僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Final Season

    永遠に輝け! 五つ星☆(7)

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 デビュー記念イベントが終わった日の夜。俺達はファンと一緒に過ごせた夢のような時間の余韻にどっぷりと浸り、なかなかそこから抜け出すことができなかった。
 でも
「ヤベ……そろそろ風呂に入んなきゃ。もう十一時になるじゃん」
 デビュー記念日も終わりに近づいてくると、いつまでも呆けている場合でもなくなった。
「え? もうそんな時間なの?」
「あれ? 僕達って夕飯食べましたっけ?」
「食べたよ。食べたじゃん。イベントの後に打ち上げしたよね?」
「あー……そう言えば、何かお肉のようなものを食べました」
「“お肉のようなもの”じゃなくて、お肉だよ。焼肉食べに行ったんだから」
 まあ、約一名、海はイベントの余韻にどっぷり嵌り過ぎていて、イベントの後の記憶が曖昧になっているようだけれど。
 お肉のようなもの、って何だよ。自分でロースだのカルビだのって注文してたじゃん。あればどういうテンションで注文していたわけ? しかも、人一倍お肉を食べていたような気がするんだけれど。
「風呂入れてくるか。その間に風呂に入る順番決めといて」
「はーい」
 マネージャーの運転する車で帰って来た俺達は、帰宅するなり全員がリビングのソファーでまったりとしたままだった。
 陽平が腰を上げてお風呂場に向かうと
「俺と悠那は最後でいいよ。だから、お風呂の順番は三人で決めて。ね? 悠那。それでいいよね?」
「うん。俺達最後でいい」
 俺と悠那は律と海、そして、今はここにいない陽平にお風呂の順番を譲ってあげた。
 今は全員イベントの余韻に浸ってまったりしているところだから忘れているだけで、今日一日の肉体的疲労度はかなりのもののはずだ。
 通常のテレビや雑誌の仕事も内容によっては凄く疲れる時もあるけれど、ライブやイベントの時がやっぱり一番肉体的な疲労が大きい。貴重なファンと一緒に過ごす時間だから、俺達もついつい全力を出し切ってしまうところがあるんだよね。
 それがわかっているから、マネージャーもライブやイベントの後はしっかり休む時間を作ってくれている。
「どうなった?」
 浴槽を洗い、お風呂を入れて戻って来た陽平に聞かれ
「陽平さん、律、僕、司さんと悠那さんの順になりました」
 と海が答えていた。
 陽平がお風呂場に行っている間、律と海でお風呂の順番なんか決めていなかったのに。うちのメンバーは譲り合いと思いやりの精神が素晴らしい。
「え? 俺が一番でいいの?」
「はい。僕達はお風呂に入る前にやっておきたいことがありますし。司さんと悠那さんは最後がいいそうなので」
「そうか? じゃあ、お言葉に甘えることにするわ」
 陽平が気を遣わなくてもいいように、如何にも“自分達は後のほうが都合がいい”という言い方をするあたりも完璧である。
 きっと本当はお風呂に入る前にやることなんてないと思うけれど、お風呂掃除をしてくれた陽平に一番風呂を譲ってあげたいのだろう。
「んじゃまあ、風呂に入る用意をして、さっさと風呂に入ってくるわ」
 そして、陽平は陽平で自分の後にお風呂に入るメンバーを待たせないようにと、まだお風呂を入れ始めたばかりだというのに、すぐにでもお風呂に入れる準備を始めるのであった。
「僕達も一度部屋に戻りますね」
「あ。俺達も戻る」
 このままリビングでまったりしていたい気持ちもあったけれど、そんな事をしていたら余計に動くのが面倒臭くなりそうだし、これからの予定も崩れそうだ。
 なので、陽平がお風呂に入る準備を始めたタイミングで、俺達も自分の部屋に戻ることにした。
 みんなで一緒に二階に上がり、それぞれの部屋のドアの前で別れる際
「お風呂から出た後に声を掛けたほうがいいですか?」
 と律に聞かれたから
「ううん。大丈夫。適当に入るから」
 と答えておいた。
 どうせ俺達のことだから、部屋に入った途端にイチャイチャし始めて、その流れでエッチすると思われているんだろう。お風呂に入る順番を決める話になった時も、真っ先に「最後でいいよ」って言い出したし。
