人参も相当重くてアリシャは運び始めると話す余力がなくなって、専ら相槌ばかり打っていた。
「もうすぐ暖炉も出来るみたいだし、寒くなってきたらそっちで縫い物をさせてもらうわね。それまでは畑で働かせて貰うわ」
アヴリルは口も動くが手もしっかり動かしている。レゼナみたいだ。そう思うとウィンがアヴリルと結婚したのは自然なことだったのかもしれないと思い至る。母親に似た人を好きになる男性は多いと聞いたことがあった。
「暖炉の薪代は村の皆で折半するって話も出ているみたい。アリシャ、葉はどれくらい要るの? カゴいっぱいにするべき?」
「半分くらい──で!」
力を入れてカゴを持ち上げると無意味に語尾が強くなる。アリシャの額にはうっすら汗が浮かび始めていた。
「そうそう、聞いた? エドがお隣の村に住む狩人にいたく気に入られているらしいのよ。明日もエドだけ暖房作りはお休みして鹿を狩りに行くんだって。ねぇ、アリシャ。エドに気持ちは伝えてあるの?」
アリシャは持っていたカゴを落としそうになった。なんとか堪らえて荷車に置いたが、息が上がっていたのも手伝って直ぐに返事ができなかった。
「──気持ちって。ど、どうして?」
「あらぁ、アリシャってば。狩人が気に入っているのは娘さんが居て、エドが狩りの名手だからよ。婿に欲しいってわけ」
愕然として、ポカンと口を開けたあとに唾を飲み込んだ。
「でも! エドにはまだ結婚なんて早いわ。ウィンですら早いって思ったのに、まさかそんな……」
「そうよね。でも結婚は先でしょうけど、唾を付けていきたいんじゃない? エドはそれじゃなくても男前じゃない。うかうかしていたら誰かと恋仲になっちゃうわ」
世界がぐるんと一回転したのかと思ったが、それはアリシャが無自覚に天を仰いでいたからだった。
アヴリルにそれとなくその狩人とは誰なのか聞いてみたら、隣村の住人ではなかった。又聞きして勘違いしたらしかった。
人参の葉が入ったカゴを手に宿屋に戻ると、ボリスとエドがせっせと石を積んで暖炉を作っていた。木も使い、今はアーチの部分を積んでいた。
「ああ、アリシャ。お帰り」
作業の手を止めてボリスがにこやかに挨拶をした。エドはアリシャを見ただけで何も言わなかった。
「ただいま。アーチまできたのね」
「そう、空気の取入口を作るのに手こずったらからちょっと遅れてるけど、アーチが出来れば暫くは一人でもやれるしね」
「ああ、さっき聞いたわ。エドは狩りに行くんでしょ?」
屈んで石を掴んで立ち上がったエドが「よく知ってんなぁ」と、呆れたように呟いた。
「だってアヴリルから聞いたんだもの」
「それを話したのは俺だしな」
ボリスが石を取り上げ微調整をしながら、情報の出どころが自分であることを述べた。
「エド。狩りにパンを持っていく? 夜ご飯のときに包んで渡せるわよ」
「ああ」
素っ気ないにも程があると思ったのはアリシャだけではなかったらしい。ボリスがおいおいとエドに注意する。
「もう少しさぁ、言い方あるだろ」
「そりゃどうも」
虫の居所が悪いのか、ボリスにもあまり良い態度とは言えずアリシャはボリスと顔を見合わせた。
合間をぬって、キティとココのカゴを完成させたが二匹ともアリシャの気持ちを汲むつもりはないようだ。キティは相変わらず寄り付かないし、ココもどんなに言い聞かせても夜中にアリシャのベッドに登ってきて、しれっと朝を迎えている。
仕方がないので朝の仕事が一段落したあと、ココの身体を洗ってやった。ココは喜ばないが、アリシャとしてはシーツ類を汚されるのは勘弁してほしいので決行した。
そんな訳で、アリシャが畑に行く時は大抵ついてくるココが今日は不貞腐れて来なかった。
「あら、一人なの?」
リンゴの選別からアヴリルは毎日畑仕事を手伝っているらしい。今日も人参の葉を落とす仕事を担っていた。一度掘り起こした人参は葉を落として宿屋の炉の近くに穴を掘って埋め直すのだ。屋外でも炉の近くなら地面が凍りつかず、こうすると冬の間も腐らずいつでも人参が食べられる。
「ココは日向で身体を乾かしているの。洗ったら不機嫌になっちゃって」
アリシャは葉を落とした人参をどうしたらいいのか聞いて、言われた通り荷台に載せていく。
「ココったら、まるで人間みたいね」
