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Final Season
第12話 前途洋々! 無敵の二人♡(1)
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って、毎年この時期になると、いつも思うことだった。
「おーおー。お前らの映画の試写会を見た奴らが、早速映画の感想をネット上に上げまくってんな」
「僕としては、あの破廉恥映画があと二、三週間もすれば全国の映画館で上映されてしまうことが恐ろしいですよ」
「でも、映画を見た人達は物凄く盛り上がってるよ? “ヤバイ”しか書いてない人もいっぱいいるけど」
「そりゃ“ヤバイ”ってなるだろ。あのラブシーンを見れば」
「一瞬、悠那君のお尻が見えちゃってますしね」
「っていうか、普通に二人がヤってるシーンじゃん。ヤバくならないほうがおかしいだろ」
12月3日。本日、都内某所の映画館で行われた、俺と司がダブル主演を務める映画の試写会に参加した人達によって、映画に対する多くの感想がネット上に上げられていて、ブログやSNSを賑わわせていたりする。
そう。今月20日。12月20日に、いよいよ俺と司が出演した映画が公開されるのである。
今日はその試写会があったから、映画を見た人達がどんな感想を抱くのかと、ちょっと不安になっていたのだけれど――。
「“リピ確定”“円盤出たら絶対買う”って人も多いですね。この映画を見たら、司さんと悠那君の仲が益々公認化するっていうか……。もう“本当に付き合っちゃえばいいのに”って思う人が増えそうですよね」
「全く……。。どうして世間はこの二人に甘々なんだろう。悠那さんはともかく、司さんにはそれなりにリアコも多いのに。悠那さん相手だとヤキモチを焼かないのかな?」
「さすがに悠那君相手だと“勝てない”って思うんじゃないの? それと“変な女に取られるよりはマシ”って思うんだよ」
「そういうものなのかなぁ?」
今のところ、俺が心配するような意見は上がっていないようだから、まずは一安心って感じ。
まあ、中には俺達の映画に批判的で、辛口のコメントを書いている人もいるとは思うけど、そういう批判的なコメントよりは肯定的なコメントばかりが目立っているみたいだから、俺と司にとっては嬉しい傾向だった。
今日の一般応募から観覧希望者を募った試写会の前に、マスコミや関係者だけを集めた映画完成披露試写会というものも既に行っていて、陽平、律、海の三人は、その時に俺と司が出た映画を見ている。
映画を見た三人の感想はというと
『え……これは一体……。僕達は一体何を見せられているんですか?』
『思った以上にラブシーンが過激ですね』
『っつーかさ、お前らマジでヤってない?』
とまあ、内容云々よりも、俺と司のラブシーンの印象しか残らなかったみたいだったけれど、元々そこの心配しかしていなかったうちのメンバーには、映画の内容より、俺と司のラブシーンしか印象に残らなかったのかもしれない。
でもさ、もう少し他の感想も聞きたかった。
確かに、俺と司のラブシーンは一番の見せ場でもあるわけだから、そのシーンが印象に残ってくれたのは嬉しいんだけれど、それ以外のシーンだって頑張ったんだから、映画全体の感想も聞かせて欲しかったと思う。
「でもまあ、それなりに話題になりそうな映画だから、映画を通してFive Sの知名度が上がってくれれば、俺達もお前らに感謝だけどな」
「俺だって、そうなって欲しいと思ってるもん。自分の努力でグループに貢献できればいいと思ってるもん」
デビュー二周年を迎え、三年目に突入してから十ヶ月が過ぎている俺達Five Sは、デビュー当時に比べれば遥かに知名度も上がっているけれど、国民的アイドルAbyssに比べればまだまだ。同じアイドルをやっているのであれば、図々しくもAbyssを目標にしたい俺達だから、そのための努力は惜しまないつもりだ。
「そういやお前、マスコミ向けの試写会にAbyssも招待してたけど、葵さんからの感想は聞いたの? あの後、仕事で会ってるよな?」
「うん。映画の内容もラブシーンも凄く良かった、って言ってくれたよ。でも、司に興味津々になられちゃって、そこはちょっと焦っちゃったかな」
「ああ、そう。一体どういう興味を持たれたのかは、あえて聞かないことにするわ」
現在一緒に番組をやっている葵さんからは、「映画が公開されたら絶対見に行くね」って言われていたから、公開される前の試写会にご招待させていただいた。
もちろん、葵さんだけを招待するわけにはいかないから、Abyssのメンバー全員を招待させていただいた。
全員から感想を聞いたわけじゃないんだけれど、俺と試写会以降に会った葵さんからは感想を聞いていて、映画の内容や俺達の演技を褒めてくれた後で
『司君に是非一度お相手してもらいたいものだよね~』
なんて言われちゃったものだから、葵さんの気を変えるのに苦労した。
全くもう。葵さんは朔夜さんと付き合うことになったはずなのに、他の男に興味を抱くとか何事なの? 朔夜さん一人じゃ満足できない、とか言う?
