僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Final Season

    決意と決別(6)

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 部屋の中にいる人間の許可もなく、無遠慮に部屋のドアを開けてきた悠那は、ベッドの上で絡まり合う俺と湊を見て、最初はきょとんとした顔をしていたが――。
「あれあれ~?」
 状況を理解するなりにやぁ~っと笑い、ベッドの上の俺と湊をまじまじと観察するように眺めてきた。
 俺の嫌な予感的中である。
「なぁに? 陽平ってば湊さんに説教してたんじゃなかったの?」
「っ……! うっせーなっ! してたよっ!」
「でもぉ~、俺の目には説教していたようには見えないんだけどぉ?」
「俺だって不本意な状況なんだよっ! これはっ!」
「ふぅ~ん」
「っつーかっ! ノックもなしに人の部屋に入ってくんなっ! プライバシーの侵害だろっ!」
 本来、こういうシーンに出くわしてしまった時、大抵の人間が気まずさを感じ、そそくさと退散するところだ。
 しかしながら、一般的な感覚からややズレている傾向にある悠那は、一緒に暮らすメンバーの情事場面に出くわしても動じることはなく、むしろ興味津々といった顔であった。
「今更何言ってるの? 俺がノックなしで人の部屋に入るのなんて、この家の中じゃもう常識じゃん。それに、同じ家で一緒に住んでいたら、お互いのプライバシーなんてあってないようなものじゃない? 陽平だって俺と司がエッチしてる最中の部屋に入ってきたことがあるし」
「そ……そりゃあるけど……」
 ノックもせずに人の部屋に入ることを悪いと思うどころか、常識だと言ってのける悠那には呆れる。が、司と悠那がヤってる最中の部屋に押し入ったことがある俺は、そこを指摘されると何も言い返せなかった。
 口籠る俺の姿を見て、勝ち誇ったような顔になる悠那は
「っていうか、デビュー前から一緒に暮らしているんだから、今更恥ずかしがるようなこともないじゃん。俺、陽平と湊さんの関係だって知ってるのに」
 と、今度は屈託のない能天気な笑顔になって言ってきた。
「いや……お前は俺と湊の関係を誤解していると思う」
 俺と湊の関係を「知っている」と言い切る悠那に、俺は反論したくてたまらない。
 うちのメンバーきっての恋愛体質というか、恋愛脳をしている悠那は、自分の色恋沙汰だけでなく、人の恋路にも首を突っ込みたがるし、自分が彼氏とラブラブだからか、自分の周りにいる人間にも自分と司のようにラブラブになって欲しいという願望があるらしい。
 故に、最早ただの友達関係ではなくなってしまった俺と湊のことも、早く付き合っちゃえばいいのに、と思っているみたいだし、なんならもう付き合っていることにしてしまっている節がある。
 そんな悠那に俺と湊のこんなシーンを見られてしまったら、悠那は
『なんだ。なんだかんだと上手くやってるじゃん』
 とか
『やっぱり二人って付き合ってるじゃん』
 という、勝手な誤解と思い込みをしてしまい、益々湊に協力的な人間になってしまいそうだ。悠那が湊に対して協力的になることほど厄介なものはない。
 ついでに言うと、秘密を守ることができないお喋りな悠那に、見られたくないシーンを見られてしまったことも痛い。こいつ、絶対に部屋から出て行った後、速攻今のことを司に話すだろ。
 そんな諸々を考えたら、一番見られたくない相手に、一番見られたくないシーンを見られてしまったものだ。
 まあ、俺の部屋に湊がいると知っていながら、部屋のドアを開ける人間なんて悠那くらいのものだとは思っていたけどな。司はあれで結構気を遣うべきところでは気を遣える奴だったりするし。
「誤解? 誤解なんてしてないも~ん。陽平が素直じゃないだけ」
