43 / 131
そら豆のフリッターエビ塩掛け
そら豆のフリッターエビ塩掛け6
しおりを挟む
いざ調理する段になると、リアナは畑の用事が出来てしまいアリシャは一人になってしまった。
そら豆の入っていたカゴには毎朝とれる卵や牛乳も入れられている。カゴから卵を出して割り、泡立てているといつものようにエドがやって来た。小腹が空くと直ぐにやってくるのだ。
「アリシャなんか食う物」
戸口で騒ぐエドにココはすかさず駆け寄っていく。
「お金を払ってくれなきゃあげないわよ」
意地悪で言っているわけではない。エドにだけ贔屓するのは皆にも申し訳ない。エドだって狩りで金を得ているとレゼナが話していたから、払えないことはないはずなのだ。
「お前のへっぽこぶりに付き合ってやってるのは誰かな?」
アリシャの隣に来て顔を覗き込むエドに後ずさりながら、アリシャはエドを押しやる。
「近いってばー」
エドの顔が整っていることはリアナじゃなくても認めるところだ。意地悪しなければ、アリシャだって……エドはカッコいいような気がするのだから。
「近づかれたくないなら防御を使えよ。ほら、ほら!」
エドの薄茶色の美しい瞳は琥珀みたいだ。とにかく近いとその瞳に吸い込まれてしまいそうになる。
「あー、もう! それでエドが怪我したら大変でしょう!」
「自分の周りに防御使うくらい寝てても出来なきゃ駄目だろ」
更にググっと距離をつめたエドにアリシャの心臓は飛び出しそうだった。
「真っ赤」
「だって!」
「リンゴか? お前がリンゴだったら直ぐに熟していいな」
パッと身を翻して、足元にいたココを抱き上げると額にキスをした。ココはそれはもう喜んで尻尾が切れてしまうのではないかというほどブンブン振り回してエドにキスを返していた。
「あーわかった、わかった。お前は可愛いなぁ」
夢中になってエドの口を舐めるココを下ろすと笑いながら口を拭った。そして部屋から出ていこうとするので、つい「エド!」と呼びかける。
「お腹、お腹空いたんでしょう? この前リリーさんの所に卸した菓子なら少し残ってる」
なぜエドに対して甘いのかアリシャ自身もわからないが、つい呼び止めて菓子をあげてしまうのだ。自分でもこの行動にモヤモヤとしながら荒々しく壺を開けて中身の菓子を握りエドに突き出した。
「どうも。ご褒美欲しい?」
受け取ったエドが変なことを言うので、アリシャは目を泳がせていた。そんなアリシャの頭の天辺に軽く唇をあて「食べ頃」とだけ呟いて出ていった。
「リ、リンゴじゃないもん!」
やっと反応出来た頃にはエドの姿形はないのだった。
心臓の音だけ響いていて何がなんだかわからなかったが、ギクシャク動き出してとにかく食事を作っていく。
その日はナジ一家の歓迎会として、急遽リリーの店から買えるだけのりんご酒を買ってきて、みんなにも振る舞われた。これはもちろんレオやドクの金が使われたが、少しだけ余裕が出来てきたアリシャも資金を渡すことが出来た。それは一人前の大人になれた気がして誇らしい気持ちになる出来事だった。
「この粉……」
りんご酒を手にナジはそら豆のフリッターにかけられたエビの粉に興味を示していた。
「エビの殻をとっておいて粉にしてかけたんですよ」
そう答えたのはリアナで、最後に慌てて「と、アリシャが話してました」と付け足していた。
「アリシャが来てからは毎日毎日食事が楽しくて仕方ないわ」
レゼナの言葉にナジも大いに賛成し、そら豆のフリッターをパクパクと口に運んでいく。
「リリーさんの店で買っていたときから毎日こんなもんが食えたらさぞ幸せだろうって思ってたんだよ。なぁ、倅たち」
ナジの息子たちは二人共頷いた。
「いやぁ、ホント嫁を亡くして俺がずっと作っていたからな。こいつらは美味いもんを食ったことがなかった。それが、あのベリーパイを食っちまったろ? あまりの衝撃に二人共固まっちまって暫く何も言わなかったんですぜ」
だって本当に美味かったんだもんと呟くユーリに、歳の近いリアナが笑いながらわかるわと話しかけていた。
「君が作っているなんて驚きだよ」
ルクに話しかけられてアリシャは横に座るルクに顔を向けた。それにしてもドクとウィンもそっくりだと思っていたが、ナジとルク親子を見ているとドク親子は思っていたほど似ていないように感じてしまう。それほどナジ達はナジの血が濃いように思う。
「私もよ」
余りに似ているからついつい驚きだよと言う言葉に便乗してしまったが、なんだか話の流れ的におかしくなったので笑みを押し殺して言い直す。
「ごめんなさい。私、あなた達が余りに似てるものだから気になってしまって。驚きだよってあなたの言葉についつい乗ってしまったの。驚くほど似てるから」
「ああ……よく言われるよ。お父さんを知ってる人は俺をナジナジって呼ぶんだ」
「ナジナジ? じゃあユーリは──」
「ナジナジナジさ」
二人は揃って吹き出して笑った。一通り笑うとそばかすを散らした頬を引き締めてルクは笑いを収めようとした。そんな動作がなんだか可笑しくてアリシャは全く笑いが引かなくて困った。
「アリシャはよく笑うね。女の子はみんなそんな感じ?」
「ん? それはわからないけど、なぜ?」
ルクは器によそってあったベリージャム入りの肉を口に入れて「マジで美味いよ」と言ってから答えた。
そら豆の入っていたカゴには毎朝とれる卵や牛乳も入れられている。カゴから卵を出して割り、泡立てているといつものようにエドがやって来た。小腹が空くと直ぐにやってくるのだ。
「アリシャなんか食う物」
戸口で騒ぐエドにココはすかさず駆け寄っていく。
「お金を払ってくれなきゃあげないわよ」
意地悪で言っているわけではない。エドにだけ贔屓するのは皆にも申し訳ない。エドだって狩りで金を得ているとレゼナが話していたから、払えないことはないはずなのだ。
「お前のへっぽこぶりに付き合ってやってるのは誰かな?」
アリシャの隣に来て顔を覗き込むエドに後ずさりながら、アリシャはエドを押しやる。
「近いってばー」
エドの顔が整っていることはリアナじゃなくても認めるところだ。意地悪しなければ、アリシャだって……エドはカッコいいような気がするのだから。
「近づかれたくないなら防御を使えよ。ほら、ほら!」
エドの薄茶色の美しい瞳は琥珀みたいだ。とにかく近いとその瞳に吸い込まれてしまいそうになる。
「あー、もう! それでエドが怪我したら大変でしょう!」
「自分の周りに防御使うくらい寝てても出来なきゃ駄目だろ」
更にググっと距離をつめたエドにアリシャの心臓は飛び出しそうだった。
「真っ赤」
「だって!」
「リンゴか? お前がリンゴだったら直ぐに熟していいな」
パッと身を翻して、足元にいたココを抱き上げると額にキスをした。ココはそれはもう喜んで尻尾が切れてしまうのではないかというほどブンブン振り回してエドにキスを返していた。
「あーわかった、わかった。お前は可愛いなぁ」
夢中になってエドの口を舐めるココを下ろすと笑いながら口を拭った。そして部屋から出ていこうとするので、つい「エド!」と呼びかける。
「お腹、お腹空いたんでしょう? この前リリーさんの所に卸した菓子なら少し残ってる」
なぜエドに対して甘いのかアリシャ自身もわからないが、つい呼び止めて菓子をあげてしまうのだ。自分でもこの行動にモヤモヤとしながら荒々しく壺を開けて中身の菓子を握りエドに突き出した。
「どうも。ご褒美欲しい?」
受け取ったエドが変なことを言うので、アリシャは目を泳がせていた。そんなアリシャの頭の天辺に軽く唇をあて「食べ頃」とだけ呟いて出ていった。
「リ、リンゴじゃないもん!」
やっと反応出来た頃にはエドの姿形はないのだった。
心臓の音だけ響いていて何がなんだかわからなかったが、ギクシャク動き出してとにかく食事を作っていく。
その日はナジ一家の歓迎会として、急遽リリーの店から買えるだけのりんご酒を買ってきて、みんなにも振る舞われた。これはもちろんレオやドクの金が使われたが、少しだけ余裕が出来てきたアリシャも資金を渡すことが出来た。それは一人前の大人になれた気がして誇らしい気持ちになる出来事だった。
「この粉……」
りんご酒を手にナジはそら豆のフリッターにかけられたエビの粉に興味を示していた。
「エビの殻をとっておいて粉にしてかけたんですよ」
そう答えたのはリアナで、最後に慌てて「と、アリシャが話してました」と付け足していた。
「アリシャが来てからは毎日毎日食事が楽しくて仕方ないわ」
レゼナの言葉にナジも大いに賛成し、そら豆のフリッターをパクパクと口に運んでいく。
「リリーさんの店で買っていたときから毎日こんなもんが食えたらさぞ幸せだろうって思ってたんだよ。なぁ、倅たち」
ナジの息子たちは二人共頷いた。
「いやぁ、ホント嫁を亡くして俺がずっと作っていたからな。こいつらは美味いもんを食ったことがなかった。それが、あのベリーパイを食っちまったろ? あまりの衝撃に二人共固まっちまって暫く何も言わなかったんですぜ」
だって本当に美味かったんだもんと呟くユーリに、歳の近いリアナが笑いながらわかるわと話しかけていた。
「君が作っているなんて驚きだよ」
ルクに話しかけられてアリシャは横に座るルクに顔を向けた。それにしてもドクとウィンもそっくりだと思っていたが、ナジとルク親子を見ているとドク親子は思っていたほど似ていないように感じてしまう。それほどナジ達はナジの血が濃いように思う。
「私もよ」
余りに似ているからついつい驚きだよと言う言葉に便乗してしまったが、なんだか話の流れ的におかしくなったので笑みを押し殺して言い直す。
「ごめんなさい。私、あなた達が余りに似てるものだから気になってしまって。驚きだよってあなたの言葉についつい乗ってしまったの。驚くほど似てるから」
「ああ……よく言われるよ。お父さんを知ってる人は俺をナジナジって呼ぶんだ」
「ナジナジ? じゃあユーリは──」
「ナジナジナジさ」
二人は揃って吹き出して笑った。一通り笑うとそばかすを散らした頬を引き締めてルクは笑いを収めようとした。そんな動作がなんだか可笑しくてアリシャは全く笑いが引かなくて困った。
「アリシャはよく笑うね。女の子はみんなそんな感じ?」
「ん? それはわからないけど、なぜ?」
ルクは器によそってあったベリージャム入りの肉を口に入れて「マジで美味いよ」と言ってから答えた。
10
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
薬草師リリアの結婚
あんのみ(庵野みかさ)
恋愛
「あたしの誕生日パーティー、もう始まってたのね……」
今日はハーブ男爵家の長女リリアの十七歳の誕生日。
そのパーティーが盛大に行われているが、実際は、結婚適齢期を迎えた義妹ディアナのためのお披露目の会。
ハーブ家で唯一の『薬草師』として、継母に奴隷の如くこき使われているリリアは、ボロボロのメイド服を着て、顔も髪も汚いせいで、会場にすら入れない。
だけど、せっかくの誕生日。
自分へのささやかなご褒美に、憧れの人、オスカー・グリンウッド辺境伯様をひと目でいいから拝みたい。
そう思ってこっそり庭に出てきたリリアは、そこでオスカー様に声をかけられて――
自分磨きを経て幸せをつかみ取る女の子の物語。
-----
アイコンはPicrewの「おさむメーカー」でつくりました https://picrew.me/share?cd=JP0AQJAhYU #Picrew #おさむメーカー
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?
江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】
ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる!
※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。
カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過!
※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪
※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
異世界転生 勝手やらせていただきます
仏白目
ファンタジー
天使の様な顔をしたアンジェラ
前世私は40歳の日本人主婦だった、そんな記憶がある
3歳の時 高熱を出して3日間寝込んだ時
夢うつつの中 物語をみるように思いだした。
熱が冷めて現実の世界が魔法ありのファンタジーな世界だとわかり ワクワクした。
よっしゃ!人生勝ったも同然!
と思ってたら・・・公爵家の次女ってポジションを舐めていたわ、行儀作法だけでも息が詰まるほどなのに、英才教育?ギフテッド?えっ?
公爵家は出来て当たり前なの?・・・
なーんだ、じゃあ 落ちこぼれでいいやー
この国は16歳で成人らしい それまでは親の庇護の下に置かれる。
じゃ16歳で家を出る為には魔法の腕と、世の中生きるには金だよねーって事で、勝手やらせていただきます!
* R18表現の時 *マーク付けてます
*ジャンル恋愛からファンタジーに変更しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる