上 下
39 / 131
そら豆のフリッターエビ塩掛け

そら豆のフリッターエビ塩掛け2

しおりを挟む
 アリシャにもエドのイメージがしっかりと伝わった。出来るかどうかは別問題だけど、受け止めるような柔らかさを出せるようにと言いたいらしい。

「それって何か利点あるのかしら? 攻撃されたら硬い防御カライズの方がいいじゃない」

「あるだろ、そりゃ。村全体に防御カライズを張るとしてさ、カチコチのだったら無関係な鳥とかも激突して死ぬんだぞ。人間だってそう。殺さずとも跳ね返すだけでいいこともあるし、あとは坂道を転がり落ちて来たココを優しく受け止めるような──」

「もぉ、ココをそんなふうな例えに使わないで!」

 エドは両肩を上げ掌を天に向けた。

「なんにせよ、強弱は付けられたほうがいいだろ。思い通りに操れなきゃ宝の持ち腐れってやつだ」

 言いながらエドは前触れなしで小石を手放した。アリシャは咄嗟に手を出して受け取ろうとしていた。すると石はふんわり羽毛に落ちた様に勢いを失って動きを空中で止めたのだ。

「あ! 出来た!」

 失敗続きだったから感激はひとしおだし、確かにアリシャは自分の中に魔力があることを知った瞬間だった。

「やりゃできるじゃねぇか」

 アリシャの出した掌からほんの少し上で止まる小石をエドは指でつまみ上げた。

回復クリシュナの主は一人に対して魔力を使うこともあれば、複数に対して使うこともある。その度合いも瀕死の人を元気にさせることから小さな切り傷を治すだけまでと自由自在──」

 アリシャはまるで見てきたように言うエドに「知り合いなの?」と笑いながら軽口を叩いた。するとエドがグッと奥歯に力を入れて不機嫌になった。

「んなわけあるか! 後は自分でやれよな」

 手荒に樽を元の場所に戻すとアリシャを見ようともせずに出ていってしまった。

 思いもしないほどの激高にアリシャはただ
だ唖然とするばかりだった。

(そんなに怒る? 確かに回復クリシュナのイライザは評判が悪いけど……)

 アリシャはエドの態度に傷付き、それを癒やしたいが為に近くで顔を掻いていたココを抱き上げた。大きくなってきたココは既にかなりの重量だ。アヒル二羽分くらいあると思うのは言いすぎだろうか。

「ココ、あなたはスクスク成長するわね。それに引き換え、私とエドの関係は全くだわ」

 ギュッと抱き締められるのは嫌がるココなのに、耐えきれなくなって力を込めてしまった。すると、ココはジタバタ暴れてアリシャの腕から飛んで逃れてしまった。

「もぅ……私は仲良くしたいだけなのに!」

 自由になったココは一目散な屋外にいってしまう。そんなココの姿にエドを重ねて、密かにため息を吐いていた。

 パイが焼き上がった頃合いをみて、レオがリリーの店に出す薬を持ってやってきた。アリシャの住むドナ村には店がないから、リリーに委託しているということらしい。

「アリシャ、これも持っていってくれ」

 カゴに入った土瓶は液体入りなので相当な重さだが、散々世話になっているレオに文句は言えない。

「はい。いつもの傷薬ですよね?」

 土瓶は五個も入っている。一つ百銅貨だ。落とすわけにはいかない。傷薬ならまだ良いが、たまに驚くほど高価な薬を持たされることがあって、その時は運ぶのにやたらと緊張する。

「そうだ。頼んだぞ」

 そう言って戻っていこうとするレオにアリシャはリリーの話を思い出して引き止めた。

「あの、昨日リリーさんが言っていたんですけど」

 くるりと振り返るとレオは「なんだね?」と聞いてくれた。

「木こりの家族を紹介するけど、どうでしょうって」

「木こりか。悪くないな」

「男の人ばかり三人家族で食事が困るとかで。それならこの村はどうだろうってことでした」

 一度床にカゴごと置いた薬を見下ろして「ならば直接私がリリーと話そう」と、取手を掴んだ。

「あ、私もパイを置きに行きます!」

 アリシャはまだ熱々のパイをどうにか布巾に乗せ始めた。

「では一緒に行くとしよう」

 レオはアリシャを急かすわけでもなく、のんびりと炉の火を小さくしたりして待っていてくれた。

 レオの威厳ある風格やドク一家の態度からしても、レオはたぶんかなり地位の高い人だったのだとアリシャは考えていた。それでも偉ぶることもなく、自ら斧を使い、雑用をこなす姿は尊敬に値する。だから皆、レオには一目置くのだということも理解していた。

「お待たせしました!」

 熱々のパイをカゴに入れ終わって声を掛けると、レオは傍らでお座りをしていたココをごく自然な流れで撫でて立ち上がった。

「さて、リリーに言い負かされぬようにしなければな」

 レオがそんなことを言ったが、流石のリリーだってレオには敵わないはずだ。

 二人が銘々カゴをぶら下げて歩き出すと、ココもご機嫌でトコトコとついてくる。もしかしすると何か持たなければならないと思ったのか、お気に入りの骨を咥えていた。

 そんなココを見て二人で顔を見合わせると自然と笑みが溢れる。

「なかなか利口な犬だな」

 レオが褒めてくれるとなんだかとってもココが頭の良い犬になったみたいで、アリシャはますます嬉しく思っていた。

 橋を渡り始めると陸より涼しい風が吹いていた。今日もこのドゥーリア川は穏やかそのものだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯

赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。 濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。 そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――? ※恋愛要素は中盤以降になります。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...