「だから、お前のその発言が既に誤解をしている証拠みたいなものなんだけど?」
「そんなことないもん」
 突然部屋のドアを開けた悠那に驚いた湊は唖然として、俺を押し倒したまま固まってしまっていた。だから、俺は悠那との会話を湊に組み敷かれたままの状態でしているわけだが、悠那はそのことについては特に何も思っていないようだった。
 と、思いきや
「まあいいや。せっかくイチャイチャしてるところを邪魔しちゃってごめんね。邪魔者はそろそろ退散しまぁ~っす」
 自分が俺と湊の邪魔をしているという自覚はあるみたいで、そこは気にしているらしかった。
 ったく。そこは別に気を遣わなくてもいいし、むしろ盛大に邪魔をして欲しいところだし、なんなら延々と邪魔をし続けて欲しいところだ。
 悠那は完全に部屋の中に踏み入れていた足を引くのと一緒に、部屋の内側に向かって開きっ放しになっているドアを閉めながら、俺の部屋から出て行こうとした。
 完全にドアを閉める前に、ドアの隙間からひょこっと顔を突き出して
「ごゆっくり~♡」
 余計な一言を付け加えることも忘れなかった。
 何が「ごゆっくり~♡」だ。マジで余計なお世話だっつーの。
 しかも、そのままちゃんとドアを閉めてくれるものだと思っていたのに――。
「悠那。どこに行っちゃったのかと思ったら、こんなところにいた」
「えへへ。陽平に“お風呂空いたよ”って言いに行ってたの」
「そうだったんだ。で、陽平と湊さんはどうしてた?」
「エッチしようとしてた」
「え? そうなの?」
「うん」
 部屋を出たところに悠那を探していた司がやって来たのだろう。司に気を取られた悠那はドアを完全に閉める前にドアノブから手を離してしまい
「俺も司とエッチする~♡」
「ん? 俺は最初からそのつもりだよ?」
 相変わらずのバカップル全開の会話を司と交わしながら、自分達の部屋に戻っていってしまった。
「おいっ、こらぁっ! ちゃんとドア閉めてけっ!」
 俺達の新しい家はそれぞれの部屋の防音効果が大幅にアップして、部屋のドアさえ閉めてしまえば、部屋の外の会話や生活音、司と悠那がヤっている時の声に悩まされる心配はなくなった。
 しかし、部屋のドアが開いている状態だと、廊下での会話、一階でする物音なんかは普通に聞こえてくる。もちろん、ドアの開いた部屋からする声や物音も、普通に廊下にいる人間には聞こえる。
 だから、悠那の耳には部屋のドアを閉めるように言う俺の声が届いているはずなのに、悠那が僅かに開いたままになっている俺の部屋のドアを閉めに戻ってくることはなかった。
「~……」
 勝手に人の部屋のドアを開け、ちゃんと閉めないままに出て行く悠那ってなんなの? あいつはあいつで今度しっかり説教した方が良さそうだよな。
「ちっ……」
 ちゃんと閉まっていないドアに俺が舌打ちすると、それまで俺を組み敷いたまま微動だにしなかった湊がおもむろにベッドの上から下りて、僅かに開いたままになっているドアに向かって歩いて行った。
 そして、開きっ放しになっているドアを閉め、ドアを閉めた後は鍵も掛けた湊は、湊の動きをベッドの上から目で追っていた俺を振り返り
「陽平のところってメンバーの色恋沙汰に随分とオープンだね」
 感心しているのか呆れているのかよくわからない笑顔で言ってきた。
「好きでオープンにしてるわけじゃねーよ」
 今現在、誰一人として一般的な恋愛をしていないうちのメンバー内で、お互いの恋愛事情を知られてしまっているというのも、盛り上がるどころか気まずいだけの話である。
 特に、湊とのことは絶対メンバーに知られたくないと思っていた俺は、「オープンだね」なんて言われても全く嬉しくないし、むしろふて腐れたいくらいだ。
 そんな言い方をされたら、俺が普段からメンバーの前で湊の話をしていると思われていそうで嫌だしさ。