俺が知る朔夜さんのテクニックを考えたら、そんなことはないだろう、と思うんだけど、葵さんには浮気性の気があるのか、一人の恋人に縛られることはないみたいだった。
だからって、俺の司に興味を抱かないで欲しいし、司とヤってみたい、なんて思われても困るよね。
「そうそう、僕達も一昨日テレビ局で朔夜さんに会ったんですけど、朔夜さんも似たようなことを言ってましたよ。もっとも、朔夜さんは司さんではなく、悠那君のことを言ってましたけど」
「~……」
ど……どういうこと? どうしてそうなるの。あの二人、今は付き合ってるんだよね? それなのに、どうしてお互いに恋人以外の人間のことが気になるんだろう。もしかして、上手くいってないの?
せっかく朔夜さんが俺のことを諦めてくれて、葵さんとも恋人同士になったっていうのに。いまいち安心させてくれない二人にはそわそわさせられてしまう。
でも、葵さんにしても朔夜さんにしても、冗談のつもりでそういうことを平気で言ったりするから、真に受けるほうが馬鹿を見るって感じでもあるんだよね。
幸い、俺と司が二人からの脅威に晒されるようなことにはなっていないから、多少引っ掛かりはするものの、二人の言葉を真に受けないようにしておこう。
「しかしさ、映画が公開されたら、司や悠那の家族もお前らの映画を見に行くわけだろ? いくらお前らの関係を知っているからって、あんなラブシーンがある映画を見ても大丈夫なのか?」
「うーん……一応、事前に予防線は張っておくつもりだけど、実際に見たらびっくりしちゃうかも」
「びっくりするだけで済めばいいけどな」
俺と司が一緒に映画に出る話はしているし、映画の内容もそれとなく伝えてはいるけれど、言葉で簡単に説明しただけなのと、実際に映画を見るのとでは違うからな。
俺と司の関係を認めてくれている俺の両親にも、俺と司がエッチをしている仲だという話はまだしていない。
もしかしたら、薄々気が付いているのかもしれないけれど、映画の中で俺と司のラブシーンを見たお父さんとお母さんが、それなりの衝撃を受けてしまうことは覚悟しておかなくちゃ。
「ご両親はともかく、お兄さんは間違いなく発狂するでしょうね」
「ああ、それは別にいい」
もっとも、お兄ちゃんがどう思おうが、俺には知ったこっちゃないけどね。
だって、お兄ちゃんときたら、未だに俺と司の仲にいちゃもんしかつけてこないんだもん。今回の映画を見て、いい加減に俺と司の関係を認めて欲しいくらい。
「ねえ、悠那。どうせなら映画が公開される前に実家に顔を出して、今回の映画の話をしておこうよ。電話で話すより直接会って話をしたほうが、俺達の誠意も伝わる気がするし」
「うん。そうだね。そうする」
この場合、俺達は与えられた仕事を熟しただけなわけだから、家族に対して誠意を見せる必要はないような気もするけれど。
でも、俺達の家族が俺と司が付き合っていることを知っている以上、たとえ仕事であろうと、映画の中で司と過激なラブシーンを演じたことについては、ちゃんと説明をしておいた方がいいのは確かだと思う。
特に、司の両親はまだ俺達の関係を完全に認めてくれているわけじゃないから、作中のラブシーンの説明に加え、どういう気持ちで映画に臨んだのか、という話もしておいた方が良さそうだよね。
「だったら、早速いつにするか決めちゃおうか。12月って何かと忙しいから、早めに予定を立てておいた方がいいよね」
「うんっ♡」
念願だった司との共演。そして、初めての映画出演で主演。その映画の公開が迫り、浮かれ気味だった俺は、恋人としても共演者としても申し分がない司に、最終的には完全に浮かれた。
「やっぱり、俺と司のラブシーンを見たら、家族としては複雑な気持ちになっちゃうのかな?」
俺と司のスケジュールを照らし合わせ、俺と司の実家に顔を出す日にちを決めてしまった後の俺は、ふと、そんな言葉を口にしていた。
別に悪いことをしているわけじゃないし、仕事でもあるわけなんだけど、家族からしてみれば、あまり見たくないシーンであることは容易に想像ができてしまう。
「そりゃまあ、自分の息子や弟のベッドシーンだからね。見れば複雑な気分にもなるよ」
俺が落ち込んでいると思ったのか、司の手が俺の頭に伸びてきて、俺を慰めるように頭を撫でてくれた。
「だってさ、考えてもみてよ。俺の姉ちゃんや悠那の兄ちゃんのラブシーンを見たら、俺達だって複雑な気分になるし、めちゃくちゃ気まずくなるじゃん」
「うぅ……それもそうだね。できれば俺、そんなシーンは絶対に見たくない」
想像しただけで寒気がした。尊さんはともかく、俺のお兄ちゃんのそういうシーンだけは“絶対に見たくない”と思ってしまった。
いつも仲がいい姿しか見たことがない俺の両親にしてもまた然り。
いつまでも仲睦まじい夫婦でいてくれることは嬉しいし、息子としては誇らしくも思うんだけれど、だからって親の夜の営みを見たくはないし、想像したくもなかった。
万が一、たまたまうっかり見てしまったとしたら、絶対に見てはいけないものを見てしまった感が凄そうだし、その後の気まずさも半端ないに違いない。
「家族なんてそんなものだよ。むしろ、俺達は職業柄もあって、多少は受け入れられやすいところがあると思う。恋愛ドラマや映画に出たらキスシーンやラブシーンはつきものだし、俺も悠那もそういうシーンを演じたことはあるじゃん。まあ、そのシーンを見た感想なんて聞きたくないし、聞いたこともないけどね」
「そっか……それもそうだよね」
言われてみれば、俺も過去にキスシーンなら演じたことがある。
俺の場合、俺と樹さんのキスシーンがテレビで流れた直後、お兄ちゃんから物凄く取り乱した支離滅裂なメールが届いたし、ドラマが終わった頃には、お母さんから
『司君がヤキモチ焼いてるんじゃないの?』
なんてメールがきたりもしたんだけれど。
「俺や悠那がドラマや映画でラブシーンを演じること自体は、仕事だから仕方ない、って受け入れてると思う。ただ、今回の映画に関しては、俺と悠那が実際に付き合ってるって知っているから、家族としては複雑な気持ちになるだけだよ。相手が別の人間だったら“あらまあ”って思うだけで済んでいたんだと思うよ」
「俺、相手が司じゃなかったら、あんな役を引き受けてないよ」
「当たり前だよ。俺も悠那が相手じゃなかったらあんな役は引き受けてないし、悠那が引き受けるのも許さなかったよ」
俺の頭を撫でていた司の手が今度は俺の背中に回ってきて、俺をぎゅっと抱き締めてくれる。
俺は司とイチャイチャするのが大好きだし、司とイチャイチャしているところを人に見られてもなんとも思わない。むしろ見せつけてやりたいとも思うけど、司とエッチなことをしている姿を家族に見られるのはちょっと恥ずかしいよね。
司と共演できる映画の話がきた時は嬉しかったし、司との関係を公にできないぶん、司との仲を見せつけることができるラブシーンがあることにも喜んでいたけれど、演じるだけに留まらず、実際にエッチしちゃってるからなぁ……。そのシーンを家族に見られると思ったら、「ちょっとやり過ぎちゃったかも」とは思う。
だからって、今更後悔なんて全然してないし、司とのラブシーンを見せつけることができて大満足、って思う気持ちに変わりはないんだけどね。
「しかしまあ、改めて思うと、本当に大胆なことをしちゃったものだよね。だってあのシーン、本当に悠那とエッチしてるシーンになるわけだから」
「俺は物凄く気に入ってるし、嬉しかったけどね。だって、司ってなんだかんだと真面目なところがあるから、仕事中には俺とエッチなんてしてくれないと思ったもん」
「悠那に誘われて拒めるわけがないでしょ? そりゃ一瞬悩みはしたけどさ。あの日は朝からずっと悠那とイチャイチャしてばっかりだったから、俺も我慢なんてできなかったし」
今年に入ってすぐに始まった映画の撮影を思い出すと、大変だった思い出より、楽しくて嬉しかった思い出のほうが圧倒的に多い。
特に、司とのラブシーンの撮影は一生心に残るいい思い出だ。
「ところでさ」
「うん?」
「司はどう思ったの?」
「え?」
「だから、俺とのラブシーンを見た感想。考えてみれば、まだ聞いてなかったよね?」
「あー……」
マスコミ向けの映画完成披露試写会では、監督や出演者へのインタビューコーナーなんかもあったから、映画の感想やら見どころについては俺や司も話している。
でも、一番の見せ場であるラブシーンを見た司の感想は俺もまだ聞いていなかった。
俺としては、凄く綺麗に撮ってもらえてるって思ったし、ラブシーンとして充分にそそられるものがあるって感じがしたんだけれど、司はどう思ってるのかな?
たまにエッチしてる時に司に動画を撮られることがあるんだけれど、いわゆる“ハメ撮り”ってやつじゃなくて、ちゃんとしたラブシーンとして撮影された俺の姿は、司の目にどう映ったんだろう。
「そりゃもう“最高”の一言に尽きるよ。物凄く綺麗且ついやらしい感じに撮ってもらえてるし、悠那の表情が凄く可愛くてエッチだもん。見ているだけでそそられる。時々音楽に被せて入ってくる悠那の声や息遣いもリアルだから、危うく何度も勃ちそうになったくらい。いや、実際ちょっと勃ってたかも」
「ふふふ♡」
司が「最高」って言ってくれた。嬉しい。
「でも、やっぱりエッチで可愛い悠那の姿を人に見られるのは癪だし、一瞬悠那のお尻がスクリーンに映し出されちゃうのがなぁ……。カットしてくれなかったんだ、って思ったかな」
「でも俺、あそこのシーンも気に入ってるんだよね。半分くらいお尻が見えちゃってるけど、それをさり気なく司の手が隠してくれるところが、愛がある行動に見えちゃって」
「いやいや。こっちは結構焦ったんだよ? 悠那のお尻がっ! って慌てたんだからね?」
「その“見せたくない!”って気持ちが現れてる感じがするから、俺は気に入ってるんだよ。俺のお尻を隠す司の手が大きくて、セクシーさも感じるし」
「そういうものなんだ」
「そういうものなの♡」
俺と司のラブシーンを撮影するにあたり、いくつかのNG設定がされていた。画面にお尻が映り込むのはNG項目に入っていたんだけれど、俺はそこのシーンをカットして欲しくなかった。
監督もそのシーンをカットしたくなかったようで、編集の際に俺とマネージャーから許可を取ろうとして、交渉の末
『一瞬だけだし、悠那君が使って欲しいって言うなら、まあ……』
とマネージャーが折れてくれたのである。
ただ、俺とマネージャー、監督との間でそんなやり取りがあったとは知らない司は、完成した映画を見た際に、一瞬だけとはいえ俺のお尻がスクリーンに映し出されてあたふたしていた。
ほんと、司のそういうところが堪らなく可愛いんだよね。大好き♡
「それよりさ、俺と悠那の家族にどうやって映画の話をするのかも考えておこうよ。あんまり細かく説明したらネタバレになっちゃうし、必死感が出ると逆に疑われちゃいそうじゃん。ネタバレにならず、自然に上手く説明できる方法を考えておかなくちゃ」
「そうだね」
試写会を見た人からの映画の前評判は良さそうだし、司からラブシーンの感想も聞けた。俺や司の実家に顔を出す日程も決まったしで、後は映画の公開を待つばかりである。
俺と司が全力で挑んだ映画だから、できることなら『大ヒット』の文字が使われることを願う俺だった。
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