23 / 90
第三話 『Re-start』
6
しおりを挟む済んだ事はとやかく言っても仕方がない。
どんなに後悔したところで時間は元に戻らないし、実際に起こった出来事を無かったことにもできない。
でも
「二人とも、しばらく俺に触るの禁止。っていうか、俺にエッチな事するの永久に禁止」
発生した問題への対処だったり、その解決法は探っていくべきである。
昨日、二人一緒になって俺にエッチな事をしてきた雪音と頼斗は、その後、怒った俺に二人揃って部屋から追い出された。
なので、昨日の二人は雪音の部屋のベッドで一緒になることになってしまったわけだけど、翌朝にはしっかりと俺から説教を喰らう羽目になったというわけである。
せめてもの救いは、昨日の出来事を父さんや宏美さんに気付かずに済んだ事だけど、二人に気付かれなかったということは、すなわち、今後同じような事が俺の身に起こったとしても、二人は俺の身に降り掛かる災難に気が付かず、俺を助けてもくれないということである。
まあ、助けられても気まずいだけだし、助けられたくもないんだけどね。俺が雪音や頼斗に襲い掛かられている場面を見られたくもないし。
(とにかく! 自分の身は自分で守るしかないっ!)
そう心に固く誓った俺は、俺至上最大限に怖い顔で二人を睨みつけながら、二人に〈お触り禁止令〉と〈エッチな事をするのは永久に禁止〉を言い渡すところから始めてみた。
ところが
「えー。それは無理だよ。だって、もう手を出しちゃった後だし」
「俺も。今後深雪に手を出さないままでいられる自信がない」
二人は俺の言いつけを守るつもりがまるで無かった。
「いぃぃぃぃ~っ! ちょっと! 最初から諦めるのはやめてもらえる⁉ 二人には反省ってものがないの⁉」
昨日はおとなしく俺の部屋から出て行った二人だから、少しくらいは反省しているものだと思っていたのに。
反省するどころか
「反省って言われても……。ねえ?」
「結局は深雪も気持ち良くなってたし」
「僕達だけが悪いの? って話だよね」
「ああ」
「……………………」
何かすっかり意気投合しちゃってて、二人の仲が良くなっているような気がするのは気のせい? 俺を巡ってのライバル関係はどこに行っちゃったんだよ。そこの二人に同調されてしまうと、俺が物凄く困った事になっちゃうんだけど。
「っていうか、一番悪いのは深雪だよね?」
「はあ⁉」
ちょっと待って。どうしてそうなるの⁉
「だってさ、僕達の気持ちを知っていながら無警戒過ぎるし、抵抗らしい抵抗もしないんだもん。いくら稔さんに頼まれたからって、普通自分に告白してきた男と同じベッドで寝ようとする? そりゃこういう展開になっても仕方がないってものじゃん」
「なっ……なっ……」
俺が悪いのっ⁉
確かに、いくら父さんに頼まれたからといって、俺も頼斗と同じベッドで一緒に寝るのはどうかと思ったよ? でも、布団がないからしょうがないと思ったし、父さんに頼斗から告白された話なんてできないじゃん。頼斗も俺には「何もしない」って言ったし。俺もその言葉を信じたっていうのに……。
「俺が悪いんじゃないよっ! 二人が勝手に盛ってきたのが悪いんだよっ!」
俺が〈悪い〉と言われるなんて心外だよ。しかも、途中から俺の部屋に乱入してきた雪音に。
そもそも、雪音がお風呂上がりに用もないのに俺の部屋に入って来なければ、頼斗も俺にキスするくらいで済んでいたと思うわけ。
なんて言い方をしたら、〈キスはいいんだ〉と思われそうだから、そこは誤解だと言いたくなるけれど。
でも、キスを許すことと、エッチな事をされるのを許すことでは貞操観念に大きな違いがあるような気がする。俺は自分が付き合っている相手どころか、好きかどうかもハッキリしない相手に、肉体的な関係を簡単に許してしまう人間だと思われたくない。
それに、だ。
「大体っ! 雪音は二度も無断で俺の唇を奪ってきたことをまだちゃんと謝っていない分際で、どうして俺にエッチな事とかしてこられるわけ⁉ 俺、雪音にキスされたこと、まだ許してないんだけどっ!」
そこの問題もまだ解決していない。
父さんと宏美さんの再婚は認めたものの、俺と雪音の間に起こった問題は追々解決していくつもりだった俺にとって、それより先に雪音から手を出された事実に納得がいかない。
「え? まだそこ気にしてたの? っていうか、一応謝ったはずだよね?」
「あんなの謝ったうちに入らないよっ! 俺は許してないんだからっ!」
くぅぅぅぅ~っ! 人の大事なファーストキスを奪っておいて、「まだそこ気にしてたの?」とはどういう言い種だっ! 雪音の神経を疑っちゃうよっ!
そりゃね、あれからの俺はもっと凄まじい経験をしてしまったから、正直言って雪音に奪われたファーストキスのショックなんてほとんど忘れちゃってはいるよ。でもね、俺の記憶に残る初めてのキスは雪音で、それは一生消えることがないんだよ。
今はもう口で言うほど怒っていないのかもしれないけれど、思い出したらやっぱり腹が立つものなのっ!
「でもさ、深雪はもう頼斗ともキスしてるし、キス以上の経験だってしちゃってるじゃん。今更ファーストキス云々で怒ることもなくない? 突然奪われたファーストキスなんて、犬に噛まれたとでも思って忘れちゃいなよ」
「お前が言うなぁーっ!」
どこの世界に自分のしでかした悪事を「犬に嚙まれたとでも思って忘れちゃいなよ」なんて、無責任な言葉で片付ける人間がいるんだよっ! 雪音の性格ってどうなってるの⁉
雪音の宏美さんに対するいい息子っぷりを見ていると、宏美さんの育て方が間違っていたとは思えないんだけど、母親以外の人間に対する雪音の態度というか、人間性は、何かをどこかで間違えているとしか思えない。
「それに、深雪のファーストキスを奪ったのは確かに僕だけど、深雪の初体験っていうか、深雪が初めてエッチな事をした相手は頼斗だったんでしょ? だったら僕より頼斗の方が罪重いじゃん」
「はうっ⁉」
な……何故それを……。
「っ!」
雪音の突っ込みに目を丸くした俺が物凄い勢いで頼斗に視線を向けると、頼斗は決まり悪そうな顔でそっぽを向き、ぽりぽりと鼻の頭を掻いたりなんかしていた。
「……………………」
喋りやがったなっ! こんちくしょうっ! 言わないって約束だったのにっ!
でも、雪音に知られまいと思った理由は、それを知った雪音に何をされるかがわからなかったからで、雪音にも同じような事をされた今となっては、隠しておく必要もないって話だよね。
(全くもうっ! 昨日二人を俺の部屋から追い出したのも、それはそれで大きな間違いだったよねっ!)
きっと、成り行きで共犯みたいになってしまった二人の男の間で、男同士の語らいとかしていたんだ。ライバル同士と言いつつも、同じ人間を好きになった者同士、語り合いたいあれこれがあったんだろう。
俺にとってはどうでもいい事だし、「知るかっ!」って話だけど。
「それなのに、僕だけがいつまでも恨まれて、責められるのもなぁ……。何だか納得がいかないよね」
「~……」
この場合、納得がいかない尽くしなのは俺の方だというのに。雪音は面白くなさそうに唇を尖らせ、いっちょ前に拗ねていた。
雪音のそんな表情を見ていると
(え……俺が間違ってる?)
という錯覚を覚えてしまいそうだ。
だがしかし! 俺は間違っていないっ! 多分っ!
この際、済んだ事はくどくど言わないことにするとしても、起こってしまった出来事に対する俺の怒りは間違っていない――はずっ! 二人が俺にしてきた事に、俺は腹を立ててもいい――と思うっ!
「あぁーっ! もうっ! わかった! 済んだ事はもう言わないっ! でも、俺は昨日の二人に腹を立てているし、金輪際、俺にエッチな事をしてくるのは許さないからねっ! 次に同じような事をしたら、俺は二人のことを嫌いになっちゃうんだからっ!」
結局、済んだ事で何を言っても問題の解決にはならないと悟った俺は、自分の意思というか、今後の俺の対応のようなものを二人に突き付けることで、この話はおしまいにすることにした。
「とか言いながら、一度覚えた快楽にはすぐ抗えなくなると思うけどね」
「まあ、しばらくはおとなしくしとこうぜ。俺、深雪に嫌われるの嫌だし」
「だね」
俺の言葉をあまり真剣に捉えていないような二人のひそひそ話が聞こえてきたけれど、とりあえずスルーする。
この二人の言い分に付き合っていたら埒が明かないし、俺も疲れるだけなんだもん。
それにしても、雪音と一緒に暮らし始めた途端にこれだなんて……。
最初から不安しかなかった俺だけど、俺が思った以上の出来事が起こってしまい、これからの毎日が不安で埋め尽くされていく一方だよ。
せっかくの春休みだから、色々と気持ちの整理をして、雪音や頼斗との問題にも折り合いをつけていくつもりだったのにな。
気持ち良く新年度を迎える準備をするどころか、とんでもない再スタートを切ってしまった気がして仕方がないよ。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる