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第五話 『初体験』

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 俺の初体験は相手が自分と同じ男で、全てにおいて俺の想像を遥かに超える、衝撃の体験でもあった。
 知識として知っていても、本当に男同士でセックスができてしまうことに対する驚きもあったし、男同士でもしっかり気持ち良くなれることを知った。
 ただ、思った以上に体力を消耗するものであることも知り、〈頻繁にスるものではない〉という感想なんかも抱いた。
 これは俺が初めてだったから、慣れない事への体力の消耗が激しかっただけなのか。はたまた、俺が受け入れる側だから、体力の消耗が激しくなってしまうのかはよくわからなかったけれど。とにかく、初体験を終えた後の俺は疲労が酷く、一分一秒でも早く眠りについてしまいたい気分だった。
 それなのに――。
「んっ……ぁ、んっ……ゃ……ゃだっ……ぁんんっ……!」
「深雪。気持ちいいのはわかるけど、もうちょっと声を抑えてくれないと、一階にいる稔さんや母さんに深雪のエッチな声を聞かれちゃうよ? それとも、深雪は母さん達に自分のエッチな声を聞かれたいの?」
「んんっ……違っ……そんなわけ……あるかぁ……っ」
 初体験の余韻もまだ冷めやらぬうちに、今度は雪音と一つに繋がっている俺はどうなっているのだろうか。
 一日に二度――それも、違う相手とセックスしている俺って何? せっかくお風呂に入ったばかりだっていうのに、まるで意味が無くなっちゃったじゃん。
「今日は頼斗とシたばっかりだからかな。意外とすんなり僕のことも受け入れちゃったよね」
「知らなっ……い……俺にそんなつもりなんて……んんっ!」
「ねえ。僕と頼斗、どっちが大きい?」
「んぅ……だ……だから……俺はそんな事……」
 頼斗とした初体験はお互いに初めて同士ということもあって、肉体的にも精神的にも全然余裕がない感じだった。
 そういう初々しさが逆に初体験っぽくてドキドキしたし、興奮しちゃったりもしたんだけれど、過去に六人もの女の子とセックス経験を持つ雪音はさすがに余裕綽々というか、こういう事には慣れている感があってちょっとムカつく。
「じゃあ、質問を変えるね。頼斗としたセックスと、僕とするセックス。どっちが気持ちいい?」
「だからっ……んぁあっ……ん!」
 くぅ……いくら俺が思った以上に雪音をすんなり受け入れたからって、俺の身体がセックスに慣れたってわけでもないんだよ。肉体的にも気持ち的にも全然余裕なんてない。シてる最中に呑気にお喋りする余裕なんて全然無いっていうのに……。
「今の気持ち良かったの? じゃあ、もっとシてあげよっか」
「ゃっ……ぁんっ! ぁ……んんっ……ぁあっ……」
 雪音は必死になって刺激に耐える俺にいっぱい話し掛けてくるし
「ゃぁっ、ん……ゃっ、あ……ダメ……それっ……やだぁっ……」
 俺の反応を窺いながら、俺の身体が気持ちいいと感じる事ばかりをしてきたりする。
 セックスに耐性があるせいなのか、雪音が俺の中に挿入はいってきてから結構時間が経っているはずなのに、全然俺を欲望任せに突き上げてきたりしないし。俺の中をナニでね繰り回すように腰を動かしてきて、俺が一番感じてしまうところをピンポイントで攻めてきたりもする。
 頼斗に激しく奥を突き上げられるのも気持ちが良かったけれど、こうして雪音に優しく中を掻き回されるのも気持ちいい。
 雪音は自分と頼斗のどっちが大きいかなんて聞いてきたけれど、そんなものは俺にだってよくわからない。どっちのナニも自分の中に受け入れた俺の感触では、どっちも同じくらいって感じだった。
 頼斗としたセックスと、雪音とするセックスのどっちが気持ちいいのかもわからない。俺の中ではどっちも気持ちいいって思っちゃうんだから。
 ただまあ、経験の差から雪音の方が相手を気持ち良くさせるテクニックは持っているというか、頼斗よりねちっこいセックスをするとは思った。
 そう簡単にイかせてくれないみたいだし。人を気持ち良くさせるだけさせておいて、自分は安全圏から相手の反応を見て楽しんでいるように思える。
 そこには経験の差以外にも、性格の差というものがあるのかもしれないけれど、同じセックスをするでも、相手によって全く違うセックスになるんだ、という事を、我が身をもって知った気分である。
「んんっ……雪音っ……もういい……もういいよぉ……そんなに中……ぐちゃぐちゃにしないでよぉ……」
 今日初めてセックスというものを体験して、その気が遠くなるような快感と刺激を覚えたばかりの俺は、再び俺に襲い掛かってくる強い刺激と快感に、頭がどうかなってしまいそうだった。
 そもそも、俺に一日に何度もセックスをするような体力は無い。今日はもう帰宅した時から体力が限界で、一刻も早く寝てしまいたいと思っていた俺は、時間を掛けてゆっくり俺をどろどろに溶かしてくる雪音に、「もう無理」と泣き出してしまいたい気分だ。
 いや、実際にもう泣いている。散々俺に刺激と快楽を与えてくるだけ与えてきて、なかなか俺をイかせようとしてくれない雪音に、俺は苦しいしもどかしいしで涙を流してしまっていた。
「ん? もうイきたいの?」
「ん……んんっ……」
 俺の身体を突き上げるというよりは、ただゆさゆさと優しく揺らしてきているだけの雪音は、それでも泣く程に感じてしまう俺を見て、俺の涙を指先でそっと拭ってきてくれた。
 いつもは生意気で意地悪なことばかりしてくる癖に。こういう時は本当に優しくしてくるよね。さすが、自分で自分のことを紳士的だと言うだけのことはあるって感じ。
 こういう優しい姿を見せられると、「雪音なんかと!」と思っていた自分をすっかり忘れてしまうから、俺って本当に流されやすくてチョロいんだな、って思う。
 でも、俺にこうして優しくしてくる雪音の姿を見せられると
(他の子とエッチした時も、雪音はこんな感じだったのかな……)
 なんて思ってしまい、ちょっとだけ胸が痛んだ。
 雪音は俺が初めての相手というわけではないし、何なら俺は雪音にとって七人目の相手だ。
 初体験の時こそ、さすがの雪音も余裕なんてものは無かっただろうけれど、あとの五人の時はどうだったんだろう……って、ちょっとだけ気になっちゃうよね。
「深雪って本当に可愛いね。僕、こんなに興奮するセックスなんて初めてだよ」
「んっ、ぁ……ぁんっ……雪音っ……」
 雪音が過去にどんなセックスをしていたのかは知らないし、あまり聞きたいとも思わない。
 でも、今の雪音の瞳には俺しか映っていなくて、雪音の瞳が俺に「大好きだよ」って沢山言ってきているようにも感じた。
「ねえ、深雪。イきたい?」
 甘く囁く雪音の声に、俺の脳味噌が蕩けるかと思った。
 雪音の声は優しい――っていうか、本当に甘いんだよね。
 全体的に男らしく、如何にも〈男子ですっ!〉って感じの印象が強い頼斗の声は低くて格好いいんだけど、雪音はどちらかと言えば、男らしさよりも美。声も頼斗より少し高くて、とても耳障りのいい声をしている。
 そして、この雪音の声がまた曲者だったりする。
 普段は全然気にならないし、意識もしていないんだけど、こういうエッチな事をしている時の雪音の声は、まるで俺に魔法を掛けているようにも聞こえてしまう。
 甘くて優しい声で俺を誘惑してきて、俺を自分の思い通りに操ってくる……そんな感じがする。
「ん……うん……イきたい……」
 今も雪音が欲しい言葉を言わされてしまった俺だけど、もうずっと気持ちいい感覚が続いていて、身体中が熱くて溶けてしまいそうな俺は、強がりなんか言っている場合ではなかった。
 雪音の問い掛けにも素直に答えてしまう俺に、雪音の顔はとても嬉しそうだった。
「かわい」
 その嬉しそうな顔のまま、俺の唇にちゅっ、ちゅっ、とキスを落としてきた雪音は、俺にキスを落としながら、俺の両脚を抱え直してきた。
 そして、俺の両脚をしっかり抱え直したと同時に、今までよりも少しだけ強く、俺の中を突き上げてき始めた。
「んんっ! ぁっ、ぁんっ……んっ……ぁんっ……」
 雪音が俺の中を擦りながら奥を突き上げてくるたびに、俺の口からはどうしても声が上がってしまい、その声が一階のリビングでテレビを見ている父さん達に聞かれてしまっては大変と、俺は慌てて自分の口を両手で押さえた。
 いつもなら、雪音も父さんや宏美さんが自分達の寝室に引き上げた頃に俺の部屋にやって来て、俺にエッチな事をしてくるんだけど、今日は俺が早く寝ようとしちゃったから、父さんや宏美さんがまだ起きている時間にこんな事になってしまっている。
(せめて、父さん達が自分達の部屋にいてくれれば……)
 と思ってしまうが、まだ夜の九時になったばかりだから、父さん達も「さあ、寝ようか」とはならない。
 ただエッチな事をされるだけなら、俺も少しくらいは声を我慢することもできるけど、気持ちのいいところを擦られて、奥を突き上げられる衝撃には声を抑えることができないらしい。ズンッ、と突き上げられる衝撃に、どうしても声が漏れてしまう。
「んっ……んんっ……ぁ、んっ……」
「声、我慢できないくらいに気持ちいいの? そんな深雪もめちゃくちゃ可愛い」
「んんっ……んっ……んー……」
 こっちは自分の声を抑えようと必死なのに。雪音は必死に声を抑えようとする俺の姿にご満悦な様子だった。
 俺を突き上げるスピードを変えてみたり、突き上げてくる角度を変えてきたりしながら、雪音が与えてくる刺激に耐える俺の姿を、じっくりと鑑賞しているようでもあった。
(イかせてくれるんじゃないのかよぉ……)
 雪音に両脚を担がれた時、そこからはもう、お互い絶頂を目指して突き進んでいくものだと思っていた。
 だけど、雪音の腰はまだまだ激しいとは言えない段階で、イきたくてもイけない状態が続いている。
(これが非童貞のちんこってこと?)
 今日で童貞を卒業した頼斗は、初めてのセックスで雪音のように時間を掛ける余裕はなかった。
 本人も
『多分、途中でセーブなんかできなくなると思う』
 と言っていたし、俺の中に挿入はいってきた直後から、頼斗はもうイきたそうな顔になっていた。
 それでも、初めてのわりには頑張っていたんだと思う。
 世の中には《三擦り半》という言葉があるけれど、普段しているオナニーでは早漏でも何でもないのに、童貞を卒業する時は信じられないくらい早漏になってしまう男子もいると聞く。
 〈れて二、三回腰を送っただけでイってしまった〉とか、〈れたと同時にイった〉とか。中には〈れる前にイってしまった〉という話もあるくらいだ。
 それに比べると、頼斗は俺を何度も突き上げてきたし、俺が気持ち良くなってイきそうになるまでは必死に耐えていた。
 何度も
『ヤバい……もうイきそ……』
 と言いながらも、俺がイくまでは頑張っていた。
 だから、俺も初めてのセックスでいっぱい気持ち良くなって、男同士のセックスでも気持ち良くなれるんだって、物凄く満たされた気持ちにもなっちゃったんだけど――。
「んんっ……雪音っ……雪音……も……無理だから……だから……早くイかせて……よぉ……」
 雪音の耐久性にはちょっと驚く。イくタイミングを自分でしっかりコントロールできているというか、俺ばっかりが気持ち良くさせられて、雪音は気持ち良くなっていないんじゃないかと、疑ってしまいたくなるくらいだ。
 でも
「ん……もうちょっとだけ……。だって、深雪の中、凄く気持ちいい。すぐイっちゃうなんてもったいないんだもん……」
 本人は「凄く気持ちいい」と言っているし、俺を控えめに突き上げてくる雪音の息も上がってきているところを見ると、雪音もちゃんと気持ち良くなっていることはわかった。
「ぁんっ……も……ぁっ……俺っ……限界なのにぃ……」
 ただ、雪音のタイミングに付き合わされる俺の方は結構大変で、早くこの快楽地獄から解放されてしまいたいと、心の底から強く願ったものである。


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