僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Final Season

    前途洋々! 無敵の二人♡(3)

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 俺と司が実家に顔を出したのが12月13日。映画が公開されるちょうど一週間前の話だった。
 それからの一週間はあっという間に過ぎてしまい、ついに12月20日。つまり、俺と司の映画が公開初日を迎えた。
 初日は俺と司も映画館におもむき、初公開の前に舞台挨拶なんてものもしたんだけれど、映画館の中で一番収容人数が多いスクリーンは満席で、初日からこんなに沢山の人が俺達の映画を見に来てくれていることが嬉しかった。
 聞けば、その日のチケットは発売と同時に即完売。二日前から予約ができるチケットも全て売り切れているという話。
 正直、初日の初公開のチケットは俺や司の舞台挨拶があるから完売したのかな? と思ったけれど、そうではないと知り、驚きのあまり「騙されてる?」と疑ってしまいそうになったくらい。
 でも、実際に予約サイトの“完売”という文字を見せてもらったら、嘘じゃないし夢でもないんだ、と思った。
 それだけ俺と司が出る映画に注目してもらえてるってことなんだ。そこまでの反響があるとは思っていなかったから、一瞬、耳障りのいい言葉を言ってもらっているだけなのかも、と疑っちゃってもおかしくないよね。
 だって俺、初日のチケットだけでも完売してくれたらいいな~……って欲しかなかったし、それすらも難しいだろうと思っていたくらいだもん。
 映画が公開されてから、映画を見た人の感想もまた、試写会の時以上にネットを騒がせているようでもあった。
 Five Sの公式ホームページやSNSでも、俺と司のツーショット写真に
『いよいよ今日から映画公開! みんな見に来てね!』
 というコメントを添えて上げてみたところ
《絶対見に行きます!》
《今日見に行きます!》
《見ました! また見に行きます!》
 っていう、ファンからの嬉しいコメントのオンパレードで、内容が内容なだけに「どうかな?」と思っていた俺と司は、肩の荷が下りた感じがして、物凄く楽な気持ちになれた。
 そして、その日の夜――。
《おいっ! 悠那っ! あの映画はなんなんだっ! 兄ちゃんはあんなとんでもない映画だとは思っていなかったぞっ!》
 一体いつ映画を見に行ったのか、今日は仕事だったはずのお兄ちゃんから早速電話が掛かってきて、俺が電話に出るなり物凄い剣幕だった。
「え? もう見たの? じゃあ、お父さんとお母さんも見たの?」
《今日は俺だけだっ! 俺だけで見に行った! 父さんと母さんとは別の日に見に行く!》
「わざわざ一人で見に行ったの?」
《当たり前だろっ! 父さんと母さんが見る前に、まずは俺がどんな映画なのかをチェックする必要があるからなっ!》
「ああ、そう……」
 その必要ある? 普通に一緒に見に行けばいいじゃん。なんで先にお兄ちゃんがチェックする必要があるんだよ。先にチェックしてどうするつもり?
 もしかして、内容次第では「見ないほうがいい!」って親を止めるつもりなの? そういう余計なことはしないで欲しいんだけど。
「それで? 映画を見た感想は?」
《ああっ⁈ そんなの悠那が可愛かったに決まってるだろっ! 悠那がめちゃくちゃ可愛くて、エロくて……じゃなくてっ! あんなものを父さんと母さんに見せるわけにはいかないっ!》
「もー……お兄ちゃんうるさぁ~い……」
 お兄ちゃんがどこから電話を掛けてきているのかは知らないけれど、家の中じゃないことだけは確かだ。スマホの受話口から聞こえてくるお兄ちゃんの声の向こうから、明らかに外にいる音が聞こえてくる。
 ってことは、外で大騒ぎをしているわけだ。全く、恥ずかしいお兄ちゃんだよね。
《なんであんなっ……! あんな役を引き受けたんだっ! 悠那のあんなシーンを見て、一体どれだけの男が欲情すると思っているんだっ! 俺だって大変だったんだぞっ!》
「……………………」
 うわー……引く。今俺、思いっきり引いちゃった。
 何? お兄ちゃんは自分の弟のラブシーンを見て、血が繋がっている兄弟にも拘わらず、欲情したっていうの?
 お兄ちゃんが俺のことをしこたま可愛く思ってくれていて、俺のことを溺愛してくれていることは知っているけれど、弟に欲情までするとなると、俺はちょっと嫌厭したくなる。
《しかも悠那っ! 映画の中で悠那の……悠那の白桃のように白くて美味しそうな尻がっ……尻が見えてるじゃないかっ! あれはどういうことなんだっ! 人前で……それも、映画という映像に残る作品の中で尻を晒すとは何事だっ! 悠那が幼稚園の時以来、俺だってまだ直接この目で拝ませてもらっていないというのにっ!》
「幼稚園の頃までは見られていたのも嫌だけど、どうして俺のお尻をお兄ちゃんに直接拝ませてあげなくちゃいけないの? そんな予定は今後一切ないからね?」
《だが! あの男や映画の撮影現場にいた人間には見せたんだろっ!》
「司は俺の彼氏だから当然だし、映画のスタッフは仕事だもん。ラブシーンを撮影してたら、ちょっとくらいお尻が見えることだってあるよ。まあ、最初からお尻を見せるつもりはなかったけど、結果としてお尻が見えちゃったんだから仕方ないじゃん。シーンがシーンなだけに、ちょっとくらいお尻を見られてもどうってことないもん」
《なんてことを言うんだっ! “彼氏だから当然”とか、“どうってことない”なんて言うなよっ! 俺にとっては大問題なのにっ!》
「はぁ……」
 俺と司の映画を見たら、お兄ちゃんが黙っていないことくらいはわかっていた。わかっていたけど、ここまで大騒ぎするとは思っていなかったよ。
 でもさ
『だったら見なきゃ良かったじゃん』
 って言いたくなるよね。
 元々お兄ちゃんは俺と司が一緒に映画に出ることを面白くないと思っていたわけだし、その映画の内容が俺と司のラブストーリーだって知った時も「見に行かない」って言っていたんだから。
 それなのに、公開初日に早速見に行って、ここぞとばかりに映画の不満をぶつけてこられてもねぇ……。俺としては「うるさい」としか思えないんだよね。
「あのね、お兄ちゃん。俺だって仕事なの。仕事でそういう役を演じているんだから、お兄ちゃんにとやかく言われる筋合いはないの」
《だけど悠那の尻がっ! あいつとの破廉恥な性交がっ!》
「あと、俺の名前や尻とか性交って言葉を使って騒がないでくれる? 今外なんでしょ? お兄ちゃんが外でそんな発言をして騒いでいるなんて、俺は物凄く恥ずかしいんだけど」
《安心しろっ! 外は外でも周りには誰もいないっ! 俺が少々大声で騒いでいても、俺の声が誰の耳にも届かない場所で喋っているっ! こんな電話、家の中じゃできないからなっ!》
「そういう問題じゃないんだけど……」
 たとえ周りに人がいなくても、自分のお兄ちゃんがスマホ片手に外で大騒ぎしている姿は嫌なんだよね。どこで誰が見ているのかもわからないし。
《あんな映画を見せたら、父さんと母さんがなんて思うか……。ショックのあまり卒倒してしまうに違いないっ!》
「そうかなぁ? そんなことないと思うよ? だって、お父さんとお母さんにはそういうシーンがあるって話してるし。二人とも映画を見るのを楽しみにしてくれてるもん」
《あそこまでいやらしいラブシーンがあるとは思っていないはずだっ! 悠那の尻が見えてるんだぞっ⁈ あの男にキスマークを付けられたり、悠那の艶かしい喘ぎ声とかも聞こえるんだぞっ⁈》
「だからぁ……外でそういうこと言うのはやめてってば」
 全くもう……わからないお兄ちゃんだな。俺の言ってる言葉が理解できないのかな?
