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Final Season
一緒が楽しい秘訣(6)
しおりを挟むその日、僕達の家に泊まることになっていたCROWNのメンバーは、一階の客室で寝てもらうことになっていたのだけれど――そのために布団セットを購入した――、夕飯を食べて一息吐いた後の陸と京介は僕達の部屋にいた。
そりゃまあそうなる、って話だよね。悠那君からあんなカミングアウトをされちゃったら、二人とも僕や律に聞きたいこととか、言いたいことが沢山あるだろうから。
食事中の急なカミングアウトではあったものの、陸と京介以外のメンバーにとっては既知の事実であり、カミングアウトでもなんでもなかったから、食事の席はわりとすぐに平常を取り戻してしまった。
陸と京介以外は……だけど。
元々陸と京介に司さんと悠那君の関係を気付かせるために、今日一日中司さんとイチャイチャし放題だった悠那君。気付かせるどころか、もうはっきりと「付き合ってる」と言いきってしまった悠那君は、これ以上僕達の前で司さんとの過度なイチャイチャを披露する必要もなくなったのに、今日はとことん司さんとイチャイチャするつもりでいるのか、司さんと悠那君のイチャイチャは止まらなかった。
結局、今日の夕飯は最初から最後まで司さんの膝の上に跨っていた悠那君は、夕飯を食べ終わるなり、げんなりした陽平さんから
「イチャつくなら部屋でやれ。これ以上、人前で醜態を晒すな」
と言われてしまい
「はぁ~い♡ そうする♡」
全く悪びれていない、明るい返事を返していた。
そして
「じゃあ司っ♡ 部屋でもっといっぱいイチャイチャしよっ♡」
とまあ、せっかくCROWNのメンバーが泊まりに来ているにも関わらず、また、まだショックが冷めやらぬ陸に全く気を遣わない発言と共に、司さんを連れて二階の自室へと上がって行ってしまった。
まあ……ある意味それも悠那君的には優しさだったりするのかもね。悠那君に対する陸の淡い恋心を、本気になる前に徹底的に砕いておくという……。
今の時点で陸に悠那君を諦めさせておけば、結果としてはそれだけ陸を傷つけなくて済むわけだから。
それにしても
「しかしまあ、司さんと悠那さんが本当は恋人同士だったなんてな。もうほんとびっくりだよ。まさか自分の身近に男同士で付き合ってるカップルがいたなんてさ」
陸と京介からしてみれば、悠那君のしたカミングアウトの衝撃はかなりのもので、しばらくは後を引きそうな感じだった。
「でも、相手が悠那さんなら……って気持ちにはなるんだよな。こう言っちゃなんだけど、悠那さんって全然男っぽくないし。もし、女の人と付き合っていたとしたら、なんとなくそっちのほうが違和感がある気もするしさ」
「それ、多分みんな思ってることだと思う」
「だよな~。俺、そういう恋愛って絶対に受け入れられないと思ってたけど、相手が悠那さんになると逆にしっくりきた感じすらして、全然変だと思わなかったから不思議だよ」
何はともあれ、二人にとっては衝撃的なカミングアウトだったわりには、京介があまりダメージを受けていなさそうなところにはほっとした。
悠那君のカミングアウトを受け入れられなかった場合、京介は司さんと悠那君に嫌悪感を抱く可能性があったわけだから。そうなってしまっては、年末に行うCROWNとの合同カウントダウンライブに影響が出ていたことだろう。
「二人が付き合い始めたのはFive Sがデビューした年の夏だって言ってたけど、一体どういう流れでそういうことになったわけ?」
「え」
ただし、ダメージを受けていない代わりに、司さんと悠那君の馴れ初めには興味津々のようだった。
(どういう流れって聞かれても……)
それを全部説明しようと思ったら物凄く長い話になってしまうし、CROWNにとっては直属の先輩にあたるAbyssの朔夜さんまで絡んできてしまうから、何をどこまで説明したらいいのかが悩ましいところである。
「うーん……話せば長くなるんだけど、簡単に纏めてしまうと、元々仲が良かった司さんと悠那君が、同じ部屋で生活を共にしているうちに、お互いのことを好きになっちゃったって感じだよ」
悩んだ末、自分でも簡単に纏め過ぎたと思う流れを口にしたら
「いやいや。それ、全然説明になってないから。そんなもんは言われなくてもわかるよ」
もっと詳しい説明を求める京介からダメ出しを喰らってしまった。
