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Final Season
一緒が楽しい秘訣(5)
しおりを挟むCROWNとの合同レッスンの前――つまりは、CROWNのメンバーがうちに泊まりに来る前に、陸には申し訳ないけれど、僕と律は悠那君以外のメンバーにも、陸が悠那君に惚れてしまったらしい、という話をしておくことにした。
そうしないと、当日は全力で司さんとイチャつく気満々な悠那君を間違いなく陽平さんが止めてしまうし、いざという時にフォローが難しそうだからだ。
悠那君にイチャつかれ放題になる司さんが、あっという間に理性を崩壊させて、暴走してしまっても困る。
あくまでも、陸に悠那君のことを諦めてもらうことが目的なので、あまり過剰なイチャイチャはしないで欲しいというお願いも、司さんと悠那君の二人にはしておきたかった。
陸が悠那君に惚れてしまった、という話を聞いた司さんは当然面白くない顔をしたし
「いっそのこと、悠那が俺に犯されるところでも見せてやろうか」
なんて怖いことも言っていたけれど、そこは陽平さんに頭を叩かれて止められていた。
ほんと、こういう気を起こしてくれるから、事前報告が必要になってきちゃうんだよね。陽平さんが知っていてくれることで、なんとか秩序が保たれてくれるって思えるし。
司さんと悠那君の関係がバレてしまった際、僕と律の関係は明かすのかどうかって話も出たけれど、それについては“その時の状況次第”ということにしておいた。
失恋した直後の陸の前で
『実は僕達、付き合ってます♡』
なんて無神経過ぎるし、そんな話をできるような流れになるかどうかもわからないもんね。
ただ、司さんと悠那君の関係がバレたのであれば、僕達の関係も伝えるつもりであることは言っておいた。
じゃないと、僕達より先に悠那君が余計なことを言い出しそうだから。
陽平さんと湊さんの関係については、陽平さんと湊さんが話し合ってから決めればいいと思う。
もちろん、陽平さん的には“知られたくない”と思っているだろうし、あの湊さんが自分のところのメンバーに陽平さんとの関係を明かしていなさそうなところを見ると、湊さん的にも慎重になるべきところなんだとは思う。
司さんと悠那君以外のメンバーが、若干の不安を抱えて迎えたCROWNとの合同レッスン当日――の夜――。
「悠那。あーん」
「あー……んっ♡」
「美味しい?」
「うんっ! 美味しいっ♡ 俺、司にご飯食べさせてもらうの好き~♡ いつものご飯が何倍も美味しく感じるも~ん♡」
「そう?」
「そうだよ。だから、もっといっぱい食べさせて♡」
「はいはい」
司さんと悠那君のイチャつきっぷりは大炸裂であった。
言っても、普段の二人のイチャつきっぷりを見ている僕達の目には、いつもとあまり変わらないようにも見えるわけだけど。
「悠那。口の周りにソースついてるよ?」
「ん」
「了解」
それでも、これがメンバー以外の人間もいる“人前”であることと、僕達でもあまり見ることがない激甘イチャイチャモードであることを考えれば、いくらかパワーアップしているのは事実である。
悠那君に唇を突き出され、悠那君の口許についたソースをペロリと舌で舐め取る司さんを見てそう思う。
CROWNのメンバーがうちに来て、僕達と一緒に夕飯を食べる時は、全員でダイニングテーブルには座れないから、年上組がダイニング、年下組がリビング、という風に分かれてご飯を食べることになっているんだけれど、食事中にも関わらず、これ見よがしにイチャつき放題の司さんと悠那君の姿に、一同はやや唖然気味……という感じであった。
夕飯が始まるなり、悠那君は自分の席ではなく、司さんの膝の上に跨り、「いただきます」の直後から、口に入れるもの全てを司さんに食べさせてもらったり、飲ませてもらったりしているのである。
おまけに
「悠那、落ちそう」
「ぁんっ……えへへ♡」
少しずつ自分の膝の上から身体が動いていく悠那君の腰を掴み、司さんが定期的に自分の膝の上に悠那君を座り直させたりするから、そのつど無駄にエッチな声を上げる悠那君も相俟って、二人がヤっているところを連想しなくもない。
(エッチなのはナシなんじゃなかったのかよ!)
と、突っ込みを入れたくもなる。
そんな、さり気なく肉体関係までも仄めかすような二人のイチャつきっぷりに、陽平さんと律は同じような苦々しい顔をして、時折溜息まで零している。
二人の顔には明らかに後悔の色が窺える。
そういう僕も、まさか二人がここまで全力でイチャついてくれるとは思っていなかったから、呆れを通り越して尊敬すら覚えてしまいそうである。
(っていうか、普段のイチャイチャより更に上があったんだ……)
という気持ちだ。
しかし
「だぁ~っ! もう無理っ! 限界っ! 食事中になんなの⁈ なんで俺はお前らのこれ見よがしのイチャイチャを見せられながら、飯とか食わなきゃいけないんだよっ! 暑苦しくて食欲失せるっ! イチャつくなら部屋でやれよっ!」
とうとう我慢の限界を迎えたらしい陽平さんが、目の前で見境のないイチャイチャを繰り返す司さんと悠那君に向かって、悲鳴に近い声を上げた。
事前に話を通して、二人のイチャイチャを邪魔しないようにしよう、という話にはなっていたけれど、ここまで好き放題イチャイチャされたら、逆に何も言わない方が不自然だよね。
よって、陽平さんの行動は間違いではないし、今日は朝からイチャイチャ度高めな二人に対して、陽平さんはよく我慢した方だと思う。
最早見慣れた光景とはいえ、陽平さんは司さんと悠那君の見境のないイチャイチャには一番煩かったりもするからな。
今日だって、本当ならとっくにもっと沢山の不満を本人達にぶつけていたであろう陽平さんが、今の今まで黙っていたこと自体、僕は陽平さんを褒めてあげたいくらいだよ。
今日一日、イチャイチャ三昧な司さんと悠那君に陽平さんが突っ込みを入れたことで、一同の間にはほっとした空気さえ流れた。
だけど、本日イチャイチャ絶好調の司さんと悠那君は、多少陽平さんからキツめの突っ込みを入れられたところで、おとなしく従うはずもなかった。
そもそも
「もー。今日の陽平は俺のこと怒ってばっかりなんだから」
今日は司さんと悠那君がより自然にイチャイチャしやすいように且つ、陸の目が悠那君に向きやすいようにと、合同レッスンの時から陽平さんは悠那君に対して厳しめな態度を取るという、ちょっとした小細工が仕掛けられていた。
いくら司さんと悠那君が好きなだけイチャイチャするにしても、最初から全力でイチャイチャするのもなんだか不自然だし、CROWNとの貴重な合同レッスン中に、見境なくイチャイチャするのもふざけているような感じになる。
だから、レッスン中に陽平さんが悠那君の小さなミスを見つけては、やや大袈裟に注意をし、陽平さんに怒られた悠那君が司さんに慰めてもらうという構図を作り出した結果が、今現在の司さんと悠那君の見境のないイチャイチャに繋がっていたりする。
恋人同士の“人前でのイチャイチャ”に対しては厳しい陽平さんからしてみれば、自分の協力もあって、司さんと悠那君がイチャイチャし放題になっていることも、改めて考えると面白くないことだろう。
しかしながら、全くわざとらしくならず、極々自然に司さんと悠那君をイチャつき放題にさせてしまうあたりはさすがである。
「陽平が俺に冷たいから、大好きな司にいっぱい甘えて、優しくしてもらってるんだも~ん♡」
「だからってなぁっ! 限度ってもんがあんだろっ! 限度ってもんがっ!」
「俺と司のイチャイチャに限度なんてありませ~ん♡」
「ぬぅーっ! お前っ! ちょっとこっち来いっ!」
「嫌だもん」
今日一日、ずっと不満を溜め込んできたぶん、限界を迎えてしまうと言いたいことが山ほどありそうな陽平さんだった。
「まあまあ、陽平。いいじゃんか。司と悠那はいつもこんな感じだし、俺達は全然気にしないよ。な? 玲司」
「もちろん。むしろ俺は眼福って感じだよ」
でも、そこは湊さんや玲司さんの二人が、陽平さんを宥める役に回ってくれた。
多分、今回の件について、陽平さんの恋人である湊さんは陽平さんから話を聞いているのだと思う。
