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若葉色パンケーキ 苺ジャムとバター添え

若葉色パンケーキ 苺ジャムとバター添え6

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 レオは髭を撫でて暫らく考えてから「普通ならば実際に会うことは殆どないが」と、切り出した。

「確実に存在している。ストルカ国のイライザ女王は回復クレシュナの主であるし、スルシュア王国の王は代々攻撃ファドゾの主だ。特にスルシュア王国の王は一年に一度、その力を民に見せる祭りを行うから、スルシュア王国の国民は魔法を見ることも、その力を使いこなす人物も実際に目にすることが出来る」

 御伽話の中の事だとばかり思っていたアリシャは、一番博識であるレオがはっきりと存在を認めたことに驚いていた。

攻撃ファドゾの力を……恐ろしいですね」

 アリシャの恐怖を和らげようとレゼナがアリシャの手を握った。

「怖くないのよ。スルシュア王国の国王はここ何代も名君だと言われていて、国は至って平和なのだそうだから。魔法を見せるのも、ただのデモンストレーションであって人を傷つけるような真似はしないって話」

 そうそう。と、ボリスがレゼナに同意する。それから鼻にくっきり皺を寄せて、嫌悪感を露わにし、回復《クレシュナ》の主の話を語りだした。

「ストルカ国の女王イライザは回復《クレシュナ》の主だが、心はまるで悪魔のようなのさ。金さえ出せば病を和らげてやると言って、金持ちたちの心を掌握して思いのままだ。治しはしないがくれるから、金を掻き集めてどいつもこいつも生き長らえようと必死。イライザの思うがまま」

 塩パンを噛み千切ったドクが忌々しげに言い放つ。

「金持ちの腰痛やら偏頭痛の為に民は金を搾り取られて寿命を縮めているって言うのにな! そんな馬鹿な話あるかっての」

 これまでの話を聞いていればドクの苛立ちはもっともだ。アリシャの村はここほどのゆとりは到底ないが、話に聞く程税の事で苦しめられてはいなかった。だからこそ、金に困った人間に襲撃されたのかもしれない。

 そこで、防御カライズの主が治めている土地ならばアリシャの村は助かったのではないかとふと思った。

「一つ疑問なのですが、防御カライズの主はどこの国にいるのでしょう?」

 力は三つに分けられたはずだ。それなのに、残りの防御カライズの主の話は出てこなかった。

 エドが鼻を鳴らして「居ないんじゃねーの? 国も持ってないし、そもそも防御カライズの力なんて必要あるのか?」と、割り込んできた。

 レオは「居たはずなのだが」とパンを千切る。

「随分前から防御カライズの主は上手いこと世代交代が出来ておらんという話だ。普通ならば親から子に引き継がれるのだが、何かの理由で途切れ……その後は宿主が現れては力を使いこなせず、もしくは力に気が付かずに居るのではないかと言われているな。とにかく表に出てこないから詳細はわかっておらぬのだ」

 レゼナは溜息を吐いてから甘いジャムをひと掬い口に含み「美味しい……」と、漏らした。

「料理もバランスが大事じゃない? 世の中も同じなのよね。かつて攻撃《ファドゾ》の主が暴走した時、回復クレシュナ防御カライズの主たちが手を組んで鎮めたと言われているのよ」

「え……? 回復クレシュナ防御カライズでどうやって?」

 ウィンが驚いて疑問を述べたが、アリシャも同じ様に感じていた。

 レオがそれには答えてくれた。

「泉の水と同じなのだよ。使えば減るのが魔力だ。休息をとればまたゆっくり元の水位まで戻るがな。攻撃出来ても無限には出来ない。回復クレシュナ防御カライズを使い、兵を動かされたら、幾ら攻撃《ファドゾ》でも苦戦するということをだと私は考えている。特にその戦いの時の攻撃ファドゾの主は民から嫌われていたらしいからな。要はどんなに魔力があろうと民意を得なければやっていかれないということだ」

 ボリスがアリシャに甘いパンケーキが欲しいと言うので、器を受け取りそこに若草色のパンケーキとジャム、バターを乗せて返した。

「こんな平和な地域はない。ここは確か……スルシュア王国の領地では?」

 ドクも器を出してパンケーキを欲しがりながらボリスの疑問に答える。

「いや、ここらは中立だ。小さい領地に領主がいるだけだ。ここにいたっては領主すら居ないがな」

「危険はないんですかね?」

「国の境目は互いに欲しいが手を出すと相手を刺激するからなあ、どうだろう?」

 ボリスが唐突にアリシャと呼びかけるので、動かしていた手を止めた。

「君は塔に住んでいるんだろ?」

「ええ、とりあえず直ぐに住める場所が塔だったから」

 本当は塔をとても気に入ったからだったのだがもっと真っ当な理由を話してみた。アリシャの答えを聞き終えてからボリスはレオに顔を向ける。

「女の子を一人であそこに居させるのは危なくないですか?」

「とりあえず塔は仮住まいだ。なるべく早くどこかの家に移らせたいとは思っておるよ」

「この辺りは治安も悪くないみたいですけどね。やはりいつ流れ者が来るかわかりませんから……」

「確かにな。アリシャ本人もボリスもストルカから来たのだから、他の人間もやってくることもあるだろう。その中に悪人がいない保証はないし」

 ボリスとレオの会話を黙って聞いていたアリシャは、せっかく気に入って住み着いた塔を離れるのは残念だと思う気持ちと恐怖が拮抗していた。

「そこで考えたんですがね、この料理部屋の隣に部屋を増設したらどうでしょう?」

 ボリスの提案に「ボリスのベッドが空いたらそこで寝起きしたらいいじゃねぇか」とエド。ボリスはこれに首を横に振る。

「アリシャは女の子だぞ? 扉がない二階に住ませるなんて塔とかわらないだろ。宿屋に泊まった男たちに何されるかわからないじゃないか。料理部屋のこの使ってない扉を修理してあちら側に部屋を作って、外に通じる扉を更につけたらいい。扉が二箇所に、かんぬき付きで完璧だ」

 炉がある西の壁の横、北側には元々扉があったらしく、今は板を貼り付けてあった。ここの扉が付けば、出て直ぐに井戸という素晴らしい動線になっている。

「あらぁ、それ最高じゃない。雨の日にわざわざ移動しなくていいし、冬は炉を使っている間、ここの扉を開放して部屋を暖められるわ。ねぇ、アリシャ?」

 真っ先にボリスの案に賛成したレゼナがアリシャに同意を求めてきた。アリシャも素敵な案だと思った。まだ塔に住むことには未練があったが、塔のビジュアル的な良さより、やはり安全面や利便性を重視するならばボリスの案が良い。

「そうですね。ここに住めるならそれに越したことないかもしれません」

「だろ? そうしたら、春いっぱいはここで大工仕事に勤しむよ。美味しい食事もあるし、美人さんも拝めるし」

 真面目なボリスが気障なボリスに戻った。アリシャはこういうからかいに慣れていないから、またしても頬が勝手に熱くなっていく。

「そしたら一緒に住んだらいいんじゃねぇのか? なぁ?」

 ドクがどこまで本気なのかわからないが、直ぐにボリスとアリシャをくっつけようとする。止めなさいよとレゼナにたしなめられようと、父さんとウィンに呆れられようと、まるでお構いなしだった。


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