 こんなことなら、この前実家に顔を出した時、お父さんとお母さんにお兄ちゃんが映画を見に行かないように頼んでおけばよかった。
(まあ、止めたところで見に行ってたとは思うけど……)
 お兄ちゃんだって大人だもん。映画くらい一人で勝手に見に行っちゃうよね。多分、今日だって仕事帰りに映画館に行って、遅い時間の回を見たんだろうし。
 どんなに止めたところで、お兄ちゃんには自由にできるお金と時間があるもんね。一緒に住んでいる家族だからって、お兄ちゃんの行動を四六時中監視できるわけでもないし、仕事帰りに映画館に足を運ばれてしまったら止めようがないもん。
「ただいま、悠那。誰かと電話してるの?」
「あ♡ おかえり、司♡」
 お兄ちゃんとの電話にうんざりしていると、部屋のドアが開いて司が入って来た。
 俺は今日、映画の舞台挨拶の後に雑誌の仕事が二本ほど入っていただけだけど、司はその後にありすちゃんと一緒にやっているランキング番組の収録があって、家に帰って来たのはたった今だった。
 部屋で司の帰りを待っていた俺は、司が帰って来たらお出迎えをしてあげようと思っていたのに。お兄ちゃんが電話なんか掛けてくるから、司のお出迎えに行けなかったじゃん。
《何っ! 司だとっ⁈ あの男が帰って来たのかっ! ちょっと代われっ!》
「えー……」
《えー、って言うなっ! 代われっ!》
 ただでさえ俺と司の映画を見たお兄ちゃんは俺でも手が付けられないのに。俺がうっかり口にしてしまった“司”という名前に、お兄ちゃんの怒りや苛立ちは最高潮に達してしまったらしい。
 いつも司に絡むことしかしないお兄ちゃんだから、司を電話に出したくはないんだけれど
「司。お兄ちゃんが司と電話を代われって言う」
 無視したところで、お兄ちゃんの暴走は止まらないだろう。鬱陶しいから、って電話を切ってしまっても、またすぐ鬼のように電話を掛けてくるに違いないから、俺は渋々司に自分のスマホを差し出した。
「え? あー……」
 俺の顔といい、今日が映画の公開初日であったことといい、司もなんとなく察しがついたらしい。
 苦笑いになって俺からスマホを受け取ったものの
「もしもし。克己さんですか? 電話代わりましたけど……」
 俺と電話を代わった直後、少し離れた俺の耳にも聞こえてくるお兄ちゃんの怒鳴り声に、反射的にスマホを耳から遠ざけていた。
《貴様ぁっ! 俺の悠那になんて破廉恥なことをしてくれてるんだっ! お前のせいで悠那がエロい子だと思われるじゃないかっ!》
 スマホを遠ざけてみたところで、お兄ちゃんの声は司の耳にも俺の耳にもよく聞こえた。
 スピーカーにしているわけでもないのに、こんなにはっきりと声が聞こえてくるってどうなの? スマホの向こうで一体どれくらいの大声を出しているんだろう。
 ここまで大きな声を出していると、お兄ちゃんの声は絶対に誰かの耳に届いちゃってると思う。本当に恥ずかしいし迷惑。
「いやいや。思われるも何も、悠那は元々エロい子ですけど?」
 お兄ちゃんのウザ絡みには慣れている司は、スマホを顔から離したまま、余計にお兄ちゃんが怒りそうなことを口にしていた。
 元々エロい子って……。まあ、付き合う前から司とエッチなことをしていた俺だから、司がそう思っても仕方がないとは思うけど。
《いぃぃぃぃ~っ! お前っ! 俺の悠那をエロい子だと思っているのかっ! 元々エロい子ってなんだっ!》
 お兄ちゃんはやっぱり激怒した。変な奇声を発し、物凄い勢いで司を怒鳴りつけてくる。
《大体なぁっ! 俺はお前と悠那の関係を認めているわけじゃないんだぞっ! 少しは俺に気を遣うとか、認めてもらう努力をしようとは思わないのかっ!》
「いやぁー……だって克己さん、俺と悠那の関係を認めるつもりがないじゃないですか。そりゃまあ、俺としては認めてもらいたい気持ちもありますけどね。克己さんにその気がないんなら……って思っちゃいますよ」
《仕方がないだろっ! 悠那は俺の生き甲斐なんだっ! 誰にも渡すつもりなんてないし、どこにも嫁になんて出さないぞっ!》
「だったら、努力するだけ無駄じゃないですか」
 姿は見えないはずなのに、目の前でいつもと同じ言い合いをしているお兄ちゃんにはがっかりするし、司には申し訳ないって気持ちになってしまう。
 それにしても
(生き甲斐って……)
 弟が生き甲斐の兄ってなんだろう。昔からお兄ちゃんは弟至上主義なところがあったけど、生き甲斐にまでされちゃうとなぁ……。弟としては、ちょっと重たく感じちゃうよね。
「司、もういいよ。返して」
 このまま司とお兄ちゃんに電話で話をさせていても、なんの解決にもならなさそうだったから、俺は司の手から自分のスマホを取り返すと
「いい加減にしてよね。そんな電話ならもう掛けてこないで。俺、今から司と一緒にお風呂に入るから、お兄ちゃんも早く家に帰ってよね」
 と言い
《なっ……! おいっ! ちょっと待てっ! 一緒に風呂っ……》
 まだ何か喚き散らしているお兄ちゃんを無視して、スマホの電源を切ってしまった。
「ごめんね、司。疲れてるのにお兄ちゃんの相手なんかさせちゃって」
 今日の仕事はあまり身体を使うような仕事じゃなかったから、そんなに疲れているわけではなかったのかもしれない。
 でも、今ので一気に疲れちゃったよね。ほんと、お兄ちゃんの過保護っぷりというか、俺を溺愛し過ぎるところにも困ったものだよ。どうしてこうなっちゃったんだろう。
「別にいいよ。映画が公開されれば、こんな日も来るだろうって覚悟してたし」
「ほんとごめんね」
 申し訳なさそうな顔をする俺の頭を、司の大きな手が優しく撫でてくれる。
 こんなに優しい司なのに。お兄ちゃんは一体何が気に入らないっていうんだよ。
 司は自分にウザ絡みしかしてこないお兄ちゃんに腹を立てたりしないし――ただし、呆れてはいる――、俺の両親のことだって凄く大事にしてくれているのに。
 不満に思うどころか、《こんないい彼氏はいない》と思ってくれてもいいくらいだよ。
「しかしまあ、公開初日に見に行くとは。さすが克己さんって感じ」
「俺もびっくりしちゃった。三人分の前売りを渡したから、お父さんやお母さんと一緒に見に行くんだとばかり思ってたのに。先にお兄ちゃん一人で見に行ったんだって。お父さんやお母さんとは別の日に見に行くって言ってた」
「そうなんだ。もしかして克己さん、悠那が出る映画を毎日見に行くつもりだったりして」
「まさかぁ~。さすがにそこまではしないでしょ? 二、三回は見に行くつもりかもしれないけど、さすがに毎日ってなるとちょっと怖いし、暇なの? って思っちゃうよ」
「でもさ、克己さんって今付き合ってる人もいないし、気儘な実家暮らしじゃん。実家で暮らしているぶん金銭的には余裕があるだろうし、彼女がいないなら暇なんじゃない?」
「でも……だからって毎日映画館に通うかなぁ?」
 物凄い剣幕のお兄ちゃんだったから、被害に遭った司がお兄ちゃんのことをからかって、笑い話にでもしようとしているのかと思った。
 だけど、司の顔はあんまり冗談を言っている風でもなかった。
「え……まさか……本当に毎日映画館に通うつもりじゃ……ないよね?」
「さあ? 克己さんの悠那の溺愛っぷりは凄まじいからね。俺としては充分にありえる話だと思うけど」
「やだっ! 怖いっ! さすがにそれは怖いっ!」
 これまでもお兄ちゃんの俺の溺愛っぷりには若干の恐怖を覚えることがあったけれど、至って普通の顔で言ってくる司に、俺は心の底からお兄ちゃんに恐怖した。
(ど……どうすれば……。どうすれば俺、お兄ちゃんに弟離れをさせることができるんだろう……)
 と本気で考えたりもした。
「ま、克己さんの私生活がどうだろうと、俺達が気にすることじゃないよ。俺達には見えないことだし。それに、何回も映画を見に行ってくれるのなら、なんだかんだと克己さんも俺達の映画を気に入ってくれてることになるじゃん。本当に“見たくない”と思った映画なら、一度見た後は二度と見ないよ」
「そっか……それもそうだね」
 もし、お兄ちゃんがこれから毎日映画館に足を運ぶようになったら、それはそれで怖いんだけど、司に言われて
(なるほど。そういう考え方もできるのか……)
 と思った。
 お兄ちゃんに俺達の映画を毎日見て欲しいとまでは思わないけれど、映画館に何度も足を運んで、同じ映画を何度も見るっていう行為自体は、その映画に対する思い入れが強い証拠だもんね。
 もしかしたら、何回も俺と司のラブシーンを見ているうちに、お兄ちゃんも俺達の関係を認めてくれる――っていうか、諦めてくれるかもしれないし。
 可能性は高くないかもしれないけれど、あのラブシーンは俺と司が心の底から愛し合っている姿が最大限に表現されているシーンでもある。繰り返し映画を見ているうちに、俺と司の関係を認めたがらないお兄ちゃんの心を、ぽっきりとへし折ってくれることもあるのかもしれない。
「そう言えば、今日ありすさんに“映画見に行くね”って言われたから、チケット渡しといたよ」
「そうなんだ。って言うか、司は完成披露試写会にありすちゃんを招待しなかったの?」
「うん。だって、内容が内容だし、俺と悠那のラブシーンがあるから、ありすさん的にはあんまり見たくないのかな? と思って。俺も見られるのがちょっと気まずいから、試写会には招待しなかったんだよね」
「そっか。それもそうだよね」
 司とありすちゃんが一緒にやっているランキング番組も、放送開始から二年半が経っている。
 知り合って間もなく、司のことを好きになってしまったありすちゃんは、司に告白して振られた後も司への未練が断ち切れていないらしい。
 陽平の話によると、ありすちゃんの友達で陽平の元カノだった夏凛ちゃんは、陽平との関係にケジメを付けた後、新しい恋人ができたって話だ。相手はどこの誰だか知らないらしいけど、そうやって夏凛ちゃんが新しい恋を始めたのだから、ありすちゃんもそろそろ別の誰かを好きになればいいのにな、って思う。
 まあ、人の気持ちに口出しする気はないし、俺がとやかく言える問題でもないんだけどさ。
「あとさ、メイクさんの中に試写会を見に行った人がいて、その人にも感想を聞かせてもらったよ。内容はちょっと暗めで切ないけど、自分好みの話で凄く良かったってさ。それぞれのシーンが魅力的に撮られてるし、使われてる音楽も良かったって言ってたよ」
「ほんと? 嬉しい」
 ありすちゃんの名前が出たことで、「最近どうしてるのかな?」と思っていた俺は、映画についての感想を司経由で聞かせてもらい、パッと顔が明るくなった。
 俺達の身内は映画の内容ではなく、俺達のラブシーンの感想しか言ってくれないもんね。ちゃんとした映画の感想を聞かせてもらうと、それだけで俺は嬉しくなる。
「ラブシーンが凄かったですね、とも言われたけど」
「ああ、そう……」
 でも、結局はそこの感想もちゃんと言われてしまうらしい。
 別にいいんだけどね。俺だって司とのラブシーンは凄く気に入っているし、司とのラブシーンを演じるために、今回の映画の仕事を引き受けたようなものだもん。ラブシーンの感想だって聞きたいと思っている。
「悠那が凄く綺麗だったって言ってたよ。悠那って普段は元気いっぱいで可愛らしいイメージしかなかったから、あんなに色っぽい表情や、ゾクゾクするようなラブシーンを演じられるとは思っていなかったってさ」
「ふふふ♡ 俺のイメチェン大成功ってわけだね」
 今回の映画の狙いの一つに、今までの俺や司の持つイメージを壊す、というものが含まれていたらしいけど、どうやらその狙い通りにもなったらしい。
 実際、映画の撮影中はそんな風に感じなかったけれど、いざ完成した映画を自分で見た時、俺は映画の中の自分の姿や司の姿に、今まで感じたことのない魅力を見た気がした。俺や司の年齢が、今までよりグッと上がったようにも見えたんだよね。
 きっと撮り方や見せ方が上手かったんだろうけれど、自分や司に「こんな表情ができるんだ」とか、「いつもと別人みたい」と思えるシーンが沢山あって、物凄く勉強になったと思った。
「俺達二人とものイメージがちょっと変わる映画だったって言われて、俺もちょっと嬉しかったよ」
「俺も司も正統派アイドルって感じで、今回演じた役みたいなイメージはなかったもんね。この映画をきっかけに、もっといろんな役の仕事がくればいいよね」
「そうだね。でも、今回みたいなラブシーンはもう勘弁して欲しいかな。俺、悠那以外の相手とあんなラブシーンは無理だもん」
「そこは同感」
 司とラブシーンを演じて、そのラブシーンの評判が良かったら、今後の俺や司は似たようなラブシーンを求められるようになってしまうのかもしれない。
 だけど、今回の俺達のラブシーンを見て、マネージャーは「やらせ過ぎた」と思ってしまったようで、今後は俺達のラブシーンに厳しくなりそうでもあった。
 Lightsプロモーションはアイドル部門の設立自体がまだ新しく、事務所的にはラブシーンはおろか、本来はキスシーンだってNGにしてしまいたいところなのだ。数年先ならまだしも、しばらくは俺達に過激なラブシーンを演じさせようとはしないだろう。
 まあ、司とのラブシーンを演じることができた俺は、相手が司じゃないのであれば、一生ラブシーンなんて演じなくてもいいんだけどね。
 何はともあれ、こうして映画が公開されてしまったのだから、しばらくは俺と司の映画の感想をいろんなところで聞くことになりそう。
 俺はそれがちょっと楽しみだったりする。


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