ですよね。自分でもなんの説明にもなっていないと思ったもん。こんな簡潔過ぎる説明じゃ、京介が納得しないのも当然だよね。
「~……」
物事の要点を纏めて説明するのが苦手な僕が、困った顔で律に助けを求めると、律は小さく呆れた溜息を零し
「わかった。僕が説明するよ。それなりに長い話にはなるけど……」
あまり気が乗らなさそうな前置きをしてから、詳しい話が聞きたくてうずうずしている京介と、僕達の会話を聞いているのかいないのかわからない様子の陸に、司さんと悠那君の馴れ初めというやつを話し始めた。
とは言っても、司さんと悠那君が付き合う前からエッチなことをしていた話は言えないし、学校帰りに悠那君が朔夜さんに連れ去られた話はできても、悠那君と朔夜さんの間に何があったのかも当然言えない。
律はそのへんのエピソードは上手く省略しながら、司さんと悠那君の恋物語を二人に話して聞かせたのである。
ううむ……やっぱり説明役は律に任せた方が間違いがなくていいよね。僕だったら絶対に余計なことを言っちゃうし、律みたいに上手く話を纏められなくて、無駄にだらだらと長話をしてしまいそうだもん。
「へー……じゃあ、司さんと悠那さんが付き合うようになったきっかけって、朔夜さんだったんだ」
「そういうことになるね。悠那さんのことを気に入っていた朔夜さんが、学校帰りの悠那さんを連れ去ったことで、司さんは自分が悠那さんのことを好きだと自覚したみたいだから」
「朔夜さんが悠那さんのことをめちゃくちゃ気に入ってるって話は聞いたことあるけど、学校帰りに連れ去るほどだったとはね。それってつまり、司さんと朔夜さんはライバルだったってこと?」
「みたいなものだと思う。正直なところ、僕には朔夜さんがどこまで悠那さんに本気だったのかは、ちょっとわからないところがあるんだけどさ。悠那さんは朔夜さんファンでもあるから、司さんはかなり朔夜さんのことを意識していたと思うよ」
「へー……」
いい感じに話を纏めてくれた律の説明で、ひとまず京介の好奇心は落ち着いてくれたし、納得もしてくれたようだった。
上手く説明することができた律も、とりあえずはほっとした表情である。
さて、こうして二人に司さんと悠那君の関係を打ち明けたのであれば、今度は「ごめんなさい」の時間である。
「今までずっと黙っててごめんね。二人のことを信用していないわけじゃなかったんだけど、玲司さんも言っていたように、ちょっとデリケートな問題だからさ。僕達の口からは言い出せなくて……」
「二人は同性同士の恋愛にあまり肯定的じゃなさそうだったから、こんな話をしたら引くんじゃないかと思ったし、司さんと悠那さんを見る目が変わるかもしれない、と思うと言えなかったんだ。ごめん」
二人で示し合わせていたわけじゃないけれど、僕と律はここぞとばかりに同時に二人に謝り、僕達からの謝罪を受けた京介は
「いいよ。そりゃまあ、最初に悠那さんが司さんとの関係を明かした時は、なんで言ってくれなかったの? って思ったけど、よくよく考えてみたら、そんなに簡単に言えることでもないもんな」
意外にもあっさりと僕達のことを許してくれた。
この背景には玲司さんからの心添えがあったからなのかもしれない。玲司さんが事前に「誰かを責めたりしちゃダメだよ」と言ってくれたおかげもあるのだろう。玲司さんには本当に感謝だ。
「それに、俺達もそういう話を言い出しにくい空気を作ってたところがあるもんな。な? 陸」
「え? あ……うん……」
僕達を快く許してくれた京介は、そのまま陸にも同意を求めたけれど、陸はまるで僕達の話を聞いていなかったみたいな反応だった。
僕達の部屋に入って来た時から――というより、悠那君が二人の前で司さんとの関係を明かした時から、陸はずっとこんな感じで上の空だ。
きっと、悠那君のカミングアウトがショック過ぎて、そのショックから抜け出せないからだとは思うけど、いつもは京介と一緒になってあれこれ言ってくる陸が、全く喋らないでおとなしくしているのも、僕は心配になるし落ち着かない。
律も同じ気持ちなのか、いつもより格段に口数の少ない陸をチラチラと気にしているみたいだけれど、京介はあまり陸のことを気にしている様子はなかった。
いつもと様子が違う陸を心配するより、司さんと悠那君のことが気になるからなのかもしれない。
律から一通りの話を聞かせてもらい、ようやく好奇心も落ち着いた京介は、そこでようやく陸の様子がおかしいことに気付き
「何? その暗い顔。っていうか、さっきからやけに静かじゃね?」
と、俯き気味な陸の顔を不思議そうに覗き込んだ。
7月から陸との共同生活を始めた京介は、ここ最近の陸の異変には気が付いているらしいけれど、今日のレッスン中の陸は元気だったように見えたから、「今日はいつもの陸だ」と思っていたのかもしれない。
でも、僕達の前でこんなにテンションの低い陸は初めてだからか、どんよりとした陸に気付いた京介は戸惑っているみたいだった。
「ん……ちょっと……。なんか夕飯食べたら急に疲れが出たっていうか、眠たくなってさ」
自分の悠那君に対する密かな恋心を誰にも明かすつもりがないらしい陸は、不安そうな顔の京介に向かって、もっともらしい言い訳をした。
陸が嘘を吐いていると気付いている僕でさえ、あっさり信じてしまうような上手い言い訳だと感心してしまいそうだ。
「そう? ならいいけど……」
陸の嘘に気付いている僕でも信じたくなるのだから、陸の嘘に気付いていない京介が、今の陸の言葉を疑うはずもなかった。
本当は陸の気持ちをちゃんと聞いてあげて、慰めてあげたいところだけど、本人が隠し通すつもりなら、僕達も気付かない振りをしてあげるのが優しさだろう。
「だけどさ、最近ちょっと元気ないよな。何か悩み事でもあんの? もし悩みがあるなら言えよ? いつでも相談に乗ってやるから」
しかし、陸の元気がない本当の理由はわかっていなくても、陸のことはちゃんと心配しているし、気に掛けている京介がそう言えば
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。俺って暑さに弱いから。ちょっと夏バテ気味なのかもしれない」
陸はまたしても上手な嘘を吐き、あっさり京介を信じさせてしまった。
「確かにな。最近暑いし忙しいから、そりゃ夏バテだってするよな。そっかそっか。最近陸の元気がないのって夏のせいだったのか」
「うん。まあね」
世の中には“ひと夏の恋”なんて言葉があるくらいだから、夏のせいと言えば夏のせいで合っているのかもしれない。
この夏、陸は“ひと夏の恋”というものを経験したんだろう。
その期間はあまりにも短過ぎて、ちょっと陸が居たたまれない感じではあるけれど。
「ごめんね、陸。そんな時に衝撃的な事実を知ることになっちゃって」
本当のところは言えないけれど、京介からの許しは得ても、陸からはまだ何も言われていないから、改めて陸にもう一度謝っておいた。
申し訳なさそうに且つ、陸の様子を窺うような顔で謝る僕に、陸はややどんよりした視線を向けてきたけれど、すぐさまその視線を僕から逸らし
「別にいいよ。京介が言ったように、最初は俺もびっくりしたし、なんで言ってくれなかったの? とは思ったけど、自分のグループの中に男同士で付き合ってる人間がいるなんて話、普通はできないよな。だから、律と海が謝る必要なんてないよ」
と、形としては僕達のことを許してくれたわけだけど、その表情は相変わらず暗く、僕達の気は晴れなかった。
全くもう……悠那君のせいでとんでもないお泊り会になっちゃったじゃん。
まあ、遅かれ早かれ、こういうことにはなっていたんだろうけれど。
「……………………」
陸の落ち込みモード漂うテンションに顔を見合わせる僕と律。
これ、どうしたらいいんだろう。何やら僕達の間に気まずい空気が漂っているような気がするんだけど……。
「……………………」
一瞬、無言に包まれる僕達の部屋に、京介も若干の違和感を覚えのか
「なあ。司さんと悠那さんの部屋に行こうよ」
その微妙な空気を打ち消すように、明るい声で提案してきた。
「え……」
場の空気を変えようとしてくれる気持ちはありがたいんだけど、どうしてそういう提案? 陸的には、今は司さんと悠那君に会いたくないようにも思うんだけど。
「いや……えっと…………なんで?」
どうして京介がいきなりそんなことを言い出したのかはわからないけれど、とりあえず理由を聞いてみる。
「だってさ、悠那さんが司さんとの関係をカミングアウトした時、なんか悠那さんと俺達ってちょっと気まずい感じになっちゃったじゃん。だから、今から司さんと悠那さんの部屋に行って、その時の気まずさを解消しておこうと思って」
「あー……そうだったっけ?」
言われてみれば、確かに若干気まずい雰囲気にはなったような気がする。
でも、それは二人が驚いて動揺したことにより、悠那君とのやり取りが少しぎこちなくなってしまったからなのと、悠那君が司さんと付き合っていることを知り、ショックを受けた陸のテンションが一気に下がってしまい、その場の空気が重くなってしまったからだと思う。
別に悠那君達と京介達の関係が悪くなったわけではないし、むしろ、動揺しつつも司さんと悠那君の関係を認めるような発言をした京介は、悠那君からの好感度がアップしているはずだ。
「そうだよ。だからさ、改めて司さんと悠那さんに、俺達全然気にしてませんよ、って言いに行ったほうがいいと思って」
「うーん……あの二人はあんまり気にしてないと思うよ?」
一応、CROWNより半年デビューが早い僕達は、アイドルとしてはCROWNの先輩になるし、司さんと悠那君は実際に僕達の年上にもなるから、京介が二人に気を遣う気持ちはわかるけど、あの二人は夕飯での出来事なんて全く気にしていないどころか、今頃部屋でイチャイチャしていると思う。
なんなら、いかがわしい行為に勤しんでいる真っ最中かもしれないから、今から二人の部屋を訪れるのは非常に危険だと思う。
「それに、今頃部屋で二人だけの世界を展開させてるかもしれないから、そういう話は明日の朝にしたほうがいいんじゃないかな?」
この二人に司さんと悠那君のそんなシーンを見せるわけにはいかないから、僕もなるべくやんわりと京介を止めてみたんだけれど
「平気だろ? 司さんと悠那さんの関係を知った後なら、二人が少々イチャイチャしてても、もう驚かねーし」
腰を上げた京介は、司さんと悠那君の部屋に行く気満々だった。
いやいや……だからさ、少々とかじゃない場合もあるんだってば。あの二人に“今日はお客さんが来てるから”なんて遠慮はないんだから。
「それに、今後のためにも俺達だって司さんと悠那さんのイチャイチャに慣れておいたほうがいいじゃん。な? 陸もそう思うよな?」
「ん……うん……」
「あぅー……」
不味い……。京介の言っていることが一理あり過ぎて、京介を思い止まらせる言葉が出てこない。
「ど……どうしよう、律……」
陸の腕を取り、陸まで引き連れて司さんと悠那君の部屋に向かおうとする京介に、僕は焦りながら律に助けを求めた。
「そんなの、どうにかして引き止めるしかないよ。あの二人が部屋に入ってから三十分以上が経ってるんだから、今頃は……」
「だよね」
既に僕達の部屋を出て行こうとしている二人に隠れて、ひそひそ話をする僕と律。
京介が部屋を出ようとドアを開けた瞬間
「そっ……そうだっ! 二人とも、先にお風呂に入ってきたら?」
最早一刻の猶予もないと判断した律が、二人に向かって咄嗟にそう言い放っていた。
確かに、今すぐ二人の気を引く方法といったら、まだ入っていないお風呂を勧めるくらいしかないかもね。
レッスン後にシャワーは浴びているけれど、いっぱい身体を動かした日は、ゆっくりお風呂に浸かって身体を労わらないと。
「え? 急に何?」
京介の中では、今からみんなで司さんと悠那君の部屋に行くつもりだったから、いきなり律にお風呂を勧められると「なんで?」となってしまうようである。
そこは察してもらいたいものだ。
大体、あれだけ人前で恥ずかしげもなくイチャイチャするような恋人同士が、二人きりの部屋の中で何をしているのかなんて、すぐにわかりそうなものじゃない?
「いや……先にお風呂に入っておいたほうが、その後ゆっくりできていいんじゃないかと思って」
「そりゃまあそうだけど……でも、司さん達とはそんなに長話するつもりはないから、先に司さん達の部屋に行ってからでいいよ」
「うぅ……」
京介は司さんと悠那君の日常を知らないから仕方がないんだけれど、これまでに幾度となく二人から猥褻行為の視覚的被害を受けている僕達は、不用意に司さんと悠那君の部屋には近付かない。ましてや、事前にアポイントを取っていない部屋への進入も基本的にはしない。
それくらい、あの二人の部屋は危険なのである。
「ちょっと待って!」
口で言っても埒が明かないので、律は思いきって廊下に飛び出すと、僕達の部屋の正面にある司さんと悠那君の部屋のドアの前に立ち、通せんぼの姿勢を取った。
両手をめいいっぱい広げて通せんぼをする律が可愛い。
「この先は危険区域だからっ! 迂闊に足を踏み入れたら大変なことになるよっ!」
でもって、精一杯の脅しをしているつもりの律がまた可愛い。なんなの? この子。威嚇するレッサーパンダみたいになってるじゃん。
僕だったら、こんなに可愛い律に凄まれたところで、ただにやにやしちゃうだけだろうな。
「そ……そうなの?」
口ではなく、物理的に行く手を阻まれた京介は、ただならぬ雰囲気の律に多少はたじろいだはずなのに
「でも、そう言われると逆に気になる」
と、ここでも好奇心旺盛っぷりを発揮して、目の前で両手を広げる律の横を素早く擦り抜けてしまうと、司さんと悠那君の部屋のドアをノックしてしまった。
そしてノックをするや否や
「ちょっと!」
「お邪魔しま~っす」
慌てて制止する律の声や、二人を止めようとする僕の手を無視して、司さんと悠那君の部屋のドアを開けてしまったのである。
部屋の中がどうなっているのか興味津々の京介に手を引かれ、京介と一緒に部屋の中に足を踏み入れてしまった陸――と、急いで二人を連れ戻そうとした僕と律は、結局四人ごちゃ混ぜになって、司さんと悠那君の部屋に雪崩れ込む形になってしまった。
まさか僕達が部屋に入って来るとは思っていなかったであろう司さんと悠那君は果たして――。
「え……」
「っ⁈」
「~……」
「やっぱり……」
先頭を切って部屋の中に突入した京介だったけど、部屋に入り、部屋の中で展開されている光景を見るなり、その場でピタリと動きが止まってしまった。
(だから止めたのに……)
今更もう手遅れではあるけれど、うちにお客さんが来ていようがいまいが、司さんと悠那君の日常は変わらない。司さんと悠那君は、やっぱり司さんと悠那君だった。
「わっ! ちょっ……今、お取込み中っ!」
悠那君と違ってちゃんとノックはしたけれど、あまりノックをした意味はなく、司さんと悠那君からしてみれば、いきなり部屋のドアを開けられたようなものだ。当然、僕達を迎え入れる準備なんてできていない。
なので、素っ裸のまま司さんの上に跨っていた悠那君は、僕達に向かって白桃のように白くてぷりんとしたお尻を見せた状態で、僕達の乱入に酷く取り乱したのである。
せめてもの救いは、まだ挿入前で悠那君が盛大に喘いでいる最中じゃなかったことくらいかな。
悠那君が喘いでいなかったところで、二人が何をしているところなのかは一目瞭然だけど。
「すっ……すみませんっ!」
最初は意気揚々と二人の部屋に入っていった京介も、見てはいけない恋人同士の蜜事には仰天してしまい、慌てふためきながら司さん達の部屋を飛び出した。
ここでも四人一緒くたになって部屋から飛び出した僕達は、そのまま僕達の部屋に逃げ帰るのではなく、一旦廊下に留まり、激しく動揺する心や乱れた呼吸を整えることにした。
「び……びっくりした……」
「だから言ったじゃんっ! 迂闊に足を踏み入れたら大変なことになるって!」
「もっとはっきり言ってよっ! そういう意味で大変になるんだって!」
「普通はわかるじゃんっ! 恋人同士がいる部屋に入るのを止める理由なんて、それくらいしかないんだからっ!」
この場合、誰が悪いのかと言えば、僕や律の制止も聞かず、司さんと悠那君の部屋に押し入った京介が悪いだろう。
しかしながら、陸や京介が受けた衝撃を考えると、お客さんが来ているにも関わらず、部屋でセックスしている司さんと悠那君が一番悪い。
ヤるならヤるでドアに鍵を掛けるとか、みんなが寝静まった後にすれば良かったんだ。
「どうしよう……今のは絶対にヤバかったよね?」
夕飯の時の気まずさを解消するために、司さんと悠那君の部屋を訪れたはずの京介は、更に気まずいことになってしまった状況に青褪めている。
いやいや。あの二人は他人にセックスしているところを見られたところで何も変わらないから。
「うわー……どうしたらいい? まさかあんなことしてるとは思わなかった。ちゃんと謝ったら許してくれる?」
「多分大丈夫だよ。そもそも、鍵も掛けずに部屋であんなことしてる司さんと悠那さんが悪い」
「でも、見ちゃいけないものだったよな?」
「平気だって。あの二人、冬に公開される予定の映画で似たようなシーンを演じたみたいだから。今更“見られて恥ずかしい”なんて思わないよ」
「でも、悠那さん焦ってたじゃん」
「そりゃまあ、あんなことしてる時にいきなり部屋のドアが開いたら、びっくりするし焦るでしょ」
「怒ってない?」
「多分ね」
最初は口喧嘩に発展しそうな勢いだったけど、廊下で言い合う律と京介は、あっという間に慰める側の人間と慰められる側の人間になっていた。
一方、半ば強引に京介に連れられ、悠那君のあられもない姿を目撃してしまった陸はというと――。
「はぁ~……」
律に慰められた京介が安堵の溜息を零したと同時に
「……………………」
一言も声を発さないまま、静かに廊下に倒れて行った。
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