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Final Season
永遠に輝け! 五つ星☆(6)
しおりを挟む初めて自分達だけのステージに立った時の感動を、俺は今でもはっきりと憶えている。
大きな会場を包む熱気と歓声。そして、客席で光る無数のペンライト。
ファン一人一人の手に握られたペンライトの光は、まるで俺達のためだけに光る星のようで、俺達のために夜空が地上に降りてきてくれたみたいに思えた。
その景色と感動は一生忘れないし、ステージの幕が上がるたびに、俺はその景色と感動を思い出させてもらっている。
そして
「Five Sです! 今日は俺達のデビュー記念イベントに来てくれてありがとう! こうしてみんなと一緒に俺達のデビュー記念日を過ごせて嬉しいです!」
今日ここへ来てくれたファン達と、会場には来られなかったけれど、いつも俺達を応援してくれているファンへの感謝の気持ちを思い出す。
「今日で俺達Five Sもデビューから丸三年が経ちました」
「僕達が今、ファンの皆さんと一緒にデビュー三周年を祝うことができるのも、いつも僕達を応援してくださるファンの皆さんのおかげです。とても感謝しています」
「今日は僕達のデビュー記念日を、みなさんと一緒に思いきり楽しく過ごしたいと思います!」
「みんな、最後まで楽しんでね!」
イベントの開始と同時に三曲の楽曲を披露した俺達は、会場の熱気と激しいダンスに息が上がりながらも、割れんばかりの歓声を上げるファンに最初の挨拶をした。
昨日、みんなで一緒に出掛けたことが良かったのだろうか。今日は全員調子が良さそうだった。
「さてさて。僕達のデビュー記念イベントと言えば、歌はもちろんですけどトークも、ですよね」
「俺達、みんなに話したいことがいーっぱいあるよ」
「みなさんも僕達に聞きたいことがいっぱいあるみたいですね」
「というわけで、まずはファンからの質問に俺達が答えることにしまぁ~っす!」
リハーサルでは散々イベントの流れとダンスの確認をしたけれど、トークそのものはぶっつけ本番みたいなものだった。
というのも、あまりトークの内容をガチガチに決めてしまうとアドリブが利かなくなって面白くなくなるし、ファンの反応を見ながらトークを展開していくほうが、俺達のファンは喜んでくれる。
どのコーナーでどういう話をする、くらいは大まかに決めているけれど、その決めたことに“絶対”はなかった。
「じゃあ最初の質問。あ、これ、司への質問だ。いきなり名指しの質問引いちゃった。えっと……〈司君が目を覚まして一番最初にすることって何ですか?〉だって」
「え」
最初の質問コーナーでは、ファンからの質問を事前にスタッフがランダムに選び、箱に入れてくれている。箱に入った質問の紙を、このコーナーの進行役である悠那と律が交互に引き、それに俺達が答えるシステムになっている。
今悠那が読み上げたファンからの質問は、リハーサルの時とは全く別の質問で、最初の質問の回答者になってしまった俺はちょっとだけ焦ってしまった。
「さあ、答えてもらいましょうか、司さん。もしかしたら、司さんと同じ部屋の悠那さんなら知っているかもしれませんけれど」
「え⁈ えっとぉ……司が起きて最初にすることでしょ? う~ん……な……何かなぁ~?」
いつも俺と同じベッドで一緒に寝ている悠那は、俺が目を覚ましたら何を最初にすると思っているのだろうか。
俺と悠那の場合、大体いつも先に目を覚ますのは俺だ。悠那が知る“俺が起きて最初にすること”と言ったら、“悠那を抱き締める”とか“悠那にちゅーする”とか“悠那にエッチなことをする”ってところかな。もちろん、そんな事は言えるはずもない悠那は、悩む振りをしながら誤魔化そうと必死である。
「伸び……かな? わかんないから司に答えてもらっちゃう! 司、正解は?」
「悠那を起こすこと」
結局、何もいい案が浮かばなかった悠那は質問を俺に丸投げしてきたのだけれど、俺はしれっとした涼しい顔でファンからの質問にあっさり答えてあげた。
まあ、俺がどうやって悠那を起こしているのかまでは言うつもりがないけどね。
「あ、そっかぁ~。確かに俺、毎朝司に起こしてもらってるぅ~」
俺の口からどんな答えが飛び出してくるのかとハラハラしていた悠那の顔は、至極まともな回答をした俺にホッとする反面、ちょっぴり残念そうな顔でもあった。
悠那のこういう素直なところが本当に可愛いと思う。
「なるほど。そう言えば、司さんはメンバーとの共同生活が始まった時から、毎朝悠那さんを起こしてあげていましたよね」
「最早俺のルーティンワークだよね。悠那を起こさないと一日が始まらないって感じ」
「デビューから三年経った今も、その生活習慣が変わっていないお二人が微笑ましいです」
本当は、デビューから三年経った今でも、俺が起こしてあげないとなかなか起きない悠那に呆れているところもある癖に。ファンの前ではいい方向に話を持って行く律がさすがである。
Five Sがデビュー前からメンバーとの共同生活を送っていることは、俺達のファンならまず知らない者はいない。
去年の春に引っ越しはしたものの、新しい家でも俺と悠那、律と海がルームメイトのままであることも知られている。
時々
『どうして陽平君だけ一人部屋なんですか?』
という質問をされることがあるんだけれど、それには陽平本人がファンを納得させる答えを既に回答済みである。
メンバー同士の仲良しエピソードに盛り上がる俺達のファンは、俺が毎朝目を覚まして一番に悠那を起こすことを知り、黄色い歓声を上げていた。
ほんと、この子達には俺と悠那の関係を明かしても大丈夫そうな気がするよ。
「じゃあ次の質問。一人でも多くのファンからの質問に答えるため、どんどん行っちゃお」
「そうですね」
俺達の仲良しエピソードにファンが喜んでくれる理由の一つは、デビュー前からメンバーと一緒に生活をして、家の中ではいつもメンバーと仲良くしているとわかれば、気になる女の子の存在を心配しなくていいからだと思う。
俺達がメンバー同士で仲良くしていればしているほど、彼女の存在は皆無になるし、彼女なんて必要なさそう、と思ってくれるみたいだ。
まあ、実際は全員が全員彼女(彼氏)持ちで、ちゃんとヤることもヤっていたりするんだけどね。そこは本当にごめんなさい。
あと、俺達のファンには“推し”の他に“推しカプ”というものがある子も多くて、自分の推しカプのエピソードを聞けるのが嬉しい、という子も多い。
たとえば、今質問コーナーの進行を務めている悠那と律。この二人が一緒に何かをしていることを喜ぶファンも多い。
Five Sの中では小柄で可愛らしい二人だからね。その二人が並んでいる姿に喜ぶファンの気持ちはわからないでもない。
そして、どうやらこの二人、ファンの間では“姫’s”と呼ばれているらしい。俺もつい最近知ったばかりだし、本人達はまだ知らないことだけど。
自分達がファンから“姫‘s”なんて呼ばれ方をしていると知ったら、悠那は喜びそうだけど律は嫌がりそうだよね。
律は悠那のことが嫌いなわけではないし、悠那のことはちゃんと好きで、信頼もしているけれど、自分とは全く共通点がない悠那と一緒にされることを心外だと思っているところがある。
「次はメンバー全員への質問ですね。〈仕事で嫌なことがあったり、上手く行かない時はどうしていますか?〉だそうです」
「ストレス発散法だったり、困難の乗り越え方が知りたいってことだね」
「そうです。これには陽平さんから答えてもらいましょうか」
「え⁈ 俺から⁈」
悠那と律が進行する質問コーナーはテンポよく進み、俺達が質問に答えるたびに、ファンからは良すぎる反応が返ってきた。
質問コーナーが終わると、今度は進行役を陽平と海に代えてアンケート結果の発表コーナーへ。
ファンはもちろん、俺達も知らないアンケート結果に――リハーサルでもアンケートの結果は知らされていなかった――、俺達とファンの反応はシンクロしていて、ファンとの一体感のようなものを感じることができた。
前半のトークが終わったところで再びステージの披露になったわけだけど、このステージではデュエットダンスやソロダンスを披露したから、ファンの反応はとても良かった。
後半のトークは更にファンとの距離が近くなったように思えて、俺達からファンに話を振る回数も多かった。
ファンと過ごす時間、ファンとの一体感。そういうものが物凄く楽しくて、嬉しくて……。
こういう時に、俺は
(アイドルになって良かったな……)
としみじみ実感してしまう。
後半のフリートークでは、昨日メンバー全員で初めて一緒に遊びに行った時の話をしたし、その帰り道で、陽平がグループ結成時の裏話を俺に打ち明けたことを、陽平本人がファンに明かしてもいた。
実は、俺達のファンの中には陽平が以前はZeusのレッスン生だった過去を知っている子もいるにはいるのだが、違う事務所の話を自分達のステージで話すわけにはいかない。だから、陽平はこれまでそのことについては一切触れて来なかった。
だけど、去年と今年を跨ぐカウントダウンライブをCROWNとの合同で行ったことで、そろそろ話してもいいという決心がついたようだった。
もちろん、Zeusにはちゃんと話を通しているし、Zeusの社長直々に許可も貰っている。違う事務所同士で合同ライブを行ったことだし、俺達が所属するLightsプロモーションと、湊さん達が所属するZeusが懇意にしていることを公にしていく方向なのだろう。
陽平の暴露には少なからず衝撃を受けたファンもいたけれど、陽平の真摯な態度やZeusへの恩、今の事務所への感謝を正直に語ったことで、最後は感動の嵐だった。
こうしてファンの前で自分の過去を明かしたことで、陽平の肩の荷も完全に下りたというか、まだ心の中に僅かに残っていた過去の罪悪感と完全に決別できたんだと思う。
自分の口で過去を明かすことができた陽平は、ホッとしたと同時に泣きそうな顔になっていた。
昨日は俺に
『別にいいじゃん。泣きたい時は素直に泣けば』
って言った癖に。自分は素直に泣かないんだから説得力がないよね。
でも、この陽平の暴露話で会場内は一気に感動ムードに包まれてしまい、続くメンバーやファンへの三年間の感謝の思いを語る場面では、とうとう堪えきれなくなった陽平が泣いてしまったし、その涙に釣られた悠那まで泣き、滅多なことでは泣かない律も、涙こそ流さないものの涙ぐんでいた。
唯一、平気な顔をしていたのは海だったけれど、胸の内は感動の波が渦巻いているらしく、なかなか上手く喋られなかったりした。
メンバーやファンに対する三年分の感謝の言葉だ。その言葉に心が動かされないはずがない。
俺達の言葉に泣いてしまうファンも当然いた。昨日、“泣いちゃったらどうしよう”と心配していた俺も、最終的にはやっぱり泣いた。
人前で涙を流してしまうと、その涙を見た人間に気を遣わせてしまうから本当は嫌なんだけど、自分では制御できない感情の前ではどうすることもできなかった。
それに、これは嫌な涙というわけではない。こんなにも自分を支えて応援してくれる人間が沢山いるんだ、という嬉し涙というやつだ。“大好き”の感情が溢れて流れる涙だから、そういう涙は流してもいいと思う。
「実は今日、僕達からみなさんへプレゼントがあります」
普段、俺の一人称は“俺”なんだけど、時と場合によって“僕”になることもある。
改まった席の時は意識的にそうしているし、ファンの前では時々一人称が“僕”になってしまうことがある。
会場内が感動に包まれる中、俺がファンへのプレゼントの存在を明かすと、ファンの子達はきょとんとした顔になっていた。
今、この会場にいるファンの手には、俺達からのプレゼントが既に行き渡っているわけなのだけど、中が見えない袋の上には《メンバーから合図があるまで開けないでね》というメモが貼ってある。
中にはもう開けてしまった子もいるのかもしれないけれど、反応を見る限り、そういう子はほとんどいなかったようである。
「今日、会場する時にスタッフからピンク色の袋を受け取りましたよね? それが僕達からのプレゼントです。大したものは入っていないのですが、僕達からファンへの感謝の気持ちとして受け取ってください」
まだ潤んだ瞳のままの俺がそう言うと、客席のファン達が一斉にその袋の口を開き、中を確認し始めた。
そして
「嘘っ⁈」
「えっ⁈ 何これっ! 凄い嬉しいっ!」
「サインが入ってるっ! しかも手書きだっ!」
袋の中身を確認したファンの口からは次々とどよめきの声が上がり、誰が合図したわけでもないのに
「ありがとーっ! 大好きーっ!」
客席の全方向から「ありがとう」と「大好き」の大歓声が上がった。
その瞬間に、俺達の涙腺は再び崩壊した。今度は律と海も一緒だった。
「ヤバい。俺達のほうがめちゃくちゃ嬉しい」
「やって良かったね、司」
「僕、もうこの子達を手離したくない気持ちでいっぱいですよ~」
「うぅ……みんなが泣いても僕だけは絶対に泣かないって決めていたのに……」
観客全員からの「ありがとう」と「大好き」に、俺達はマイクを通さない声でそう言い合った。
俺達の口からそんな言葉が出た時点で、今日のデビュー記念イベントは大成功だ。
「ほんと、ファンもメンバーも大好きだよ。愛してる」
いつも悠那には「大好き」も「愛してる」も飽きるほど言っているけれど、メンバーには言ったことがあっただろうか。「大好き」ならまだしも「愛してる」は一度もなかったと思う。
「今このタイミングでそれを言うのは反則じゃね?」
「そうですよ。ズルいですよ、司さん」
「俺もメンバーとファンが大好きで愛してる~♡」
「同じくです~」
ライブが始まる前にする時のように、肩を組んで円陣になった俺達の顔は、涙と一緒に割れんばかりのいい笑顔だった。
今日でデビュー三周年を迎えた俺達Five Sは、強い絆で結ばれた信頼し合える五人のメンバーと、たくさんの温かいファンの力を借りて、これから始まる四年目も頑張って行こうと思う。
そして、来年迎えるデビュー四周年記念のイベントでは、今よりももっと成長した俺達で、ファンを喜ばせてあげられるグループになっていたい。
Five Sの“S”にはSTAR――星という意味も込められている。
それならば、これからの人生、俺達五人は永遠に光輝く五つの星でありたい。
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