「ワガママになって困ってるの。あ、そのカゴに葉を入れて貰える? 葉も美味しいから」
廃棄用の穴が掘ってあり、そこに投げ入れようとしていた人参の葉をアヴリルはアリシャのカゴに入れた。
「ねぇアヴリル。今年は暖かいと言っても秋なんだし、外で作業していて冷えない?」
「大丈夫よ。それにね、見てちょうだい。ウィンが今日は畑に来ているのよ! 一緒に居たいじゃない?」
少しずつ 鍛冶屋の仕事を覚えているウィンだが、ここのところは農業の手伝いに駆り出されていた。鍛冶屋の師匠のジャンも、脚が悪いにも関わらず畑の手伝いをしている。
それにしてもアヴリルとウィンはうまくいっているらしい。仲睦まじいのは見ているアリシャも微笑ましく感じる。それと共に羨ましくもあるのだが、そこはなるべく考えないように努めていた。
「冷やさないようにね」
次々に葉のない人参をカゴに拾い入れて、満タンになるとアリシャは荷車にヨロヨロしながら運んでいく。キャベツよりマシだが人参も相当重くてアリシャは運び始めると話す余力がなくなって、専ら相槌ばかり打っていた。
「もうすぐ暖炉も出来るみたいだし、寒くなってきたらそっちで縫い物をさせてもらうわね。それまでは畑で働かせて貰うわ」
アヴリルは口も動くが手もしっかり動かしている。レゼナみたいだ。そう思うとウィンがアヴリルと結婚したのは自然なことだったのかもしれないと思い至る。母親に似た人を好きになる男性は多いと聞いたことがあった。
「暖炉の薪代は村の皆で折半するって話も出ているみたい。アリシャ、葉はどれくらい要るの? カゴいっぱいにするべき?」
「半分くらい──で!」
力を入れてカゴを持ち上げると無意味に語尾が強くなる。アリシャの額にはうっすら汗が浮かび始めていた。
「そうそう、聞いた? エドがお隣の村に住む狩人にいたく気に入られているらしいのよ。明日もエドだけ暖房作りはお休みして鹿を狩りに行くんだって。ねぇ、アリシャ。エドに気持ちは伝えてあるの?」
アリシャは持っていたカゴを落としそうになった。なんとか堪らえて荷車に置いたが、息が上がっていたのも手伝って直ぐに返事ができなかった。
「──気持ちって。ど、どうして?」
「あらぁ、アリシャってば。狩人が気に入っているのは娘さんが居て、エドが狩りの名手だからよ。婿に欲しいってわけ」
愕然として、ポカンと口を開けたあとに唾を飲み込んだ。
「でも! エドにはまだ結婚なんて早いわ。ウィンですら早いって思ったのに、まさかそんな……」
「そうよね。でも結婚は先でしょうけど、唾を付けていきたいんじゃない? エドはそれじゃなくても男前じゃない。うかうかしていたら誰かと恋仲になっちゃうわ」
世界がぐるんと一回転したのかと思ったが、それはアリシャが無自覚に天を仰いでいたからだった。
アヴリルにそれとなくその狩人とは誰なのか聞いてみたら、隣村の住人ではなかった。又聞きして勘違いしたらしかった。
人参の葉が入ったカゴを手に宿屋に戻ると、ボリスとエドがせっせと石を積んで暖炉を作っていた。木も使い、今はアーチの部分を積んでいた。
「ああ、アリシャ。お帰り」
作業の手を止めてボリスがにこやかに挨拶をした。エドはアリシャを見ただけで何も言わなかった。
「ただいま。アーチまできたのね」
「そう、空気の取入口を作るのに手こずったらからちょっと遅れてるけど、アーチが出来れば暫くは一人でもやれるしね」
「ああ、さっき聞いたわ。エドは狩りに行くんでしょ?」
屈んで石を掴んで立ち上がったエドが「よく知ってんなぁ」と、呆れたように呟いた。
「だってアヴリルから聞いたんだもの」
「それを話したのは俺だしな」
ボリスが石を取り上げ微調整をしながら、情報の出どころが自分であることを述べた。
「エド。狩りにパンを持っていく? 夜ご飯のときに包んで渡せるわよ」
「ああ」
素っ気ないにも程があると思ったのはアリシャだけではなかったらしい。ボリスがおいおいとエドに注意する。
「もう少しさぁ、言い方あるだろ」
「そりゃどうも」
虫の居所が悪いのか、ボリスにもあまり良い態度とは言えずアリシャはボリスと顔を見合わせた。
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