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第五話 『初体験』
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しおりを挟む雪音がうちに引っ越してきた日の翌朝。俺は雪音と頼斗の二人に向かって〈お触り禁止令〉というものを出してやった。
というのも、前日の夜に二人が揃って俺にエッチな事をしてきたからだ。
さすがに怒った俺を見て、二人も春休み中はおとなしくしてくれていた。そのおかげで、春休み中の俺は比較的平和な毎日を過ごせていたのだけれど――。
春休みの終わりと同時に、俺の平和な生活は終わりを告げた。
入学式があった日に、再び二人から手を出されてしまった俺は、その日を境に、二人とちょくちょくエッチな事をする関係に……。
学校はもう通常授業が始まっているから、頼斗とエッチな事をする時は、雪音の邪魔が入らないようにと頼斗の家で。雪音とエッチな事をする時は、頼斗がいない時の俺の部屋で――という感じだ。
自分では全く望んでいない展開だし、俺自身〈どうして断れないのだろう〉と、毎日のように思っている。
俺がしっかり断りさえすれば、二人も無理矢理俺をどうこうしてくるつもりなんてないはずなのに。
でも、頼斗の「シたい」にも、雪音の「シよ」にも断り切れない俺がいる。自分が二人に何を求めているのかがさっぱりわからなかった。
ただ単に、有り余る性欲を吐き出してしまいたいという願望?
自分の性欲がそこまで有り余っているとは思わないけれど、「そういうお年頃」と言えば「そういうお年頃」ではある。自分では気が付いていないだけで、二人とするエッチな事に、俺がハマってしまっているとでも言うのだろうか。
だから、何となく予感はあった――。
「ぁんんっ! ぃっ……たぁ~いっ! 無理無理っ……死ぬ……死んじゃうぅ~……」
ズンッ、というお腹に響く衝撃に、俺は堪らず悲鳴を上げた。
「っ……死なねー……からっ……もうちょっと力……抜けっ……深雪っ……」
「んんっ……無理っ……だって俺……どうやって力を抜いていいかわかんなっ……いぃっ……」
「っ……締め付け凄くて……ちんこ千切れそうなんだよっ……マジ……無理っ……」
「そんな事言われて、も……やっ! まっ……待って……まだ動かないでよっ……」
「動いて……ねぇっ……」
カーテンを閉め切っていてもまだ明るい部屋の中で、俺と頼斗はとうとうセックスしてしまっていた。
頼斗の言う「シたいんだけど」は、いつものエッチな事だとばかり思っていた俺だけど、春休み明けから俺のお尻にまで手を出してくるようになった頼斗は、ついに今日
『シてもいい?』
って言ってきた。
もちろん、最初は俺も断った。俺にそんな度胸や覚悟は無いし、それをやってしまったら、もう二度と後戻りはできない感じがしたから。
だけど、本当に切羽詰まった頼斗の顔と、俺の中にある初体験への好奇心。更に、佐々木に言われた「人生何事も経験」という言葉が頭を過り、結局はまた流されてしまった俺だった。
こんな大事な事でさえ流されてしまう自分には辟易としてしまう。
でも
「んっ……わかった……待つ……待つ……からっ……」
苦しそうに顔を歪める頼斗に胸がぎゅっとなって、俺と繋がったまま俺を抱き締めてくる頼斗の姿には、胸に込み上げてくる何かがあった。
「んっ……んんっ……んっ……」
俺を強く抱き締めて、何度も俺にキスをしてくる頼斗にも、今まで感じたことがない感情を覚えた。
この感情を言葉で表すことができない。これって一体どういう感情なんだろう。
興奮? 切なさ? それとも――。
「んっ……んんー……」
俺と一つになった頼斗に、愛情みたいなものを感じ始めているのだろうか。
これまで誰かを恋愛的な意味で好きになったことがない俺は、その答え合わせができない。
「ぁ、んっ……頼斗っ……」
いっぱいいっぱいキスをされた。いっぱいいっぱいキスをされたおかげで、身体が少しだけ楽になっていく気がする。
強張っていた身体からも徐々に力が抜けてきて、少し痛いと感じていた頼斗の存在も、少しずつ俺の身体に馴染んできたように思えた。
「深雪、可愛い……大好き……」
「んんっ……」
俺の身体から力が抜けたことで、頼斗も苦しみから少し解放されたのだろうか。顔はまだ辛そうにしていたけれど、頼斗にも微笑を浮かべるくらいの余裕ができたみたいだった。
「とうとうシちゃったな。セックス……」
「ん……うー……」
わざわざ言わなくてもいい事をあえて言ってくる頼斗に、俺は恥ずかしくなって顔を両手で覆った。
本当にこれで良かったとは思わないし、こんな人生経験が必要だったとも思わない。今回も流されただけって感じではあるけれど、遅かれ早かれ、俺はこうなるであろうことがわかっていたと思う。
俺が捨てたいのは処女ではなく童貞。
そう何度も自分に言い聞かせてきたけれど、雪音や頼斗に流されてばかりの俺は、自分の初めてが二人のうちのどちらかになることを、心のどこかで予感していたような気がする。
「顔、隠すなよ。んな事したら、深雪の可愛い顔が見れねーじゃん」
「あっ……うぅ……」
自分が今、どんな顔をしているのかなんて知らない。でも、物凄く情けない顔をしているであろうことは確かだった。
耳まで熱い顔は真っ赤だろうし、その顔はきっと半泣き状態に違いない。だから、あまり頼斗に見られたくないって思うんだけど、頼斗は俺の両手を優しく顔の前から取り除いてしまうと、泣きそうな顔になっている俺に、またまた沢山のキスをしてきた。
「んんっ……ぁ、ん……んっ……」
初めて俺とキスをした時はぎこちなかった頼斗も、今ではすっかり慣れたものというか、俺とキスをするたびに、俺を気持ち良くさせるキスに変わってきたような気がする。
(学習能力が高いのかな……)
元々、この年頃の男子はエッチな事に興味津々で、ありとあらゆる方面から知識を集めたりするものである。
俺が全然積極的じゃなくて、基本的にいつも受け身でいるから、二人で気持ちのいいセックスをするためには、頼斗が頑張らなくちゃいけないって感じだもんね。
幸い(?)俺の身体は敏感で感じやすいみたいだし、反応も素直だ。頼斗は毎回俺の反応を窺いながら、俺がどうすれば気持ちいいと感じるのかを学んでいったのだと思う。
「んっ……頼斗っ……」
気が遠くなるくらいにうっとりする頼斗からのキスに気持ちが昂ってくる。
「ぁんっ……んっ……んっ……」
気持ちの昂ぶりと共に、俺はただこうしてキスをしているだけじゃ物足りないと感じるようになった。
身体の中に頼斗が挿入ってきた時は、苦しいし痛いしでもうダメだと思ったけれど、苦しみはともかく、痛みはそんなに酷くなかった。
事前に頼斗が俺のお尻に色々していたし、今日も挿入する前に時間を掛けて俺の中を沢山解してくれた。おまけに、痛みや違和感を和らげるために、どこで購入したのか知らないけれど、それ用のローションなんてものも使ってくれたから、俺もどうにか頼斗を受け入れることができたんだと思う。
でも、今までお尻の中に突っ込まれていた指とは、太さも質量も全く違う頼斗のナニを全部呑み込むまでには、かなりの時間が掛かった。
俺は途中で何度もギブアップしそうになったし――というか、実際に何度もギブアップした――、俺の中に少しずつ突き進んでくる頼斗の顔も物凄く辛そうだった。
お互いに息が上がり、汗だくになりながら一つになっていく感覚は、これまでしてきたエッチな事とは全く別物って感じがした。
「な、深雪……。そろそろ動いてもい?」
頼斗が俺の中に馴染んできたことを、中にいる頼斗も感じたんだと思う。ほんの少しだけ腰を揺らしてみて、俺が痛がらないことを確認してからそう聞いてきた。
「う……うん……」
俺はドキドキと心臓を高鳴らせながら、小さく頷いた。
このドキドキは不安や恐怖からのドキドキなのか、初体験への興奮からくるドキドキなのかどうかがわからないところだ。
俺的には、不安と恐怖の表れであって欲しいところなんだけど、これまでの経験上、自分がそこまで軟な人間じゃない事はもうわかっている。
受け身で積極性はなくても、自分の身体が快楽を求めてしまうことも、俺は充分に理解している。
ここまできてしまえばヤる事は一つだし、ここで「やめよう」も手遅れだ。
「で……でも……ちゃんと優しくしてね。俺の身体、まだ完全に慣れてるわけでもないから……」
それでも、初体験を〈怖い〉と思う気持ちだって多少はある。特に、自分が受け入れる側になると、頼斗に突き上げられる衝撃で、自分の身体がどうなってしまうのかは全くの未知だった。
不安そうな顔で頼斗にお願いする俺の顔を見て、俺の中の頼斗がビクンッ、と震えて大きくなった。
「ぁんっ! な……何で⁉」
既に俺の中をぎちぎちに満たしている頼斗だから、これ以上大きくなるなんて思わなかった。
にも拘らず、急に大きさを増す頼斗に、俺の口からは戸惑いの声が上がってしまう。
「お前さ、それ、わざとやってるわけじゃねーよな?」
「へ? え?」
一体何がいけなかったのかと戸惑っていると、頼斗はちょっと怖い顔になって、俺の膝裏に腕を挿し込んできた。
頼斗の腕に脚を大きく開かされた俺は、雄を剥き出しにした顔で俺を見下ろしてくる頼斗にドキドキが止まらなかった。
「んな可愛い顔して〈優しくしてね〉とかさ……。無理に決まってんだろ」
「えっ⁉」
そっ……そういう事っ⁉ それでそんな怖い顔をしているわけ⁉ でも俺、自分の素直な気持ちを伝えただけだったのにっ!
「もちろん、できる限り優しくする……つもりだけどさ。多分、途中でセーブなんかできなくなると思うから、そこは先に謝っとく。ごめん」
「え。いや……」
先に謝られてもーっ! そこは頑張って最後まで優しくしてよっ! 俺、初めてなんだよっ⁉
(ああ、でも……)
俺も初めてだけど、頼斗だって初めてなんだよね。
頼斗はずっと俺とセックスしたいのを我慢していたわけだから、何なら俺と一つになった瞬間から、もうセーブなんてしていられない状態だったのかもしれない。
「深雪。愛してる」
恐怖でやや引き攣る顔の俺に、優しい顔になった頼斗がそう言ってきて、ゆっくりと腰を送り始めた。
「んんっ……! んっ……ぁっ……ぁんっ……んんっ……」
最初は本当に優しく。俺の中を丁寧に擦るようにして突いてくる頼斗に、俺は自分が気持ち良くなっているのかどうかがよくわからなかった。
でも、少しずつ俺を突き上げるスピードが上がってきて、もっと奥まで突き上げられるようになると、頭の中が真っ白になるような快感を覚えてきた。
「ぁんっ……んっ……ゃあっ、ん……頼斗っ……」
「深雪っ……好きだよ、深雪っ……」
「頼斗っ……ぁんっ……ぁっ、あ……んんっ……」
優しくして、と言っておきながら、激しくされる方が快感を覚えてしまう俺の身体って何なの? これが初めてのセックスだっていうのに、こんなにいっぱい気持ち良くなっちゃう俺って変? 淫乱なの?
「ぁんっ、ぁっ……んんっ……ぁあっ、ん……」
「っ……深雪……気持ちい?」
「んっ……んんっ……気持ちいい……かもっ……」
「そこは気持ちいいって言えよっ……」
「んんっ……気持ちい……気持ちいいっ……」
「俺もすげー気持ちいいっ……」
「んんっ……んっ……ぁんっ……ぁあっ……」
元々男同士のエロ体験なんてものをとっくに超えてしまっていた俺は、頼斗とする初めてのセックスにもしっかり気持ち良くなってしまい、今まで以上の強い刺激と快楽に
(俺……もう手遅れなのかも……)
そう思った。
高校生になったばかりの春――。
俺はこうして童貞ではなく処女を喪失し、初体験というやつを経験したのであった。
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