32 / 131
トリの柔らか煮込み
トリの柔らか煮込み4
しおりを挟む
エドはなんとか落ち着き眠りに落ちたアリシャを、スリにつけた荷台に寝かせた。寝心地は良くないだろうが暫し辛抱してもらうしかない。
アリシャが起こした火に土を掛けて消し、スリを伴い先ずはアリシャの採っていたベリーのカゴを回収した。
その後、不思議な風に押されて倒れた草の上を歩き回る。低木は根ごと掘り起こされているし、きっと逃げ遅れた鳥だろう、野鳩が数羽死んでいた。それらも荷台の端に乗せ、最後に息絶えた猪の元に辿り着いた。
矢を引き抜くと、やはり傷はさほど深くない。猪がアリシャに狙いを定めていたのを遠目で見つけ、慌てて矢を放ったので急所を外してしまったのだ。
見た目がキレイでも内蔵が潰れたりすると死ぬことがある。解体してみないとハッキリはわからないがきっとそれだとエドは踏んだ。
黙って猪の足を一括にすると、引き摺って荷台まで運び、板を使って上へと乗せた。死んだ猪と添い寝は不憫なので、アリシャの身体に布を通しエドは自分の背にしっかりと固定した。こうしないと意識のない人間を馬上に引き上げることが出来ないのだ。
(二度目だ)
前回もアリシャは気を失って声をかけても目を覚まさなかった。
スリの背になんとかよじ登ると、これまた苦戦してアリシャを自分の前に移動させる事ができた。
アリシャを抱き抱えつつ、手綱を取る。扇状に草が薙ぎ倒されている光景をジッと見つめた。まるで竜巻の通った跡のようだ。スリに歩くように合図を送った。スリは素直に歩き出す。
(奇跡が起こって一方向に風が吹いたなんて、そんなわけあるわけないしな……)
アリシャの顔を覗き込むと眠っているのに涙が止まらないままだった。
(こんなことが出来るのは……この世に三人だけ。いや、回復の主以外の二人だけか。とにかくレオさんに報告しなきゃな)
手綱を片手で持って、アリシャを抱きしめた。
(もし、レオさんがお前を追放すると言ったら……俺がついて行ってやるよ)
エドはどうせ次男だしなと呟くとゆっくりとスリを歩かせていった。
やっと日が真上に昇り、夏の太陽が川を照らしつけ、強烈な光を放っていた。
村に入るとそのまま家畜小屋へと向かった。するとガチョウの世話をしていたレゼナが「早かったのね」と驚きながら近寄ってきた。エドの胸の中に居るアリシャに気がついた時、顔中に広がっていた笑みを引っ込めた。
「どうしたの?」
「気を失ってる。父さんかウィンを呼んでくれないか? アリシャを下ろさなきゃ」
「わかったわ。ウィンは畑に。ちょっと待ってて」
ザルで餌を撒いていたレゼナは、ザルをその場に置いて走り出した。ガチョウたちがザルを目掛けて我先にと首を突っ込んでいる。
「アリシャ。村に着いたぞ。聞こえないのか?」
声を掛ければ瞼は痙攣したように震えるがハシバミ色の瞳を覗かせることはなかった。
まもなくしてウィンが先に走ってやってきた。その後をレゼナが息を切らせながら追いかけてくる。
「怪我をしてるのか?」
スリの横まで来るとウィンはアリシャを下ろすために両手を差し伸べた。エドは慎重にアリシャをその手に託した。
「いや、怪我はしてない。アリシャをベッドに運んでおいてくれ。俺はレオさんを呼びに行く」
「じゃあ私が荷を下ろすわ……って、この猪は無理だわ」
レゼナは荷台にいる大きな猪に驚いていた。
「母さん、それは僕が下ろす。ジャンさんに手を貸してもらうから。それよりスリを戻して、猪以外のを片付けておいて」
ウィンに抱えられたアリシャの頬を涙が伝う。エドはここまでの移動で何度か水筒を口に充てがってみたが、アリシャは飲むことはなかった。干からびてしまうのではないかと心配したが、どうしても飲ませることができなかった。
「レオさん呼んでくる!」
馬から飛び降りたエドはそう叫ぶとレオの家を目指した。ウィンに抱えられたアリシャをレゼナが心配そうに撫でていた。
レオを呼んで戻ってくるとアリシャの部屋には寝かされアリシャの他にドクがいて、エドが試みたように水筒の飲み口をアリシャの口に当てていた。部屋の隅にはリアナが青ざめた顔で佇んでいた。
「リアナ、心配だろうがレゼナの手伝いをしておいで」
レオに言われるとリアナは頷くが固まったまま動けなかった。さぁとドクにも言われると、ギクシャクと手足を動かして出ていった。
アリシャの愛犬ココが、アリシャの枕元でずっと尻尾を振ってアリシャに撫でてもらうのを待っている。エドが代わりに撫でると顔は向けるがまたアリシャを見て尻尾を振り続けていた。
「気つけ薬を飲ませよう。エド、器とスプーンを持ってきてくれ」
エドは言われたとおりその二つを取ってきて、その後ドクから言われて三人が座るための丸太を部屋に運び入れた。
アリシャが起こした火に土を掛けて消し、スリを伴い先ずはアリシャの採っていたベリーのカゴを回収した。
その後、不思議な風に押されて倒れた草の上を歩き回る。低木は根ごと掘り起こされているし、きっと逃げ遅れた鳥だろう、野鳩が数羽死んでいた。それらも荷台の端に乗せ、最後に息絶えた猪の元に辿り着いた。
矢を引き抜くと、やはり傷はさほど深くない。猪がアリシャに狙いを定めていたのを遠目で見つけ、慌てて矢を放ったので急所を外してしまったのだ。
見た目がキレイでも内蔵が潰れたりすると死ぬことがある。解体してみないとハッキリはわからないがきっとそれだとエドは踏んだ。
黙って猪の足を一括にすると、引き摺って荷台まで運び、板を使って上へと乗せた。死んだ猪と添い寝は不憫なので、アリシャの身体に布を通しエドは自分の背にしっかりと固定した。こうしないと意識のない人間を馬上に引き上げることが出来ないのだ。
(二度目だ)
前回もアリシャは気を失って声をかけても目を覚まさなかった。
スリの背になんとかよじ登ると、これまた苦戦してアリシャを自分の前に移動させる事ができた。
アリシャを抱き抱えつつ、手綱を取る。扇状に草が薙ぎ倒されている光景をジッと見つめた。まるで竜巻の通った跡のようだ。スリに歩くように合図を送った。スリは素直に歩き出す。
(奇跡が起こって一方向に風が吹いたなんて、そんなわけあるわけないしな……)
アリシャの顔を覗き込むと眠っているのに涙が止まらないままだった。
(こんなことが出来るのは……この世に三人だけ。いや、回復の主以外の二人だけか。とにかくレオさんに報告しなきゃな)
手綱を片手で持って、アリシャを抱きしめた。
(もし、レオさんがお前を追放すると言ったら……俺がついて行ってやるよ)
エドはどうせ次男だしなと呟くとゆっくりとスリを歩かせていった。
やっと日が真上に昇り、夏の太陽が川を照らしつけ、強烈な光を放っていた。
村に入るとそのまま家畜小屋へと向かった。するとガチョウの世話をしていたレゼナが「早かったのね」と驚きながら近寄ってきた。エドの胸の中に居るアリシャに気がついた時、顔中に広がっていた笑みを引っ込めた。
「どうしたの?」
「気を失ってる。父さんかウィンを呼んでくれないか? アリシャを下ろさなきゃ」
「わかったわ。ウィンは畑に。ちょっと待ってて」
ザルで餌を撒いていたレゼナは、ザルをその場に置いて走り出した。ガチョウたちがザルを目掛けて我先にと首を突っ込んでいる。
「アリシャ。村に着いたぞ。聞こえないのか?」
声を掛ければ瞼は痙攣したように震えるがハシバミ色の瞳を覗かせることはなかった。
まもなくしてウィンが先に走ってやってきた。その後をレゼナが息を切らせながら追いかけてくる。
「怪我をしてるのか?」
スリの横まで来るとウィンはアリシャを下ろすために両手を差し伸べた。エドは慎重にアリシャをその手に託した。
「いや、怪我はしてない。アリシャをベッドに運んでおいてくれ。俺はレオさんを呼びに行く」
「じゃあ私が荷を下ろすわ……って、この猪は無理だわ」
レゼナは荷台にいる大きな猪に驚いていた。
「母さん、それは僕が下ろす。ジャンさんに手を貸してもらうから。それよりスリを戻して、猪以外のを片付けておいて」
ウィンに抱えられたアリシャの頬を涙が伝う。エドはここまでの移動で何度か水筒を口に充てがってみたが、アリシャは飲むことはなかった。干からびてしまうのではないかと心配したが、どうしても飲ませることができなかった。
「レオさん呼んでくる!」
馬から飛び降りたエドはそう叫ぶとレオの家を目指した。ウィンに抱えられたアリシャをレゼナが心配そうに撫でていた。
レオを呼んで戻ってくるとアリシャの部屋には寝かされアリシャの他にドクがいて、エドが試みたように水筒の飲み口をアリシャの口に当てていた。部屋の隅にはリアナが青ざめた顔で佇んでいた。
「リアナ、心配だろうがレゼナの手伝いをしておいで」
レオに言われるとリアナは頷くが固まったまま動けなかった。さぁとドクにも言われると、ギクシャクと手足を動かして出ていった。
アリシャの愛犬ココが、アリシャの枕元でずっと尻尾を振ってアリシャに撫でてもらうのを待っている。エドが代わりに撫でると顔は向けるがまたアリシャを見て尻尾を振り続けていた。
「気つけ薬を飲ませよう。エド、器とスプーンを持ってきてくれ」
エドは言われたとおりその二つを取ってきて、その後ドクから言われて三人が座るための丸太を部屋に運び入れた。
10
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯
赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。
濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。
そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――?
※恋愛要素は中盤以降になります。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる