24 / 131
川エビたっぷりのとろけるキッシュ
川エビたっぷりのとろけるキッシュ4
しおりを挟む
二人とも緊張し、ココがそれを煽るように唸り続けている。
アリシャの頭の中では目まぐるしく色んな案が飛び交っていた。遭遇しなかったことにするか、事情を聞いてみてレオに判断を仰ぐか。もし盗みを働いたなら盜んだ以上に返して貰うのならどうだろうか、など。
「返したい気持ちはあっても……食べてしまったのです。お姉さん、ごめんなさい。見逃してください。この通りです」
予想よりあっさり盗みを認められ、しかも見逃して欲しいなどと懇願されてアリシャは狼狽えていた。
「見逃してあげたら、私が村の人を裏切る ことになるのよ……弁償は出来ないの?」
言い終えてからココの名を呼んでなだめたら、大人しくなった。ただ、逆立てた毛はそのままにジッと女の子の出方を窺っていた。
「出来るなら盗みません! お金があればちゃんと支払うもの」
止むに止まれぬ状況だったと言いたいのだろうが、季節は春だ。森には苺もなっているし、川だってエビが簡単に捕れたりするのだ。
この子が幾つかはっきりしないが、見たところアリシャより五つくらい下のように見える。その歳なら苺くらい難なく採れるはずだ。
「ごめんなさい。やはり見逃したりは出来ないわ。大人に判断してもら──」
まだ言い終わらないうちに、その子はアリシャの横を抜けて表に飛び出して行く。あまりのすばしっこさに驚くアリシャを置いて逃げ出し、その後を吠えながらココが追いかけ出した。
「待って! ちょっと二人とも待ちなさい!」
一足遅れて食料庫を出ると腕を組んで立っていたレオが居て驚いた。
「レオさん! あの、あの子……」
「食料を盗んでいた子供だな」
レオはまるで動じず、ココが吠えて追いかけていくのを指さした。
「ココについていこう。実は行き先は見当がついておるのだ。行こう」
レオは歩み出すがいつもより一歩が大きい。アリシャは小走りで横に並んで進んでいく。
ココが大騒ぎするものだから、草を食んでいた牛が顔を上げてココを見ていた。
「あの先には岩場があって昔岩を掘り出した坑道があるのだ」
綺麗に整備された畑の横を上がっていく。勾配がキツく、アリシャは何度か前のめりに躓くがレオは険しい顔をしたままずんずん歩いていく。
「物がなくなり出してから、いつもとは違うところで薬草をとるようにしていたのだ。見廻りも兼ねて。ほら、見てご覧」
山肌が見えてきた。そこには何個かぽっかりと口を開けた坑道の入り口があった。その一つに向かってココが盛んに吠え立てている。
目的地は見えてはいても勾配がキツイので思ったより坑道の入り口に辿り着くまでに時間がかかってしまった。ココはその間アリシャ達の元に駆けてきては早く早くと急かして戻るの繰り返し。
岩場の近くは木々が綺麗サッパリなくなっている。坑道の前についてから振り返り村を確認すると、すっかり一望出来ることを知った。
夜はカンテラや松明といった火を持って移動するから、どこに人が居るのか一目瞭然だっただろう。
「さて、説教でもしてやるか」
レオは坑道に向かって吠えているココを掬い上げると、アリシャに振り返りココを渡した。
「事情があるのかもしれないので……その、寛容に」
お人好しかもしれないが、アリシャより小さな子だったのもあり庇わずにはいられなかった。
「ちゃんと説明をしてもらわねばな」
おりたくて仕方がないココをなだめながら頷いた。走っていく女の子の服はかなり汚れていた。服だけではなく顔や髪も酷い有様だった。それだけでアリシャの心はギュッと絞られるような感覚を覚えていた。
「隠れていても何も解決せんぞ! 盗みは盗みだ!」
レオがに向けて大声を発すると、ますますアリシャは泣きたくなるほど心が痛んだ。女の子はきっと怯えて小さくなっているだろう。
「出てきなさい、二人とも」
アリシャは思わずレオの口をまじまじと見つめていた。二人と言った。アリシャは女の子しか知らない。
「理由を話せば相談にのる。しかしこのまま立て籠もるならこちらとしても考えなければならん」
真っ直ぐ坑道の中に語りかけるレオに応えて、老人とその老人を支えるように先程の女の子が出てきた。アリシャは息を呑んだ。老人は脚を引き摺っていた。服は裂かれドス黒い血が滲んでいる。
「……すまない。ワシが動けぬからリアナが私の為にそちらの食料を……しかし、ワシらには払う金がない。罰はワシが受けるからリアナは許してやってくれ」
「おじいちゃん! 私が勝手に持ってきたのよ」
レオは二人に向けて掌をあげ、言葉を遮った。
「ご老人、傷を負っているな。獣によるものに見える。直ぐに手当てをしよう」
レオはアリシャに向けて指示を出しながら老人に肩を貸した。
「アリシャ、先に宿屋に行き、井戸水を汲んでボリスのベッドに運びなさい。その後、私の家付近にいるドクを呼んできて欲しい」
「はい」
「ああ、それとドクに家から薬を持ってくるように言ってくれ」
レオの家には沢山の薬がある。小さな壺に効用が異なる薬が入ってずらりと並んでいるのだ。
「どの薬かドクさんに言わなくて大丈夫ですか?」
アリシャの返しを聞きながら老人とレオは少しずつ移動をしだす。動くと脚に響くようで老人の顔が苦痛に歪んでいた。
「獣傷だと言ってくれ。それでわかるはずだ」
アリシャの頭の中では目まぐるしく色んな案が飛び交っていた。遭遇しなかったことにするか、事情を聞いてみてレオに判断を仰ぐか。もし盗みを働いたなら盜んだ以上に返して貰うのならどうだろうか、など。
「返したい気持ちはあっても……食べてしまったのです。お姉さん、ごめんなさい。見逃してください。この通りです」
予想よりあっさり盗みを認められ、しかも見逃して欲しいなどと懇願されてアリシャは狼狽えていた。
「見逃してあげたら、私が村の人を裏切る ことになるのよ……弁償は出来ないの?」
言い終えてからココの名を呼んでなだめたら、大人しくなった。ただ、逆立てた毛はそのままにジッと女の子の出方を窺っていた。
「出来るなら盗みません! お金があればちゃんと支払うもの」
止むに止まれぬ状況だったと言いたいのだろうが、季節は春だ。森には苺もなっているし、川だってエビが簡単に捕れたりするのだ。
この子が幾つかはっきりしないが、見たところアリシャより五つくらい下のように見える。その歳なら苺くらい難なく採れるはずだ。
「ごめんなさい。やはり見逃したりは出来ないわ。大人に判断してもら──」
まだ言い終わらないうちに、その子はアリシャの横を抜けて表に飛び出して行く。あまりのすばしっこさに驚くアリシャを置いて逃げ出し、その後を吠えながらココが追いかけ出した。
「待って! ちょっと二人とも待ちなさい!」
一足遅れて食料庫を出ると腕を組んで立っていたレオが居て驚いた。
「レオさん! あの、あの子……」
「食料を盗んでいた子供だな」
レオはまるで動じず、ココが吠えて追いかけていくのを指さした。
「ココについていこう。実は行き先は見当がついておるのだ。行こう」
レオは歩み出すがいつもより一歩が大きい。アリシャは小走りで横に並んで進んでいく。
ココが大騒ぎするものだから、草を食んでいた牛が顔を上げてココを見ていた。
「あの先には岩場があって昔岩を掘り出した坑道があるのだ」
綺麗に整備された畑の横を上がっていく。勾配がキツく、アリシャは何度か前のめりに躓くがレオは険しい顔をしたままずんずん歩いていく。
「物がなくなり出してから、いつもとは違うところで薬草をとるようにしていたのだ。見廻りも兼ねて。ほら、見てご覧」
山肌が見えてきた。そこには何個かぽっかりと口を開けた坑道の入り口があった。その一つに向かってココが盛んに吠え立てている。
目的地は見えてはいても勾配がキツイので思ったより坑道の入り口に辿り着くまでに時間がかかってしまった。ココはその間アリシャ達の元に駆けてきては早く早くと急かして戻るの繰り返し。
岩場の近くは木々が綺麗サッパリなくなっている。坑道の前についてから振り返り村を確認すると、すっかり一望出来ることを知った。
夜はカンテラや松明といった火を持って移動するから、どこに人が居るのか一目瞭然だっただろう。
「さて、説教でもしてやるか」
レオは坑道に向かって吠えているココを掬い上げると、アリシャに振り返りココを渡した。
「事情があるのかもしれないので……その、寛容に」
お人好しかもしれないが、アリシャより小さな子だったのもあり庇わずにはいられなかった。
「ちゃんと説明をしてもらわねばな」
おりたくて仕方がないココをなだめながら頷いた。走っていく女の子の服はかなり汚れていた。服だけではなく顔や髪も酷い有様だった。それだけでアリシャの心はギュッと絞られるような感覚を覚えていた。
「隠れていても何も解決せんぞ! 盗みは盗みだ!」
レオがに向けて大声を発すると、ますますアリシャは泣きたくなるほど心が痛んだ。女の子はきっと怯えて小さくなっているだろう。
「出てきなさい、二人とも」
アリシャは思わずレオの口をまじまじと見つめていた。二人と言った。アリシャは女の子しか知らない。
「理由を話せば相談にのる。しかしこのまま立て籠もるならこちらとしても考えなければならん」
真っ直ぐ坑道の中に語りかけるレオに応えて、老人とその老人を支えるように先程の女の子が出てきた。アリシャは息を呑んだ。老人は脚を引き摺っていた。服は裂かれドス黒い血が滲んでいる。
「……すまない。ワシが動けぬからリアナが私の為にそちらの食料を……しかし、ワシらには払う金がない。罰はワシが受けるからリアナは許してやってくれ」
「おじいちゃん! 私が勝手に持ってきたのよ」
レオは二人に向けて掌をあげ、言葉を遮った。
「ご老人、傷を負っているな。獣によるものに見える。直ぐに手当てをしよう」
レオはアリシャに向けて指示を出しながら老人に肩を貸した。
「アリシャ、先に宿屋に行き、井戸水を汲んでボリスのベッドに運びなさい。その後、私の家付近にいるドクを呼んできて欲しい」
「はい」
「ああ、それとドクに家から薬を持ってくるように言ってくれ」
レオの家には沢山の薬がある。小さな壺に効用が異なる薬が入ってずらりと並んでいるのだ。
「どの薬かドクさんに言わなくて大丈夫ですか?」
アリシャの返しを聞きながら老人とレオは少しずつ移動をしだす。動くと脚に響くようで老人の顔が苦痛に歪んでいた。
「獣傷だと言ってくれ。それでわかるはずだ」
10
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯
赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。
濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。
そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――?
※恋愛要素は中盤以降になります。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる