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第九話 『Challenge to change』

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 雪音と出逢ったことで始まった俺の日常の変化というか、尽きることのない日々の苦悩。その苦悩を、自分が変わることで解決へと導こうと動き出した俺。
 自分が正しい道を選べているのかどうかはわからなかったけれど、何もしないよりは多分マシなはずだ。
 そう信じて、まずは伊織君に言われて一番堪えた〈二人のことを好きになる努力〉というものを始めてみた俺は――。
「んっ……ん……」
 先日、雪音の上に跨って腰を振りまくった次は、頼斗のナニを口に咥えている状態だった。
 話は今から少し前へと遡る――。



 俺より一日遅れで雪音のテストも終わった後は、我が家もいつも通りに戻り、頼斗がうちに顔を出し、うちで夕飯を食べて行く日々も復活しているんだけど、今日はテスト前にした約束で、俺が頼斗の家で夕飯を作ってあげて、そのまま頼斗の家に泊まって行く日だった。
 学校が終わった後は一度自宅に戻って制服を着替えた俺は、そこから頼斗と一緒に頼斗の家の近くのスーパーで夕飯の買い出しをして、既に両親が仕事に出掛けてしまった後の頼斗の家にお邪魔した。
 本当はおじさんとおばさんに挨拶をするべきなんじゃないかとも思ったんだけれど、どのみち学校が終わった後では、学校から頼斗の家に直行したところで、頼斗の親は仕事に出掛けた後である事が多い。
 どうせ明日には顔を合わせることになるから、その時にでも改めて挨拶をしようと思った。
 頼斗の家にやって来て、俺がまず最初にしたことは夕飯作りだった。
 学校帰りに頼斗の家に直行したわけではなく、一度俺の家に戻っているし。更に頼斗と一緒にのんびり買い物なんかをしていたから、頼斗の家に着いた頃にはもう午後六時が近かった。夕飯を作り始めるにはちょうどいい時間だったのだ。
 今日は頼斗のために夕飯を作ってあげるわけだから、頼斗が食べたいものを作ってあげることにした。
 買い物かごを持って歩く頼斗に
「何食べたい?」
 って聞くと、頼斗は迷わず
「ハンバーグ」
 と答えた。
 元々頼斗は好き嫌いがほとんどなくて、俺が作った料理は何でも「美味い」って言って食べてくれる奴ではあるんだけれど、どちらかと言えば魚より肉派。ハンバーグは俺の得意料理の一つでもあるから、俺が頼斗に「何食べたい?」って聞くと、「ハンバーグ」と答えることが多かった。
 なので、今日の夕飯は頼斗のリクエスト通りに特大サイズのハンバーグを作ってあげた。
 もちろん、付け合わせのサラダやスープ、ハンバーグの横には見栄えが良く見えるように焼き野菜なんかも添えてあげたんだけど、頼斗のためだけに料理の腕を振るう俺を、頼斗はずっと幸せそうな顔で眺めていたし、俺が作った料理にも大満足してくれた。
 伊織君から教えてもらった〈男が悦ぶこと〉の中に、〈手料理を振る舞ってあげる〉というものは入っていなかったけれど、それは伊織君がまだ料理には手を出していないからで、好きな相手の手料理というものは、大抵の男が喜んでくれるものだと思う。
 何もエッチな事じゃなくても、俺には雪音や頼斗を喜ばせてあげる方法があったんだと、今更思い出したものだった。
 まあ、俺の料理なんて食べたければいつでも食べられる二人だから、喜びの度合いは低めなのかもしれないけれど。
 夕飯が終わった後は頼斗の部屋で一緒にゲームをしたり、動画配信サイトでアニメを見たりしてのんびりと過ごしていた。
 そこまでは良かったし、その後の俺と頼斗がどういう流れになるのかも、俺はちゃんと想像ができていた。
 だって、頼斗は俺が頼斗の家に泊まりに行く約束をした時、俺と一緒にお風呂に入ることも、俺とセックスすることも約束の中に入れていたもん。
 だから、俺も今日は頼斗と一緒にお風呂に入って、その後は頼斗とセックスするつもりでいた。
 俺の手料理に喜んでくれた頼斗だけれど、さっきも言ったように、頼斗にとって俺の手料理は食べ慣れたものだし。俺が頼斗の家に泊まりに来ることで、頼斗が一番楽しみにしているのってやっぱりそこなんだろうと思ったし。
 雪音とはセックスをするようになってから一緒にお風呂に入るようになった俺だけど、頼斗はその逆だった。
 それまでは普通に頼斗と一緒にお風呂に入ることもあった俺は、頼斗に告白されてからというもの、頼斗と一緒にお風呂に入ることが急に気まずくなっちゃって……。
 だから、今日頼斗と一緒にお風呂に入った時は、久し振りに頼斗と一緒にお風呂に入ったと思った。
 でも、これまでは浴槽の右と左に分かれて行儀良く俺と一緒にお風呂に入っていた頼斗も、肉体関係を持った後は俺とくっついてお風呂に入りたがるというか、雪音のように俺を自分の両脚の間に座らせて、後ろから抱き締めてくるスタイルを取った。
 確かに、その方が俺も身体を伸ばせていいんだけれど、こういうお風呂の入り方ってなぁ……。どうしても恋人同士感が出てしまう気がして、俺はちょっと恥ずかしい。
 それでも、雪音のせいで少し慣れているところはあるから、久し振りに頼斗と一緒に入るお風呂で頼斗に密着されてもまあ……大丈夫っちゃ大丈夫だった。やっぱりドキドキはしちゃうけれど。
 俺が久し振りだと思うんだから、頼斗も俺と一緒にお風呂に入るのは久し振りだと思ったようで、お風呂の中で俺の腰に緩く腕を巻き付けたまま
「深雪と一緒に風呂入るのも久し振りだよな」
 と言った。
 ただ事実を言われただけだというのに、俺の耳はその言葉が妙に気恥しく聞こえてしまって
「う……うん……そうだね……」
 肩を竦め、若干顔を赤らめながら小さく頷くと、俺のお尻に当たっていた頼斗のナニが、急にむくっと大きくなった。
「ちょっ……どうしてっ⁉」
 突然お風呂の中で大きくなる頼斗にギョッとして尋ねると
「悪い。何か今、すげームラッとした」
 頼斗は全く恥ずかしがる様子もなく、平然とした顔でそう言ってきた。
 いやいやいや。今の俺のどこにムラッとしちゃったの? 俺、ただ頷いただけだったよね?
 何? 久し振りに俺と一緒に入るお風呂だから、頼斗は既に興奮状態だったりするの?
 でも、頼斗だって俺の裸なんか見慣れているんだから、今更俺と一緒にお風呂に入ることくらいで、すぐにナニをおっ勃てるほどに興奮することでもないような気がするんだけど……。
(ああ……でも、もしかして……)
 元々今日は俺とセックスするつもりでいる頼斗だから、こうして俺と一緒にお風呂に入っているだけでも、気持ちがどんどん先走っちゃうものなのかもしれないよね。
 それに、よくよく考えたら好きな相手の裸って興奮しちゃうものだし。
 最近はあまりにも俺が雪音や頼斗の前で裸になる機会が多過ぎて、俺自身も知らない間に慣れてしまっているみたいだけれど、普通に考えたら好きな相手の裸はヤバいよね。
「そんな……急にムラッとされちゃっても……」
 俺と頼斗はまだ湯船に浸かったばかりで
(これから身体も洗わなきゃいけないのにどうするの?)
 と思った。
 その時だ。何の嫌がらせか、突然頭の中に満面の笑みを浮かべた伊織君の姿が浮かんできて、その愛らしい笑顔のまま
『口でシてあげればいいんだよ♡』
 と言ってきた。
 天からのお告げ――ではなく、悪魔の囁きを耳にした気分だった。
 そう言えば、伊織君から出された課題の中に〈口でシてあげる〉というものも入っていたよね。
 雪音の件で〈俺には俺のやり方がある〉と考え直し、伊織君から出された課題のことは一旦忘れようと思っていたのに。こういう時についつい思い出しちゃうから、伊織君も余計な事を言ってくれたものだ、と思ってしまう。
 だけど、ただ思い出しただけというだけで、その時の俺は悪魔の囁きなんて無視してやるつもりであった。
 頼斗は俺が伊織君からそんな課題を出されていることを知らないし、俺が伊織君から手厳しい指摘を受け、自分を変えようとしていることも知らない。
 俺が今ここで何もしなかったとしても、頼斗には俺を責めるつもりなんてないし、俺が何もしないのが普通だと思っている。
 どうせお風呂を出た後にはセックスするんだし。それまでは頼斗のナニも見て見ぬ振りをしてしまおうと、そう思った。
 それなのに
「深雪。大好き」
 頼斗の腕が後ろから俺の身体をぎゅうっと抱き締めてきて、頼斗の唇が俺の耳元で甘えるみたいな声でそう言ってくるから、俺は胸が痛いくらいにきゅんとなってしまった。
「あ……あのさ……」
 ドキドキと高鳴る胸を抑えつつ、少しだけ身体を捻って頼斗の顔を見上げた。
 頼斗と目が合った俺は、なかなか覚悟を決められなかったりもしたんだけれど、俺には絶対無理だと思っていた伊織君から出された課題のうちの一つを、雪音にはしてあげている。
 あれは俺からしてあげたというより、雪音に言われたからしたって感じではあったけれど、結果的には雪音をエッチな事で悦ばせることになった俺だから、頼斗にも同じことをしてあげようって気になってしまった。
 意外とフェアプレイを好む雪音に感心することもある俺だけど、二人を平等に扱おうとする俺も負けていない。
 ほんの数秒間の間に散々迷った挙げ句、ついに覚悟を決めた俺は、不思議そうな顔で俺を見下ろしている頼斗に向かって
「く……口でシてあげよっか?」
 そう言ってみた。
 その言葉を口にした途端、俺は顔から火が出るくらいに恥ずかしくなったんだけど、こういう展開は頼斗にとっても予想外だったはずだ。
 一瞬、自分が何を言われたのかがわからないような顔になった頼斗は、俺のことばをようやく理解した直後――。
「…………え。マジ? ここで?」
 信じられないものを見るような目で、まじまじと俺を見詰めながら確認してきたのであった。


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