(まあ……今夜悠那とエッチするつもりでいることには間違いがないんだけどね)
 俺と悠那の性生活がお盛んであることは、今更言うまでもないことなのだけれども
「何かもう、俺達ってエッチしない日はないと思われてるよね、絶対」
「実際はその通りっていうか、それに近いものがあるからね。そう思われちゃうのも当然なのかも」
 どことなく気まずそうな顔をして聞いてくる律に、こっちも少し照れ臭い気持ちになってしまう。
 うちで恋人とのセックスライフをオープンにしているのって俺と悠那くらいだもんね。そういう事は必死で隠そうとしている陽平や律からしてみれば、その話題を口にすること自体、気まずい気持ちになってしまうのかもしれない。
 隠そうとしてみたところで、結構バレバレだったりもするけどね。
 特に、律は翌朝の様子を見れば一発でわかっちゃうし、陽平も表情や態度でわりとすぐわかる。
 お互いに誰と誰が付き合っているのかがわかりきっているんだから、今更隠そうとしなくてもいいのに、と思う。
「でもでも、今日はちょっと特別だもん。俺達にとっては外せない日だよね」
「うん」
 律達と別れて部屋に入った後の俺と悠那は、ドアを閉めるなり一直線にベッドに向かった。
 実は、今日悠那とエッチすることは最初から決まっていた。だから、俺と悠那はお風呂の順番を「最後でいい」と言ったのだ。
 悠那にとって記念日は大切で、大切な記念日には俺とエッチすることも絶対なのだ。
 俺と悠那が出逢うきっかけにもなったFive Sのデビュー記念日ともなれば、それはもう、全ての始まりみたいなものだ。
 イベントで疲れているだろうから、本当は悠那にもゆっくり休んで欲しい気もするけれど、自分達のデビュー記念日という大切な日に、悠那と何もしないなんて俺も寂しい。
 俺と悠那が望んでいることだし、明日の仕事はお昼からだから、悠那といっぱい愛し合った後でゆっくり休むことにする。
「ほんと、Five Sって最高だよね」
「うん。最高」
「俺、事務所の人にスカウトされた時、最初は断ろうと思ったんだよね。だって俺、別にアイドルになりたいと思っていたわけじゃないし。芸能界に入ること自体が大変そうで、面倒臭いと思ったし」
 俺と並んでベッドの上に腰を下ろした悠那は、悠那の頭を愛しそうに撫でる俺の手に喜びながら、俺にぴったりと身体をくっつけてきた。
 二人きりで心置きなくイチャイチャもいいけれど、今日はいっぱいお喋りもしたい気分らしい。
「でもね、事務所の人が何度も俺の家に足を運んでくれて、俺や俺の両親を一生懸命説得してくるから、俺よりもお父さんとお母さんのほうが“やってみたら?”って言い出しちゃって」
「その時、克己さんはなんて言ってたの?」
「反対してたよ。でも、俺が本当に芸能界に入るとは思っていなかったのか、“ま、悠那がアイドルになったら人気が出ることは間違いがないし、俺も鼻が高いけどな”とか言っていたから、俺もお兄ちゃんが本気で反対をしているとは思わなかったんだよね」
「何となくわかる。反対しつつも、心の中で自分の可愛い弟を自慢したい気持ちがあったんだよ。克己さんらしいと言えば克己さんらしい」
「実際に俺が家を出ることになった時は、本気で泣いたからびっくりしちゃった」
「あはは。それも簡単に想像がついちゃうね」
 悠那が今の事務所にはスカウトをされて入ってきたことは知っているし、当時はあまりアイドルという仕事に乗り気じゃなかったことも、悠那の口から直接聞いたことがある。
 だけど、そのへんの詳しい事情というか、その時の悠那の心情の変化というものはちゃんと聞いたことがなかった。
 今日のイベントで陽平がファンの前で自分の過去を包み隠さず打ち明けたから、悠那もこれまで俺に話していなかったことを話そうと思ったのかも。
「当時の俺は将来のこととか全然考えていなかったし、特にやりたいこともなかったから、スカウトされてもただ困るだけだった。軽い気持ちで“やってみます”って言うのも失礼だし」
「スカウトを受ける気になった決定的な理由は何だったの?」
 Lightsプロモーションのスカウトマンが悠那にファーストコンタクトを取ってから、実際に悠那の首を縦に振らせるまでは一ヶ月近く掛かったと聞いた。その間にスカウトマンは悠那の実家に頻繁に足を運び、悠那の説得を試みたのだ。
 Lightsプロモーション初のアイドルグループを作るにあたり、どうしても悠那が欲しかったのだろう。普通、そこまで根気よくスカウトをし続ける事務所はないと思うから。
 二度、三度、四度と色よい返事が貰えずに、五度目でようやく悠那の「やってみます」という言葉を貰えたそうだ。
 四度目まではかたくなに首を縦に振らなかった悠那が、五度目で首を縦に振った理由は知りたい。
「理由は色々あったと思うよ。まず一つ目に、うちに足を運ぶ事務所の人が凄くいい人だったこと。俺のことがどれほど必要なのかってことを事細かく説明してくれたし、話を聞けば聞くほど、俺も“この人達は本当に俺のことを必要としてくれているんだな”ってことがわかったの。正直言って、そこまで誰かに必要とされたことなんてなかったから、それが嬉しかったのはあるかな」
「確かに、何度も家に来て“うちの事務所に入ってください”って頼まれ続けたら、自分が如何に必要とされているのかを実感しちゃうよね」
 もっとも、今では事務所の人間よりも俺の方が悠那を必要としていると断言できる。
 だって俺、悠那がいないと生きていけないもん。
「二つ目は、事務所の人の話を聞いているうちに、アイドルの仕事に興味を持ち始めたことかな。具体的な仕事の内容とか聞かされて、自分には全く経験のないことばっかりだったから、“面白そう”って思い始めちゃったというか」
「へー」
 俺のようなオーデション組は、芸能界の仕事なんて想像でしかなかった。芸能界に入る前に、そこがどういうところで、どういう仕事をするところなのかを細かく教えてもらった悠那はラッキーだったと思う。
 もっとも、そういう説明をきちんとしておかないと、悠那の両親からの承諾を貰えなかったからだろう。何せ悠那は家族全員から溺愛されて育ってきた、箱入り息子だったわけだから。
「でも、一番の理由は、やっぱりお父さんとお母さんからの後押しかな。もしかしたら、お父さんとお母さんは俺が将来就職して、社会人になる姿が想像できなかったのかも。その頃にはお兄ちゃんはもう社会人として働き始めていたから、同じように社会人になった俺を想像して“なんか違う”って思っちゃったのかも。“悠那の魅力が一番活かせる場所だからやってみなさい”って言われたんだよね。それで俺も“やってみようかな?”って気になったの」
「そうだったんだ」
 まあ、その読みは見事に当たっていたわけだ。悠那はデビューした直後から老若男女問わず「可愛い!」と大絶賛される存在になったのだから。
 悠那の愛くるしい姿には、国民的アイドルAbyssのセンター、月城朔夜ですらメロメロになったほどだ。
「でもね、いきなり“メンバーと共同生活を送ってもらいます”って言われた時は、地獄に突き落とされたような気分になっちゃった。騙されたっ! って思ったし」
「俺も最初の顔合わせでそれを言われた時は面食らったよ。てっきりレッスンは実家からの通いになると思っていたから」
「みんな住んでいる場所がバラバラだったからかな? 全員関東に住んではいたけど、あの時、都内に住んでいたのって司と陽平の二人だけだったし」
「かもね」
 懐かしいなぁ……。あれからもう三年半が経っているなんて。何だか信じられない気分にもなる。
 初顔合わせの席で、事務所の人間から
『まず、みんなにはメンバーとの共同生活を送ってもらいます』
 と言われた瞬間、五人全員が目を丸くして絶句していた記憶が蘇る。
「ふふっ」
 当時の記憶を思い出すと悠那も懐かしくて面白いのか、小さく笑った。
「でも、そのおかげで俺は司とルームメイトになって、今は相思相愛のラブラブカップルだもんね。人生って本当に何があるかわからない。最初は嫌で仕方がなかったメンバーとの共同生活も、慣れてしまえば楽しくなったし」
「そこに悠那とルームメイトになった俺の力ってある?」
 メンバーとの共同生活は良しとして、部屋数の問題で陽平以外は一人部屋ではなかったことが問題だった。
 幼馴染みで、既に恋人同士だった律と海の二人なら、恋人との相部屋でもそんなに問題はなかったのだろうけれど、ただでさえメンバーとの共同生活を嫌がっていた悠那は、俺と一緒の部屋でさぞかし不満だったんじゃないかと思う。
 正直、俺も良く知らない相手と同じ部屋を使うことには抵抗があった。
 でも、俺の方が悠那より年上だったし、グループのリーダーも俺になってしまったから、できる限り悠那には快適な共同生活を送らせてあげたいと思っていた。
 と言っても、俺が悠那に何かしてあげられた記憶はあまりない。何せ、俺自身が家族以外の人間との共同生活にわからないことだらけだったんだもん。
 悠那がメンバーとの共同生活を“楽しい”と思えるようになった理由の中に、ルームメイトの俺の存在があってくれたら嬉しいんだけどな。
「ん?」
 俺の質問は意外だったのか、悠那はきょとんとした顔になって俺の見上げてきたけれど
「もちろん。司が俺のルームメイトだったから、俺はメンバーとの共同生活を上手く送れるようになったんだよ」
 俺と目が合った瞬間、可愛い笑顔でにこっと笑ってそう返してくれた。
 更には、俺にぎゅっと抱き付いてきて、そんな悠那を抱き返す俺の腕の中で幸せそうな顔をした。
「俺、共同生活が始まったばかりの頃は本当に勝手で我儘なことばっかり言ってたけど、司はそんな俺を怒ることもしないで、俺をどうにかみんなに馴染ませようとしてくれたもん。時々意地悪だって思うこともあったけど、司はいつも俺に優しかったよ。だから、俺が今Five Sの一員として楽しくやっていけるのは、全部司のおかげ」
「当時の悠那は本当に我儘が酷くて、よっぽど親に甘やかされて育ってきた子なんだと思ったよ」
「いっぱい世話焼かせちゃってごめんね」
「ううん。むしろ、いっぱい世話を焼かされたからこそ、悠那のことを可愛いと思えるようになったところもある」
「え~?」
 当時は俺も自分のことでいっぱいいっぱいだったから、悠那には本当に手を焼かされたと思っている。
 喧嘩とまでは言わなくても、陽平と悠那はしょっちゅう揉めていたから、その仲裁も大変だった。
 俺は末っ子だし、どちらかと言えば引っ込み思案なところもあったから、誰かの世話を焼くよりも、誰かに世話を焼かれることの方が多かった。だから、揉め事の仲裁に入ることもなければ、日常の中にいきなり三人の年下が増えたことにも戸惑っていた。
 でも、逆に年下の世話を焼いた経験がない俺だったからこそ、自分がお兄ちゃんになれたことが嬉しいところもあった。年下の悠那の我儘は“お兄ちゃんとして聞いてあげなくちゃ”って気分にもなってきた。
 まあ、恐ろしく可愛い顔の悠那が言う我儘だから、俺も悠那に甘かったのかもしれないけれど。
「本当だよ。大変に思うこともあったけど、同時に“この子は俺が何とかしてあげなくちゃ”って思ったもん」
「それってつまり、司はその頃から俺に過保護だったんだね」
「そりゃ過保護にもなるよ。まるで女の子みたいに小さくて可愛い悠那だもん。普通の男子と同じ扱いをしちゃいけないと思っていたくらい」
「毎朝俺のことも起こしてくれたしね」
「それは今でも変わっていないけどね」
 今日のイベントでも言ったことだけど、俺が悠那を毎朝起こしてあげる日々は続いている。
 たまには悠那の方が俺より早起きする朝はあるし、悠那を起こす前に、俺が他のメンバーから起こされる日もあるんだけれど、基本的には俺がいつも悠那を起こしてあげている。
 昔は高校生だった悠那が学校に遅刻しないように起こしてあげていたけれど、今はそれが少し変わっている。
 もちろん、今も“悠那が仕事に遅れないように”って気持ちはあるんだけれど、それよりも何よりも、俺が一日の始まりを悠那と一緒に迎えたい気持ちが強い。
 せっかく一緒に住んでいるんだから、朝一番に悠那に「おはよう」を言ってあげたいし、目が覚めて最初に見る顔が悠那でありたい。そんな感じなんだよね。
「大好きな司に毎朝起こしてもらえる生活って幸せ♡」
「この先も一生俺が悠那を起こしてあげるつもりだよ」
「でも、たまには俺だって司を起こしてあげたい。愛情たっぷりのおはようのキスで」
「ん……」
 まだ「おはよう」ではないし、何ならお風呂にも入っていないというのに。自分の言葉でスイッチが入ってしまったらしい悠那は、俺の首に腕を回してくると、言葉通りに愛情たっぷりのキスを俺の唇に重ねてきた。


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