僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Final Season

    永遠に輝け! 五つ星☆(2)

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 デビュー記念イベントを一週間後に控えている俺達。昨日、俺が夕飯の席で口にした「ファンにプレゼントがしたい」という意見がメンバーに採用された翌日には――。
「いやぁ~ん……余裕かと思ってたけど、一日目にして手が痛ぁ~い」
「だから言ったじゃん。キツくね? って」
「でも頑張るぅ~」
 マネージャーからそのために必要な材料――とりあえず、サインを書くカードとペンが大量に届けられてしまい、早速それぞれがカードに手書きのサインを書く作業に取り掛かった。
 もちろん、丸一日そんな事をしていられないから、仕事の合間を縫って書いたり、仕事が終わってから書いたりしているのだけれど、一人当たり二千枚のノルマは果てしなかった。
 最初に数を聞いた時から大変だとは思ったけれど、実際に書き始めてみるとやっぱり大変だった。少しでもファンに感謝の気持ちを伝えたいから“手書き”なんて言葉が出てきてしまったのだろうけれど、そこはコピーにした方が良かったのかもしれない。何せ、イベントまでは後一週間しかないんだから。
 しかし
「律は何枚書けた?」
「僕は現時点で二百枚です。できればあと二百枚は書きたい」
「結構書いたね。僕はまだ百五十枚くらい」
「悠那さんは何枚書いたんですか?」
「俺は三百枚っ! でも、まだまだ書くよっ!」
「は? お前もうそんなに書いたの?」
「ふふふ♡ 凄いでしょ♡」
「変なところで物凄い集中力とやる気を見せるよな、お前」
「失礼だねっ! 変なところじゃないもんっ! ファンのために頑張ってるんだからっ!」
「それもそうだ。悪かった」
「そういう陽平は何枚書いたの?」
「俺も海と同じくらいかな。夕飯食い終わったらまた書くけど」
 うちのメンバーは思った以上に頑張っていた。
 今日もオフというわけではなかったというのに、既に全員が少なくとも百枚以上はサインを書き終わっていた。
 まあ、カード一枚につき十秒と考えて、一分で六枚。十分で六十枚書けると思えば、百枚や二百枚はあっという間な気もする。
 でも、そんなに連続してサインを書くのは疲れるし、休憩時間はしっかり休憩もしたい。
 やる、と決めた以上は一日一枚でも多くサインをカードに書きたいところだけれど、ノルマ達成まではまだまだ時間が掛かりそうだ。
「司は何枚書いたの?」
「俺は四百枚書いたよ」
「え⁉ 凄っ!」
「さすがに言い出しっぺ。気合いが違うな」
「うーん……あはは……」
 気合い……なのかどうかはわからないけれど、俺の発言で急遽メンバーに大量の手書きサインを書かせる羽目になってしまったから、自分が誰よりも頑張らなくてはいけない、という気持ちにはなっている。
 もっとも、“手書きサイン”と言い出したのは俺だけじゃないんだけど。
 でも、俺がイベント直前になって「ファンにプレゼントがしたい」なんて言わなければ、何か別の方法でファンを喜ばせることになっていただろうから、やはりそこはちょっと責任を感じちゃうよね。
「むむむ……だったら俺は今日中に五百枚を目指すっ!」
「意気込みは素晴らしいですけど、無理は禁物ですからね、悠那さん」
「わかってるもん。無理せずに頑張るもん」
「でも、さっき“手が痛い”って言っていませんでした?」
「ちょっと休憩したら大丈夫だも~ん」
「でも、こういうのってなんか楽しいですよね。自分との闘いでもありますし。是が非でも達成したくなっちゃいます」
「あ、それわかる。明確な目標があると結構頑張れるよな」
 まあ、うちのメンバーは大変だと思いながらも、その大変さを楽しんでくれているようだから良かったけれど。
「プレゼントのお菓子はどうなるんですっけ?」
「それもマネージャーが昨日のうちに手配済み。子供のご褒美レベルのお菓子にはなっちゃうし、全員同じ種類にはならないけど、それがまた楽しいでしょ、って笑ってた。明日には事務所に届くみたいだから、届いたら片っ端から袋詰めするって言ってたよ」
「それもう内職じゃん。マネージャーが一人でやるの?」
「まさか。そこは他のスタッフにも手伝ってもらうってさ」
「僕達も早くサインを書き終えて手伝えたらいいですね」
「ねー」
 昨日の今日でもうそこまで話が進んでしまっていることにも驚くけれど、こうなってしまった以上、もう後戻りもできない。
 イベント直前になって、メンバーにはもちろん、マネージャーにまで余計な仕事を増やしてしまったことは、やっぱりちょっと申し訳なく思う俺だった。





「はぁ~……頑張った後のお風呂は最高だねぇ~♡」
「ごめんね、悠那。なんか俺のせいで大変なことになっちゃって」
「ううん。大変だけど楽しいからいいんだもん。むしろ、こういう企画を提案してくれた司には感謝してるくらい。だって、ファンのために頑張ったことが形になるし、俺だったら好きな芸能人から手書きのサインなんて貰えたら死ぬほど嬉しいもん」
「そう? それならいいんだけど」
「他のメンバーもそう思ってるよ。だから、司が申し訳なく思う必要なんて全然ないんだから」
「うん。ありがと」
 時計の針が0時を少し回った頃。俺と悠那は今日のサイン書きは終了にして、一緒にお風呂に入ることにした。
 今日一日で、俺と悠那は五百枚のサインを書き終えていた。
 このペースで行くと、後三、四日後にはノルマ達成になり、マネージャーの袋詰めも手伝えそうだ。
 それでも、イベントギリギリになってしまいそうではあるけれど。
 悠那と一緒に湯船に浸かった俺は、仕事だけじゃなくサイン書きも頑張った悠那を労ってあげると同時に、今日一日頑張った悠那の小さくて可愛い手をマッサージしてあげた。
 さっきまでペンを握っていた悠那の指が少し赤くなっていたけれど、悠那は俺からしてもらうマッサージに嬉しそうな顔になり
「後で司の手もマッサージしてあげるね」
 と言った。
 やっぱり可愛いなぁ……俺の彼女。陽平や律には反対されたけど、本当にファンの前で悠那と付き合っていることを公表してしまいたい気分になる。
「でも、今回イベントに来られないファンの子達にはちょっと申し訳ないよね。本当なら、イベントに来られないファンにも同じことをしてあげたいところなのに」
「そうだね。今回はちょっと無理だから、来年はそうしよう。来年はもっと早めに準備をして、会場に来るファンと来られないファンに同じことをしてあげられる方法を考えようね」
「うんっ!」
 俺のことが大好きで、俺のことになるとすぐにヤキモチを焼いてしまう悠那も、自分達のファンだけは例外だった。
 ファン相手にヤキモチを焼くことが全くないわけではないけれど、俺がどんなにファン想いな発言をしても、そこでヤキモチを焼くことはない。
 それというのも、悠那本人がファンを大事にする子だから、俺にもファンを大事にして欲しいと思っているからだろう。
 うちのメンバーの中では唯一スカウトで入ってきたし、最初は本気でアイドルになりたいというわけでもなかった悠那だけど、みんなと一緒に生活し、レッスンを受け、デビューに向けて頑張っているうちに、立派なアイドルに成長していったということかな。
「ところで悠那。克己さんってまだ俺達の映画を毎日見に行ってるの?」
「ううん。さすがに公開から一ヶ月が過ぎてるし、今は毎日行ってないみたい。この前電話で話した時は“二日に一回”って言ってたよ」
「へー……」
 急に話題を変えてしまった俺だけど、克己さんのその後は少し気になっていた。
 俺と悠那の関係を認めたことで、少しは克己さんの悠那離れが始まっているのかと思っていたけれど……。
(未だに二日に一回は俺達の映画を見に行っているのか……)
 克己さんはまだまだ悠那から離れられそうにない。
 そりゃまあ、一日も欠かさず毎日映画館に足を運んでいた時に比べれば、一日のインターバルを置くようになったあたりは落ち着いたとも言えるけど。
 でも、二日に一回は相変わらず多い。日参とほぼ変わらない頻度だし、正常な兄の行動からは逸脱したままである。
(まあ、急に劇的な変化が起こるわけでもないか……)
 克己さんはこれまでの人生、悠那を生き甲斐にして生きてきたような人だ。俺と悠那の関係を認めたからといって、その生き甲斐を失うわけではないし、克己さんが新しい生き甲斐を見つけるまでは、まだまだ悠那第一主義が続くのだろう。
 生き甲斐って大事だもんね。
「最近はお兄ちゃんから司のことを聞いてきたりもするよ。“ちゃんと仲良くしているのか?”とか“優しくしてもらっているんだろうな”とか。お兄ちゃんからそんな風に言ってもらえたことがなかったから、普通に嬉しい」
「そっか。それは良かったね。俺も克己さんが悠那にそんな事を言っているって知ったら嬉しいし、克己さんを失望させないようにしなきゃ、って思うよ」
「大丈夫だよ。だって、司はいつだって俺に優しいし、俺にとっては申し分のない彼氏だもん。お兄ちゃんはもちろん、俺のことだって絶対に失望させたりなんかしないもん」
「悠那にそう言ってもらえると心強いね」
 休暇が終わってからというものは、デビュー記念イベントを控えているからか、夜は結構余裕がある毎日だったりもする。
 そのぶん朝は少し早い日が続いていたりもするんだけれど、こうして悠那とのんびりお風呂に入る時間は幸せだし癒しだった。
 悠那と一緒にお風呂に入るなんて日常の一部でしかなかったりもするけれど、毎日一緒に入っていても幸せ気分に浸れる俺って、よっぽど悠那と一緒に入るお風呂が好きなんだなぁ……。
 それもそのはず。お互い全裸で入るお風呂は悠那の裸が見放題だし、小さくて柔らかい悠那の身体にも触り放題だもん。
 悠那が逆上のぼせちゃうからお風呂でエッチはしないけど
「ぁんっ……もう、司。いきなりお尻揉まないでよ」
 イチャイチャはするし、お触りはする。
「だって、悠那のお尻が可愛くて」
「俺のお尻ってそんなに触りたくなるお尻なの? 朔夜さんも全然俺のお尻触るのをやめてくれないし」
「悠那のお尻には自然と手が吸い寄せられちゃうんだよ。朔夜さんに悠那のお尻を揉むのはやめて欲しいところだけど。悠那のお尻に吸い寄せられちゃう朔夜さんの気持ちはわからないでもないよ」
「司にしても朔夜さんにしても、お尻大好き星人だね」
 ぷりんっとした滑らかな悠那のお尻を揉みながら、悠那のお尻の魅力を語る俺。
 この三年間で俺に起こった大きな変化と言ったら、アイドルになる前となった後では性欲が旺盛になったことと、ややエロ親父化したことかな。
 アイドルになる前は付き合っていた彼女に手を出す度胸もなかった癖に。悠那で童貞を卒業した後は、旺盛過ぎる性欲を発揮するようになっているんだから。
 それもこれも、全てはエッチで可愛過ぎる悠那のせいだ。
 どこからどう見てもめちゃくちゃ可愛い悠那に甘えられて、エッチなおねだりなんかされちゃったら、男としてはあらがいようがない。性欲だって刺激されちゃうってものだよ。悠那相手に性欲が旺盛にならなかったら男じゃない、とすら思う。
 デビューした年の夏から付き合い始めた俺と悠那は、Five Sが三周年記念を迎える頃には付き合い初めて約二年半。Five Sの歴史と共に、俺と悠那の歴史も刻まれていくって感じだよね。
「お尻大好き星人って……。俺と朔夜さんは同じ星出身なの?」
「うーん……それはちょっと違うっていうか、違っていて欲しい感じだけど。二人ともお尻大好きなところは一緒だよね」
「俺はお尻だけじゃなくて、悠那の全部が好きだよ」
 あまり悠那のお尻ばかり揉んでいたら、本格的にお尻大好き星人にされかねない。
 なので、一度悠那のお尻から手を離した俺は、湯船の中でぎゅうっと悠那の身体を抱き締めた。
 俺の腕の中にすっぽりと包み込まれてくれる悠那の抱き心地が最高だ。
「俺も司が大好き。司の全部が大好きで、どうしようもなく愛しくて堪らないよ」
 俺が悠那のことを「大好き」と言えば、悠那からも「大好き」が返ってくる。
 お互いに何の躊躇いもなく素直な愛情表現ができる関係って理想的だよね。
 そんな俺と悠那の関係も、グループ結成直後からの共同生活の中でつちかってきたものだと思っている。
 もちろん、悠那だけじゃなくて陽平、律、海との関係もそうだ。
 オーディションの合格発表後の初顔合わせの場で、突然の共同生活を告げられた時は戸惑ったけれど、お互いのことを良く知らないままに始まった共同生活があったからこそ、今の俺達がいるんだよね。
「ねえ、悠那」
「うん?」
「明日の朝もちょっと早いけど、この後エッチしてもいい?」
 もうすぐデビュー記念日を迎えるからだろうか。俺の思考はついつい昔を思い出して懐かしくなってしまうのだけど、悠那への愛は変わらない。
 むしろ、昔を思い出すことで、まだ付き合っていなかった頃の悠那との生活を思い出したりもして、余計に悠那が愛しく思えてしまう。
 ただのルームメイトから恋人同士になる間にも、俺の中で悠那への想いは次第に大きくなっていったんだよね。
「もちろん♡ 俺もシたいって思ってたよ♡」
 俺からのエッチの誘いにすぐさま乗って来てくれた悠那は、俺の腕の中から顔を突き出すと、水分を含んでしっとりと濡れている俺の唇にキスをしてきた。
 悠那は小柄故に体力がなかったりもするんだけれど、デビュー当時に比べたら少しだけ体力がついてきた。
 その理由が
『毎晩司とエッチしてるから♡』
 だったとしたら、マネージャーやダンスの先生からはめちゃくちゃ怒られちゃうんだろうな。


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