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そら豆のフリッターエビ塩掛け
そら豆のフリッターエビ塩掛け2
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アリシャにもエドのイメージがしっかりと伝わった。出来るかどうかは別問題だけど、受け止めるような柔らかさを出せるようにと言いたいらしい。
「それって何か利点あるのかしら? 攻撃されたら硬い防御の方がいいじゃない」
「あるだろ、そりゃ。村全体に防御を張るとしてさ、カチコチのだったら無関係な鳥とかも激突して死ぬんだぞ。人間だってそう。殺さずとも跳ね返すだけでいいこともあるし、あとは坂道を転がり落ちて来たココを優しく受け止めるような──」
「もぉ、ココをそんなふうな例えに使わないで!」
エドは両肩を上げ掌を天に向けた。
「なんにせよ、強弱は付けられたほうがいいだろ。思い通りに操れなきゃ宝の持ち腐れってやつだ」
言いながらエドは前触れなしで小石を手放した。アリシャは咄嗟に手を出して受け取ろうとしていた。すると石はふんわり羽毛に落ちた様に勢いを失って動きを空中で止めたのだ。
「あ! 出来た!」
失敗続きだったから感激はひとしおだし、確かにアリシャは自分の中に魔力があることを知った瞬間だった。
「やりゃできるじゃねぇか」
アリシャの出した掌からほんの少し上で止まる小石をエドは指でつまみ上げた。
「回復の主は一人に対して魔力を使うこともあれば、複数に対して使うこともある。その度合いも瀕死の人を元気にさせることから小さな切り傷を治すだけまでと自由自在──」
アリシャはまるで見てきたように言うエドに「知り合いなの?」と笑いながら軽口を叩いた。するとエドがグッと奥歯に力を入れて不機嫌になった。
「んなわけあるか! 後は自分でやれよな」
手荒に樽を元の場所に戻すとアリシャを見ようともせずに出ていってしまった。
思いもしないほどの激高にアリシャはただ
だ唖然とするばかりだった。
(そんなに怒る? 確かに回復のイライザは評判が悪いけど……)
アリシャはエドの態度に傷付き、それを癒やしたいが為に近くで顔を掻いていたココを抱き上げた。大きくなってきたココは既にかなりの重量だ。アヒル二羽分くらいあると思うのは言いすぎだろうか。
「ココ、あなたはスクスク成長するわね。それに引き換え、私とエドの関係は全くだわ」
ギュッと抱き締められるのは嫌がるココなのに、耐えきれなくなって力を込めてしまった。すると、ココはジタバタ暴れてアリシャの腕から飛んで逃れてしまった。
「もぅ……私は仲良くしたいだけなのに!」
自由になったココは一目散な屋外にいってしまう。そんなココの姿にエドを重ねて、密かにため息を吐いていた。
パイが焼き上がった頃合いをみて、レオがリリーの店に出す薬を持ってやってきた。アリシャの住むドナ村には店がないから、リリーに委託しているということらしい。
「アリシャ、これも持っていってくれ」
カゴに入った土瓶は液体入りなので相当な重さだが、散々世話になっているレオに文句は言えない。
「はい。いつもの傷薬ですよね?」
土瓶は五個も入っている。一つ百銅貨だ。落とすわけにはいかない。傷薬ならまだ良いが、たまに驚くほど高価な薬を持たされることがあって、その時は運ぶのにやたらと緊張する。
「そうだ。頼んだぞ」
そう言って戻っていこうとするレオにアリシャはリリーの話を思い出して引き止めた。
「あの、昨日リリーさんが言っていたんですけど」
くるりと振り返るとレオは「なんだね?」と聞いてくれた。
「木こりの家族を紹介するけど、どうでしょうって」
「木こりか。悪くないな」
「男の人ばかり三人家族で食事が困るとかで。それならこの村はどうだろうってことでした」
一度床にカゴごと置いた薬を見下ろして「ならば直接私がリリーと話そう」と、取手を掴んだ。
「あ、私もパイを置きに行きます!」
アリシャはまだ熱々のパイをどうにか布巾に乗せ始めた。
「では一緒に行くとしよう」
レオはアリシャを急かすわけでもなく、のんびりと炉の火を小さくしたりして待っていてくれた。
レオの威厳ある風格やドク一家の態度からしても、レオはたぶんかなり地位の高い人だったのだとアリシャは考えていた。それでも偉ぶることもなく、自ら斧を使い、雑用をこなす姿は尊敬に値する。だから皆、レオには一目置くのだということも理解していた。
「お待たせしました!」
熱々のパイをカゴに入れ終わって声を掛けると、レオは傍らでお座りをしていたココをごく自然な流れで撫でて立ち上がった。
「さて、リリーに言い負かされぬようにしなければな」
レオがそんなことを言ったが、流石のリリーだってレオには敵わないはずだ。
二人が銘々カゴをぶら下げて歩き出すと、ココもご機嫌でトコトコとついてくる。もしかしすると何か持たなければならないと思ったのか、お気に入りの骨を咥えていた。
そんなココを見て二人で顔を見合わせると自然と笑みが溢れる。
「なかなか利口な犬だな」
レオが褒めてくれるとなんだかとってもココが頭の良い犬になったみたいで、アリシャはますます嬉しく思っていた。
橋を渡り始めると陸より涼しい風が吹いていた。今日もこのドゥーリア川は穏やかそのものだ。
「それって何か利点あるのかしら? 攻撃されたら硬い防御の方がいいじゃない」
「あるだろ、そりゃ。村全体に防御を張るとしてさ、カチコチのだったら無関係な鳥とかも激突して死ぬんだぞ。人間だってそう。殺さずとも跳ね返すだけでいいこともあるし、あとは坂道を転がり落ちて来たココを優しく受け止めるような──」
「もぉ、ココをそんなふうな例えに使わないで!」
エドは両肩を上げ掌を天に向けた。
「なんにせよ、強弱は付けられたほうがいいだろ。思い通りに操れなきゃ宝の持ち腐れってやつだ」
言いながらエドは前触れなしで小石を手放した。アリシャは咄嗟に手を出して受け取ろうとしていた。すると石はふんわり羽毛に落ちた様に勢いを失って動きを空中で止めたのだ。
「あ! 出来た!」
失敗続きだったから感激はひとしおだし、確かにアリシャは自分の中に魔力があることを知った瞬間だった。
「やりゃできるじゃねぇか」
アリシャの出した掌からほんの少し上で止まる小石をエドは指でつまみ上げた。
「回復の主は一人に対して魔力を使うこともあれば、複数に対して使うこともある。その度合いも瀕死の人を元気にさせることから小さな切り傷を治すだけまでと自由自在──」
アリシャはまるで見てきたように言うエドに「知り合いなの?」と笑いながら軽口を叩いた。するとエドがグッと奥歯に力を入れて不機嫌になった。
「んなわけあるか! 後は自分でやれよな」
手荒に樽を元の場所に戻すとアリシャを見ようともせずに出ていってしまった。
思いもしないほどの激高にアリシャはただ
だ唖然とするばかりだった。
(そんなに怒る? 確かに回復のイライザは評判が悪いけど……)
アリシャはエドの態度に傷付き、それを癒やしたいが為に近くで顔を掻いていたココを抱き上げた。大きくなってきたココは既にかなりの重量だ。アヒル二羽分くらいあると思うのは言いすぎだろうか。
「ココ、あなたはスクスク成長するわね。それに引き換え、私とエドの関係は全くだわ」
ギュッと抱き締められるのは嫌がるココなのに、耐えきれなくなって力を込めてしまった。すると、ココはジタバタ暴れてアリシャの腕から飛んで逃れてしまった。
「もぅ……私は仲良くしたいだけなのに!」
自由になったココは一目散な屋外にいってしまう。そんなココの姿にエドを重ねて、密かにため息を吐いていた。
パイが焼き上がった頃合いをみて、レオがリリーの店に出す薬を持ってやってきた。アリシャの住むドナ村には店がないから、リリーに委託しているということらしい。
「アリシャ、これも持っていってくれ」
カゴに入った土瓶は液体入りなので相当な重さだが、散々世話になっているレオに文句は言えない。
「はい。いつもの傷薬ですよね?」
土瓶は五個も入っている。一つ百銅貨だ。落とすわけにはいかない。傷薬ならまだ良いが、たまに驚くほど高価な薬を持たされることがあって、その時は運ぶのにやたらと緊張する。
「そうだ。頼んだぞ」
そう言って戻っていこうとするレオにアリシャはリリーの話を思い出して引き止めた。
「あの、昨日リリーさんが言っていたんですけど」
くるりと振り返るとレオは「なんだね?」と聞いてくれた。
「木こりの家族を紹介するけど、どうでしょうって」
「木こりか。悪くないな」
「男の人ばかり三人家族で食事が困るとかで。それならこの村はどうだろうってことでした」
一度床にカゴごと置いた薬を見下ろして「ならば直接私がリリーと話そう」と、取手を掴んだ。
「あ、私もパイを置きに行きます!」
アリシャはまだ熱々のパイをどうにか布巾に乗せ始めた。
「では一緒に行くとしよう」
レオはアリシャを急かすわけでもなく、のんびりと炉の火を小さくしたりして待っていてくれた。
レオの威厳ある風格やドク一家の態度からしても、レオはたぶんかなり地位の高い人だったのだとアリシャは考えていた。それでも偉ぶることもなく、自ら斧を使い、雑用をこなす姿は尊敬に値する。だから皆、レオには一目置くのだということも理解していた。
「お待たせしました!」
熱々のパイをカゴに入れ終わって声を掛けると、レオは傍らでお座りをしていたココをごく自然な流れで撫でて立ち上がった。
「さて、リリーに言い負かされぬようにしなければな」
レオがそんなことを言ったが、流石のリリーだってレオには敵わないはずだ。
二人が銘々カゴをぶら下げて歩き出すと、ココもご機嫌でトコトコとついてくる。もしかしすると何か持たなければならないと思ったのか、お気に入りの骨を咥えていた。
そんなココを見て二人で顔を見合わせると自然と笑みが溢れる。
「なかなか利口な犬だな」
レオが褒めてくれるとなんだかとってもココが頭の良い犬になったみたいで、アリシャはますます嬉しく思っていた。
橋を渡り始めると陸より涼しい風が吹いていた。今日もこのドゥーリア川は穏やかそのものだ。
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