二人の関係を知っているうえ、うちにもしょっちゅう遊びに来ている湊さんは、司さんと悠那君のイチャイチャには免疫があるし、玲司さんの方は司さんと悠那君の関係を知っているかどうかは知らないけれど、オタク故なのか、司さんと悠那君のイチャイチャには寛大どころか、二人のイチャイチャを見て喜んでいるところさえあるから問題はなさそうだった。
だがしかし
「今日はいつもにも増して悠那さんが司さんにべったりだな」
「いくらなんでも、あそこまでになるとちょっとおかしくね?」
司さんと悠那君の関係を全く疑っていなかった陸と京介からしてみれば、今日ほどのイチャイチャになると、さすがに戸惑いを隠せないらしい。
今までの司さんと悠那君も大体こんな感じではあったと思うけど、ここへきてようやく二人の関係を怪しみ始めた。
つまりは、ようやく僕達の拙い誤魔化しが通用しなくなってきたということでもあり、いよいよ陸と京介に司さんと悠那君の関係がバレてしまうのかと思うと、これまで散々二人のことを誤魔化してきた僕としては、ハラハラドキドキしてしまう。
だけど、これは悠那君のことを好きになってしまった陸のためにも必要なことなんだ。陸が司さんと悠那君の関係に気付くために、僕達Five Sは今日一日、司さんと悠那君の度を越したイチャイチャに目を瞑ってきたんだから。
明らかに同じグループのメンバー、共同生活が始まって以来のルームメイトの域を超えたイチャつきっぷりを発揮する司さんと悠那君に、肝心な陸はどんな顔をしているのだろうか。
不安と心配でざわつく胸を抑えつつ、こっそり陸の様子を窺ってみると
「前からカレカノっぽいとは思ってたけど、実は本当にカレカノの可能性ある?」
司さんと悠那君のイチャイチャに唖然とする京介と違って
「ん……そうだな……」
陸の方は何やら複雑そうな表情である。
もしかして、ショックとか受けちゃっているのだろうか。
(あぁっ! 良心がっ! 良心が痛むっ!)
他に方法が思い付かなかったし、仕方がないことではあるものの、諸々の事情を考えて、司さんと悠那君の関係を素直に伝えていなかったことで、今の陸にショックを与えてしまっていることが辛い。
「ほら♡ 湊さんと玲司さんは俺と司のイチャイチャを気にしないってさ。つまり、俺と司のイチャイチャに文句をつけてるのって陽平だけなんだよね」
「一人でも不満に思う人間がいるなら、少しは自重するべきところだろ」
「陽平は俺と司のイチャイチャに厳格過ぎるっていうか、狭量過ぎるんだよね。俺と司がイチャイチャしてるのなんていつものことなのに」
悠那君の話では、CROWNの前で司さんとの酷いイチャつきっぷりを披露して、陸や京介に司さんとの関係に疑う余地を与えない――という話だったように思うのだけど。
この流れ、もしかしなくても……。
「そもそも、俺と司って付き合ってるんだから。イチャイチャするのなんて当たり前じゃん」
やっぱり……。やっぱり言っちゃったよ。
本日、CROWNの前で好きなだけ司さんとイチャイチャすることができた悠那君は、もうまどろっこしい仄めかしが面倒臭くなっちゃったんだろうな。
元々悠那君に司さんとの関係を隠すつもりなんてなかったし。
「えっ⁈」
全く臆する様子もなく堂々と言い放つ悠那君に、陸と京介の二人は同時に驚きの声を上げた。
今、この家の中にいるメンバーの中で、そのことに全く気が付いていなかったのは二人くらいのものだよ。
玲司さんは湊さんから聞いたのか、はたまた自分で気が付いたのかはわからないけれど、全然動じていないところから、やっぱり司さんと悠那君の関係は知っていたか、気付いていたかしたのだろう。
仄めかすとか、気付かせるとかではなく、司さんと付き合っていることを公言した悠那君に対し、陽平さんは「言うのかよっ!」って顔だった。
まあ……そうなりますよね。正直、僕と律もいきなり悠那君が司さんと付き合っている宣言をしたことには驚いてしまっている。
「ね~♡ 司♡」
「うん」
ひょっとして、僕達に驚いたリアクションを取らせることで、陸や京介の目に「僕達も知りませんでした」という風に映るように計算してくれた?
いやいや。司さんと悠那君の関係がバレてしまったのなら、もうこれ以上、陸と京介を誤魔化したり、嘘を吐くつもりはないよ。最初から知っていたことを素直に認めて、二人にちゃんと「ごめんなさい」するよ。
「え? え⁈ ちょっと待って⁈ 司さんと悠那君が付き合ってるってどういうことですか⁈ それ、マジな話⁈」
「うん。マジだよ。っていうか、この中でそのことに気付いてないのって、陸君と京介君だけだと思うんだけど」
「マ……マジか……」
あぁ……別に僕や律を気遣ったわけじゃなくて、ただ言いたくなったから言っただけなんだ。
陸と京介以外ってなると、Five Sのメンバーは全員司さんと悠那君の関係を知っていたことになるもんね。
「ち……ちなみに、司さんと悠那さんはいつから付き合ってるんですか?」
「デビューした年の夏だよ」
「そっ……そんなに前からっ⁈」
「えへへ♡」
一体いつから二人がそんな関係になっているのかと尋ね、それを知った京介は絶句する。
司さんと悠那君が付き合い始めたのは、Five Sがデビューをした年の夏だった。司さんと陽平さん以外のメンバーはまだ高校生で、CROWNがデビューする前の話だ。
その頃は陸や京介に僕と律以外のFive Sのメンバーとの面識はなく、初めて顔を合わせた時には既に付き合っていた司さんと悠那君を見ても、この二人はこういうものなんだ、で済んでしまう話でもあったのだと思う。
CROWNがデビューした時には肉体的な関係までできていた司さんと悠那君は、わりと最初からCROWNの前ではイチャイチャ度高めだったし、司さんと悠那君がルームメイトであることは、CROWNのメンバー全員も知っていたから。
「ってことは、俺達がデビューした頃からFive Sのメンバーはもちろん、湊さんや玲司さんも知ってたことなんだ……」
「俺はまあ……二人が付き合う前から陽平に相談を受けたこともあるからさ。それで知ることになったって感じかな」
「俺が二人の関係に気付いたのはわりと最近だよ。直接誰かから聞いたわけじゃないけど、二人を見ていたら“そうなんだろうな”って」
「はぁ……」
Five Sのメンバーならまだしも、自分達と同じCROWNのメンバーの中にも司さんと悠那君の関係を知っている人間がいたことに、陸と京介は放心状態といった感じだった。
「え? 陽平ってば、俺達のことを湊さんに相談なんかしてたの? 初耳なんだけど。一体どういう相談をしてたの?」
それは僕も初耳である。湊さんが司さんと悠那君の関係を知ったのは、二人が付き合い始めてからだと思っていたのに。
司さんと悠那君が付き合う前と言ったら、陽平さんと湊さんが再会してから間もない頃でもあるんだよね?
その頃は陽平さんもまだ湊さんから「好き」だって言われていないだろうから、普通に友達に相談するつもりで、司さんと悠那君のことを話しちゃったんだろう。
でも、陽平さんからそんな相談を受けてしまったからこそ、湊さんも自分の気持ちを隠すことをやめてしまったのかもしれないよね。
陽平さんの身近で男同士の恋愛問題が浮上しているとなると、その時にはもう陽平さんのことが好きだったであろう湊さんにとっては、自信と励みになったように思うしさ。
自分の中ではありえない恋の形でも、男同士の恋愛については否定的な態度でもなかった陽平さんではあったから、そんな陽平さんの姿を見て、湊さんも“頑張ってみよう!”って思えたのかもしれないよね。
「あ? お前らがあまりにも馬鹿過ぎて、どうしたものかと相談してたんだよ」
「何それっ! それは相談じゃなくて悪口じゃんっ!」
先日、自分と司さんのことで律に悪口を言われたと思った悠那君は、過去の陽平さんにまで悪口を言われていた(?)ことに、ぷぅっとほっぺたを膨らませて怒った。
しかし
「悪口じゃなくて事実だろ」
先日の律と全く同じ反応を返されていた。
陽平さんと律の二人が、司さんと悠那君に辛辣なのは今に始まったことではない。
「そっかぁ……そうだったんだ……。俺と陸以外はみんな知ってたし、気付いてることだったんだ……」
しばらくの放心状態から復活した京介はそう言い
「だったら教えてくれても良かったのに」
と僕や律をはじめ、湊さんや玲司さんにもやや恨みがましそうな視線を向けてきた。
良心が……再び僕の良心が痛む。
「うーん……こういう話はデリケートな問題でもあるからね。あまり人に言い触らしていいことでもないから、二人が気付かないなら気付くまでそっとしておこうと思ったんだよ」
いつも余計なことを言ったりしたりで、陽平さんを怒らせてばかりいる湊さんは、あまり人を宥める役には向いていないと思ったのか、京介の言葉に返事を返したのは玲司さんだった。
やんわりとした口調と耳障りのいい優しい玲司さんの声は、確かに人を宥めるには最適だと思った。
おまけに
「だからね、なんで黙ってたの? って誰かを責めたりしちゃダメだよ? 人には言いたくても言えない事情だってあるんだからね」
今度こそ、僕や律のことを気遣ってくれる発言をする玲司さんに、僕はちょっと感動してしまいそうだった。
(玲司さん……いい人だ……)
同じアイドル同士、高校生活を共に過ごし、今は二度目になる同じドラマの撮影中でもある僕、律、陸、京介の四人は、誰の目から見ても仲良しに見えるのだろうし、実際に仲良しな四人組でもある。
司さんと悠那君の関係なら、いくらでも二人に打ち明ける機会があったのに、そうしなかった僕達を「責めちゃダメだよ」と、玲司さんは陸と京介に言ってくれているのである。
「それに、今こうして悠那君が自分の口から明かしてくれたわけだから、今まで話せなかった話もできるようになるんじゃない? ちょうど今日はここに泊まらせてもらうことにもなってるし。ご飯の後にでも、ゆっくりといろんな話をしてみたら? ね? 律君。海君」
「は……はい」
僕達に気を遣ってくれただけでなく、陸と京介が僕達とそういう話をしやすい流れまで作ってくれる玲司さんに、僕と律は畏まりながら小さく頷いた。
それにしても、こういうちょっと真面目な話をする時は、玲司さんも悠那君のことを“悠那たん”なんてふざけた呼び方をせず、ちゃんと“悠那君”って言うんだな。
TPOを弁えられる男って格好いいよね。
僕も二年後には、こういう人や場所に気遣いのできる男になっていよう。
「急なカミングアウトでびっくりさせちゃったよね。でも、CROWNとはこれからもずっと仲良くしていきたいし、わかり合ってもいきたいから、思いきって司とのことも話しちゃおうと思って。正直、俺が言う前に気付かれるものだと思ってたんだけど」
そして、ただ司さんとの関係を暴露しただけにならないよう、それなりの理由をつける悠那君はまあ……本心ではあるんだろうけど、最後の一言は余計だった感もあるよね。
そういう正直で嘘をつけないところが悠那君の良さであり、ややデリカシーに欠けるところでもあるわけだけど、こうやってなんでも思ったことを口にする方が、後々面倒がなくていいし、常に堂々としていられる秘訣なのかもしれない。
「俺と司のことをどう思うかは自由だし、もしかしたら引かれちゃってるかもだけど、これから一緒に過ごす時間が増えていくから、バレる前に言っておこうと思って言っちゃった。ごめんね」
放心状態は解けたけれど、まだ動揺はしている京介にそう言うと、悠那君は物凄くいい笑顔になって笑った。
多分、陸と京介の二人を驚かせてしまった申し訳なさより、司さんとの関係を公言できたことが嬉しくて、満足なのだろう。
悠那君は世界中の人に自分と司さんの関係を認めてもらうという、壮大で可愛らしい野望を持っているそうだから。
司さんとの関係を認めてもらうためには、まず、司さんとの関係を明かさなくちゃいけないもんね。
こうしてまた二人、新たに自分達の関係を知る人間が増えたことで、認めてもらおうが認めてもらえまいが、悠那君の野望に一歩近づいたことにはなるわけだから、そりゃ嬉しそうで満足そうな顔もしちゃうよね。
「いや……ぶっちゃけめちゃくちゃ驚いてはいるけど、司さんと悠那さんならまあ……別に引きはしないっていうか、意外とすんなり受け入れられるような気がするかも……」
他の同性カップルの場合はどうだか知らないけれど、少なくとも、司さんと悠那君の関係を知った京介は、自分でも“予想外”と言いたげな顔で、悠那君にそう返していた。
やっぱり相手が悠那君ほど性別不詳で可愛くなると、性別の問題なんてあっという間にクリアになっちゃうものなのかな?
だけど、それを言うなら、悠那君とちょっとタイプは違うけど、律だって非の打ち所がないほどの美少年だ。女の子にはちょっと見えないかもしれないけれど、律が相手でも性別の問題なんてあっという間にクリアになってくれもおかしくはないと思う。
「ほんと? そう言ってもらえると嬉しいなぁ♡」
司さんと悠那君の関係をほぼほぼ認める発言をした京介に、悠那君の顔はぱぁっと明るくなった。
しかし、問題の陸はというと――。
「司さんと悠那さんが恋人同士……」
悠那君からの突然過ぎるカミングアウトにショックが大き過ぎるのか、虚ろな目をしてぼんやりとそう呟いていた。
うわー……陸のテンションだだ下がりじゃん。悠那君に司さんという男の恋人がいたことが相当ショックだったんだろうな。
「~……」
すっかり落ち込んでしまった陸を、どうやって励ましてあげたらいいのかわからない僕が、ほとほと困った顔で陸の様子を窺っていると、そんな僕をチラリと見てきた悠那君に
『後はよろしくね♡』
と言わんばかりの顔をされた。
本当にもう……悠那君は自由なんだから……。
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