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私は執事です
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皆様、ご機嫌麗しゅうございます。
私の名はフィデリオ・シュバルツと申します。ナイトハルト王国の王太子であらせられるアラン・ナイトハルト様の執事にございます。以後お見知り置きを。
ただ今朝の5時。私は毎日4時半に起きて身支度をし、アラン様の心地よいお目覚めに貢献するべく準備に併走します。
この世界は一日が24時間。一年はサラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームの4月に分けられており、各月は90日あります。一年は360日であるということですね。日本とはだいぶ違いますが、この世界に産まれて40年となりつつあるのでそれなりに慣れました。
皆様お気づきかと思われますが、「この世界」「日本」などという言葉を使っているように、私にはこの世界とは異なる世界の、「日本」という国で産まれ育った記憶があります。私はこの記憶を「前世」の記憶だと思っております。皆様は前世があると思いますか?私は前世があると信じております。その記憶を保有する当事者ですから。
私の前世の名は藤咲燈悟。しがない一平民でした。平凡な家庭に産まれ、日本でいう義務教育を受け、高校、私立大学を経て一般就職した私は、ある日ある時、トラックに轢かれてしまい、こうして転生を成し遂げたのです。
前世の口調はもっと荒々しいものでしたが、私の産まれ育ったシュバルツ家は代々王族付きの従者であり、幼少期から執事となるべく指導されてきました。執事という仕事柄、丁寧な言葉遣いを習得しなければならなかったのです。……まぁ、正直に申し上げますと、前世の口調の方が楽な為、油断してしまうと素の口調が出てきてしまうのですが。前世からの口調ですので、致し方ないことと受け止めてくだされば幸いにございます。
……え?アラン様に素を漏らしたことがあるのか?ですか?いえいえ、そんなことはありません。アラン様にそんな口調で話しかけるなど恐れ多くてとてもとても……。…………………アラン様が御公務をおさぼりになられた時以外はちゃんとした言葉遣いをしていますよ。はい。
そうそう、皆様。突然の事で申し訳ありませんが、暫く私の相談という名の愚痴に付き合ってくださいますか?付き合ってくださいますよね??
王太子であらせられるアラン様には、同い年の婚約者がいらっしゃいます。所謂政略結婚、というものです。
その御令嬢の名はマリアンヌ・アンネット様と申しまして、アンネット公爵家の長女であらせられます。マリアンヌ様の事は、私めの愚痴とは関係……無くもないのでございますが、マリアンヌ様自身のことではないので後ほどご説明します。
私の愚痴がどういった内容なのかといいますと……。
アラン様の惚気が酷すぎるのでございます。
想像してみてください。朝から「今日もマリーは美しいのだろうな」という言葉を聞き、花瓶に生けた花を見て「マリーにはどんな花も似合うのだろう。いや、花が霞んで見えてしまうな」と、ボソッと仰ったものが耳に入ってしまい、「マリーの愛らしい寝顔を想像するだけでいい夢が見られるな」という台詞で一日を終わらせるのです。マリー、というのはマリアンヌ様の渾名です。アラン様とアンネット家の方々にしか許されていない呼び方ですので、他の方が、特に殿方がこの名で呼ぶとアラン様に消されます。社会的にも、肉体的にも。
これらのことは日課と言っても過言ではなく、プラスアルファがもれなく付いてきます。毎日砂糖を吐き出したい気分になるのです。アラン様本人にも苦言を呈しましたが、「マリーが可愛すぎるのが悪い。俺のせいではない」の一点張りで、取り付く島もございません。
アラン様とマリアンヌ様の婚約は「政略」であるのに、何故ここまでアラン様のお気持ちが臨界点突破しているのか、と思った方がいるかもしれません。私も正直、アラン様の性格からして「政略などという制約に縛られず、自らの手で伴侶を選ぶ!」とわめく……ゴホンっ、仰ると予想していたのですが……。
アラン様方が10歳の時、アラン様とマリアンヌ様の初顔合わせの為のお茶会が開かれました。マリアンヌ様との初対面を終えたあと、アラン様が仰ったのです。
「胸の辺りがむかむかする。フィディ、これはなんだ?」
フィディ、とは私の事でございます。私にそのような疑問を投げかけたアラン様は本当にわからないと言ったご様子でいらっしゃいました。このタイミングでそのようなお気持ちになる理由など、1つしかないではありませんか。
「アラン様、それは恋でございます。」
「これが?むかむかして不快なのだが。」
「えぇ、それが恋です。恋とはアラン様がご想像していらっしゃるような『キュンキュン』などとは相反する、暗い面も持ち合わせているものなのですよ。アラン様は、マリアンヌ様が中々ご自身と目を合わせられなかったことに不快感を覚えていらっしゃるのでは?」
「確かに、俺から目を逸らすなど失礼極まりないことだとは思っていたが………」
「それは好いた方に見てもらえない事に苛立ちを感じていらっしゃったのだと愚考いたします。それに、マリアンヌ様はアラン様がカッコよすぎて目を合わせられなかっただけだと、私の眼には映りましたよ?」
「!!そうか、そういうことか!ふふん、可愛らしいところもあるではないか。決めた!俺は彼女と結婚する!」
「えぇ、そうした方がよろしいでしょう。(と言いますか、政略結婚ですからね、これ)」
という感じで、溺愛ルートまっしぐらと至ったのでございます。
…………………俺の言葉が無かったら、こんな惚気を聞かずに済んだのかなぁ……。
私の名はフィデリオ・シュバルツと申します。ナイトハルト王国の王太子であらせられるアラン・ナイトハルト様の執事にございます。以後お見知り置きを。
ただ今朝の5時。私は毎日4時半に起きて身支度をし、アラン様の心地よいお目覚めに貢献するべく準備に併走します。
この世界は一日が24時間。一年はサラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームの4月に分けられており、各月は90日あります。一年は360日であるということですね。日本とはだいぶ違いますが、この世界に産まれて40年となりつつあるのでそれなりに慣れました。
皆様お気づきかと思われますが、「この世界」「日本」などという言葉を使っているように、私にはこの世界とは異なる世界の、「日本」という国で産まれ育った記憶があります。私はこの記憶を「前世」の記憶だと思っております。皆様は前世があると思いますか?私は前世があると信じております。その記憶を保有する当事者ですから。
私の前世の名は藤咲燈悟。しがない一平民でした。平凡な家庭に産まれ、日本でいう義務教育を受け、高校、私立大学を経て一般就職した私は、ある日ある時、トラックに轢かれてしまい、こうして転生を成し遂げたのです。
前世の口調はもっと荒々しいものでしたが、私の産まれ育ったシュバルツ家は代々王族付きの従者であり、幼少期から執事となるべく指導されてきました。執事という仕事柄、丁寧な言葉遣いを習得しなければならなかったのです。……まぁ、正直に申し上げますと、前世の口調の方が楽な為、油断してしまうと素の口調が出てきてしまうのですが。前世からの口調ですので、致し方ないことと受け止めてくだされば幸いにございます。
……え?アラン様に素を漏らしたことがあるのか?ですか?いえいえ、そんなことはありません。アラン様にそんな口調で話しかけるなど恐れ多くてとてもとても……。…………………アラン様が御公務をおさぼりになられた時以外はちゃんとした言葉遣いをしていますよ。はい。
そうそう、皆様。突然の事で申し訳ありませんが、暫く私の相談という名の愚痴に付き合ってくださいますか?付き合ってくださいますよね??
王太子であらせられるアラン様には、同い年の婚約者がいらっしゃいます。所謂政略結婚、というものです。
その御令嬢の名はマリアンヌ・アンネット様と申しまして、アンネット公爵家の長女であらせられます。マリアンヌ様の事は、私めの愚痴とは関係……無くもないのでございますが、マリアンヌ様自身のことではないので後ほどご説明します。
私の愚痴がどういった内容なのかといいますと……。
アラン様の惚気が酷すぎるのでございます。
想像してみてください。朝から「今日もマリーは美しいのだろうな」という言葉を聞き、花瓶に生けた花を見て「マリーにはどんな花も似合うのだろう。いや、花が霞んで見えてしまうな」と、ボソッと仰ったものが耳に入ってしまい、「マリーの愛らしい寝顔を想像するだけでいい夢が見られるな」という台詞で一日を終わらせるのです。マリー、というのはマリアンヌ様の渾名です。アラン様とアンネット家の方々にしか許されていない呼び方ですので、他の方が、特に殿方がこの名で呼ぶとアラン様に消されます。社会的にも、肉体的にも。
これらのことは日課と言っても過言ではなく、プラスアルファがもれなく付いてきます。毎日砂糖を吐き出したい気分になるのです。アラン様本人にも苦言を呈しましたが、「マリーが可愛すぎるのが悪い。俺のせいではない」の一点張りで、取り付く島もございません。
アラン様とマリアンヌ様の婚約は「政略」であるのに、何故ここまでアラン様のお気持ちが臨界点突破しているのか、と思った方がいるかもしれません。私も正直、アラン様の性格からして「政略などという制約に縛られず、自らの手で伴侶を選ぶ!」とわめく……ゴホンっ、仰ると予想していたのですが……。
アラン様方が10歳の時、アラン様とマリアンヌ様の初顔合わせの為のお茶会が開かれました。マリアンヌ様との初対面を終えたあと、アラン様が仰ったのです。
「胸の辺りがむかむかする。フィディ、これはなんだ?」
フィディ、とは私の事でございます。私にそのような疑問を投げかけたアラン様は本当にわからないと言ったご様子でいらっしゃいました。このタイミングでそのようなお気持ちになる理由など、1つしかないではありませんか。
「アラン様、それは恋でございます。」
「これが?むかむかして不快なのだが。」
「えぇ、それが恋です。恋とはアラン様がご想像していらっしゃるような『キュンキュン』などとは相反する、暗い面も持ち合わせているものなのですよ。アラン様は、マリアンヌ様が中々ご自身と目を合わせられなかったことに不快感を覚えていらっしゃるのでは?」
「確かに、俺から目を逸らすなど失礼極まりないことだとは思っていたが………」
「それは好いた方に見てもらえない事に苛立ちを感じていらっしゃったのだと愚考いたします。それに、マリアンヌ様はアラン様がカッコよすぎて目を合わせられなかっただけだと、私の眼には映りましたよ?」
「!!そうか、そういうことか!ふふん、可愛らしいところもあるではないか。決めた!俺は彼女と結婚する!」
「えぇ、そうした方がよろしいでしょう。(と言いますか、政略結婚ですからね、これ)」
という感じで、溺愛ルートまっしぐらと至ったのでございます。
…………………俺の言葉が無かったら、こんな惚気を聞かずに済んだのかなぁ……。
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