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第八話 『勉強会と恋愛相談』
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しおりを挟む出だしこそ少しもたついた感じのある今日一日ではあったけれど、俺が全員を二階に追いやった後は、比較的有意義な時間を過ごせたと思う。
お昼までは苦手な科目を中心にみっちり勉強ができたし、お昼を食べた後はこれまでの授業を振り返り、各先生が出しそうな問題を頼斗と話し合いながら復習もできた。
途中で何回か休憩は挟んだけれど、テスト前の勉強としてはまずまず効果的だったんじゃないかと思われる。
夕方になり、ご機嫌な父さんと宏美さんが帰って来てからも、夕飯になるまでは黙々と勉強をしていたから、夕飯前には今日の予定も終了。食後はちょっとした息抜きをしながらのんびりと過ごした。
今日はもう昨日のようにはならないはずだから、今日こそは早めに寝てしまおうと思ったんだけど――。
(ど……どうして……?)
お風呂から出た俺が部屋に戻って来ると、俺の部屋にいたのは頼斗ではなく伊織君だった。
「あ♡ お帰り~♡」
「う……うん。そうなんだけど……」
今日は俺より頼斗が先にお風呂に入ったから、お風呂上がりの頼斗が俺の部屋を出て行く理由は無いはずなんだけどな。
(俺がお風呂に入っている間に、一体何があったという……)
俺がお風呂に行く前、俺の部屋にいたのは頼斗だった。それが、お風呂から出て来たら頼斗が伊織君にすり替わっている理由を説明して欲しい。
「あの……頼斗は?」
頼斗が寝るはずの布団の上に寝転がり、足をパタパタと動かしている伊織君に聞いてみれば
「雪ちゃんの部屋~♡」
相変わらず能天気そうな伊織君の声がそう返してきた。
更に
「昨日の二の舞にならないようにって、雪ちゃんが頼斗を連れて行ったんだよ♡ で、代わりに僕が今夜はここで寝るの~♡」
と説明を付け加えてきたから
「ああ、そう……」
俺もひとまずは納得した。
と同時に
(いやいやっ! 今日はもうシないしっ!)
とも思った。
なるほどね。昨日は俺と頼斗が隣りの部屋に雪音や伊織君がいるにも関わらずセックスしちゃったものだから、今日は俺と頼斗を同じ部屋で寝させない方向なのか。
だったら最初からそう言ってくれればいいし
『だからって、伊織君は安全なの?』
って聞きたくもなる。
まあ、伊織君は襲う側の人間じゃないみたいだから、俺が何もしない限りは安全なんだろう。俺に伊織君をどうこうしようなんてつもりもないし。
しかし、雪音が心配する気持ちもわからないではないけれど、いきなり伊織君と二人きりにされちゃってもなぁ……。
俺、この子のことはまだよくわからないところが多いし、申し訳ないけど若干の苦手意識もある。
雪音や頼斗が傍にいてくれるならまだしも、こうして二人きりにされてしまうと、伊織君にどう接していいのかがわからなくなっちゃうんだよね。伊織君と二人きりになるのもこれが初めてだし。
「まあ、深雪としては僕なんかより頼斗や雪ちゃんと一緒の方が良かったんだろうけどね♡ でもほら♡ 今って一応テスト前だし♡ 深雪の学校は週明けからテストなんでしょ? 週末にセックス三昧っていうのも不謹慎っていうか、節操がない感じになっちゃうよね♡」
「誰がセックス三昧かっ!」
今朝、「相手さえいれば毎日だってシたい」って言っていたのはどこのどいつだ。好みのタイプには初対面だろうとお構いなしにキスするような伊織君にだけは「節操がない」と言われたくない。
ついでに言わせてもらえば、俺はセックス三昧の日々を送っているわけでもない。
「あ♡ そっか♡ 深雪は週に二回のセックスで満足しちゃうんだもんね♡ それじゃセックス三昧にはならないか♡」
「~……」
全くもう……。どうしてこの子はそう明け透けに物を言うのだろうか。少しは遠慮というものをして欲しい。
(まあいい……。こういう時はさっさと寝てしまうに限る)
幸い、今日はもうする事もないし。お風呂から出て来た今、後はもう寝るだけだったりもする。
昨日、俺と頼斗の秘め事に気付かなかった雪音の発言からしても、伊織君はやっぱり早寝をする習慣を持っていそうだし。俺が布団に入って部屋の電気を消してしまえば、伊織君はあっという間に夢の中だろう。
「はいはい。そういうお喋りはまた今度ね。そろそろ十一時になるし。今日はもう寝よ」
俺は照明用のリモコンを持ったまま布団の中に潜り込むと、ベッドの下に敷いた布団の中に潜り込む伊織君の姿を確認してから、照明のスイッチをオフにした。
本当はまだ十時半を過ぎたばかりだったりもするけれど、三十分後には十一時だ。少し時間を早めに言っても問題は無い。
それに、いつも午後十一時を過ぎてから寝ている俺ではあるけれど、本当は十時台に寝てしまうのが理想的でもある。
今日は朝がちょっと遅かったから、そのぶん目が冴えてしまっているのかと不安に思ったけれど、一日中駆使した脳は疲れているし、ぶっちゃけ昨日の疲れも残っている。こうして電気を消して部屋が真っ暗になってしまうと、あっという間に眠れてしまいそうだと思った。
そして、それは伊織君も同じだろうと思ったんだけど――。
「えっ⁉ ちょっ……何っ⁉」
部屋の電気を消して数秒後。突然もそもそと俺のベッドの中へ侵入してくる何者かが――って、この場合、その何者かは伊織君でしかないんだけれど。
「ちょっ……ちょっと! どうして俺の布団に入って来るの⁉」
何故部屋の電気を消した途端、俺のベッドに潜り込んで来るんだよ。ついさっきまでおとなしく布団の中に納まっていたし、そのまま寝ようとしていたんじゃないの?
「だって、一人で寝るのって寂しいんだもん。雪ちゃんは一緒に寝てくれなかったし」
「……………………」
何なの? その理由。中学生にもなって、そんな理由が通用するとでも?
(一人で寝るのが寂しいって……)
だったらいつもはどうやって寝ているんだよ、って話じゃん。
まさか、未だに親兄弟と一緒に寝ているわけじゃあるまいな。伊織君に兄弟がいるのかどうかは知らないけれど。
「深雪は雪ちゃんみたいに僕と一緒に寝るのを嫌がらなさそうだし♡ 僕も深雪ともっと仲良くなりたいと思ってるもん♡ だから、今日は一緒に寝よ♡」
「えぇっ⁉」
な……仲良く……とは? 伊織君の言う「仲良くなりたい」に、友情じゃない何かを感じてしまうのは俺だけ? この子と仲良くなってしまったら、そこに性的な何かが絡んでくると思ってしまうのは俺だけなのかな?
(で……でも、雪音とは極々普通の幼馴染み関係を築けているみたいだし……)
いくら何でも幼馴染みの家族とどうこうなるつもりは伊織君にだって無いよね。
それに、俺は伊織君と同じ立場の人間でもあるから、伊織君だって俺に性的な何かを求めてきたりはしないよね。
ということは、伊織君は本当に俺と仲良くなりたいと思っているのだろうか。一体何のために?
まさか、雪音や頼斗のうちどちらか一人を譲ってもらうためとか、そういう下心があるわけじゃないよね?
そもそも、現時点で二人は別に俺のものというわけではないし、俺も二人のものというわけでもないんだけれど。
「だって、ほら♡ 深雪も僕に色々相談したいことがあるんじゃないの?」
「あ……」
いきなり俺のベッドに潜り込んできた伊織君に、俺はついつい邪推というものをしてしまったけれど、元々雪音が俺と伊織君を引き合わせた理由の中には、伊織君を俺の相談相手にしてあげようという、余計なお節介が含まれていたことを思い出した。
もしかしたら、雪音が今日俺の部屋から頼斗を連れ去って、頼斗の代わりに伊織君を寄越してきたのも、実は俺に悩み相談をさせる目的があったのでは?
「……………………」
だからと言って、何の心の準備も無しに、いきなり悩み相談なんてできなかったりもする。
でも
「僕、今日はまだ眠たくないし♡ ちょっとだけお喋りしよ♡」
全く邪気の無い伊織君にそう言われて断れるほど、俺の心は鬼じゃなかった。
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