 俺は今までに一度だって自分から湊との怪しげな関係をメンバーに話したことはないし、俺と湊の関係がメンバーにバレてしまったのだって、余計なところで無駄に鋭い司が俺と湊の関係に目敏く気が付いて、司から俺と湊の関係を教えてもらったお喋りな悠那が、律や海の前で俺と湊の関係をバラしただけだ。
 俺達の中で律と海の関係が公になったのも悠那のせいだった。人の色恋沙汰に興味津々なうえ、秘密を守れない悠那がいる限り、そりゃグループ内の恋愛事情もオープンになるよな。
 全く……。初恋もまだだった頃はメンバー内で恋愛ネタが上がると嫌がっていた癖に。初恋を経験して、司と付き合うようになってからというもの、悠那の日常はどんどん恋愛メインになっていったんだよな。
 まあ、その前から人の恋愛事情に口出ししたがるというか、余計なお節介を焼きたがる傾向にはあったみたいだけどさ。
 性欲も普通にあったみたいだし、エロへの興味も強かったみたいではあった。
 悠那本人に自覚はなかっただろうが、元々が恋愛体質だったんだろうな。司を好きになったことで、眠っていたその体質が解放されたのかもしれない。
 封印が解けて無双状態って感じでもあるが。
 何にせよ、あまり自分の恋愛事情を人に知られたくない俺としては、知りたがりでお喋りな悠那にあれこれ首を突っ込まれるのは、ちょっと困りものである。
「まさか悠那が普通に部屋のドアを開けてくるとは思わなかったな。陽平の心配も取り越し苦労じゃなかったんだ」
「ようやくわかったのかよ。今更おせーんだよ」
 俺の話に一切耳を傾けなかった湊は、実際に悠那が俺の部屋のドアを開け放ってから初めて、俺の言っていた言葉の意味を理解した。
 既にベッドの上で揉み合う俺達を見られた後じゃ手遅れなんだけどな。悠那の奴、今夜は俺と湊がセックスするって絶対に思ってるし、そのことを司にまで話してしまっている。
 どうせ明日になったら
『昨日はどうだったの?』
 とか。妙にニヤついた楽しそうな顔で聞いてくるんだろうな。ムカつく。
 そう考えると、悠那の思い通りになりたくない俺は、俺とヤる気満々な湊を阻止したいところではあるんだけれど――。
「でも、これでもう邪魔に入られることはないよ。部屋のドアにちゃんと鍵を掛けたから」
 途中で邪魔が入ったからといって、湊の気が変わった様子は微塵もなかった。
「俺は今のですっかりそんな気分じゃなくなったんだけど」
 元々その気になっていたわけでもないが、悠那に“ヤるんだ”と思われても尚、気が変わる様子がない湊に確認のためにも言ってみると
「大丈夫。すぐその気にさせてあげるから」
 という、またしても自意識過剰と取れる返事が返ってきたから、俺はもう諦めるしかないような気がした。
 おそらく、湊のこういう自意識過剰な発言って、俺がさせてしまっているんだろうな。俺が湊を拒みきれず、なんだかんだと湊の好きにさせてしまうから、そりゃ湊も調子に乗るって話だし。
「それに、そんな気分じゃなくなったって言うけど、俺がドアを閉めに行っている間に脱がされた服を直さなかったのは、全くその気がなくなったわけじゃないってことでしょ?」
「こっ……これは……いきなり悠那が部屋のドアを開けたから、びっくりして服を直すどころじゃなかったんだよっ!」
「でも、昔の陽平だったらほんの僅かな隙でも見つけようものなら、全力で俺から逃げようとする努力はしてたよね?」
「うっ……それは……」
 どうやら俺は最早湊を調子づかせることしかできない奴になっているらしい。
 これまでの経験から、拒んだところで結局はヤられる、と学んでしまった俺は、湊から逃げることを諦めてしまっているのかもしれない。
 が、ただ単に諦めているだけでは、今の自分の状況を説明しきれないような気もする。
(もしかして俺、湊とシたいと思ってる?)
 そんなはずはないし、そんな自覚は当然ない。
 だけど、だったらどうして、俺はこうも簡単に湊に犯されることを許してしまうんだろう。
 俺の中に少しでも“湊とシたくない”って気持ちがあるのなら、湊の言うように、ほんの僅かな隙でも見つけようものなら、全力で湊から逃げ出そうとする努力はしているはずだ。
(俺はどうしたっていうんだ……)
 湊と友達として再会し、昔のような友達付き合いを復活させたまでは良かった。
 しかし、湊が俺のことを「好きだ」と言い出して、湊と友達としての一線を越えてしまってからというもの、俺は自分で自分がわからない。
 湊の気持ちが迷惑だと思いながらも、友達としての湊を失いたくないと思ったり、酔った勢いで無理矢理湊に犯されたにも拘わらず、湊との関係を断ち切れなかったり……。
 そりゃまあ、湊とはただの友達っていうよりは戦友って感じだし、友達と呼ぶよりは親友と言ったほうがしっくりくるような仲だったから、そう簡単に縁を切れるような間柄じゃないのかもしれないが、言っても俺、無理矢理犯されてるんだぞ? いくら親しい間柄であっても、それは一瞬でこれまでの関係が崩れてもおかしくない事件だろ。
 つーか、強姦とか普通に犯罪だし。俺が訴えでもしていたら、こいつ、今頃アイドルじゃなくて性犯罪者だぞ。友情云々どころの話じゃなくなってるよな。
 だが、結局俺は湊に腹を立てるだけ腹を立てただけで、最終的には湊のことを許してしまったんだよな。許して、友達としてなら今後も付き合うという選択をした。
 多分、そこから俺の人生の歯車が狂い出したんだ。
 今思い出しても、どうして自分があんな選択をしたのかがわからないし、その選択が間違いだったという自覚はある。
 それでも、あの時は自分が傷つけられたという腹立たしさより、友達としての湊を失いたくないという気持ちの方が強かったんだと、自分なりに答えは出している。
(つまり、俺の中で南条湊という男は、自分よりも優先すべき特別な存在……ってことなのか?)
 認めたくはないが、結論としてはそういうことになってしまうんだろうか。そういうことでもなければ、自分のした選択に説明がつかない。
 でも、そうなると、つまるところ、結局俺は湊のことをどう思っていることになるんだ?
 自分よりも優先してしまう相手ってことは、つまり俺は湊のことが好きってことに……。
「ん? どうかした? 俺の顔をジッと見詰めてきたりなんかして」
「別に……。特に意味はねーよ」
 いやいや。ないだろ。だって相手は湊だぞ。好きは好きでも恋愛的な意味での好きではないはずだ。
「そう? それにしても、今日は随分とおとなしいね。もう観念したってこと?」
「まあ……この状況じゃ抵抗するだけ無駄って感じがするし」
 あれこれ悩み、考え、自分なりに納得できる答えや何やらを出してみるが、恋愛的な意味で湊のことを好きだという結論だけは出さない俺。
 もう色々とあれこれ暴かれて、見られたくない俺の姿も散々見られてしまった後だから、最早そこしか守れるものがないんだろう。
 言ってしまえば、俺が湊を好きだと認めないことだけが、俺が湊に抵抗するための最後の手段であり、砦だった。
 その最後の抵抗や砦が、あとどれくらい持つかはわからないけど。
 だって俺、こうして湊と身体を重ねるたびに、少しずつ砦が崩されていくことに気付いている。抵抗することなんかやめて、早く楽になりたいとも思い始めている。
 今はまだ、俺に湊を好きだという自覚はないが、そういうことにしてしまえば、案外すんなり自分の気持ちを認めてしまえるんじゃないか……と。俺の思考はもうそんな段階になりつつあった。
「う~ん……。言い方がちょっと気に入らないところはあるけど、陽平が俺にすんなり抱かれる選択をしてくれるのは悪くないね」
「お前ってほんとポジティブだよな」
「まあね。大好きな陽平をものにするためにも、ポジティブにならざるをえないんだよ。俺はどうあっても陽平を諦めるつもりはないし、陽平から離れるつもりもないんだから」
「あっそ」
 ベッドの上に戻ってきた湊は、これ以上邪魔が入ることはないと安心したのか、早速俺の服を脱がせに掛かっていた。
 既にほぼほぼ脱がされていたシャツは、湊がベッドに戻ってきた直後には脱がされてしまっていて、今はズボンに手を掛けられているところだった。
「でもさ、最近は“もしかしたら……”って期待しているところはちょっとあるんだよね。だから、浮かれ気味になっているところもある」
「ふーん……」
 さっきから素気ない返事を返してやり過ごしてはいるが、内心はちょっとドキドキだった。
 いつ、湊の口から
『陽平ってさ、本当は俺のこと好きだよね?』
 という言葉が飛び出すかわからなくて。
 きっと湊も俺が自分の手に堕ち掛けているという確信があるんだろう。
 だけど、湊はあえてそこを突っ込んではこない。俺の気持ちを確かめることも、あまり真面目にはしてこなかった。
 そのへんは湊も慎重にいきたいところなんだろうな。
 もしかしたら、今まで散々俺を好きだ、好きだと言ってきた湊だから、付き合う時は俺から「好きだ」と言わせたいのかもしれない。湊にはそういう夢見がちなところがあったりするからな。
「それはさておき、陽平の部屋でセックスするのって初めてだから、なんかめちゃくちゃ嬉しいなぁ」
 俺と湊が怪しい関係になったのは、俺がFive Sとしてデビューした後で、とっくにメンバーとの共同生活が始まっていたから当然だ。
 俺がZeusのレッスン生時代には、一人暮らしをしていた俺の家に湊が遊びに来ることも時々あったけれど、あの頃は俺と湊の関係も健全そのものだったからな。一晩中一緒にいても、おかしなことになるはずもなかった。
 湊と肉体的な関係を持ってしまった後は、メンバーにそのことがバレたくない俺は、メンバーと一緒に暮らす俺の家に湊を上げようとしなかったしな。
 湊と会う時もメンバーの目がないところで会うようにしていたから、俺の部屋で湊とセックスする機会なんてなかった。
 できれば一生そんな機会はないままであって欲しかったのに。今日は避けられない事情というやつがあったから仕方がない。
 だからと言って、これから先、湊が頻繁に俺達Five Sの住居に足を運ぶようになっても困るんだが、今日の様子だと頻繁ではないにしろ、何度か足を運ぶつもりでいるらしいから困りものだった。
 いくらうちのメンバー間でお互いの恋愛事情が筒抜け状態のオープンな環境だからって、俺までそうはなりたくないってのに。
「愛してるよ、陽平」
 俺の服を脱がせた後は自分の服も全部脱いでしまった湊に、女なら思わずうっとりしてしまうであろう甘くて優しい声で囁かれ、その甘い囁きに困った顔をするしかない俺に、湊は何度も何度もキスを落としてきた。
「ん……んんっ……」
 こういう如何にも愛されてるって感じの雰囲気は苦手だ。湊からの愛情は物凄く感じるのに、自分の気持ちが曖昧なままだから罪悪感を覚えてしまう。
 それでも
「んっ……ぁ……」
 蕩けるような甘いキスをされることに、全く心が動かないわけでもない。
 湊の唇が俺の唇をちゅっ、っと優しく吸い上げるたびに心臓がトクンと鳴って、湊の作り出す甘い雰囲気にどんどんと呑まれていく。
 身体も少しずつ熱を帯び始め、身体が頼りなくふわふわと宙に浮いているような感覚に包まれる。
(あぁ……こうして俺はまた、湊の手によって自分でもわけがわからなくなるくらい、ぐちゃぐちゃにされちまうんだな……)
 キスをしながら俺の身体に触れてくる湊に、自分がこの後どうなっていくのかがよくわかっている俺は、心の中でぼんやりと、そんなことを考えた。





 自分で言うのもなんだけど、俺は結構真面目な人間だと思う。
 時間や規則なんかは守る人間だし、学生時代はちゃんと勉強もしていたから、学校の成績も悪くはなかった。
 恋愛に関しても真面目なところは一緒で、女遊びをしたことはないし、浮気や二股を掛けることもしたことがない。したいと思ったこともない。
 残念ながら、彼女と長続きしないという問題はあったが、それは“好きでもない相手と付き合ったから”とか“彼女にすぐ飽きるから”という理由ではなく、相手のことを知れば知るほど、性格や考え方の違いが気になってしまい、そうなると結局上手くいかなくなってしまうからだった。
 性格や考え方の不一致が原因で別れなかったのは夏凛くらいのものだった。だから、俺が歴代彼女の中で一番長続きした彼女は夏凛だった。
 多分、夏凛は同じアイドルを目指す者同士、考え方が似ているところが多かったんだろう。偶然にも、性格も近いものがあったし。
 真面目な俺がパートナーとして相手に求めるものは、見た目の良し悪しや一時的な楽しさではなく、自分と同じ価値観だったり、自分の思い描く未来予想図について、どこまで真剣に語り合えるかだったりした。だから――。
「ぁ……ぁ、あっ……ぅあ……っ……」
 こんな……こんな付き合ってもいないのに身体だけの関係みたいな付き合い方は、本来なら絶対にありえないことだった。
「っ……陽平っ……陽平の中……凄く熱くて気持ちいいよっ……」
「っ……ぃっ……言うなっ……」
 呼吸もままならないくらいに何度も奥を突き上げられ、内側を湊に強く擦られるたびに、俺はひっきりなしに上がってしまう嬌声を抑えることができなかった。
 自分の口から女みたいに喘ぐ声が零れてしまうことが本当に恥ずかしくて仕方がないんだけど、湊が与えてくる刺激が快感に結びつくようになってしまった俺の身体は、感じる声を止めようと思ってもなかなか難しくなってしまっている。
「陽平も気持ちいいんでしょ? ほら……っ……俺がこうやって陽平のいいところを擦りながら突いてあげると、中が気持ちいいよって、俺を締め付けてくる……」
「んんっ……ぁ、んんっ……」
 湊とセックスしている最中の俺の身体がどうなっているのかなんて聞かされたくないのに。湊は俺が嫌がると知っていながら、必ずと言っていいほど俺に教えてくる。
 湊の言葉に耳を塞いでしまいたいところだが、快感の波に襲われる俺はそれに耐えることに必死で、自分で自分の耳を塞ぐことすらままならない。湊に恥ずかしいことを言われながらも、ただただ湊に突き上げられるままに喘ぐしかできなかった。
 まるで風邪を引いて高熱を出した時のように身体は熱くて、頭もぼーっとしてしまう。身体も思考も“気持ちいい”という感覚に支配されていき、羞恥や理性がどこかに飛んでいってしまいそうだ。
「あぁっ…ん……ぁっ……ぃっ…ぁあっ……」
「ん? 何? 陽平。もしかして……もうイきそうなの?」
「んんっ……違っ……ゃっ……違わないっ……けどっ……」
「何それ。どっちなの?」
「んんっ……」
 お互い裸になってから、俺の上に覆い被さってきた後の湊は、唇だけではなく俺の全身にキスの雨を降らせ、俺の弱いところを知り尽くした手で、俺の身体を隈なく愛撫してきた。
 それはもう、俺が半泣きになって「もう嫌だ」とギブアップするほどにしつこく、俺の身体に刺激を与え続けてきたのだった。
 だから、湊が俺の中に挿入はいってきた時、俺の身体は既にぐずぐずで、入り口を押し広げながら挿入はいってくる湊に、思わずイってしまいそうになるところだった。
 あわやイきそうだったところをグッと堪えたのは良かったけれど、その時からイきたいという願望があった俺は、俺の中に根元までしっかり埋めた湊が、ゆっくりと腰を送り始めると、あっという間に追い詰められていきもした。
 だけど、俺がイきそうになるたびに、そうはさせまいと刺激を与えてくるのをやめたり、腰の動きをゆっくりにしたりして、イきたいのにイけないという状況を作られてしまい、俺はもう頭がおかしくなってしまいそうだ。
「お前のセックスはっ……しつけーしねちっこいんだよっ……」
「え~? 酷いなぁ。俺はただ、言葉では伝えきれない陽平への熱い想いを、陽平の身体に直接刻み込んでいるだけなのに」
「んぁあっ……!」
 湊のセックスに対する不満を口にしたら、一際奥を深く突き上げられて息が詰まった。
 それまでよりも強い刺激と快感に襲われて震える俺を、湊の満足そうな目が見下ろしてくる。
「陽平はそろそろ限界みたいだけど、俺はまだまだ全然足りないなぁ」
「てめぇ……ちょっとは遠慮するとか、俺の身体を気遣うとかはないのかよっ……」
 湊の言うように、いい加減快感の波に翻弄されることに限界を感じている俺は、「全然足りない」と言う湊にはギョッとしてしまう。
 俺も湊も明日はオフってわけじゃないんだから、多少は手加減とかセーブをしてもらわないと明日に響く。
 だが
「ま、夜はまだまだ長いし。陽平には悪いけど、今夜はとことん付き合ってもらうよ」
「はあ⁈」
 湊に遠慮だの気遣いだのはないらしい。
「ちょっと待てっ! 俺、明日仕事なんだけど⁈」
「奇遇だねぇ~。俺も明日は仕事だよ」
「だったら……んんっ……!」
 当然、明日が仕事でも全くお構いなしの湊だった。



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